エレノア達を乗せた船は、ドーレ港に着いた。
船を降りたのはエレノア、ゴン、レオリオ、クラピカの4人だけで、あとは物資の補充を追えれば脱落者達を送り返すためにまた海を引き返すことになっている。
「あの時はどうなることかと思いましたわ…仲直り出来て良かったですわね」
船に降りて船長からアドバイスを貰い、4人は杉の木を目指し山へ向かって歩いていた。
ふと、エレノアは船での出来事を思い出し、その言葉にクラピカとレオリオは気まずげに頬をかいたり視線を逸らしたりする。
「ま、まあ…あの時は…お互い譲れないものもあったしな…」
「そうだな…頭に血を上らせてしまい私もレオリオもお互い耳を傾けることもできなかったからな…」
今では普通に会話を成立できているが、二人はあれから決闘じみた喧嘩をしていた。
しかし、カッツォが風に煽られ海に落ちそうになったのを、二人は助けようとした。
しかし二人の手は届かずゴンが飛び込む形でカッツォは3人に助けられたのだが、それから二人の喧嘩は止まった。
頭が冷えたのだろう。
お互いの意見はまだ合わないのだろうが、もう初対面の際のギスギスした空気はない。
気まずげにする二人に、ゴンとエレノアはお互いの顔を見合わせて笑った。
「薄気味悪いところだなぁ…人っ子一人見当たらねえぜ」
「ううん…結構いるよ」
「みなさまこちらを伺っておられますね」
「なに!?」
4人で会話をしているうちに、人が多く栄えていた街を出てその街とは離れた場所にある小さな町を訪れる。
そこは人一人おらず、寂しく不気味な場所だった。
しかし、ゴン達曰く建物に隠れているだけで人はいるのだという。
息遣いが聞こえ衣擦れの音もするという二人と、視線を感じるというエレノアに、レオリオは耳を立て目を凝らすが全く人の影すらも見えない。
『生憎オレは普通の人間なんでな!』と愚痴るのと同時に、4人がいる近くの建物の扉が開かれた。
それに警戒していると、目の前を数人の白い仮面と服を着た人間がぞろぞろと現れ4人の前を塞ぐ。
「ドキドキ…―――ドキドキ二択クイズ〜〜!!」
中央にいた老婆がボソボソと何かつぶやいた。
その発言を4人は注意深く聞こうと全員口を閉ざしその場は静まり返る。
何を言い出すのかとレオリオがゴクリと生唾を呑んだその瞬間、老婆はこれでもかと大声をあげて叫ぶ。
その叫んだ言葉に、4人とも呆気にとられる。
そんな4人を気にも留めず、老婆の傍にいた6人の仮面の人間達は持っていたそれぞれの楽器を鳴らし、腕に止まっているカラスもカーと鳴く。
もはや状況がついて行けず4人は目が点となる。
「お前達…あの一本杉を目指してるんだろ?」
どうやらこの町の住人達は船長のように篩に落とすための試験管の一人らしい。
この町を通らずに一本杉を目指すと、迷路のような山道や、狂暴な魔獣の縄張りとなっているため高確率でたどり着けない上に最悪死に至るという。
「これからクイズを一問だけ出題する…考える時間は5秒間…間違えたら即失格…今年のハンター試験は諦めな」
それは困る、とエレノアは思う。
別にハンターライセンスが欲しいからこの試験を受けようと思っておらず、エレノアの動機は不純ではあるが、今年のハンター試験をキルアが受けている以上、エレノアに次はない。
キルアの実力からしてハンター試験は絶対に受かる。
そう確信を持っているからこそ、ここで失格になるのだけは勘弁してほしい。
「なるほど…これもハンター試験の関門の一つというわけか…」
「そういうことか…クイズなら得意だぜ……―――って1問!?」
『まあ、これがノリツッコミというものですのね』、とレオリオの反応遅れのツッコミにエレノアは思う。
たった一問のクイズを正解できなかっただけで、レオリオ達はハンター試験を受ける事すらできなくなる。
