(11 / 16) 子作りは計画的に (11)
今日は仕事する気にもならず、しかしパチンコに行く気にもならず、更には家にいる気にもならず、銀時は定春の散歩に行こうと掃除していた雪に『ちょっくら散歩してくるわ』と伝え、玄関へと向かった。
雪は銀時の言葉に『はーい!』と元気よく返し、玄関先まで銀時と定春を見送る。


「お昼どうします?」

「あー…まあ、適当に取るからいい」

「そんなお金あるんですか?」

「いや?だから雪ちゃんちょーだい」

「ぎーんさーん?」

「……何でもないです…すみません…」


ついでに適当にブラブラしてくる、と言う銀時に雪はまだお昼前なため昼ご飯をどうするかを聞けば適当に取ると答える。
そうなると外食の一択だが、万年貧乏な万事屋に外食する余裕があるとは思えない。
確かに家計を火の車にしている暴食チャイナがいないとその分お金を回せるが、それでもだらしない上司のお蔭でいつも家計は火の車である。
雪がそれを問えば銀時からは両手を差し出され、その手に雪はニコーッと笑う銀時に負けじとニコーッと笑って返した。
その笑みは笑っているのに背景は北極並に寒い。
無駄な抵抗を諦め、銀時は『まあ、なんとかなんだろ』と零した。


「っていうか、この間の報酬、まだあるんじゃなかったか?」


別にどうしても昼飯代が欲しいわけではない。
いや、欲しい事は欲しい。
ただふと、この間報酬がたんまりもらえ神楽のパジャマの他にもお揃いのパジャマを買おうとしたのを思い出しただけだったから聞いただけである。
銀時の問いに雪は…


「貯金しました」


そう返した。
雪の言葉に銀時は『そうかい』とだけ返す。
雪は何事もなかったようにふるまう銀時の背を見送り、玄関が閉められ、階段を下りる音が聞こえなくなるまでその場から動けなかった。


「貯金、なんてするわけがないでしょうが…気づかないふりしてるからマダオって言われるんだよ…このマダオが…」


銀時の足音が聞こえなくなり、雪はポツリと呟く。
雪の言葉は向けられた本人に届く前に空しく消えてしまう。


「さて、と…私も行きますか!」


銀時は貯金していない事に気づいているのだろう。
抜け目のない人だからきっと雪の言い訳の裏にある言葉も気づいているのだろう。
そして、雪がこれから行こうとしている場所にも…
雪は誰一人いなくなった万事屋を見渡し、拳を握って気合を入れる。





雪が向かった先…そこは―――ターミナルだった。
そこにはこれから宇宙へと旅立とうとする者、そして宇宙から帰って来たもの…そんな人たちを見送り迎える人達が行き交っていた。


「神楽ちゃん…今、迎えに行くからね…」


雪にはターミナルなどは無縁の場所でしかなかった。
だけどそんな無縁の場所に足を踏み入れた理由はただ一つ…神楽を連れ戻すため。
銀時の説得も、雪には納得できた。
だからあの場は何も言わず引き下がるしかできなかった。
それが神楽にとっていい事であり、親と子を引き離すことなど出来なかったから。
だけどやっぱり雪はどうしても諦めきれなかったのだ。
一晩2人っきりで過ごして分かったのだ。
銀時が欠けても、雪が欠けても、神楽が欠けても…誰か一人、欠けてしまうとそれはもう万事屋ではないのだ。
三人でいるから万事屋なのだ。
もし神楽を連れ戻した後銀時が何を言おうが雪はもうあの素直になれず突き放すしか優しさを表せないマダオに回答権をやるつもりはない。
あいつらが勝手に母ちゃんやらマミーやら呼んでいるのなら、その役割を担ってやろうではないかと雪は一晩寝ながら考え決めた。
あいつらが勝手に想像する母親のイメージ図など知った事か、と。
あいつらが思っているただ優しくて暖かいだけの母親になどなってやるか、と。
侍と夜兎の母親を舐めるな、と。
勝手ばっかりしやがってあいつら帰ったら三日間ご飯とみそ汁オンリーじゃボケェ、と雪は所謂逆切れをし、開き直った。
母ちゃんに逆らったらどうなるかも教え込むのも母親の仕事である。
もし、ここに銀時がいたのならそんな雪に『母ちゃんの意味違うんですけどー!!俺の奥さんっていう意味なんですけどーー!!』と叫んで突っ込んでいたに違いない。
雪はあの星海坊主と全面戦争になろうが神楽を迎えにいくつもりだった。
そう…迎えに行くつもりだったのだが…


「ちょ、駄目ですってば!!」


当然ながらチケットを買っていない雪は係員に止められてしまった。
開き直り逆切れしていた雪は細かいところまでは考えていなかったようで、更にはもう引き返す気もないため必死に係員と取っ組み合いをしていた。


「待ってください!話を…!話を聞いてください!!あの、あれ…!こ、恋人が!私、恋人を取られて!!恋人がその人と2人でハネムーン決め込もうとしてるんですっ!!私絶対別れないって言ったのに!!まだ別れるって言ってないのに!!」

「嘘をつけェェ!!君彼氏いなさそうだぞ!!彼氏いない歴16年そうだぞ!!」

「ちょ、おま…っどういう意味だそれエエ!!何で年まで割れてんだアアア!!―――あっ!!嘘です!!嘘嘘!!今のちょっと見栄張っただけです!!実はその恋人は私の妹なんです!恋人っていうのは嘘で、その妹がバーコードハゲに捕まっちゃって…!そいつ家庭持ちの癖して妹にお熱で家庭捨てて心中しようとしてるんです!!」

