(12 / 21) キルアの婚約者 (12)

エレノア達は無事に合格し、ナビゲーターであるキリコにザバン市まで案内された。


「わぁ!すごい!物がいっぱいあるよ!」

「ゴンさんは市場は初めてですの?」


その中でも人でにぎわっている市場を通っており、ゴンはひと際賑わいを見せる市場に目を輝かせながら辺りを見渡していた。
エレノアは仕事で様々な場所に行くこともあり、人が多いのも、賑わっている場所も慣れている。


「うん、オレくじら島っていうところで育ったんだけど…くじら島にはこんな大勢の人いないから…」


はしゃぐ姿を見られて恥ずかしかったのか、照れるゴンにエレノアは微笑ましく見つめる。
エレノアとゴンが笑いあうその姿は、大人たちからしたら可愛い子供のやりとりだろう。


「わっ!あれなんだろう!」


ゴンは好奇心旺盛であちこち見て回り、ゴンの楽しそうな様子にエレノアも釣られてついて行く。
気になる屋台を見つけてはそっちへ足を運び、エレノアも後について行く。
年齢が近いというのもあり、二人はまるで兄妹のようだと周りは微笑ましく見守っていた。


「おっ!君たちどうだい、これ食べてかないかい!」

「これなに?」


エレノアも人が多い場所は仕事で慣れているとはいえ、仕事を終えるとすぐに家に帰宅するよう教育されていた。
そのためゴンより人の多さに慣れてはいるが、市場などに立ち寄ったのは今日が初めてである。
キルアと会うのも、必ずゾルディックの家でしか会わないから外でデートなどしたことがなかった。
ゴンがひょこっと立ち寄ったのは、ある動物の姿焼きだった。
美味しいらしいが、所謂ゲテモノ系と呼ばれるものである。
一般の常識で育てられていないエレノアや、自然で育ったゴンにとってはゲテモノであろうと驚くものではない。
興味深そうなゴンとエレノアに屋台のオジさんが説明していたその時、子供二人がいないことに気づいたレオリオに声をかけられる。


「何やってんだ!ゴン!エレン!置いて行くぞ!」


レオリオとクラピカ、案内してくれるキリコの一人は、物珍しそうにちょこまかと市場を歩き回る二人を待っててやる。
因みに、案内してくれるのは、ナビゲーター家族の息子である。
女性を攫ったキリコは一匹だったが、実はもう一匹いた。
追いかけて来たクラピカとゴンを騙すために気づかれないよう入れ替わり、二人に一匹しかキリコがいないと勘違いさせた。
しかし、ゴンの野生じみた感覚ですぐに最初に追いかけていたキリコと違うと気づかれ、ゴンは合格。
クラピカも、ゴンがキリコを攻撃し腕から落ちた女性を救った際に、腕に彫ってあった『生涯独身を貫く入れ墨(を描いたフェイク)』を見破り合格。
エレノアは、最初からキリコ達がナビゲーターとして自分達を試していたと気づいていたということで合格。
レオリオは最後まで気づかなかったが、医者以上の的確な治療と、妻や子供を心配する夫を最後まで励ますその気遣いで合格した。
案内してくれているのは、レオリオに合格を出してくれた息子である。
ゴンとエレノアは『ごめんごめん!』と謝りながら待ってくれる3人へ駆け寄る。


「オレ、こんなに大勢の人や出店も初めてで…楽しくなっちゃった!」

「私も…市場に立ち寄ったこと初めてでして…はしゃいでしまいました…すみません…」


『何やってんだよお前ら』と呆れるようなレオリオの言葉に、素直に答える。
二人の言葉に、レオリオも流石に何も言えずコツンと軽く頭にチョップを入れるだけで終わらせた。