クイズと言っても1か2で答える選択式で、それ以外の答えや曖昧な返答は全て間違いとみなされてしまうとのこと。
(クイズは私もそれほど得意というわけではありませんが…4人で一問なのは有難いですわ…ゴンさんの言う通り私達の一人が答えを知っていればよろしいのですし)
一人一問ではなく、4人で一問というところにレオリオは引っかかった。
もしもクラピカが間違えたら自分も失格となるシステムに不満を言うが、ここであえてエレノアとゴンではなくクラピカを名指ししたため、クラピカから反撃を食らう。
取っ組み合いの喧嘩に勃発した二人だが、ゴンの『4人のうち一人が答えを知ってればいいから楽だよ』という言葉にじゃれ合いにも見える取っ組み合いの喧嘩を終結させた。
やはりゴンは潤滑油のような存在だな、と船から三人を見てエレノアは思い、そしてそれを無自覚に天然で行うゴンを尊敬する。
エレノアならば、興味の一欠けらもない喧嘩にわざわざ間に入ることはしない。
どちらが死んでも、二人が死んでも、どうでもいいと放置してしまうだろう。
しかし、意外にクラピカとレオリオにもエレノアは興味が沸き、今なら間に入るくらいの情は生まれている。
「おいおい早くしてくれよ…何ならオレが先に答えるぜ?」
クイズに参加する意思を示そうとしたとき、後ろから一人の男が割って入ってきた。
エレノア達が振り返れば、港からずっとエレノア達の後を追うようについて来た者だった。
それはレオリオ以外気づいていたが、殺意もないため3人はあえて触れずにいた。
結局、クイズは後から来た男に先を譲ることにした。
そうすることでクイズの傾向を知れるからだ。
「それでは問題」
エレノア達が譲ったことで、後から来た男に老婆は問題を出す。
老婆の言葉に6人のうちパフラッパを持つ人物が『パフ』と鳴らし、カラスの鳴く声が続く。
真剣さは伝わるが、なんだか気の抜けてしまいそうになる。
男は目の前に置かれたピンポンブザーを手に沿えて質問を待つ。
「お前の母親と恋人が悪党に捕まり一人しか助けられない…1、母親…2、恋人…お前ならどちらを助ける?」
その質問にエレノアはなんて意地の悪いクイズなのだろうと思う。
そういう部類の質問やクイズなどあるのは知っているが、エレノアは家族もキルアもゾルディック家も大切に思っているからこそ、こういう部類のクイズや質問は苦手だった。
母親とキルアを思い浮かべ、エレノアは答えられないと思ってしまう。
しかし、エレノアはそこでハッとする。
(……なるほど…そういうタイプのクイズですのね…)
流石に叔父達もハンター協会の情報には苦労したらしく、クイズ形式というのは聞いていたがどういうクイズなのか、答えなども含めてそこまで情報を得ることはできなかった。
だが、エレノアは理解した。
なるほど、と一人納得していると、ピンポンブザーを男は鳴らす。
「答えは1だ!」
あっ、とエレノアは思う。
男の答えに老婆は関心そうに問う。
「ほう…なぜそう思う?」
「そりゃぁ、母親は替えがきかないからな…恋人はまた別のを見つけりゃいい」
男の本心は、恋人を選んでいた。
しかし、質問者が老婆だから母親を選んだ。
そちらの方が老婆の好みの答えだろうと思い。
男の回答に、カラスがひと鳴きし、そして―――
「通りな」
男は老婆の指示通り、仮面の者達を追い抜き先に進む。
男の置いていった『こういうのはバアさんの好みに合わせておけば正解なのさ』という言葉に、レオリオは頭に来たのか叫ぶ。
「ふざけんじゃねぇ!あんなの正解なわけねえだろ!婆さんの気に入る答えを言えばいいってか!?それが正しいってのかよ!!」
気づかなかったらエレノアもそれには同意していただろう。
それに、レオリオの言葉も正しいと言えば正しい。
