(11 / 26) *10話 (11)

小春は座っていたままベットに倒れこんだ。
奈々は一般人として付いていけず椅子に座って未だうんうんと唸り頭の整理をつけていた。
名取が出て行ってからどれほどの時間が経ったのか、小春は時計を見るもまず帰ってきた時間が分からないのでどれほど時間が経ったのか分からず時計から目線を外し天井へと目線を戻す。


― コンコン ―


天井へ目線を戻したその時、小春と奈々の耳にノックの音がした。
小春は起き上がり、奈々は顔を挙げ、お互い顔を見合った後緊張感で張り詰めた空気の中2人は扉へと目を移す。


「小春ちゃん?私だけど…」


ノックの主は名取だった。
それに奈々と小春は胸を撫で下ろし、小春が扉を開ける。
そこにはやはり名取が立っていたのだが柊の姿はなかった。


「無事かい?」

「はい…あの…柊は…」

「ああ、柊なら妖かしと交戦中だよ…ちょっと手こずってしまっていてね…」


名取の言葉に小春は『そう、ですか…』と心配そうにどこかにいるであろう柊を見るように名取から目線を外す。
奈々もゆっくりと小春の後ろに続きジッと名取を見つめていた。
そんな奈々に気付かず小春は名取を部屋に入れようと扉を大きく開ける。


「どうぞ、名取さん」

「ああ、いや…小春ちゃん…ちょっといいかな?」

「え…?」

「小春ちゃんの力を借りたいんだ」

「私の力?」


部屋の中へ案内された名取だったが一歩も動かず首を振り申し訳なさそうに笑った。
自分の力を借りたいと言われた小春は不思議そうに首を傾げ、そんな小春に名取は微笑へと変え頷く。


「ああ。私1人では手に負えなくてね…危ない事はさせないし私が守ってあげるから…協力してくれないかい?」


そう言って名取は小春へ手を伸ばす。
名取の言葉など疑う事なく小春はそれほど重丸が強い妖かしなのかとその名取の差し出された手を取ろうとしたのだが――…


「小春!駄目!」

「え…!?」


あと少しで名取の手に触れると言うところで小春は後ろにいた奈々に止められてしまった。
小春は腕を引っ張られ名取から離され、後ろにいる奈々に振り返る。
名取は表情は窺えないものの無表情だった。


「な、奈々ちゃん?」

「駄目よ!小春!!この人名取周一じゃない!!」


奈々の言葉に小春は目を丸くさせた。
そして名取へ目を戻すもその姿はどこをどう見ても名取周一その人だった。


「何言って…だって、どう見ても名取さんじゃ…」

「わ、分からないけど…違う気がするの…なんか…寒気もするし……あの人…怖い…」


奈々も上手く説明が出来ないのだろう。
しかし直感なのか背筋を凍らせるような感覚に襲われ笑っている名取がすごく怖く感じていた。
小春が手を掴んでいたらもう一生会えない気がして奈々は咄嗟に小春の腕を引っ張った。
腕を引っ張って話さないその奈々の手は震えており、奈々を見ればその顔は恐怖に強張らせている。
小春は奈々の様子から疑う余地がないと思ったのか奈々を安心させたかったのかは分からないが奈々を連れて部屋の奥へと下がっていく。


「………」


それでも名取は1歩も部屋には入らずただ下がっていく小春を凝視していた。
小春は奈々に言われたからか、その表情1つ動かさない名取が恐ろしく見えてしまい自分の腕を抱く奈々の手をギュッと握る。
名取は自分から遠ざかる小春に手を伸ばした。
しかし――…


「――!」


バチッ、と静電気が起きたように名取の手を見えない何かが弾く。
それを目の当たりにし小春は半信半疑だったのが確信へと変わり警戒をあらわにさせる。
小春に名取ではないのがバレた事に気付いた妖かしは溜息を1つこぼし煙と共に本来の姿を現す。


