連れてこられたのは操舵室。
船長の前で金髪の男性、エレノア、ゴン、短髪の男性の順に並ばされた。
「まず…4人の名前を聞こうか」
並ばされたと思えば、名前を問われた。
一番乗りでゴンが元気に手を挙げて名乗り出る。
「オレ、ゴン!」
「私はクラピカ」
「レオリオだけど」
「エレノアと申します」
順々に名乗り、エレノアもそれに従った。
エレノアの一族は有名ではあるが、珍しい苗字ではない。
だが、フルネームまで言えとは指示されていない。
暗殺一家とバレても子供の姿だからとなめられ絡まれることもあるため、エレノアは苗字を名乗るのを止める。
「お前らなぜハンターになりたいんだ?」
その判断は間違っていなかったのか、苗字を答えなくても船長は咎めることはなかった。
そもそも、この世界では出身地によっては苗字がない人間も多い。
エレノアの母も弟である叔父が幼い頃に欲しがらなかったら苗字なんて嫁ぐまで縁もなかったと言っていたほどだ。
船長は全員の名前を聞き、それをカッツォが名簿と照らし合わせる。
名前を聞いたと思えば今度はハンター試験を受けた理由を聞いて来た。
それに異を唱えたのは、短髪の男性…レオリオだった。
「おい!試験管でもねえのに偉そうにしてんじゃねぇ!」
どうやらレオリオは少し短気なようで、面接のような船長の質問に一切答える気はないようだった。
『いいから答えろ』と言う船長に、レオリオは嫌そうに顔をしかめる。
エレノアはチラリと自分の隣にいる金髪の男性…クラピカを見る。
彼の口は閉じたままだということは、彼もレオリオと同じ意見なのだろう。
エレノアは目の前の船長がどのような立場か、叔父から聞かされているため答える気ではいた。
だが、エレノアはクラピカへの視線をまた反対側の隣にいるゴンに向ける。
ゴンがどう答えるのか興味があったからだ。
「オレは親父がハンターなんだ!」
ゴンが12歳でハンター試験を受けようと思ったのは、父親が自分を捨ててでも魅せられた仕事に興味を持ったためだった。
ゴンの理由を聞いたエレノアは、次は自分の番だと答える。
「私は婚約者と会うために応募させていただきました」
「婚約者ァ?」
怪訝とした声に、エレノアは『はい』と頷き左手に飾られている婚約指輪を見せる。
その指輪を船長どころか操舵室にいる全員がマジマジと見る。
「婚約者って…どう見ても子供だろ?…お前、いくつだ?」
「12歳です」
「12!?12歳で婚約って……今時のガキは進んでるんだな…」
レオリオに年齢を聞かれたので素直に答えると全員に驚かれた。
ゴンでさえ同い年で婚約しているというエレノアに驚いた表情を浮かべており、元々大きな目を更に大きく真ん丸にしているゴンを見てエレノアは目を細めて微笑んだ。
「で、その婚約者とハンター試験とどう関りがあるんだ?」
12歳で婚約しているというエレノアの言葉を信じるにしても疑うにしても、船長はそれ以上首を突っ込む気はないようで12歳で婚約している体で話を進めることにした。
船長からの質問にエレノアは勿論、素直に話す。
「実は婚約が破棄されたとお父様からお聞きしまして…ですが私はキルア様の口からお聞きしない限りそれを信じないことにしましたの…キルア様がハンター試験を受けるとお聞きしたため追いかけるために応募いたしました」
「そ、そうか…」
キルア、という名前の人物がエレノアの婚約者らしいことは分かった。
その相手の年齢も、その相手が本当に存在しているかも分からないが、寂しそうに左手に光る婚約指輪を見つめるエレノアにこれ以上何も言う気は起きない。
この案件は触れてはならないものだと勘が言っている。
「で、お前らはなぜハンターになりたいんだ?」
はあ、と嘆息を漏らすエレノアを放置し、レオリオとクラピカへと視線を向ける。
二人もエレノアの応募理由を聞いて驚いていたが、船長の問いにレオリオは嫌そうな顔を見せる。
「だからなんであんたに言わなきゃいけねーんだって言ってんだよ!」
「えー?いいじゃん、理由を話すぐらい」
「協調性のねえヤツだなぁ!オレは嫌なんだよ!」
理由を聞かれたから話した。
船長が何者なのか知っているエレノアは別として、ゴンは疑うことを知らない素直な子供らしく聞かれたことは答えた。
だが、レオリオとクラピカは違う。
理由を聞かれたが、話す道理はない。
ゴンの額をツンツンと小突くレオリオに、クラピカも同意した。
「私もレオリオに同感だな」
「はあ!?おい!てめえも年下だろ!!呼び捨てにしてんじゃねえ!」
親しくもない人間に呼び捨てされるのは気に障るタイプなのか、同感を得たが呼び捨てにされたことに腹を立てていた。
しかし、そんなレオリオを無視し、クラピカは続ける。
「もっともらしい嘘をついて嫌な質問を回避するのは容易い」
「おい!聞いてんのか!?」
「しかし、偽証は最も恥ずべき行為だ…かといって正直に告白するには私の志望動機はあまりにも私の心に深く関りすぎている…したがって、ここで答えることはできない」
「てめぇ!無視すんじゃねえ!」
クラピカもレオリオ同様に、話すことを嫌がった。
エレノアには彼らがどんな思いでハンター試験を受けようと思ったかは分からないが、このままいけば二人は落ちるだろうというのは分かる。
「つまり、オレの質問には答えられないということだな?…カッツォ、この二人も脱落者として審査委員会に報告だ」