質問者の気分次第で失格となるなど、ここまで来るのにも色々な準備をして受験に挑もうとしてきたレオリオにとっては不満が溜まる一方だろう。
それでも老婆は何も言わず、カラスだけが鳴いた。
「こんな茶番付き合ってられるか!おれは別の道を探すぜ!」
「あっ…お待ちになってレオリオさん!それはきっと辞退なさったという事になってレオリオさんが失格になってしまわれますわ!」
引き返そうとするレオリオに、エレノアは思わず止めに入った。
そんな自分に驚きつつも、レオリオのスーツを掴んで止める。
背丈があり男のレオリオと、華奢な少女のエレノアでは、レオリオの方が力が強いと思われるのだが、なぜかレオリオはエレノアに力負けしてしまう。
「はあ!?んなわけあるか!っていうか動けん!すごい力だなおい!」
「その嬢ちゃんの言う通り、クイズを辞退するなら即失格とする」
「ふざけんな!あんな問題人によって答えが違うし!正解なんて言葉で括れるわけねえだろうがよぉ!」
エレノアの言葉を信じなかったレオリオだったが、老婆からも言われてやっと足を止めた。
というか、スーツを掴むエレノアの腕力だけでレオリオは動けなくなり、エレノアの力の強さに驚く。
「レオリオ!」
「待ちな!これ以上おしゃべりは許さないよ!」
クラピカはレオリオの言葉で正解が分かった。
暴れるレオリオに、それを伝えようとしたクラピカを老婆が止める。
余計な発言は即失格とまで言われてしまい、クラピカだけではなくエレノアまでも口を閉ざすことになる。
エレノアはレオリオを見上げた。
失格という言葉が効いたのか、彼はもう去るのを諦めていた。
それに安堵しながらレオリオのスーツから手を放し、エレノアはずっと何も言わないゴンをチラリと見る。
彼は腕を組み何やら考え込んでいるようだった。
「さあ答えな!1、クイズを受ける…2、受けない」
「1だ!」
「1です!」
参加するかという問いのクイズに、エレノアとクラピカが同時に答えた。
二人とも食い気味だが、それだけ必死ということだろう。
ゴンとレオリオの返答は貰っていないが、去らないということは参加すると考えていいだろう。
老婆はクイズを一つエレノア達に出す。
「それじゃ問題だ…お前の息子と娘が誘拐されてどちらか一人しか取り戻せない…1、息子…2、娘…お前はどちらを取り戻す?」
二択の内容は違うが、先ほどの男と同じ問題だ。
エレノアとクラピカは、ゴンとレオリオを見る。
クラピカとも目が合ったがお互いが問題の答えを知っていると察し、二人はゴンとレオリオを心配と不安そうな視線を向けていた。
しかし、ふと、エレノアは気づく。
(あら…私ったら…どうしてここまでお二人の心配をしているのかしら…)
エレノアはゴンとレオリオが失格しないかという心配をしていたことに気づき、内心首を傾げていた。
ゴンとレオリオが合格しないとキルアに会いにいけなくなるので必死なのだろうとは思うが、なんだかそういう訳でもなさそうだった。
「5…4…3…」
誰も口を開くことはなかった。
そんな中、老婆は秒読みをはじめ、レオリオは傍に置いてあった木の棒を手に取りヒュンヒュンと音が出るほどの勢いで振る。
それを、チラリとエレノアとクラピカが視線を向ける。
二人の視線は不安と心配に染められていた。
「ぶー、終了〜!」
秒読みがゼロとなり、老婆の口から終了を告げられる。
その瞬間、棒を振りかぶっていたレオリオが飛びあがり老婆に向かって振り下ろそうとしていた。
―――それをクラピカが双節棍で受け止め、老婆を庇う。
エレノアも止めようとしたが、思わず手にしたソレに気づき迷っているうちにクラピカが止めに入ってくれたのだ。
エレノアはレオリオ達に気づかれる前に慌ててソレをコルセットについている大きなリボンの影に隠し直す。
