銀時は川にどんぶらこと流されようやく再起不能から回復した。
流石に赤ん坊を濡らせないと抱き上げながら何とか川から上がり、抱っこすれば赤ん坊が濡れてしまうため脇に手を差し入れて運ぶ。
「あーあ…お前どうすんだよ…あの魔王の事だからぜってー雪を辞めさせるぞ…会いに行こうにも阻止すんだろうし…神楽に殺される…っていうか、あいつならあっちに寝返りそうだな…いや、絶対寝返るな、あいつ…魔王にも懐いてるし……あーあ…もうどうすんだよお前さァ」
「ばぶ」
「そうだよなぁ…お前、関係ないもんなァ…お前は寝て起きて飯食ってうんちしてしっこしてまた寝るのが仕事だもんなァ…あんな魔王がこの世に存在しているっつーのも知らねェだろ」
「あう?」
「そうだよそうだよ、知らないよな…いや、むしろ知るべきじゃねェんだよ…魔王なんてな、知らなくても生きていけんだよ……そうだよ…知らない方が幸せだって言葉があるくらいだしなァ…」
お妙に雪を連れていかれ、銀時はこれからの未来を思い描き顔を青くさせ肩をこれでもかと落とす。
思い描く未来…それはお妙という名の鉄壁の守護に加え宇宙最強の夜兎の壁だった。
更に加えて恐らく大きなお世話でゴリラが助太刀し、恋敵を蹴落とすのに容赦のない某ニコチン野郎とドS野郎も加わるだろう事は目に見えていた。
そうなれば雪に会いたくても会える想像がしずらく、銀時はこの世の終わりだと言わんばかりにため息をつく。
赤子相手に愚痴りながら、そろそろ川で濡れた服が渇いた頃だろうと抱き直そうとした時…
「あ!銀さん!こんなところにいた!!」
「!、雪!?なんでお前ここに…お妙はどうした」
「姉上には誤魔化して逃げて来ました…銀さんと赤ちゃんが心配でしたし…」
「雪…」
雪の声が聞こえた。
それは最初幻聴だと思っていた銀時だったが、振り返れば幻影でもない本物の雪がこちらに駆け寄ってきており、銀時は『誤魔化した』という言葉は気に入らないが戻ってきてくれた事に感謝すべきだと不問に処する。
偉そうだが、心の中ではお祭り騒ぎであった。
雪は赤ん坊の脇に手を差し入れ運ぶ銀時から赤ん坊を受け取りあやすようにポンポンと赤ん坊を軽く叩いてあやす。
相変わらず反応が薄いが、若干どこか嬉しそうに見えなくもない。
とりあえず帰るため裏道を通り、銀時と雪はこれからの事を話し合う。
「この子、どうします?」
「どうするもなにも…まずは母親を探すしかねェだろ…育児放棄だか疲れだか知らねェがいくらなんでも無責任すぎるからな…母親をまず見つけて話し合いをしなきゃなァ」
雪の問いに銀時は頭をかきながら面倒くさそうに答えた。
母親を探すと言っても江戸に何人の女性がいる事やら…それらから探すとなれば骨が折れるどころではないだろう事は予想できた。
どんな理由であれ、赤子を捨てた親なのだからもしかしたら名乗り出ることはないかもしれない。
それを雪は心配していた。
『こんなに可愛いのに…捨てるなんて…』と零し赤子を見下ろす雪に銀時は目を落とす。
まだ16歳の雪だが、両親を早くに亡くし親の必要性を知っている。
逆に言えば銀時は最初から親という存在が居なかったため雪ほど親の必要性を知らない。
だが、物心ついた頃から親の存在が知らなかったからこそ、親という存在がどれだけ必要なのかは分かっているつもりである。
だから、つい零してしまったのかもしれない。
「…なあ、このガキの親…見つかんなかったら俺らで育てるか…」
銀時はポツリと呟く。
そして、言った後に後悔した。
銀時は親も兄妹もいない。
だが、子供を…それも赤の他人の子供を育てるという事がどれだけ大変かは分かる。
だから気まぐれで、そしてその場の雰囲気で…何よりも雪が赤ん坊を憂いの目で見ているのが…雪が悲しい表情を浮かべているのが見ていられなくて、銀時は言ってしまったことに後悔した。
雪はそんな銀時をよそに赤ん坊から銀時へ顔を上げる。
その表情は悲しげではなくキョトンと呆けており、銀時はその表情を見て言ってしまた言葉は撤回できないと諦め、頬をかいて続ける。