レオリオとクラピカは船長の言葉に、二人とも目を丸くしながら船長を見た。
船長はキセルを吹かせながら『まだ分かんねえのか』と呆れた声を出す。
「ハンター試験はとっくに始まってるんだよ」
煙を吐き出しながら呆れたように言う船長に、二人は耳を疑った。
いや、二人だけではなく、ゴンも驚いていた。
驚いていないのは、叔父からこの船で篩に掛けると聞いていたエレノアだけだろう。
「ハンターの資格を取りたい奴らは星の数ほどいる」
船長曰く、ゴン達が思っている以上にハンター受験者は多い。
この船に乗っている受験者だけがハンター試験を受ける人間ではない。
船以外のルートも勿論あった。
叔父からどのルートで行くかという問いに、エレノアはできるだけ実家から離れたルートから行きたいと言ったのでこの船が選ばれた。
この船がハンター試験を受けるための人間を運ぶだけの箱舟ではないということは叔父達から聞かされており、それからのルートも頭には入っている。
だからエレノアは船長の問いに全て答えた。
それでなくてもきっとエレノアは無警戒に答えていただろう。
この船はハンター協会に雇われて、試験を受ける前に篩に掛け応募者の数を減らすことになっている。
大波一つで体調を崩す奴がハンターになれるほどハンターという仕事は単純なものではない。
「つまり、お前らが本試験を受けられるかどうかはオレの気分次第ってことだ」
気分次第で落とされる可能性があるというのは公平ではないが、運やコミュニケーションも実力のうちというものだろう。
今まで渋っていた二人も流石に拒むこともできないだろう。
「…私は…クルタ族の生き残りだ」
『それを早く言え』とレオリオがグチグチと文句を言っている間に、答えたのはクラピカだった。
クラピカはしばらく口を閉ざしていたが、試験を受けるためと仕方なく頑なに閉じていた口を開ける。
そして、クラピカはハンターになるための理由を告げる。
「4年前…私の同胞を皆殺しにした盗賊グループ…幻影旅団を捕まえるためハンターを志望している」
『幻影旅団』――その言葉を聞いたエレノアが微かにピクリと反応を見せた。
しかし、その反応は本当に微かだったため誰にも気づかれることはなかった。
エレノアはクラピカを見る。
誰もがクラピカを見つめていたからエレノアの行動に不審は見られない。
ただ、ゴン達とは別の意味の視線を向けていた。
「賞金首狩り志望か!…幻影旅団はA級首だぜ…熟練のハンターでもうかつに手を出せねえ…ムダ死にすることになるぜ」
「死は全く怖くない…一番恐れるのはこの怒りがやがて風化してしまわないかということだ」
クラピカの目が一瞬赤く染まった。
しかしその瞬間をエレノアは見逃した。
暗殺一家として復讐などは身近だったため、ゴンほど魅力的に感じなかったのだろう。
エレノアの興味はすぐにクラピカから逸れた。
「ようは敵討ちだろ?だったらわざわざハンターにならなくたって出来るじゃねえか」
「…この世で最も愚かな質問の一つだな、レオリオ」
「レオリオ"さん"だ!」
二人は全く波長が合わないらしく、また喧嘩腰の会話が始まった。
敵討ちや賞金首狩りならば、ハンターライセンスは必要ないかと言われればそうとも言えない。
ハンターライセンスであれば一般公開されていない資料や情報、場所など更に深く踏み込んで入ることや得る事ができる。
ハンターライセンスという品物は、想像よりも便利なものである。
「ねえ!レオリオさんはなんでハンターになりたいの?」
このまま放置すれば喧嘩が始まるだろうなぁ、とエレノアは思うが関わるほど彼らを知らない。
そんな二人を止めに入ったのはゴンだった。
ゴンとしては止めに入ったつもりはなかったのかもしれないが、結果として睨み合いは止まった。
「オレか?オレの目的はズバリ―――金さ!」
レオリオの理由は、思わずエレノアもレオリオへ視線を向けてしまうほどだった。
金。
レオリオはハンターになる理由は、単純明快…金である。
レオリオ曰く、金さえあればなんでも手に入るととのこと。
大きな家も、いい車も、美味い酒も。
一見、低俗じみてはいるがエレノアはそれを否定はしない。
確かに、金が全てではないが、実際住む場所も服も食べ物も気晴らしに遊ぶのも、大小関係なくお金は必要である。
それに、金が動機がとやかく言われるのなら、エレノアだって婚約者を追いかけているのだから似たようなものだ。
「品性は金で買えないんだよ、レオリオ」
楽しそうにそう話すレオリオに、クラピカが一発で蹴り落した。
棘のあるクラピカの言葉に、それまで楽しそうに話していたレオリオは一瞬にして険しい表情へと変える。
「三度目だぜ…表へ出な…そのうす汚ねェクルタ族の血を絶やしてやる」
「!―――取り消せレオリオ!!」
クラピカもクラピカだが、レオリオもレオリオである。
二人のピリピリした空気に、エレノアはチラリとゴンを見た。
彼がどう行動するのか見ていたが、ゴンは動かない。
エレノアは間に入るとばかり思っていたため驚いていると、そうしているうちに二人は表へと出てしまう。
エレノアは止めるでもなく、表へと出て行った彼ら二人をただ見送っただけだった。
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