「まあ、無理もないかもしれないな…ゴンは人口が少ない離れ小島で暮らしていたというし…エレンは育ちの良さが伺えるから市場自体が珍しいんだろう」


クラピカは子供らしい二人を微笑ましそうに見つめる。
ゴンは人口の少ない島で暮らしていたと聞いており、エレノアは家族や生まれ育った土地のことは何一つ言わないが、言葉遣いが丁寧で姿勢もよく身なりが整っているのを見れば令嬢と思っていいだろう。
そんな正反対の二人だが、市場など一般的なイベントに不慣れなところは共通している。
目を輝かせているゴンとエレノアを微笑ましく見てしまうのは仕方ない。


「どうやら…あそこの建物だ」


そうこうしているうちに、ついに会場までついたらしい。
キリコの言葉に、のんびりとした空気が流れていた一同に緊張が走った。
キリコの言葉に建物へ視線を向けると…そこには天高く聳え立つ立派なビルが建てられていた。


「たかーい!すごく立派な建物だね!」

「これが試験会場か…」


ゴクリと喉を鳴らし、立派なビルを4人は見上げる。


(このビルにキルア様がいらっしゃるのですね……もし…そのお隣にキルア様が慕われる女性が立っていたら…キルア様に嫌な顔をされてしまったら…―――いいえ!!弱気になっては駄目よエレノア!キルア様のお気持ちがなくなっていたのなら諦めるって決めたではありませんか!むしろ胸のつかえが取れるいい切っ掛けになりますわっ!!)


3人はそれぞれハンターになりたい夢のために訪れ、やっとその夢を掴む第一歩を踏み出せる位置までたどり着いた事に様々な感情が込み上げているだろう。
だが、1人だけ…エレノアだけ、場違いな覚悟でここにいた。
エレノアは元々ハンターには興味はなく、キルアから真偽を聞くために訪れた。
ハンター試験は紙一枚で簡単に試験会場に向かうことが出来る普通の試験と違い、船に乗船した時点から自分の力でこの会場まで向かわなければならない。
あれほどいた受験者が、4人しかいないのを見て分かる様に力も運もない人間は会場に着く前に振り落とされる。
そのため、夢を追いかけライセンスを取ろうと頑張っている人達からしたら、エレノアがここに立っていること自体腹立たしいだろう。


「君たち!こっちこっち!ここだよ!」


とはいえ、エレノアも覚悟してこの場に立っているのには変わりはない。
しかし、4人の想いを他所にキリコは『そのビルじゃないよ』と言って4人を呼ぶ。
キリコが『ここだよ』と言って指した指の先へ視線を向けると……


「おいおい冗談キツイぜ!どう見てもただの定食屋じゃねえか!」


目の前には普通の定食屋があった。
地元の人に昔から愛されているであろう定食屋。
キリコ曰く、このどう見ても美味しそうな定食屋がハンター試験の会場だと言う。
流石にそれを真に受けることできないレオリオだったが、キリコはそれでも目の前にある店が会場だと言い張る。


「そう、だからここが会場なんだ…ここなら、誰も応募者が数百万人ともいわれるハンター試験の会場だとは思わないだろ?」

「ま、まあ…確かに…」


なるほど、とエレノアは納得する。
先ほど見た立派なビルでも十分ハンター試験の会場だと言われても納得できるが、一見会場とは見えない会場も納得できる。
ここまでの道なりを考えれば、むしろあからさまな会場より、目の前の食堂が会場だと言われると納得できるだろう。
キリコはエレノア達の反応を放って定食屋に入っていく。


「らっしゃーい!」


エレノア達も続いて店内に入ると、油の匂いに包まれる。
ゴンもそうだが、エレノアは特にこういう市民が入るような店に来店したことはなく、ゴンと一緒に物珍しそうに店内を見まわした。


「奥の部屋、空いてる?」


キリコのその言葉に、店主の雰囲気が変わったのをエレノアは気づく。
店内を見ていたその視線をそのまま店主に向けると、店主の表情や仕草はそのままだがどこか緊迫しているように見える。
エレノアは彼らのやり取りを聞いてすぐに『合言葉』だと気づく。