「あー…赤の他人のガキの子供なんて可愛くもねェが…お前や神楽はこいつに懐いているようだし…ま、母親が見つからなかったり拒否したら育てんのも悪くはねェかなァって思っただけだ」
銀時の言葉は、まるで犬猫を拾って飼うと言わんばかりのニュアンスだった。
だが、それが今の銀時の精一杯だったためこれ以上の言い回しは出来ない。
一番銀時が恐れているのは、隠し子を疑われるより雪に軽蔑されてしまうかもしれないのが怖かった。
雪はじっと銀時を見つめ…ふ、と微笑んだ。
その笑みに銀時は頬をかく手を止め目を見張る。
そんな銀時をよそに雪は銀時から赤ん坊へと視線を戻す。
「それもいいかもしれませんね…施設は可哀想ですし…赤の他人でも、貧乏でも、愛情を与えてあげれない家庭には行ってほしくないです」
そう言って雪は赤ん坊のぷっくらとした張りのある頬に、頬ずりをした。
赤ん坊ということもあってその肌はまだ10代の雪よりもきめ細かく柔らかくてさらさらしぷにぷにしていて気持ちがいい。
銀時は雪の言葉にほっと安堵をし、そして魅了されていた。
赤ん坊にすり寄るその姿は紛れもなく『母親』であった。
子を思う母。
その姿は銀時が過去、欲した姿でもあり、今現在銀時から継ぎ神楽が欲している姿でもある。
銀時は頬ずりした後赤ん坊を優しく見つめる雪を見下ろし目を細め笑った。
「じゃ、ガキもいる事だし仕事選びも今まで以上に慎重にしねェとなァ…ヤバイ仕事で全員大怪我ってなったらこいつ見てくれる奴ババアとバケモンとロボっ娘と魔王しかいねェしな」
「それって…お登勢さんとキャサリンとたまさんと………魔王は姉上ですか?」
「おう!」
「………そんな良い返事しないでくださいよ…」
銀時から出てきた登場人物を当てはめる。
ババアは普段銀時と神楽が使っているのですぐに分かり、その人物とはお登勢だろう。
お登勢もお登勢でババア呼ばわりは気にしていないのか黙認しているため雪でもすぐに分かった。
バケモノは一瞬考えを巡らせたが雪達の周りで赤ん坊を見てくれる人物といえばババアもとい、お登勢の店の従業員…キャサリンであろう事も話あった。
まあ、人の容姿にケチを付けれるほど美人ではない雪だったが、そこは納得した。
そしてロボっ娘。
これはもうすぐにたまだとわかった。
そして、こでもすぐに理解してしまったのだが……魔王こと、お妙である。
お妙の最凶ぶり、そして銀時との犬猿の仲…これらを思い出し雪はすぐに分かってしまった。
人の姉を『魔王』と評し、尚且つ眩しいまでの笑みを浮かべる銀時に雪はもはや文句も何も出ず、仕方なく話を戻す。
「まあ、色々手続きとか大変ですけど…この子が捨てられたって知っても悲しまないように私達が愛してあげればいいですしね」
「そーそー。夫の俺と、幼な妻の雪と、長女の神楽と長男のそいつ…そんで、ペットの定春……4人と1匹の家族で幸せに暮らしていこうや」
「そうですね、家長の銀さん、長女の私、次女の神楽ちゃん、長男のこの子に、ペットの定春…この4人と1匹の家族で頑張りましょうね」
「あ、あれあれ?雪ちゃん?ちょっと雪ちゃん?何か間違えてるよ?ここ、間違い探しのコーナーじゃないんだよ?ねえ、雪ちゃん、何か間違ってない?主に僕と君の関係性が…」
「さあ!そうなればさっさとこの子のお母さん探して!この子をどうするか話し合いましょう!早く神楽ちゃんにも教えてあげないと!」
「雪ちゃーーん!雪ちゃーーん!!お願いィィ!!銀さんの言葉聞いてェェ!!会話のキャッチボールしてエエエ!!」
「銀さん!これ以上遅れたら神楽ちゃんがお登勢さんのお店の食べ物全部食べちゃいますよ!早く行きましょう!」
「いやいやいや!雪ちゃん!ちょっと君わざとでしょ!?今の今までのそれ、ボケなんだよね!?ボケの一種なんだよね!?そうだと俺は信じているよ!そう!そうなんだと!俺は!信じているさ!!君を!」
