(8 / 12) 星屑の帰還 (08)

最近、ミツはすこぶる機嫌が悪かった。
最初こそ城主に隠す余裕はあったが、少しずつその余裕もなくなっていった。
それは、城主にすら不機嫌さを隠さなくなるほどだった。
いつもは無感情なミツが感情を露わにしたことに城主は困惑し、いつも素直な子供に初めての反抗期が訪れ、苛立ちからミツにも周囲にも八つ当たりをしていた。
しかし、その怒りは長くは続かず、今では必死にミツのご機嫌取りをする日々となった。


「のう、藤よ…何をそう不貞腐れているのだ?儂らに不満があるのか?問うても『知らぬ』ばかり…言わねば分からぬぞ?」


また正室に何か言われたのか、占いを頼みに来たわけではなく訪れたのはいいがミツもミツで、表情こそ変わらないものの、不機嫌なオーラを隠すこともなく、いつも通り城主を迎え入れた。
いつものように膝枕をされながら、ミツの不機嫌な雰囲気に城主の顔にはあからさまに疲労の色を見せつけた。
子供相手に隠しもしないのは、城主の身勝手さが物語っていた。
ミツの部屋なので、面はつけてはおらず、露になった目でじとりと見つめるだけで『なんでもありません』と答える。
それはいつものことで、城主は『またか』とぼやきながら溜息をつく。
しかしいつまでも巫女の不機嫌を放置するわけにもいかないだろう。
この国は巫女の占いで成り立っているのだ。
へそを曲げて偽の占いを告げられては困る。
もう一度大きく溜息をつき、城主は起き上がりミツと向かい合って座る。


「理由はもう問わぬ…もうこれ以上拗ねるでない…何でも望むままにさせよう…さあ、機嫌を直しておくれ」


そう言ってミツの小さな手に触れる。
ミツは困ったように眉を下げる城主を見つめ、静かに視線を伏せる。


「………では…妾の願いを一つ叶えてくださいまし」


しばらく考える素振りを見せたミツは城主へ視線を向け、ポツリと呟いた。
城主はまるでその言葉を待っていたと言わんばかりに顔をぱっと輝かせ、迫る勢いでミツに顔を近づける。
ミツが思わず身を引いたことにも気づかないほど、城主はミツの言葉が嬉しかった。


「なんだ!?お前のためならば国であろうと金であろうとなんでも与えてやるぞ!!」


女に気に入られようとする男の常套句。
だが、実際その実力を、この国は持っている。
ミツの機嫌が直るなら、国の二つや五つ、それどころか、強国であるタソガレドキにすら、今なら勝てる気がした。


「では―――」


ミツは上目遣いで殊勝そうにおねだりした。



8 / 12

| 目次 | 表紙 |

しおりを挟む