雪は今、必死に戦っていた。
「お雪さん!大丈夫ですか!!お雪さん!!俺が分かりますか!?お雪さんンンンン!!!」
そう、雪は戦っていたのだ……エイリアンではなく、―――ストーカーと。
「ッ―――お雪さあああああん!!!」
「うっせエエエエエエ!!!むしろうぜエエエエ!!!」
気を失っていたらしい雪は耳元で叫ばれ眠りたくても眠れなかった。
突っ込みと共に目を覚ました雪は目の前の煩い原因のストーカーである鷹臣の顎に拳を一発ぶち込む。
イケメン・美青年・絶世の美男子などが頭につく(ついでに残念もつく)はずの美丈夫なのに『ぐほあっ!』と衝撃に声を零してしまう。
しかし抱き起していた雪を抱く腕は決して弱めてはいない。
「た、鷹臣さん!?」
「よ…よかった…お雪さん、無事だったんですね……俺、もしこのままお雪さんが目を覚まさなかったら俺も永眠しようかと思いました…」
「は、はあ…でも、なんで鷹臣さんがここに?ターミナルにいたんですか?」
「いいえ、休暇を総くんと過ごしてたんですがエイリアン騒動が面白そうだったので着いて来たんです…丁度ターミナルでエイリアンが暴れていると聞き、駆けつけたところ……―――お雪さんの香りがしたので助けに参りました!」
「今すぐに永眠して貰えませんかすごく気持ち悪いです」
無意識だったようで、鷹臣の顔にハッと我に返る。
鷹臣は雪に殴られた顎を擦りながらここまで来た経緯を話すも雪はヒクリと顔を引きずらせる。
ここから真選組達がいるであろう場所は数メートルではすまされない距離である。
確認はしていないが、ここが地上とは程遠いというのは分かる。
匂いというモノはそんなはるか遠くから嗅げるものではない。
ましてやこんな生臭い場所では余計に。
なのにそんなところから自分の匂いを察知できる鷹臣に雪は本気で引いていた。
自分が引かれているとも知らず鷹臣は『怪我がなくて良かった』と雪の無事を本気で安堵していた。
雪に怪我がない事を知ると鷹臣は肩に置いている手に力を入れ、膝の上に腕を通し、いわゆるお姫様抱っこで雪を抱き上げる。
突然抱き上げられた雪は浮遊感に思わず鷹臣の首に抱き付く。
「た、鷹臣さん!?あの…っお、降ろしてください!」
「大丈夫大丈夫。俺がお雪さんを落とすわけがないでしょ?」
「いや、そういう心配してるんじゃなくて1人で歩けますから…!」
「そう?それは構わないけど…お雪さんの足じゃ下まで一日かかっちゃうけど、いいのかい?」
「下…?」
抱き上げられた雪は羞恥から顔を真っ赤に染める。
それを照れに変換したストーカーは嬉しそうに微笑んだが、雪は鷹臣の『下』という言葉に首を傾げる。
首を傾げる雪を見つめ、鷹臣は場違いにも『可愛いなぁ』と思う。
「下ってなんで…」
「ここから逃げるためだけど…?」
今はまだここにエイリアンは攻撃してこないため呑気に会話をしてられる。
それを不思議に思いながらも雪は鷹臣が言った『逃げる』という言葉に目を丸くさせた。
「に、逃げるって…どうしてですか!!」
「お雪さんだって、これ以上危険な目に合いたくないでしょ?」
「あいたいですよ!!だってここまで来るのだって必死だったのに…!!また振り出しに戻るのはいやです!!」
「ふりだし?」
今度は雪の言葉で鷹臣が首を傾げる番だった。
鷹臣は雪がここにいる理由を知らない。
だから巻き込まれたとばかり思っていた。
しかし雪はここにとどまる気でおり、それが不思議でならなかった。
首を傾げる鷹臣に雪は『はい!』と頷きここに来た理由を説明する。
「神楽ちゃんを呼び戻すためにここに来たんですけどエイリアンとう遭遇してしまって…襲われそうになった私を坊主さんが助けてくれたんです…坊主さんには帰れって言われたんですけど……でも…私帰りたくないんです!だって神楽ちゃんがそこにいるのに!!私!神楽ちゃんと帰るって決めてるから…!だから…っ」