「止めるなクラピカ!おれはコイツに説教してやらねえと気が収まらねえ!」
「落ち着けレオリオ!せっかくの合格を棒に振る気か!?」
「え、合格…?」
『あらいやだわ…私ったら…』とエレノアがソレを仕舞っている間に話が終わっていた。
クラピカの言葉に殺気立っていたレオリオは目を丸くして驚く顔を見せる。
「我々は合格したんだよ…沈黙、それが正しい答えなんだ」
「沈黙?なんだそりゃ…」
「レオリオさんが仰ったではありませんか…『正解なんて言葉では括れない』と…このクイズに正解はないのです」
「そう…だが、解答は1か2で答えなければならないルールになっている…つまり、答えない…沈黙しかないんだ」
二人からの説明に、レオリオは疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
いや、意味は分かる。
二人の説明も理解はできるが、納得できないのもある。
「しかし…!さっきの野郎は…」
「あの方は正解とは言われておりませんでした…この方は通れと仰られただけです」
「さっき、彼の悲鳴が聞こえた…恐らく魔獣に襲われたのだろう…つまり、この道は正しい道じゃないのさ」
レオリオの疑問に答えたのはエレノアとクラピカだった。
クラピカの耳に先ほどの男性の悲鳴が聞こえたという事は、エレノアとゴンにも当然耳に届いている。
だからこそエレノアは自分の考えが正解なのだと確信が持てた。
『そうだろ?』、とクラピカが問えば、老婆はニッと笑い、出て来た扉とは別の扉を開けた。
「その通り…正しい道はこっちだよ…一本道だ、二時間も歩けば頂上に着く」
扉を開けた先が正規ルートらしい。
そちらから向かえば迷子になることもないし、先ほどの男のように魔獣に襲われることもない。
「その一本杉の下の山小屋に住む夫婦はナビゲーターをやっている…彼らの眼鏡に叶えば会場まで案内してくれるだろう」
やっと、ナビゲーターのところまでたどり着くことが出来る。
家を飛び出してここまで、エレノアにとっては長い道なりに思えた。
流石に家から離れた場所から試験を受けたいと思った事を後悔するくらいには船旅も合わせて長かった。
だが、まだこれからだろう。
キルアに会う事が、エレノアの目的だ。
「バアさん…すまなかった…手荒な真似をして…」
「なに、構わんよ…お前みたいな奴に会いたくてやってる仕事さ…」
勘違いとはいえ、人に、それも老人を一瞬でも殴ろうとした自分に、レオリオは反省する。
謝るレオリオに、老婆はふと笑みを浮かべ『いいハンターになりな』と励ましてくれた。
それにレオリオはホッと笑みを浮かべる。
「は〜〜!駄目だ!どうしても答えがでないや!」
それまで黙り込んでいたゴンが突然口を開いた。
どうやら黙ったままだったのは、ずっとどちらを助けるか考えていたからだろう。
ゴンの言葉に、エレノア達は唖然としていたがふと笑いが込み上げる。
「なんだよ!まだ考えてたのかよ!もういいんだぜ?」
「えっ!なんで?」
「クイズはもう終わったんだ」
「それは分かってるよ…でもさ!もし本当に大切な二人のうちどっちか一人しか助けられない時が来たら…どうする?」
ずっと考えていたゴンにおかしそうに笑っていた二人だったが、ゴンの問いに一瞬にして笑顔が消える。
ゴンの言葉は空想にしかならないが、ハンターとなるのならば老婆の問題のような状況はあるだろう。
それこそ、身内ではなくても仲間に置き換えるような状況もあり得る。
クラピカとレオリオはゴンの言葉に何も言えなかった。
彼らもきっと、そんな状況下に置かれたらゴンのように答えが出せない。
エレノアはそんなゴンを目を細め見つめていた。
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