それからセラは働いた。
以前の勤務以上に、天使としての職務に向き合い、多くの善人を導いてきた。
当時、部署の上司だったスピーカーから多くの賞賛を受け、同時に驚きの言葉も投げかけられるほどだった。
セラは同期の天使たちと比べても成長が早く、かつては部署で一番の新人だった。
今では新しく配属された天使の育成や、上司のスピーカーの補佐を任されるほどに地位を上げていた。
「セラ、あなたの忠誠と努力は、父なる神もお喜びになるでしょう」
報告を行った後、スピーカーにそう褒められるのも少なくなかった。
セラはその言葉に素直に喜びを表情に浮かべ、そんなセラにスピーカーは微笑んで目を細める。
今までならここで別れてまた業務へ向かうのだが、この日は違った。
「セラ」
一礼をして部屋を出るセラの背に、スピーカーが声をかけた。
立ち止まって振り返ると、スピーカーは微笑みを保ったまま言った。
「あなたはこれまで本当によく励んでくれました…弱音も吐かず、多くの清らかな魂を導き正してきました…その働きは高く評価されています…そこで今回、あなたに特別な任を与えます」
「特別な、任…ですか?」
特別な任という言葉に、セラの体に緊張が走る
無意識に背筋を伸ばし、スピーカーを見返せば、セラは言葉を失うほどの衝撃を受けた。
「あなたにはオリヴィアのもとへ付き、その業務を補佐してもらいます」
夢かと思うほどだった。
まさにスピーカーから、セラが夢で何度も聞いた言葉がそのまま現実で紡がれたようだった。
目を丸くして固まるセラに、スピーカーはクスクスと穏やかに笑う。
その笑い声に、セラは我に返る。
「あの…本当に…」
本来なら言葉を返さなければならないのに、言葉が見つからない。
天使として生まれて以来、オリヴィアに憧れていた。
オリヴィアの傍で勤めることを目標に、努力を重ねてきた。
だけど、やはり神に一番近い存在は遠く、どれだけ頑張ってもオリヴィアの管轄の部署の一つにしか配属できなかった。
その成長速度は他の天使たちと比べても突出しており、いわゆるセラはエリート中のエリートだったが、セラ自身にとっては、それでは意味はないのだ。
オリヴィアの傍で仕えることが、セラの目標なのだ。
その夢が、今、叶おうとしている。
言葉を失くしても無理はなかった。
それを、上司として傍で見てきたスピーカーも理解しているのか、言葉を詰まらせるセラに微笑みを浮かべ、コクリと頷く。
ただ、これは部署移動ではないと付け加える。
「熾天使オリヴィアは父なる神に仕え、その御信頼を最も厚く受けておられる御方です…身を顧みず務めに励まれることも少なくありません…あなたも、そのことはよく知っていますね?」
スピーカーの言葉に、セラは頷く。
オリヴィアは、神が最初期に創られた最古参の天使となる。
他にも最古参の天使はおり、その天使たちも神の傍に仕えたりそれぞれ能力を生かした部署にいたりとするが、その中でもオリヴィアは最も神に近い天使として天国に名前が広まっていた。
だからこそ、セラは彼女に会った事がないのに憧れを抱いていたと言っていい。
オリヴィアは、神に仕える天使の目指す天使なのだ。
神は世界を6日間で創造し、7日目に休息した。
神でさえ休息を取ったというのに、オリヴィアはまるで休息を必要としないかのように働き続けている。
周囲が休息を勧め、神自らが働き詰めの彼女を案じて言葉をかけても、彼女は一日たりとも休もうとはしなかった。
それほど、彼女は真面目で勤勉なのだ。
「オリヴィアほどのお立場になると、お一人で全ての務めを果たすことは困難です…ですから普段は補佐の天使が付き従っているのですが…肝心のオリヴィアが休まれないため、補佐の天使たちもまた、自ら休息を返上してしまうのです…その状況を憂慮したルシファーとミカエルが、補佐の天使を交代制にするよう取り計らいました」
セラたち、そしてスピーカーの世代では、オリヴィアはすでに今の立場にあった。
しかし、ミカエルたちの世代では、まだオリヴィアが彼らの育成も担っていたらしい。
それもあるのか、高い地位にあるオリヴィアに意見できる者はどうしても限られる
特に、彼女と親しいルシファーやミカエルが言葉を交わす姿はよく目にした
ミカエルとルシファーが、オリヴィアに付き従う天使たちのために助言したのだろう。
「補佐はオリヴィアが管理する各部署が順番に数人ごとに回すことになっています…その補佐の一人を、あなたに任せようと思っているのですが―――」
「やります!!やらせてくださいっ!!」
どうしますか、と尋ねるよりも前に食い気味に答えたセラに、スピーカーは目を細めて笑った。
セラが勤勉なのも、憧れのオリヴィアの傍で勤めるためだというのは誰もが知ることである。
一応意思を確認したものの、スピーカーはセラの答えなど分かっていた。
食い気味に答えてしまった恥ずかしさから、セラは頬を赤らめたが、嬉しさの方が勝っていた。
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