「お雪さん…」
説明を聞き、鷹臣はどうしてここに万事屋の銀時が来ていたのか納得した。
銀時は神楽を助けに来たのだろう。
多分雪がここにいるのは知らないのかもしれない。
宇宙船にぶつかりそうになったのを星海坊主に助けられた雪だったが、星海坊主には帰れと言われてしまった。
返事を待たずして背を向けエイリアン退治へと向かった星海坊主の夜兎の血を雪は少しだけだが垣間見た。
目が鋭いという言葉では言い表せないほど戦いを楽しんでいるようにも見えた。
それに恐怖していないと言ったら嘘になるが、それでも神楽を諦めきれるほど雪は情がないわけではない。
特に懐いてくれた神楽を雪は妹のように可愛がっていたのだ。
余計放っておけなかった。
しかし銀時のように強くはない雪は途中エイリアンとの接触で気を失い、そして鷹臣に助けられたのだ。
雪は意気込みながらも星海坊主に助けられ、鷹臣にも助けられ、とても自分が情けなくて悔しくて悲しくて…顔が上げれなかった。
涙は零れていないが声が震えて泣きたいのを我慢する雪に鷹臣はただ名前を呟くしかできなかった。
「…鷹臣さん……助けてくれてありがとうございました……助けてもらっておいてこういうのもアレですけど…鷹臣さんもここから逃げてください…」
助けてもらっておいて『逃げろ』、というのは身勝手かもしれないが、雪は頑なに逃げることを拒んだ。
男性である鷹臣の力に逆らうのは無理なため胸元を押し抵抗し降ろしてもらうよう伝えるが、鷹臣はビクともしない。
「お雪さん…お雪さんがそのつもりなら…俺もお供します」
「え…」
「…本当はこのまま地上へ逃がしてあげたいんですけど…それじゃお雪さんに嫌われますしね…お雪さんを置いて俺だけ逃げるなんて出来ないし、そんなことしたら兄上にどやされます…『お雪ちゃん一人置いて逃げるなんて男の風上にもおけない』って。」
「…でも……相手はエイリアンですよ?人間じゃないんですよ?」
「人も天人も、エイリアンも…俺からしたらみんな同じです…大丈夫ですよ」
鷹臣の言葉に雪は何も反論ができなかった。
しようと思えば出来る。
鷹臣は何も関係のない人で、この決意は万事屋の問題だった。
だから鷹臣を巻き込みたくはなかった。
しかし雪は鷹臣の誠意を素直に受け止めることにした。
一人で心もとないというのもあったが、何より真っ直ぐ優しい目を向けてくれる鷹臣の誠意を跳ね返すなど出来なかったのだ。
心が弱いと言われても仕方ないが、正直今はそんな事言っている暇はない。
『で、では…お願いします…』と戸惑いながらも頷いた雪に鷹臣は嬉しそうに微笑み雪を降ろしてやる。
「多分天人のお嬢さんはあっちにいるんじゃないかな?」
「あっち……ってギャアア!!!エイリアンが集まってるーーーっ!!?っていうか銀さん!?やっぱり銀さんいたんだ!!坊主さんと一緒にエイリアンの中心で何か叫んでるけど!!」
鷹臣は万事屋の三人の中で雪以外の名をあまり呼ぶことはない。
ストーカーなため雪しか見ていないのだから仕方ないのかもしれない。
そんな鷹臣が指差す方へ目をやれば、そこには地上へと伸びていたエイリアンの触手が集まっているのが見え、そこに白い影が見えた。
目を凝らしてみればそれは銀時で、散歩に出かけていたはずの銀時の姿に雪は心なしか嬉しそうにする。
だがその傍にいる星海坊主と共に何かを叫んでいるのが見え、思わず某映画なタイトルで突っ込んでしまった。
「か、神楽ちゃんは…神楽ちゃんはどこに…っ!?」
「さあ…エイリアンに食べられてたりして」
「冗談でもそういうこと言うのやめてもらえません!?」
「ごめんごめん、本音が出ちゃった☆」
「いやテヘペロ☆じゃないから!!次本音言ったらぶっ倒しますよ!!」
銀時と星海坊主の姿はあっても、肝心の神楽の姿が見えない事に雪は焦りを積もらせる。
