(8 / 21) キルアの婚約者 (08)

ある船がくじら島に着港した。
その船に一人の少年が乗船し、少年は島の人たちに見送られ海に出る。
その船はハンター試験を受ける受験者たちを乗せていた。
その少年、ゴンもその一人だ。


(女の子だ)


ゴンは自分の言葉を笑う大人達には目もくれず、周りを見渡す。
すると、自分と同じ年頃の少女に目を留めた。
ゴンは自分と同じ年頃の少女に興味が沸いて近づく。
その少女は、ぼうっと呆けたように藤色の目で海を見ていた。


「ね、君もハンター試験を受けるの?」


同じ年頃の女の子がいたことが嬉しくて、ゴンは声をかけた。
少女は海からゴンへ視線を向けると、ゴンはその美しさに内心目を丸くする。


(わっ!綺麗な女の子!)


その少女は若葉色の長い髪を風になびかせ、薄い桃色のノースリーブハイネックのサマーニット、首には青い宝石が輝くループタイが飾られており、桃色のレースのコルセット、薄紫色の足首までのプリーツタイプのロングスカートを身に纏い、手首にはフリルがあしらわれたカフスがつけられていた。
ファッションに疎いゴンでも、良い所のお嬢さんだと分かる。
少女が目立っていたのは、周囲が強面の男達ばかりだったからだろう。
それに、人を容姿で見ないゴンでも驚くほど目の前の少女は美少女だった。
少女は、ゴンの問いに笑みを深め頷く。


「ええ」

「オレもなんだ!君、いくつ?」

「12歳です」

「オレと同じだ!オレはゴン!君は?」

「エレノアです…エレンと呼んでください」


つい質問攻めをしてしまうが、そんなゴンを少女…エレノアは嫌な顔一つせず答えてくれた。
同い年がハンター試験を受けていると知ってゴンは嬉しそうに破顔させた。
それに釣られるようにエレノアも笑みが深くなる。


「何やってんだカッツォ!」


話を続けようとしたとき、下から男の声が聞こえた。
ゴンは気になって下を覗き込むと、エレノアもその隣で一緒に下を見た。
そこには木箱に入っているリンゴを運ぶ男性がいた。
しかし、躓いたのか、リンゴは何個か落ちているのが見えた。
しかも、二人の船員達に虐められているようだった。
エレノアはチラリとゴンを見る。
ゴンがどう行動するのか、興味があった。
ゴンはエレノアの視線など気づかず、リンゴを箱に戻しているカッツォの下へ向かおうとした。
だが、ゴンが階段を降りようとした時に船長と呼ばれた男性が現れ三人に喝を入れ、カッツォを虐めていた二人はそそくさとその場から立ち去る。


「あっ!待って!」


もたもたして船長に怒られ慌てて木箱を運ぼうとしたカッツォをゴンが呼び止め、拾い残していた一つのリンゴを投げ、それを木箱でキャッチする。
お礼を言うカッツォを手を振りながら見送るゴンをエレノアはただジッと見つめていた。


「嵐が来るよ!」

「どうして分かる、ボウズ」

「だって、ウミヅルがそう言ってる」


エレノアの視線に気づいているのかいないのか。
ゴンは空を見上げて嵐が来ると言った。
ゴンの傍にいた船長の耳にも届いており、当然の問いかけをすると驚く言葉が返ってきた。
ウミヅルという船の周りにいる鳥を指さすゴンに、船長は鳥言語が分かるのかと驚いた。
全部じゃないけど、と言うゴンはクンクンと風の匂いを嗅ぐと一気に見張り台へと昇っていく。


「まあ…まるでお猿さんですわ」


二階からゴンの様子を見ていたエレノアはあっという間に見張り台へ身軽に上るゴンを驚いた。
見張り台に登ったゴンは、下にいる船長を覗き込むように顔を出す。


「ものすごくでっかい嵐がくるよ!」


ゴンはそう叫ぶ。
それを聞いたエレノアは降りて来るゴンの傍に歩み寄る。
興味が沸いた。
ゴンはエレノアの周りには決していなかったタイプだ。


「嵐が来ると仰っていましたが…本当ですの?」

「うん!匂いで分かるんだ!」


エレノアはゴンを疑ってはいない。
なぜか、ゴンの言葉をエレノアは本当なのだろうと思ってしまう。

―――そして、その数時間後、ゴンの言う通り嵐が来た。

次第に天気が崩れ、雨が降り出してからはエレノアや他の受験者達は船内に避難した。
しばらくすると船は大きく揺れはじめる。
その揺れは、船内にいる強面達が軽々と転がるほど激しい。
しかし、エレノアはまるで固定しているように壁に沿って座り、図太い悲鳴をBGMに暇を持て余していた。


