エレノア達は第二関門を突破し、ナビゲーターをしているという一本杉の下に住む夫婦を尋ねに向かった。
老婆曰く、ここから一本杉へは2時間で着くらしいのだが、すでに日は暮れて辺りは暗くなってしまっている。
「歩いて2時間だぁ!?2時間なんて2時間前に過ぎちまったぞ!」
エレノア一人なら2時間どころか1時間もかからない速さで走れるのだが、ゴン達がいるため彼らに会わせて歩くことにした。
急いで入るが、彼らを出し抜いて進みたいとは思えなかった。
「また魔獣注意の看板があるぞ!?こんなんで会場に着くのかよ!もう疲れたんだが!!」
「もう、レオリオさんったら…きっともうすぐ着きますわ!頑張って歩いてくださいませ」
「そうだよ!早く来ないと置いてっちゃうよ!」
グチグチと文句を言い出すレオリオに、ゴンとエレノアが置いて行くよと声をかける。
エレノアとゴンが律儀に声掛けをしているなか、クラピカは呆れた視線をレオリオに向け、置いて行く気で足を進めようとした。
すると、視線の先に目的であろう建物が見えた。
「見えたぞ」
呆れて置いて行こうとしたクラピカの言葉に、レオリオを鼓舞していたエレノアとゴンは振り返る。
まだ少し遠くにあるが、一軒の家が肉眼でも確認することが出来た。
それを聞いたレオリオはあれほど誰よりも疲労困憊していたのに嬉しそうに駆け足でその家に向かって走っていく。
それを呆気にとられながらもレオリオの変わりように三人は笑ってしまう。
「一本杉の下の家…あそこにナビゲーターをしてくださるご夫婦が住んでいらっしゃるのですね…」
すでに日が暮れたせいで、家は分かりにくくなっているがやっと目的地に着いた。
「おい、誰かいねぇか?」
「明かりがついていらっしゃいませんね…」
「留守かな?」
しかし、家には電気がついていなかった。
日が暮れたと言っても、まだ人間が寝るには早い時間だ。
となれば、ゴンの言う通り留守の可能性がある。
レオリオはドアノブをひねると、それは簡単に開いた。
「おっ、開いてるじゃねえか…入るぜー」
留守かと思えば、鍵は開いており、エレノア達は中に入る。
留守で鍵をかけ忘れていたのなら待てばいい。
しかし、中では誰もが予想できない惨状が待っていた。
…いや、一人だけ、知っている人物がいる。
「―――!」
三人は目の前に広がる光景に目を丸くし息を呑む。
目の前には―――魔獣が一匹立っていた。
「魔獣だ!!」
それは人に化ける事ができる変幻魔獣キリコだとすぐにクラピカが気づいた。
この世界には動物や昆虫の他にも魔獣が存在しており、中には人を食す存在もいる。
そのキリコに一人の女性が捕まっており、キリコの背後には一人の男性と幼い少女が倒れていた。
キリコはエレノア達に気づくと、素早い動きで窓を割って外に逃げた。
「つ、妻を…妻を助けてくれ…っ!」
倒れている男性が息も切れ切れに言葉を発した。
その言葉から、キリコに攫われたのは男性の妻なのだろう。
妻でなくても人が攫われた場面を見逃すことはできない。
「レオリオ!エレン!怪我人を頼む!」
「任せろ!」
「はい!」
レオリオはキリコはクラピカとゴンに任せ、まず子供を診る。
子供は軽い怪我はあったが、気を失っているだけ。
それに安堵しながらも、血が滲むほどの怪我を負っている父親の治療を最優先とした。
「エレン!このケースに入っているもん使って治療をしてやってくれ!あの怪我なら素人でも治療できる!」
「わかりました!」
レオリオはエレノアにも中に入っている医療品が使えるようケースを開ける。
子供は父親が守ったのか、素人のエレノアでも治療ができる程度のかすり傷しか負っていない。
消毒と絆創膏や包帯を使ってエレノアは気を失っている子供の治療を行う。
「…………」
エレノアは手を動かしながら、チラリとレオリオを見た。
彼は父親の治療に集中していてエレノアの視線には気づいていないようだった。
それはエレノアにとっては良好。
静かにゆっくりと、気を失って仰向けになっている子供の耳へ口元を持っていく。
(あなた、キリコですわね)
小声だが、耳元で話せば聞こえるその声にも子供は無反応。
当然だ。
子供は気を失っているのだから。
しかし、無反応だと思われる子供でも、エレノアにはピクリと反応したと気づく。
今よりも幼い頃から特訓をさせられたエレノアだからこそ気づく異変。
呼吸の乱れ、微かな体の動き、目を瞑っていても動く目玉。
子供が本当は意識があると思える異変だらけだ。
まだ押し通せると思っている子供を他所に、エレノアは続ける。
勿論、小声で。
ここで普通に話してレオリオに気づかせるのもいいが、それでは試験の意味がなくなってしまう。
(分かりますわ…だって、あなたから人間ではない気配を感じますし…気を失っているフリをしていても呼吸や動きで分かりますわ)
「―――」
(あら、駄目ですわよ動いては…レオリオさんに気づかれてしまいますもの…これは私達受験生に対するあなた方ナビゲーターからの試練…違いますか?)
「………」
気を失っていないと気づかれたため、起き上がろうとした。
今起きても目が覚めたと演技すればいいだけの話だ。
だが、エレノアはあえてそれを止めた。
す、と首筋に手を当てる。
そこは動脈があり、エレノアは少し力を入れる。
暗殺一族として教育されてきたエレノアの力は少しであっても強い。
華奢な体からは想像できない力をエレノアは持っていた。
当然、ぐっと動脈を抑えられた子供は息苦しさに襲われる。
しかし、微笑んでいるはずのエレノアが恐ろしく見えて動くに動けなかった。
動かないのを肯定したとし、エレノアは子供の動脈から手を放す。
子供は気づかれないよう、ホッと安堵の息をつくが、当然エレノアには気づかれている。
「エレン、そっちはどうだ?」
「ええ、治療は終わっています…ただ、目を覚まさなくて…」
「魔獣に襲われたんだ…まだ幼い子供だしショックだったんだろう…」
父親の治療を一通り終えたレオリオは、子供を診ていたエレノアに近づき声をかけてきた。
レオリオに問われたエレノアは子供や父親達が人間ではなくキリコで、ナビゲーターだというのを伏せて答える。
子供はエレノアの言葉に、『ずっと寝てろということか』と受け止め気を失う演技を続け、そんな子供に気づかず診察する。
やはり、かすり傷程度しかないらしく、レオリオは子供が無事なことに安堵しながら、エレノアに子供を任せて重症な父親の下へと戻っていく。
子供の心の中は『早く終わ〜早く終われ〜』と試験の終了を願う。
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