「嘘をつけ!!君は妹じゃなくて姉っぽいぞ!なんか!」

「だから何で割れてんの!!なんで知ってんだよ!!」


係員の力に16歳の少女が勝てるわけがない。
そんなの誰だって分かる事である。
だが、火事場の馬鹿力という言葉があるように、雪は取り押さえる係員達を振り払おうとしていた。


(神楽ちゃん…!私はあなたがどんな人生を送ってきたかなんか知らない!あなたがお父さんをどう思ってるかなんか知らない!!でも…!でもあなたがどれだけ万事屋が好きかってことは知ってるよ…!!あなたがどれだけ銀さんを大切に思ってるか知ってるよ!知ってるんだ!!―――だって私もあなたと同じだから!!)


万事屋の三人が三人、何かしらの闇を持っているのは雪にも分かっていた。
きっと2人の過去は自分以上に辛く悲しい過去なのも、彼らの生活を見ていると分かる気がする。
特に銀時は…
だけどそれを追及する気にはならなかった。
気にならないというのはうそだけど、雪自身聞かれたくない事があるから相手に聞く気にもならなかった。
過去がどんなものであれ、雪が知っているのはただ一つ…―――神楽も雪と同じく万事屋が、銀時が大好きだという事だけ。
ただそれだけだがそれで十分だった。
雪は自分を取り押さえる2人の係員の鼻に指を突っ込み、そして――W鼻フックデストロイヤーをかます。
倒れている係員をよそに雪は『す、すみませーーん!』と謝りながらゲートの奥へと進んだ。
宇宙旅行など神楽が商店街で旅行券を当てた以来だった。
一度しか来たことのない場所。
しかも乗る場所が違い、雪は機械音痴なため多少迷ってしまう。
迷いつつも雪は飛行場へとついた。
後ろから連絡を貰っていた係員がついて来ていたが今の雪は神楽を連れ戻すしか頭にないため気にも留めていない。
気にも留めていないが捕まるわけにはいかないと必死に逃げながら梯子へと上っていく。
宇宙船にチラリと神楽が見え、神楽は何だか元気がないように見えた。
それが余計に雪に火がついてしまう。
神楽は雪に気づいた乗客にやっと雪に気づいたようで、目を丸くして雪を見る。
神楽と目と目が合った雪は聞こえるか分からないが必死に声を張り上げた。


「待って!待ってよ!神楽ちゃん!どこ行くの!!私達3人揃って万事屋でしょ!?あの馬鹿に言われた事なんて聞かなくていいよ!!給料もろくに払わないし告白すっ飛ばして夫婦とか戯言言うし!!ねえ!私1人じゃあんな馬鹿亭主手に負えないよ!!だから帰らないでよ!!まだ一緒に万事屋で働こうよ!!」


いつもなら考えても出来ない行動を雪は実行した。
それはいい意味で銀時や神楽と出会ったからだろう。
出会う前は他の人と同じでやろうと思っても出来ないと諦めていた。
帰ったのなら仕方ないと銀時1人に責任を負わせ諦めていた。
だけど銀時と神楽で万事屋で働き、共に生活をして、彼らに影響され…雪は考えるよりも行動に移したのだ。
神楽が帰ってくるなら他人に馬鹿だ阿保だ無謀すぎる、と罵られてもかまわなかった。
今の雪はブタ箱だって入る気でいる。
ただただ神楽を連れ戻す…そればかり考えている。


「雪…っ」


乗客たちがどよめき、後ろにいる父が驚きの表情を浮かべているなか…神楽は雪の姿に、そして聞こえる言葉に…涙を浮かべた。
そっと窓に手を当てれば冷たさばかりが伝わるが…雪の暖かさは不思議と感じられた。
だがその時―――


「―――!!」


外から触手のようなものが窓に張り付き、それが船内へと侵入する。
感動もそこそこに神楽はハッとし咄嗟に窓から飛び退く。
侵入した触手は神楽達の席だけではなく、全ての窓と言う窓から侵入し、逃げ惑う乗客たちを追う。


「パピー!!」

「こいつァ…!!」


逃げ惑う乗客を追う触手を祓いながら星海坊主は驚いた声を零す。
見覚えがあったのだ、この触手に。
あの銀行強盗事件のエイリアンだとすぐに分かった。


「な…なんじゃありゃアアア!!!」


外から見ると紫色の何かが船を覆っており、それは一瞬の出来事だった。
一瞬ちらっと何かが雪の目の端に写ったと思えばソレはあっという間に船を覆い窓だけではなく侵入できるところすべてに侵入していった。
雪は思わずそう叫ぶも何だか船がこちらに来ているような気がしてならい。


「あれ!?こっち来てない!?うそ!!こっち来てない!?やばい!!こっち来てない!!?」


気がしてならない、というのは訂正しよう。
はっきりと得体の知れない何かがついている船はこちらに向かってきていた。
きっと操縦がきかないため自然とこちらに向かってきているのだろうと冷静なら判断できるが、突然のエイリアン・突然のパプニング・突然の出来事、で雪は混乱していた。
とりあえず突っ込み?になるか分からない突っ込みを入れておいたが…逃げる暇なく雪がいた場所にエイリアン付きの宇宙船は雪に向かって突進していった。
当たりに雪と係員の悲鳴が響いた。


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