銀時と雪は同じことを思っていた。
…否、同じことを思っているのだが、若干自分達の立ち位置が違っていた。
銀時は雪とは夫婦として。
雪は銀時とは親子、または兄妹として。
銀時の幼な妻という言葉を聞いた雪はにこーっと笑顔を浮かべる。
会話が繋がっていない自分と雪に焦る銀時だが、雪は止まらない。
いや、止まってなるものかと無理矢理話を終わらせたのだ。
雪はまた銀時の告白をうやむやにしようとしていたその時…
「そこの者達、ちと待たれい」
誰かが銀時と雪を引き留めた。
しかし先ほどから通っている場所は裏通り。
人影はないに等しい。
後ろを振り返るとそこには浪人のような者達が笠を深くかぶった男達が十数人いた。
あまり堅気ではないであろうその風貌に雪はつい赤ん坊を庇うように男達に若干背を向ける。
そんな雪を庇うように銀時が前に出た。
銀時も腰に差している刀を見て警戒しているのか表情はいつも通りに見えるが少し険しくさせ男達にいつもより低い声を零す。
「なんだ、あんたら…俺らになんのようだ。」
「貴様らだな、賀兵衛様の孫を誘拐したのは」
気づけば後ろにも浪人達が道を塞いでおり、銀時はチラリと後ろを横目で見ながら背中に雪を完全に庇う形をとる。
雪も赤ん坊がいるためか、不安から銀時にくっつくも浪人達の言葉にぎょっとさせた。
それは雪だけではなく銀時も同様で、内心驚きながらも男の言葉に身に覚えがなく怪訝とさせる。
「はあ?誘拐?何が?誰が?どこで?」
「とぼけても無駄だ…貴様あの女の愛人か何かだろ?2人で共謀して賀兵衛様の孫を攫い、橋田屋の財産を狙うつもりだな?」
「おい何言ってんのこの人達?」
「あぽん」
「お前、何言ってんの?お前」
「えっ…銀さん…愛人なんて作れる甲斐性…本当にあったんですか」
「ちょっと待って、お前…ちょっと待って。え?何言ってんの?お前まで何言ってんの?っていうか食いつくとこそこ?」
突然知らない人達に誘拐だの愛人だの言われて銀時もそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
目の前の男達は意味わからない事を言うし、赤ん坊は理解できない言葉を言うし、雪に至っては食いつくところが違うしでもう銀時は頭を思いっきり掻き毟りたくなる。
『ちょっと雪!後で家族会議しようか!』と手を上げて提案する銀時をよそに浪人達は腰に差していた刀に手を伸ばす。
「生きて捕えよとのことだが男なら関係あるまい…斬り捨ててしまえ!」
「おいおいおい!!俺全然関係ないから!酔った勢いで『俺のハートはお前の人質!』とか言ったかもしんないけど関係ないから!」
「え、銀さんそんなダサい口説き文句言った事あるんですか?」
銀時の口から『ぐはっ』という見えない吐血を吐いたような声がこぼれ、更には20代の男と10代の少女とのジェネレーションギャップという刃が銀時の心臓を貫き銀時はその深すぎる大ダメージに思わず前屈みになってしまう。
「ぎ、銀さん!?どしたんですか!?」
あまりにもジェネレーションギャップがありすぎて20代を傷つけたとは思いもしていない雪はまるで攻撃を受けたような銀時に慌てて顔をのぞこうとした。
その時…
「雪、絶対そいつを落とすよ」
銀時の言葉が耳に入った雪は言われた意味が分からなくて『え?』と聞き返そうと首を傾げかけた。
だが、それよりも早く、雪は腕の中にあった重みが軽くなり、暖かさが冷めていくのを感じた。
「そんなに欲しけりゃくれてやるよ!!こんなガキィィ!!」
雪は今の現状が理解できないまま反射的に銀時が今掴んでいる『それ』を目で追う。
高々に叫んだ銀時はまるでボールのように『それ』を投げる。
雪は投げられた『それ』を目で追ったあとすぐに腕の中にいるはずの『もの』を見下ろした。
しかし腕の中に大人しくいるはずの『もの』はなく、『それ』は……
「銀さんンンン!!?あんた何してんのオオオオ!!!」
『赤ん坊』は、宙に浮いていた。