鷹臣が思わずぽろっと本音を漏らせば、嫌な予感も過らせていた雪はツッコみというよりも叱りつけた。
雪のお叱りに鷹臣はもう一度『ごめんごめん』と心が入っていない謝罪をする。
本当は『心籠ってねえじゃねえか!』と突っ込みたいところだが、今は本当にそんな余裕すらない状況のためあえて無視を選択する。
とりあえず足手まといだろうが何だろうが銀時と合流しようと一歩足を踏み出したその時…鷹臣が『あ』と声を零す。
「どうしたんですか!?」
「あれ」
「あれ…?」
鷹臣の声に雪は神楽が見つかったのかと思い鷹臣に振り返る。
鷹臣は空を見上げながら空へ指差し、その指の先を見れば雪は声のない悲鳴を上げた。
「な…な…なんだありゃああああ!!!」
某刑事ドラマのように叫ぶ雪の視線の先にあたのは…数隻の軍艦だった。
軍艦だから当然大砲が積んであり、当然大砲はこちらに向いていた。
ギャーー!と悲鳴を上げ頭を抱える雪をよそに鷹臣はいたって平常心を保っていた。
「ありゃおやっさんだ…やっべ、こっち撃つ気だ、あのおっさん」
「なに呑気な事言ってるんですかアアア!!あんたの上司だろうが!!何とかしてくださいよーーっ!!」
「ハハ、無理無理。だって連絡する物とか何も持ってきてないし。こっちの声、聞こえないから。」
「あんた少しは焦れよ!!」
警察の中でも鷹臣の部隊は特殊な部隊である。
曖昧な事しか教えてもらっていないためどんな役目なのかは分からないが、とりあえず暗殺はしているようである。
その部隊を率いているのが、おやっさんと呼ばれている松平片栗虎である。
直属の上司だからなんとかしろと言っても当然出来るわけがない。
それは頭では分かってるのだが、パニックを起こしている頭では理解しきれなかった。
それでも呑気に笑う鷹臣に突っ込むのは忘れないのは、突っ込み族の性なのだろう。
「どうしよう!!まだ神楽ちゃんの無事も確認してないのに!!」
「大丈夫…きっと、大丈夫だよ」
「また呑気な事を…っ」
他人事のように(実際他人事であるが)呑気すぎる鷹臣に雪は頭に血が上った。
今この時でも神楽達の命に危険が迫っていると言うのにいつもと同じ反応しか出ない鷹臣に雪は苛立っていた。
キッと涙目で睨む雪に、やはり反応も変わらない鷹臣は雪の肩を少しだけ強く叩いた後、手を置いた。
「お雪さん…天人のお嬢さんはエイリアンに飲み込まれたようだけど、さっき白髪が助けに向かった…あのエイリアンハンターの禿坊主がいるし、今は大丈夫だ…だから落ち着いて。お雪さんがまずしなくてはならないのは天人のお嬢さんを助けることでも、白髪のもとに行く事でもない…君は冷静でならなきゃいけない。」
「鷹臣さん…」
肩を置かれた手はずっしりとし、その手から伝わる重みや温もり、そして鷹臣の言葉で雪は我に返ったように頭が不思議と冴える。
頭に上っていた血が引いていくのを雪は自分でも分かった。
へらへらと笑っている優男の鷹臣は流石数々の修羅場を潜り受けただけあってか、いたって冷静で、雪は鷹臣のおかげで我に返り冷静さを取り戻すことができた。
表情が引き締まったのを見て鷹臣は雪が冷静になった事を察し、笑みを深めた。
「よし…冷静になったところで……アレを利用しようか」
「アレ…?」
冷静になれば現状を見ることができ、行動の結果も冷静かそうでないかで左右される。
鷹臣はそう呟きながらチラリと雪の後ろへ目をやる。
その視線に釣られるように振り返ればそこには…
「バカ皇子!?」
ハタ、皇子がいた。
傍にはお付きの爺も。
雪は素でハタ皇子の名前を間違え、それを鷹臣はあえてスルーし触れないで置いた。
正直雪以外どうでもいいのだろう。
ハタ皇子は気を失っているようで爺と共に倒れていた。
鷹臣はこの皇子を盾にしようかと笑い、世間話をするかのような鷹臣の言葉に雪は数秒沈黙を守ったが、次には二つ返事で頷いた。