「お客さん、奥の部屋どうぞー!」


店員の女の子がエレノア達を奥にある部屋へと案内してくれた。
個室となっているそこには中華店によくある円状の回転するテーブルが中央に置かれており、4人分の椅子が等間隔にテーブルを囲むように配置されていた。


「ステーキ定食楽しみだね!」

「まあ、ゴンさんったら…」

「ゴン、あれはこの部屋に通してもらうための合言葉さ」

「えー!?なぁんだ…食べられないんだ…」


ゴンは合言葉に使用した『ステーキ定食』が出されると思ったらしく、食べられないことにガッカリしていた。
天然なゴンの言葉にエレノアはクスクスと笑う。


「試験が終わりましたらご一緒にお食事しましょう」

「うん!みんなで食べに来ようね!」


がっかりしていたゴンだったが、エレノアの誘いに嬉しそうに笑って頷いた。


(その際にキルア様をゴンさん達にご紹介しましょうと言おうと思ったのですが…止めておきましょう…)


会場に着いたら、エレノアはキルアを探すためにゴン達と行動を共にはしないつもりだ。
ハンター試験がどんな形で行われるかは分からないが、もしも試験の最中ゴン達と会う事がなかったら、試験が終わった後にキルアを紹介しようとエレノアは思った。
だが、それはキルアの気持ちが変わっていなかった場合。
本当にエレノアに対する気持ちがなくなってしまったとしたら、キルアを紹介するという約束事が虚しくなってしまう。
だから、エレノアは安易にキルアを紹介するという約束はしないことにした。
そして、落ちたらその場で帰還しなければならないのに、エレノアはゴン達3人が合格するのだと不思議だが確信めいたものを感じていた。


「一万人に一人」


子供2人のやり取りにクラピカとレオリオはついに会場に辿り着いたという緊張感が解されていく。
そんな4人にキリコがポツリと呟き、全員キリコへと振り向く。


「受験応募者がここにたどり着くまでの確率さ…君たち、新人にしては上出来だ」


エレノアはそれを聞いて、疑問さえも感じなかった。
船からここまで、多くの人が篩に落とされた。
何十人もいたあの船の中で、たった4人しか会場にたどり着けなかった。
それを考えれば一万人に一人という確率は妥当だろう。
『じゃあ、頑張ってな』と応援してくれているのであろうキリコに、ゴンは手を差しだす。


「ありがとう!」


ゴンの言葉に、その行動に、キリコは目を丸くする。
これまで多くの受験者を案内してきたが、ナビゲーターに対してお礼を言い握手を求める人間は初めてだった。
キリコはその差し出された小さな手をそっと握る。


「君たちなら来年も案内してあげるよ」


そう言ってキリコは部屋から去って行った。
キリコが個室の扉を閉めたすぐ後に、部屋は揺れはじめる。
どうやらこの部屋はエレベーターとなっているらしく、扉の上には階数が表示されていた。
『B』と書かれているので、地下に降りているのだと分かる。


(このエレベーターが着いた先にキルア様がいらっしゃるのですね…)


しばらく立って待っていたが、到着する素振りが見えずエレノア達はそれぞれ椅子に座ってテーブルを囲む。
エレノアは試験を受ける緊張ではなく、キルアに会い、彼の口から真実を知ることへの緊張で手が震えていた。


(キルア様…どうして婚約を破棄したのです…あれほど私を愛していると仰ってくださったのに……その言葉は偽りだったのですか…)


キルアの口から聞くまで信じないとは言ったものの、もうすぐキルアと会えるという緊張からエレノアは不安にかられる。
父の『気持ちがなくなった』という言葉がグルグルと回って頭から離れない。
その不安から身を守るように、キルアから贈られた婚約指輪を抱きしめるように手を握る。
エレベーターの階数を見れば、50と表記されている。
数字が足されれば足されるほど、エレノアの不安は強くなる一方だった。


ここまで読んで分かっていると思いますが…
そうです、最推しはゴンくんです。

夢主のイラストをアップしました。
お暇でしたら覗いてくださると幸いです。



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