流石に赤ん坊を濡らせないと抱き上げながら何とか川から上がり、抱っこすれば赤ん坊が濡れてしまうため脇に手を差し入れて運ぶ。
「あーあ…お前どうすんだよ…あの魔王の事だからぜってー雪を辞めさせるぞ…会いに行こうにも阻止すんだろうし…神楽に殺される…っていうか、あいつならあっちに寝返りそうだな…いや、絶対寝返るな、あいつ…魔王にも懐いてるし……あーあ…もうどうすんだよお前さァ」
「ばぶ」
「そうだよなぁ…お前、関係ないもんなァ…お前は寝て起きて飯食ってうんちしてしっこしてまた寝るのが仕事だもんなァ…あんな魔王がこの世に存在しているっつーのも知らねェだろ」
「あう?」
「そうだよそうだよ、知らないよな…いや、むしろ知るべきじゃねェんだよ…魔王なんてな、知らなくても生きていけんだよ……そうだよ…知らない方が幸せだって言葉があるくらいだしなァ…」
お妙に雪を連れていかれ、銀時はこれからの未来を思い描き顔を青くさせ肩をこれでもかと落とす。
思い描く未来…それはお妙という名の鉄壁の守護に加え宇宙最強の夜兎の壁だった。
更に加えて恐らく大きなお世話でゴリラが助太刀し、恋敵を蹴落とすのに容赦のない某ニコチン野郎とドS野郎も加わるだろう事は目に見えていた。
そうなれば雪に会いたくても会える想像がしずらく、銀時はこの世の終わりだと言わんばかりにため息をつく。
赤子相手に愚痴りながら、そろそろ川で濡れた服が渇いた頃だろうと抱き直そうとした時…
「あ!銀さん!こんなところにいた!!」
「!、雪!?なんでお前ここに…お妙はどうした」
「姉上には誤魔化して逃げて来ました…銀さんと赤ちゃんが心配でしたし…」
「雪…」
雪の声が聞こえた。
それは最初幻聴だと思っていた銀時だったが、振り返れば幻影でもない本物の雪がこちらに駆け寄ってきており、銀時は『誤魔化した』という言葉は気に入らないが戻ってきてくれた事に感謝すべきだと不問に処する。
偉そうだが、心の中ではお祭り騒ぎであった。
雪は赤ん坊の脇に手を差し入れ運ぶ銀時から赤ん坊を受け取りあやすようにポンポンと赤ん坊を軽く叩いてあやす。
相変わらず反応が薄いが、若干どこか嬉しそうに見えなくもない。
とりあえず帰るため裏道を通り、銀時と雪はこれからの事を話し合う。
「この子、どうします?」
「どうするもなにも…まずは母親を探すしかねェだろ…育児放棄だか疲れだか知らねェがいくらなんでも無責任すぎるからな…母親をまず見つけて話し合いをしなきゃなァ」
雪の問いに銀時は頭をかきながら面倒くさそうに答えた。
母親を探すと言っても江戸に何人の女性がいる事やら…それらから探すとなれば骨が折れるどころではないだろう事は予想できた。
どんな理由であれ、赤子を捨てた親なのだからもしかしたら名乗り出ることはないかもしれない。
それを雪は心配していた。
『こんなに可愛いのに…捨てるなんて…』と零し赤子を見下ろす雪に銀時は目を落とす。
まだ16歳の雪だが、両親を早くに亡くし親の必要性を知っている。
逆に言えば銀時は最初から親という存在が居なかったため雪ほど親の必要性を知らない。
だが、物心ついた頃から親の存在が知らなかったからこそ、親という存在がどれだけ必要なのかは分かっているつもりである。
だから、つい零してしまったのかもしれない。
「…なあ、このガキの親…見つかんなかったら俺らで育てるか…」
銀時はポツリと呟く。
そして、言った後に後悔した。
銀時は親も兄妹もいない。
だが、子供を…それも赤の他人の子供を育てるという事がどれだけ大変かは分かる。
だから気まぐれで、そしてその場の雰囲気で…何よりも雪が赤ん坊を憂いの目で見ているのが…雪が悲しい表情を浮かべているのが見ていられなくて、銀時は言ってしまったことに後悔した。
雪はそんな銀時をよそに赤ん坊から銀時へ顔を上げる。
その表情は悲しげではなくキョトンと呆けており、銀時はその表情を見て言ってしまた言葉は撤回できないと諦め、頬をかいて続ける。
