父だけではなく、兄達や、組頭との顔合わせを終わらせて、数日後。
月子はある人物を紹介された。
「世話係ですか?」
今日も父の下へ向かい、最近ハマっている読み聞かせをしてもらおうとした。
しかし、父の部屋へ向かうと1人の少女がおり、月子の姿に気づくと少女は深々と頭を下げた。
そして、父からの言葉に、月子は小首をかしげた。
コテンと小首をかしげる娘に、雑渡は娘の頭を撫でながら頷いた。
「そう…この子は今日から月子に付いてくれる子だよ」
この里において、雑渡家はそれなりの地位にいる家柄らしいと、最近月子は知った。
だから、狼隊の忍びは月子の事を『様』付けするし、それ以外の者でも父と同等か組頭以外では『殿』を付けてくれる。
教育係として誰かが月子に付くのも立場上、当然らしい。
確かに、離れにいた時も役には立たなかったが侍女が数人傍にいた。(傍にいただけである)
月子も、実代も、落ち着いた今を見計らって、雑渡は組頭との相談で選んだ少女を教育係として付けた。
『挨拶を』という雑渡の言葉に頭を下げていた少女がゆっくりと、静かに顔を上げる。
「お初にお目にかかります…本日より、月子様のお側仕えを仰せつかりました、高坂小蝶と申します…未熟者にございますが心を尽くしてお仕えいたします」
小蝶と名乗った少女の顔を見て、まず月子は目を丸くした。
(わぁ…綺麗な人…)
月子に顔を見せた少女――小蝶は、とても整った顔を持った少女だった。
月子よりは年上だが、大人の女性にはまだほど遠い。
だが、美しさは大人の女性には負けていない。
特に、子供から大人に変わる今が、更に少女を光り輝かせていた。
少女の美しさに見惚れていると、父の手が月子の背中に触れ、月子の意識が戻る。
顔を上げて父を見ると、父は柔らかな視線で『お前も挨拶をしなさい』と告げ、月子は慌てて居住まいを正し、軽く一礼した。
「ご挨拶、痛み入ります…高坂小蝶殿…このたびはお仕えいただけるとのこと、大変心強く存じます…今後ともよろしくお願い申し上げます」
一度も噛むことのなかった月子に、小蝶は目を瞬かせた後、月子の父である雑渡を見た。
その顔は驚きの色で染められており、雑渡はコクリと頷いた。
小蝶が驚いたのは、月子の言葉選び、そして幼いゆえに舌足らずになるはずなのにはっきりと音にするその口。
見た目が幼くなければ、大人としても通じるものだ。
(お聞きした通り…礼儀を御母堂様に叩き込まれたのですね…)
哀れに感じた。
自分もまだ10歳の子供で、立場的に同じく礼儀を叩きこまれた側ではあるが、まだ4歳の頃は遊んでいたし、舌足らずだった。
それがないということは、それを何度も何度も指摘され叱られ注意されたのだろう。
舌足らずなのは仕方のないことだというのに。
礼儀だってそうだ。
幼い子供に叩き込む礼儀作法ではない。
「さて…お互いの顔合わせも終わったところだし…月子、今日は何を読みたい?」
月子の身体を抱き上げて膝に乗せる。
最近、月子は安心できる場所にいるからか、それとも離れの女達から与えられる食事量が少ないのか――恐らく両方であるが、月子の食べる量が増えたらしく体重も増えて平均的な体重に届いた。
それでも大人の男である雑渡にとっては軽く、膝の上に乗せても負担はない。
父の問いに月子は持ってきた本を渡す。
「今日はこれを読んでください」
父に渡したのは、離れの時も見た事のある本。
だが、ちゃんと『男』が登場する捏造されていない正しい内容だ。
最近、月子は女達が捏造した本の正しい内容の本を読んでもらうことにはまっている。
きっと、今まで暇つぶしに読み潰し覚えた内容のすり合わせなのだろう。
男の登場しない物語は、ただ男のキャラを消しただけで話を書き直しているわけではないので全てが矛盾となってしまう。
無理矢理終わらせるものも多く、疑問に思い侍女達に聞こうにも『それが正しいのでございます』と押し通すばかりで答えてはくれなかった。
だから、父の膝の上で正しい内容を読むのが楽しい。
ペラ、と表紙を捲り、一枚目を声に出して読む。
小蝶は微笑ましい親子の姿に目元を緩ませ、用事を言い渡されるまで別室に控えるため静かに退室した。
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