(6 / 12) 星屑の帰還 (06)

その日、押都はタソガレドキの城下町へ足を運んでいた。
それは特に珍しい事ではなく、押都は基本は家でゆっくりするのが好きなタイプではあるが、時々こうして城下町に出ることもある。
それは用事がある時や、当てもなく何となく街を歩きたい気分だった時もあるが、今日は違った。


「……………」


鋭い目でメニューを見る。
この時代、通常は壁や板札に貼られたメニューが主流である。
だがここでは珍しく、すべての卓上に小さなメニューが置かれていた。
そのメニュー表を掴んで、押都はかれこれ数十分、メニューと睨めっこしていた。
自分の分の団子とお茶は目の前にあり、ある程度甘味に身も心も満たされてはいるが、メニューを睨んでいる。
先程からチラチラと団子屋の看板娘が見ているが、押都は中々手を上げない。


「あ、あの〜…」


流石に数十分もメニューと睨み合いをしている押都を見かねたのか、看板娘が話しかけてきた。
やっとメニューから視線を逸らした押都は『なんでしょう』と外面で対応する。
変装しているので顔はランダムで、今日は至って普通の顔にした。
そのため看板娘に頬を染められるイベントは発生しないが、何十分もメニューを睨むオジさんに声をかけることさえ女性にとっては怖いだろうに、看板娘は勇気を出して声をかける。


「お迷いでしょうか?よろしければ、ご相談に乗りますよ」


にっこりと笑う若い女性。
その容姿は世間から見れば美女だろうが、押都は本物の美少女を知っているので胸はピクリとも動かない。
迷惑そうにせず『相談に乗りますよ』と気遣える(言葉を選べる)のは、流石看板娘として男性人気を担っているだけあると押都は思う。
悪い事をしたな、と思いながらも、相談に乗ると言った言葉に甘えることにした。


「知り合いの子供にお土産でもと思っていたのですが…恥ずかしながらこの年になっても独身でして…子供は何が喜ぶのかと…」

「そうだったのですね…でしたら、甘いタレのお団子はいかがですか?三色団子や小豆なども喜ばれると思いますけどやっぱり子供は甘いものがお好きですので喜ばれると思いますよ」

「その…その子供の家は遠くてですね…できれば日持ちするものを選びたいと思いまして…途中にある団子屋で買えばいいとは思うのですが…こちらの団子は子供でも食べやすいと評判と聞き、ぜひこちらで頂ければと思いまして…」

「まあ!そうだったのですね!ありがとうございます…なら、こちらはいかがでしょう?子供には少し塩気を強く感じるかもしれませんが、実はこちらも子供のお客さんに人気なのですよ」


何十分もメニューを睨んで居座られるのは迷惑客だが、その理由を聞いて看板娘は微笑ましく感じた。
不器用な男に可愛さを見出す女性はいる。
ならば、と押都が握りしめているメニュー表に書かれている一行の文字を指さした。
その文字に、押都は『ふむ』と心の中で顎髭を撫でる。


「なら、それを一つ包んでいただけますか?」


いくら考えたって幼女の好み(しかも豪華な食事で育った子)なんて分かりはしないのだ。
これならば口に合わなかった場合、自分で処理できると考え、素直に看板娘のオススメに甘えることにした。
何度接客していても自分がオススメした物をお客が選んでくれるのは嬉しいものだ。
思わず『はい!』と嬉しそうに返事をしてしまい、周りにいた客からも笑いが湧き上がった。
看板娘は思った以上に大きな声が出てしまったのと、店内に笑いが広がったことに、恥ずかしくなって赤くなった。
そのまま真っ赤な顔をお盆で隠し、そそくさに厨房へ姿を消した。
あのような初々しい反応が男心をくすぐるのだろう。
押都も微笑ましく感じたが、それと同時に、脳裏にミツの姿が浮かんだ。
不自然にならいように、微笑ましいと上がった口角を下げた。


(本来なら、あの子ものびのびと育っていたんだろうな…あんな、大人も顔負けな口調や文字を強要されることもなく…)


微笑ましい光景だった。
元気で、愛嬌のある笑顔に、柔らかい物腰に接客。
振る舞いに男女の差はなく、看板娘のようなからっとした女性は周りに好かれ明るく照らすのだろう。
本当なら、ミツも年相応に育っていたはずなのだ。
年齢の差はあれど、その格差に胸が締め付けられる。
だからこそ、早くあの子に美味しいお土産を贈りたいと、まだ商品が届いていないのに心が落ち着かなかった。



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