「あー…赤の他人のガキの子供なんて可愛くもねェが…お前や神楽はこいつに懐いているようだし…ま、母親が見つからなかったり拒否したら育てんのも悪くはねェかなァって思っただけだ」
銀時の言葉は、まるで犬猫を拾って飼うと言わんばかりのニュアンスだった。
だが、それが今の銀時の精一杯だったためこれ以上の言い回しは出来ない。
一番銀時が恐れているのは、隠し子を疑われるより雪に軽蔑されてしまうかもしれないのが怖かった。
雪はじっと銀時を見つめ…ふ、と微笑んだ。
その笑みに銀時は頬をかく手を止め目を見張る。
そんな銀時をよそに雪は銀時から赤ん坊へと視線を戻す。
「それもいいかもしれませんね…施設は可哀想ですし…赤の他人でも、貧乏でも、愛情を与えてあげれない家庭には行ってほしくないです」
そう言って雪は赤ん坊のぷっくらとした張りのある頬に、頬ずりをした。
赤ん坊ということもあってその肌はまだ10代の雪よりもきめ細かく柔らかくてさらさらしぷにぷにしていて気持ちがいい。
銀時は雪の言葉にほっと安堵をし、そして魅了されていた。
赤ん坊にすり寄るその姿は紛れもなく『母親』であった。
子を思う母。
その姿は銀時が過去、欲した姿でもあり、今現在銀時から継ぎ神楽が欲している姿でもある。
銀時は頬ずりした後赤ん坊を優しく見つめる雪を見下ろし目を細め笑った。
「じゃ、ガキもいる事だし仕事選びも今まで以上に慎重にしねェとなァ…ヤバイ仕事で全員大怪我ってなったらこいつ見てくれる奴ババアとバケモンとロボっ娘と魔王しかいねェしな」
「それって…お登勢さんとキャサリンとたまさんと………魔王は姉上ですか?」
「おう!」
「………そんな良い返事しないでくださいよ…」
銀時から出てきた登場人物を当てはめる。
ババアは普段銀時と神楽が使っているのですぐに分かり、その人物とはお登勢だろう。
お登勢もお登勢でババア呼ばわりは気にしていないのか黙認しているため雪でもすぐに分かった。
バケモノは一瞬考えを巡らせたが雪達の周りで赤ん坊を見てくれる人物といえばババアもとい、お登勢の店の従業員…キャサリンであろう事も話あった。
まあ、人の容姿にケチを付けれるほど美人ではない雪だったが、そこは納得した。
そしてロボっ娘。
これはもうすぐにたまだとわかった。
そして、こでもすぐに理解してしまったのだが……魔王こと、お妙である。
お妙の最凶ぶり、そして銀時との犬猿の仲…これらを思い出し雪はすぐに分かってしまった。
人の姉を『魔王』と評し、尚且つ眩しいまでの笑みを浮かべる銀時に雪はもはや文句も何も出ず、仕方なく話を戻す。
「まあ、色々手続きとか大変ですけど…この子が捨てられたって知っても悲しまないように私達が愛してあげればいいですしね」
「そーそー。夫の俺と、幼な妻の雪と、長女の神楽と長男のそいつ…そんで、ペットの定春……4人と1匹の家族で幸せに暮らしていこうや」
「そうですね、家長の銀さん、長女の私、次女の神楽ちゃん、長男のこの子に、ペットの定春…この4人と1匹の家族で頑張りましょうね」
「あ、あれあれ?雪ちゃん?ちょっと雪ちゃん?何か間違えてるよ?ここ、間違い探しのコーナーじゃないんだよ?ねえ、雪ちゃん、何か間違ってない?主に僕と君の関係性が…」
「さあ!そうなればさっさとこの子のお母さん探して!この子をどうするか話し合いましょう!早く神楽ちゃんにも教えてあげないと!」
「雪ちゃーーん!雪ちゃーーん!!お願いィィ!!銀さんの言葉聞いてェェ!!会話のキャッチボールしてエエエ!!」
「銀さん!これ以上遅れたら神楽ちゃんがお登勢さんのお店の食べ物全部食べちゃいますよ!早く行きましょう!」
「いやいやいや!雪ちゃん!ちょっと君わざとでしょ!?今の今までのそれ、ボケなんだよね!?ボケの一種なんだよね!?そうだと俺は信じているよ!そう!そうなんだと!俺は!信じているさ!!君を!」
銀時と雪は同じことを思っていた。
…否、同じことを思っているのだが、若干自分達の立ち位置が違っていた。