(本くらい買っておけばよかったですわ…)


叔父からキルアの居場所を教えてもらい、エレノアは彼を追うことにした。
どうするか、と問われたが、当然追いかける一択だ。
そもそも、ハンター試験くらいで追いかけるのを止めるくらいなら、家は出ていない。
叔父を通して母がエレノアの為に新しい口座を作り入金してくれたおかげで、エレノアは着替えやカバンなど必要なものを購入することが出来た。
しかし、本など暇を持て余した際の必需品は考えていなかった。
はあ、と暇すぎて溜息をついたエレノアの目の前に人影が横切った。
その人影へ視線を向けると、ゴンだった。
強面の男達に薬草を手渡しているゴンを見て、エレノアは彼に近づく。


「何をなさっているのです?」


屈んでゴンと、ゴンに薬草を手渡されている男を見ながら問うエレノアに、ゴンは『この薬草はね、噛めば吐き気を軽くする効果があるんだ』と答えた。
それに『そうなのですか』と感情を乗せず答えながらエレノアは『いやだからなんでそれを渡してるのかお聞きしたいのですが』と思う。


「み、みず…」

「水だね!待ってて!今持ってくるから!」


強面の男が船酔いで顔を青く染めながら呻く。
その姿は同情を誘うが、エレノアには全く興味の一欠けらも感じない。
エレノアの興味は全てゴンへと向けられている。


「エレン!これ、みんなに渡してくれる?オレは水持ってくるからさ!」


そう言ってゴンはエレノアに薬草を差し出す。
エレノアはその薬草とゴンを交互に見ていたが、すぐにその薬草を受け取った。
それを了承したのだと受け取ったゴンは『ありがとう!すぐに戻るからね!』と言って元気に部屋を出て行った。


「………」


エレノアはゴンが出て行き男、達のうめき声しか聞こえなくなった部屋でただじっとゴンの去った扉を見つめていた。
しかし、そのまま突っ立っていても仕方ないとまだ薬草を受け取っていない男達へと薬草を配っていく。
エレノアは物腰は柔らかく接するタイプだが、特別他人に対して優しかったり世話を焼くタイプではない。
暗殺一家のもとに生まれたエレノアは、人間に興味を持たない。
ただ、ゴンは不思議と興味を惹かれた。
だから、エレノアは全く興味も持たない男達に薬草を配っていく。


「もし、そこの方…薬草はいりますか?」


順々に薬草を渡していき、エレノアはハンモックに寝そべって本を読んでいる金髪の男性に声をかけた。
表情は至って普通で本を読んでいるのだから、男達のように酔っているわけではないのだろうが一応。


「私は大丈夫だ…ありがとう」

「そうですか…ではそちらの方はいかがです?」


金髪の男性はエレノアに声をかけられ本からエレノアへと視線を移す。
やはり、酔っていないので断られてしまった。
酔っていると思っていなかっため、エレノアは次に端に座ってリンゴを齧ろうとしている短髪サングラスの男性に声をかける。


「いや、オレもいらないぜ」


口を大きく開けてリンゴを齧ろうとした短髪の男性は、エレノアに問われ首を振った。
二人から酔った様子は見受けられないため、エレノアはすぐに引っ込む。
後はゴンを待とうと、背後から『すっぺぇ!』と短髪の男性の声を聞きながら空いている場所へと向かった。
その時、やっとゴンが戻ってきた。


「ありがとうエレン!助かったよ!」


ゴンはすぐに戻ってきた。
後ろにカッツォを連れて、二人で死んでいる男達の分の水を運んできたらしい。
薬草を返したエレノアはゴンとカッツォの三人で水を配って回る。


「おいお前ら4人とカッツォ…ちょっと来い」


すると、扉から現れた船長に呼び出された。

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