「き…きつね…?」


ボン、という音と共に大量の白い煙が部屋に入ってくる。
煙は結界に反応しなかったのか部屋は煙で充満していたがすぐに晴れた。
しかし小春は目の前の妖かしの姿に目を丸くさせる。
小春と奈々の目の前には茶色の毛を持つ狐だった。
姿だけを見れば普通の狐だがその大きさは斑の本来の姿と同等であろうほど大きく、よく狐の妖かしにしたら狭すぎるであろう廊下にいられるものだと緊迫した空気ではなければ関心していただろう。
狐の妖かしは唖然とする小春に目を細め笑う。


「主よ、迎えに来た…さあ、帰ろう。」

「む、迎えって…主って…何言って…」

「ち、ちょっと!何言ってるのよ!!」


その声に小春は聞き覚えがあった。
狐から出される声は重丸が名取や柊に向かって放たれて重丸の声にそっくりだったのだ。
小春はその狐の言葉に唖然としている中首をかしげていると、奈々が小春の腕を抱いていた力強めキッと狐へと声を上げる。
奈々が狐を睨み上げているのを見て小春は妖かしが奈々にも見えているのに目を丸くさせた。
驚きが隠せない小春など気にも留めず妖かしは小春から奈々へと目線を移す。
その表情は小春とは真逆の鋭くどんなモノでも冷たく凍らせるほど険しかった。
奈々はその妖かしの冷たい表情にビクッと肩を揺らし、しかし小春を奪われないようにグッと腕を抱いている力を強める。


「貴様も私の邪魔立てをする気か…」

「じ、邪魔立てって…!それはあなたでしょ!!小春には帰る場所があるの!!小春には家族が…」

「黙れ…!!」

「…ッ!!」


その声は表情以上に冷たく、奈々は恐ろしさに息を飲んだ。
しかしここで手を離せば小春はこの恐ろしい妖かしに奪われ一生後悔するのは目に見えているため気力で何とか足を地面にしっかりと張り付け涙を溜めながらキッと妖かしを睨みつける。
それが更に気に入らないと妖かしは威嚇するようにシワを寄せ声を上げ、突然声を上げられ奈々と小春はビクッと肩を揺らした。


「人間!貴様誰に物を言っている!!貴様ら下等な者など私のキバで命を散らすくせに生意気な…!!その生意気な口が聞けぬよう今すぐに噛み殺してやろう!!!」

「やっ…やってみなさいよ!!!ここにはあなたみたいな妖怪は入って来れないんだから無駄よ!!」

「な、奈々ちゃん…!」


名取から聞いた結界の事を思い出したのか奈々は怯えながらも気力だけで声を上げた。
決して結界を敗れないだろう。…それが奈々の強みになっていた。
小春は奈々の挑発めいた言葉にあまり逆上させてほしくないと伝えようとしたその瞬間何かが思いっきりぶつかる音が部屋に響く。
小春がハッとさせ扉の方へ目を向ければ妖かしが体当たりや爪で結界を破ろうとしているところだった。
妖かしが触れるたび大きく重い音が鳴り響き、バチバチと静電気のようなモノが散る。
体当たりするたびに部屋にある物の揺れる音がし、妖かしの体当たりの力の大きさが目にも耳にも見て取れる。


「や、やめて…!もうやめて!!」


ひっ、と奈々が怯えた声を上げたのを聞きながら小春は目の前の妖かしを止めようとした。
小春の目線の先にいる妖かしは大きな身体で見えない壁に体当たりをしていた。
しかし結界の効力により身体は傷つきどこか怪我を負ったのか負っていたのか分からないが血が床に飛び散る。
それを見て小春はハッと我に返り慌てて妖かしに声を上げた。
しかし妖かしは小春の声など耳に届いているのに関わらず聞こえないように体当たりをするのを止めない。
傷が酷く開いたのか先ほどまでとは比べ物にならないほど血が廊下の床を赤く染める。
そして―――ピキ、とこけしにヒビが入った。


「やめ…」

「うおおおおお…ッ!!!」


妖かしは声を絞り出し渾身の力を入れ思いっきり結界へ体当たりした。

その瞬間―――

こけしの首が完全に落ちる。

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