「お雪さん!大丈夫ですか!!お雪さん!!俺が分かりますか!?お雪さんンンンン!!!」
そう、雪は戦っていたのだ……エイリアンではなく、―――ストーカーと。
「ッ―――お雪さあああああん!!!」
「うっせエエエエエエ!!!むしろうぜエエエエ!!!」
気を失っていたらしい雪は耳元で叫ばれ眠りたくても眠れなかった。
突っ込みと共に目を覚ました雪は目の前の煩い原因のストーカーである鷹臣の顎に拳を一発ぶち込む。
イケメン・美青年・絶世の美男子などが頭につく(ついでに残念もつく)はずの美丈夫なのに『ぐほあっ!』と衝撃に声を零してしまう。
しかし抱き起していた雪を抱く腕は決して弱めてはいない。
「た、鷹臣さん!?」
「よ…よかった…お雪さん、無事だったんですね……俺、もしこのままお雪さんが目を覚まさなかったら俺も永眠しようかと思いました…」
「は、はあ…でも、なんで鷹臣さんがここに?ターミナルにいたんですか?」
「いいえ、休暇を総くんと過ごしてたんですがエイリアン騒動が面白そうだったので着いて来たんです…丁度ターミナルでエイリアンが暴れていると聞き、駆けつけたところ……―――お雪さんの香りがしたので助けに参りました!」
「今すぐに永眠して貰えませんかすごく気持ち悪いです」
無意識だったようで、鷹臣の顔にハッと我に返る。
鷹臣は雪に殴られた顎を擦りながらここまで来た経緯を話すも雪はヒクリと顔を引きずらせる。
ここから真選組達がいるであろう場所は数メートルではすまされない距離である。
確認はしていないが、ここが地上とは程遠いというのは分かる。
匂いというモノはそんなはるか遠くから嗅げるものではない。
ましてやこんな生臭い場所では余計に。
なのにそんなところから自分の匂いを察知できる鷹臣に雪は本気で引いていた。
自分が引かれているとも知らず鷹臣は『怪我がなくて良かった』と雪の無事を本気で安堵していた。
雪に怪我がない事を知ると鷹臣は肩に置いている手に力を入れ、膝の上に腕を通し、いわゆるお姫様抱っこで雪を抱き上げる。
突然抱き上げられた雪は浮遊感に思わず鷹臣の首に抱き付く。
「た、鷹臣さん!?あの…っお、降ろしてください!」
「大丈夫大丈夫。俺がお雪さんを落とすわけがないでしょ?」
「いや、そういう心配してるんじゃなくて1人で歩けますから…!」
「そう?それは構わないけど…お雪さんの足じゃ下まで一日かかっちゃうけど、いいのかい?」
「下…?」
抱き上げられた雪は羞恥から顔を真っ赤に染める。
それを照れに変換したストーカーは嬉しそうに微笑んだが、雪は鷹臣の『下』という言葉に首を傾げる。
首を傾げる雪を見つめ、鷹臣は場違いにも『可愛いなぁ』と思う。
「下ってなんで…」
「ここから逃げるためだけど…?」
今はまだここにエイリアンは攻撃してこないため呑気に会話をしてられる。
それを不思議に思いながらも雪は鷹臣が言った『逃げる』という言葉に目を丸くさせた。
「に、逃げるって…どうしてですか!!」
「お雪さんだって、これ以上危険な目に合いたくないでしょ?」
「あいたいですよ!!だってここまで来るのだって必死だったのに…!!また振り出しに戻るのはいやです!!」
「ふりだし?」
今度は雪の言葉で鷹臣が首を傾げる番だった。
鷹臣は雪がここにいる理由を知らない。
だから巻き込まれたとばかり思っていた。
しかし雪はここにとどまる気でおり、それが不思議でならなかった。
首を傾げる鷹臣に雪は『はい!』と頷きここに来た理由を説明する。
「神楽ちゃんを呼び戻すためにここに来たんですけどエイリアンとう遭遇してしまって…襲われそうになった私を坊主さんが助けてくれたんです…坊主さんには帰れって言われたんですけど……でも…私帰りたくないんです!だって神楽ちゃんがそこにいるのに!!私!神楽ちゃんと帰るって決めてるから…!だから…っ」
「お雪さん…」
説明を聞き、鷹臣はどうしてここに万事屋の銀時が来ていたのか納得した。