銀時は雪とは夫婦として。
雪は銀時とは親子、または兄妹として。
銀時の幼な妻という言葉を聞いた雪はにこーっと笑顔を浮かべる。
会話が繋がっていない自分と雪に焦る銀時だが、雪は止まらない。
いや、止まってなるものかと無理矢理話を終わらせたのだ。
雪はまた銀時の告白をうやむやにしようとしていたその時…
「そこの者達、ちと待たれい」
誰かが銀時と雪を引き留めた。
しかし先ほどから通っている場所は裏通り。
人影はないに等しい。
後ろを振り返るとそこには浪人のような者達が笠を深くかぶった男達が十数人いた。
あまり堅気ではないであろうその風貌に雪はつい赤ん坊を庇うように男達に若干背を向ける。
そんな雪を庇うように銀時が前に出た。
銀時も腰に差している刀を見て警戒しているのか表情はいつも通りに見えるが少し険しくさせ男達にいつもより低い声を零す。
「なんだ、あんたら…俺らになんのようだ。」
「貴様らだな、賀兵衛様の孫を誘拐したのは」
気づけば後ろにも浪人達が道を塞いでおり、銀時はチラリと後ろを横目で見ながら背中に雪を完全に庇う形をとる。
雪も赤ん坊がいるためか、不安から銀時にくっつくも浪人達の言葉にぎょっとさせた。
それは雪だけではなく銀時も同様で、内心驚きながらも男の言葉に身に覚えがなく怪訝とさせる。
「はあ?誘拐?何が?誰が?どこで?」
「とぼけても無駄だ…貴様あの女の愛人か何かだろ?2人で共謀して賀兵衛様の孫を攫い、橋田屋の財産を狙うつもりだな?」
「おい何言ってんのこの人達?」
「あぽん」
「お前、何言ってんの?お前」
「えっ…銀さん…愛人なんて作れる甲斐性…本当にあったんですか」
「ちょっと待って、お前…ちょっと待って。え?何言ってんの?お前まで何言ってんの?っていうか食いつくとこそこ?」
突然知らない人達に誘拐だの愛人だの言われて銀時もそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
目の前の男達は意味わからない事を言うし、赤ん坊は理解できない言葉を言うし、雪に至っては食いつくところが違うしでもう銀時は頭を思いっきり掻き毟りたくなる。
『ちょっと雪!後で家族会議しようか!』と手を上げて提案する銀時をよそに浪人達は腰に差していた刀に手を伸ばす。
「生きて捕えよとのことだが男なら関係あるまい…斬り捨ててしまえ!」
「おいおいおい!!俺全然関係ないから!酔った勢いで『俺のハートはお前の人質!』とか言ったかもしんないけど関係ないから!」
「え、銀さんそんなダサい口説き文句言った事あるんですか?」
銀時の口から『ぐはっ』という見えない吐血を吐いたような声がこぼれ、更には20代の男と10代の少女とのジェネレーションギャップという刃が銀時の心臓を貫き銀時はその深すぎる大ダメージに思わず前屈みになってしまう。
「ぎ、銀さん!?どしたんですか!?」
あまりにもジェネレーションギャップがありすぎて20代を傷つけたとは思いもしていない雪はまるで攻撃を受けたような銀時に慌てて顔をのぞこうとした。
その時…
「雪、絶対そいつを落とすよ」
銀時の言葉が耳に入った雪は言われた意味が分からなくて『え?』と聞き返そうと首を傾げかけた。
だが、それよりも早く、雪は腕の中にあった重みが軽くなり、暖かさが冷めていくのを感じた。
「そんなに欲しけりゃくれてやるよ!!こんなガキィィ!!」
雪は今の現状が理解できないまま反射的に銀時が今掴んでいる『それ』を目で追う。
高々に叫んだ銀時はまるでボールのように『それ』を投げる。
雪は投げられた『それ』を目で追ったあとすぐに腕の中にいるはずの『もの』を見下ろした。
しかし腕の中に大人しくいるはずの『もの』はなく、『それ』は……
「銀さんンンン!!?あんた何してんのオオオオ!!!」
『赤ん坊』は、宙に浮いていた。
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