(6 / 12) 夜明けの抱擁 (06)

あれから3日、タソガレドキ忍者たちは実代のいる離れに忍び込んでいた。
実代が連れてきた侍女達では屋敷を回せず、一定数の数をタソガレドキ忍軍の女達で補っている。
実代の癇癪のせいで、新しい顔が増えても不自然ではなく、その点は助かっている。
タソガレドキの女たちも、実代のことを快く思っていないため、忍びがいても見て見ぬふりをしてくれる。
―――結果、月子は誰にも告げ口をしていないことが判明した。
それを受け、組頭から『ならば』と月子との接触許可が出た。
ただし、毎日は流石に気づかれる恐れがあるため、最低でも4日は空けるよう言い渡された。
月子を憐れんでいる…否、推している忍び達…特に狼隊の忍び達は『月子ふれあいイベント』を毎日開催したい気持ちを、組頭のお言葉という重みのある言葉の石で抑えていた。
ちなみに、このイベントは一日1人と言い渡されており、毎日抽選が開催されている。

――それから半月。
最低4日空けなければならないのもあって半月経ってもそれほど多く月子と接する機会はなかった。
さらに、月輪、隼、黒鷲の忍びも参加するため、競争率はますます高くなった。
結局、組頭からの命令で公平に順番で回すことにした。
そのため、狼隊でもイベントに参加できた者は極少数である。


「折り紙?」


月子とは何をするでもなく、ただ月子が知りたい事を教えたり世間話をしたりと話をするだけだった。
しかし、組頭から『そろそろ一歩進んでもいい頃合いか』と言われ、何か行動をしてみるかと雑渡が山本、陣左と相談していた時。
ある提案がされた。
その提案した者…雑渡の世話係を務めている13歳の男児、諸泉尊奈門を見る。
尊奈門は雑渡達の視線に『はい!』と元気な声で頷いた。


「折り紙でしたら隠すこともできますし…月子様は女の子ですから喜ばれるかと思います」

「高坂の子みたいに?」

「えっ!!あ、えっと……はい…」


雑渡の返しに尊奈門はボンと顔を赤く染めて視線をあちこちにやりながら、観念して頷いた。
その初心な反応に、雑渡だけではなく山本も微笑ましそうに尊奈門を見た。
そんな大人達の暖かい視線が恥ずかしくて小柄な身体を更に小さくさせた。
ただ、兄である陣左は複雑そうに尊奈門を見る。


「最近やけに楽しそうに折り紙をしていると思えば…」


そう漏らすのは、高坂家の元嫡男。
尊奈門が最近楽しそうに雑渡のリハビリのためにと始めた折り紙を折っていることには気づいていた。
雑渡と一緒に何かをしているのが楽しいからかと思ったが、まさか妹への貢物だと知らなかった。
それもどうやらこの場で知らなかったのは陣左だけらしい。
兄である陣左の言葉と視線に、尊奈門は更に視線を泳がせる。


「…まあ、お前の事だから大丈夫とは思うが……あまりアレを揶揄ってやるなよ」

「か、揶揄ってなんていませんよ!一緒に雑渡様の看病をしていたので…その…今の雑渡様の様子を報告しているついでにお土産を…してるだけっていうか…」


ごにょごにょと少しずつ言葉が萎んでいく。
尊奈門からしたら蛇に睨まれた蛙の状態だが、陣左は別に睨んでいるつもりでも、批判的に見ているわけでもない。
ただ兄心から心配していた。
妹はその美貌から打算的な者しか近寄ってこなかった子だ。
尊奈門がそんな輩と同じとは流石に思わないが、可愛い妹が傷つく姿を見たい兄はいない。


(あの男は気づいているんだろうか…いや、気づくか…)


あの男、とは、元父親の高坂家当主だ。
気づいているのかという疑問はすぐに否定された。
月輪の小頭が、まだ修業中であるヒヨッコ忍者の気配に気づかないわけがない。
恐らく、気づいていて見逃しているのだろう。


(あの男が止めないってことは…そういうことなのだろう…)


あの男と表していても父親としては信頼していた。
月輪隊ではなく狼隊へ入隊したいと言った息子を勘当する男ではあるが、それでも娘に対して甘い所があるのを陣左は知っている。
そんな父親が尊奈門との逢引きを咎めないということは、妹に害はないと判断したのだろう。


(まあ両家は仲がいいからな…)


高坂家と雑渡家、そして諸泉家は、この里の中でも名家だ。
多くの組頭を輩出し、実力も申し分のない家柄だ。
その家の繋がりも影響されているのだろう。
もしかしたら、親としての下心もあるのかもしれない。


「…………」


陣左はチラリと雑渡を見る。
雑渡は『いいね、折り紙』と蹲るほど肩身を狭くさせる尊奈門の頭を優しく撫でていた。
妹はまだ10歳だが、その美しさから多くの家から婚約を申し込まれている。
現在、婚約者を選定中であり、その候補には、妹と一歳差と同年代である雑渡の息子二人の名前も挙がっていた。
陣左は雑渡がどう思っているのか聞きたかったが、流石に尊奈門の前でその話をするのは酷だと思い、口を閉ざす。


(あの男が小頭のご子息に妹を嫁がせるわけがないか…)


雑渡なら息子と妹の気持ちを汲んでくれるだろう。
自身の結婚が失敗したのだからこそ、余計に。
それに、恐らくだが、陣左の父親は雑渡の血を受け付けないはず。
陣左が狼隊へ入隊したことによって父は雑渡を嫌悪しており、妹が父の意に背いて雑渡の看病をしたを厳重に叱責したと聞いている。
その怒りはまだ収まっておらず、今だに妹は自宅軟禁を解かれていない。
そんな相手の息子を大切にしている娘の配偶者にはしないだろう。
だからと言って尊奈門だから大丈夫とは言えないが。


「…頑張れよ」


尊奈門も狼隊へ入ることは決まっている。
本人もそれを望んでいるし、尊奈門の父親も異を唱えないだろう。
諸泉家は雑渡に恩があるのだ。
もしも尊奈門との婚約を認めるとなると、息子も娘も狼隊に取られるということになる。
プライドの高い父が、それを簡単に認めるかどうか。
尊奈門がどれだけ本気かは分からないが、とりあえず尊奈門に訪れるであろう困難に同情した陣左は、将来の先輩として、そして兄として応援の言葉をかけてやる。


「え?あ、はい……え、何がですか???」

「……………」


当の本人はなぜ応援されたか分からず首を傾げた。
それを見て陣左は本当にこんな男に妹を預けていいのかと不安に思った。



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