銀時は神楽を助けに来たのだろう。
多分雪がここにいるのは知らないのかもしれない。
宇宙船にぶつかりそうになったのを星海坊主に助けられた雪だったが、星海坊主には帰れと言われてしまった。
返事を待たずして背を向けエイリアン退治へと向かった星海坊主の夜兎の血を雪は少しだけだが垣間見た。
目が鋭いという言葉では言い表せないほど戦いを楽しんでいるようにも見えた。
それに恐怖していないと言ったら嘘になるが、それでも神楽を諦めきれるほど雪は情がないわけではない。
特に懐いてくれた神楽を雪は妹のように可愛がっていたのだ。
余計放っておけなかった。
しかし銀時のように強くはない雪は途中エイリアンとの接触で気を失い、そして鷹臣に助けられたのだ。
雪は意気込みながらも星海坊主に助けられ、鷹臣にも助けられ、とても自分が情けなくて悔しくて悲しくて…顔が上げれなかった。
涙は零れていないが声が震えて泣きたいのを我慢する雪に鷹臣はただ名前を呟くしかできなかった。
「…鷹臣さん……助けてくれてありがとうございました……助けてもらっておいてこういうのもアレですけど…鷹臣さんもここから逃げてください…」
助けてもらっておいて『逃げろ』、というのは身勝手かもしれないが、雪は頑なに逃げることを拒んだ。
男性である鷹臣の力に逆らうのは無理なため胸元を押し抵抗し降ろしてもらうよう伝えるが、鷹臣はビクともしない。
「お雪さん…お雪さんがそのつもりなら…俺もお供します」
「え…」
「…本当はこのまま地上へ逃がしてあげたいんですけど…それじゃお雪さんに嫌われますしね…お雪さんを置いて俺だけ逃げるなんて出来ないし、そんなことしたら兄上にどやされます…『お雪ちゃん一人置いて逃げるなんて男の風上にもおけない』って。」
「…でも……相手はエイリアンですよ?人間じゃないんですよ?」
「人も天人も、エイリアンも…俺からしたらみんな同じです…大丈夫ですよ」
鷹臣の言葉に雪は何も反論ができなかった。
しようと思えば出来る。
鷹臣は何も関係のない人で、この決意は万事屋の問題だった。
だから鷹臣を巻き込みたくはなかった。
しかし雪は鷹臣の誠意を素直に受け止めることにした。
一人で心もとないというのもあったが、何より真っ直ぐ優しい目を向けてくれる鷹臣の誠意を跳ね返すなど出来なかったのだ。
心が弱いと言われても仕方ないが、正直今はそんな事言っている暇はない。
『で、では…お願いします…』と戸惑いながらも頷いた雪に鷹臣は嬉しそうに微笑み雪を降ろしてやる。
「多分天人のお嬢さんはあっちにいるんじゃないかな?」
「あっち……ってギャアア!!!エイリアンが集まってるーーーっ!!?っていうか銀さん!?やっぱり銀さんいたんだ!!坊主さんと一緒にエイリアンの中心で何か叫んでるけど!!」
鷹臣は万事屋の三人の中で雪以外の名をあまり呼ぶことはない。
ストーカーなため雪しか見ていないのだから仕方ないのかもしれない。
そんな鷹臣が指差す方へ目をやれば、そこには地上へと伸びていたエイリアンの触手が集まっているのが見え、そこに白い影が見えた。
目を凝らしてみればそれは銀時で、散歩に出かけていたはずの銀時の姿に雪は心なしか嬉しそうにする。
だがその傍にいる星海坊主と共に何かを叫んでいるのが見え、思わず某映画なタイトルで突っ込んでしまった。
「か、神楽ちゃんは…神楽ちゃんはどこに…っ!?」
「さあ…エイリアンに食べられてたりして」
「冗談でもそういうこと言うのやめてもらえません!?」
「ごめんごめん、本音が出ちゃった☆」
「いやテヘペロ☆じゃないから!!次本音言ったらぶっ倒しますよ!!」
銀時と星海坊主の姿はあっても、肝心の神楽の姿が見えない事に雪は焦りを積もらせる。
鷹臣が思わずぽろっと本音を漏らせば、嫌な予感も過らせていた雪はツッコみというよりも叱りつけた。
雪のお叱りに鷹臣はもう一度『ごめんごめん』と心が入っていない謝罪をする。
本当は『心籠ってねえじゃねえか!』と突っ込みたいところだが、今は本当にそんな余裕すらない状況のためあえて無視を選択する。
とりあえず足手まといだろうが何だろうが銀時と合流しようと一歩足を踏み出したその時…鷹臣が『あ』と声を零す。
「どうしたんですか!?」
「あれ」
「あれ…?」
鷹臣の声に雪は神楽が見つかったのかと思い鷹臣に振り返る。
鷹臣は空を見上げながら空へ指差し、その指の先を見れば雪は声のない悲鳴を上げた。
「な…な…なんだありゃああああ!!!」
某刑事ドラマのように叫ぶ雪の視線の先にあたのは…数隻の軍艦だった。
軍艦だから当然大砲が積んであり、当然大砲はこちらに向いていた。
ギャーー!と悲鳴を上げ頭を抱える雪をよそに鷹臣はいたって平常心を保っていた。
「ありゃおやっさんだ…やっべ、こっち撃つ気だ、あのおっさん」
「なに呑気な事言ってるんですかアアア!!あんたの上司だろうが!!何とかしてくださいよーーっ!!」
「ハハ、無理無理。だって連絡する物とか何も持ってきてないし。こっちの声、聞こえないから。」
「あんた少しは焦れよ!!」
警察の中でも鷹臣の部隊は特殊な部隊である。
曖昧な事しか教えてもらっていないためどんな役目なのかは分からないが、とりあえず暗殺はしているようである。
その部隊を率いているのが、おやっさんと呼ばれている松平片栗虎である。
直属の上司だからなんとかしろと言っても当然出来るわけがない。
それは頭では分かってるのだが、パニックを起こしている頭では理解しきれなかった。
それでも呑気に笑う鷹臣に突っ込むのは忘れないのは、突っ込み族の性なのだろう。
「どうしよう!!まだ神楽ちゃんの無事も確認してないのに!!」
「大丈夫…きっと、大丈夫だよ」
「また呑気な事を…っ」
他人事のように(実際他人事であるが)呑気すぎる鷹臣に雪は頭に血が上った。
今この時でも神楽達の命に危険が迫っていると言うのにいつもと同じ反応しか出ない鷹臣に雪は苛立っていた。
キッと涙目で睨む雪に、やはり反応も変わらない鷹臣は雪の肩を少しだけ強く叩いた後、手を置いた。
「お雪さん…天人のお嬢さんはエイリアンに飲み込まれたようだけど、さっき白髪が助けに向かった…あのエイリアンハンターの禿坊主がいるし、今は大丈夫だ…だから落ち着いて。お雪さんがまずしなくてはならないのは天人のお嬢さんを助けることでも、白髪のもとに行く事でもない…君は冷静でならなきゃいけない。」
「鷹臣さん…」
肩を置かれた手はずっしりとし、その手から伝わる重みや温もり、そして鷹臣の言葉で雪は我に返ったように頭が不思議と冴える。
頭に上っていた血が引いていくのを雪は自分でも分かった。
へらへらと笑っている優男の鷹臣は流石数々の修羅場を潜り受けただけあってか、いたって冷静で、雪は鷹臣のおかげで我に返り冷静さを取り戻すことができた。
表情が引き締まったのを見て鷹臣は雪が冷静になった事を察し、笑みを深めた。
「よし…冷静になったところで……アレを利用しようか」
「アレ…?」
冷静になれば現状を見ることができ、行動の結果も冷静かそうでないかで左右される。
鷹臣はそう呟きながらチラリと雪の後ろへ目をやる。
その視線に釣られるように振り返ればそこには…
「バカ皇子!?」
ハタ、皇子がいた。
傍にはお付きの爺も。
雪は素でハタ皇子の名前を間違え、それを鷹臣はあえてスルーし触れないで置いた。
正直雪以外どうでもいいのだろう。
ハタ皇子は気を失っているようで爺と共に倒れていた。
鷹臣はこの皇子を盾にしようかと笑い、世間話をするかのような鷹臣の言葉に雪は数秒沈黙を守ったが、次には二つ返事で頷いた。
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