(7 / 11) ミルクは人肌の温度で (7)
雪と銀時は桂と別れ公園へ向かった。
まだお登勢の店とは遠く、公園しかおむつを交換できる場所がなかったというのもある。
桂からは『では後日『銀時くん雪ちゃん出来ちゃってた結婚おめでとうの会』を開き祝おうではないか』、と言い残し去っていき、銀時は好都合と言わんばかりに手を振って『準備できたら呼べよ!』と悪のりし桂を見送る。
だが雪は背を向けながら手を上げる桂の背に向かって『この子銀さんが愛人に産ませた子ですからーー!!』と大声で叫び、何度目かの否定と勘違いに銀時はガクリと肩を落とす。
もう誤解を解くのも疲れたようである。
丁度おむつも買っていたため、早速買ったばかりのおむつを開ける。


「おっ!お前右回りじゃねえか!」

「右回りだと何ですか?」

「知らねえの?右回りだと天下取りの相だって言われてんだぞ?こいつ大物になるぞ」


赤子の面倒は雪が見たことがあるため、おむつを替えるのは雪の役目となった。
服も一応何着か買ったため濡れた服を銀時に洗って来てもらい一つの袋の物を別の袋に無理矢理押し入れ、その空になった袋に濡れた服を入れて持ち帰ろうとした。
まだ気温もそれほど寒くはなく可哀想だがおむつを変えるまで裸になってもらい、風邪をひかないように雪は急いでおむつを替える。
服を洗って戻ってきた銀時がおしっこではなく大きな方もしていた赤ん坊のおむつを見てぽつりと呟き、その呟きの意味が分からなくて手を動かしながら雪は首を傾げる。
銀時から帰ってきた言葉に雪は『そうなんだ』と零した後赤ん坊に向かって『大きくなったら大物になるんだって〜よかったね〜』と優しく声をかける。
だが赤ん坊から帰ってきたのは不機嫌な声だった。


「なんだなんだ?小便たれたくらいで落ち込むんじゃねえよ…男はな、上と下は別の生き物だからよ、こんな事もあるさ。」

「う!」


不機嫌な声を零す赤ん坊に銀時は声をかける。
銀時の言葉を理解しているように赤ん坊は返事を返し、銀時は袋の中からおんぶ紐を取り出し売りやすく重ねてある紐を解く。


「ったく…親父に間違われたり、雪に誤解されたり、誘拐犯に間違われたり……厄日だ、今日は…」

「う!」

「ああ、悪い悪い…お前の方が厄日か。お互い大変だなぁ…まあでも生きてりゃあなこういう日もある…おめえもこれから人生でもっと大変なこととか色々起こるよ」


赤子と会話をしながら銀時は解いた紐を使って赤ん坊を背負おうとし、銀時が赤ん坊を背負いたいのだと分かった雪はそれを手伝う。
雪に支えられ赤ん坊を背負ったまま銀時は紐を結びながら続ける。


「人生の80%は厳しさでできてんだ…いや本当に…俺なんかいつもこんなんばっかりさ……でも悪いことばかりでもねえよ…こういう一日の終わりに飲む酒はうまいんだよ。全部終わったら一緒に一杯やろうや」

「あう!」

「よし!一丁いくか!」


紐を結び終えると会話も終わり、銀時はここからでも見える赤ん坊の祖父が経営しているというビルを睨むように見上げた。
雪もそれに釣られビルを見上げ、そして同時に銀時がこれからどこへ行き、何をしに行くのかも理解した。


「雪、先に…」

「銀さん」


だからこそ雪は銀時が『先に帰れ』という言葉を言わせなかった。
銀時は言葉を遮られ、ただ名前を呼ばれただけなのに振り返った先の雪の強い眼差しに銀時は先の言葉を言えなかった。
意志の強い瞳で見抜いてくる雪に言いかけ開きかけた口を閉じ、雪の頭を撫でて了解の意を示しビルへと向かって歩く。
雪も何も言い返さなかった銀時に嬉しそうに微笑み後に続いた。





「だから社長に会わせてくれって言ってんだよ」


敵?の居場所は堂々としているため迷えず、そして探せず行けた。
赤子連れというのは目立つもので、受付に止められ仕方なく素直に言えば『アポは取っていますか?』と事務的に返ってくるだけだった。
ただ社長に会いたいだけの銀時がアポを持っているわけもなく、『何言ってんの?』と不躾な態度を取る銀時に受付嬢2人はピキリと青筋を浮かべる。


「失礼ですがアポの方は取られていらっしゃいますか?」

「なんだアポって…あ、あれ?北国のフルーツ?社長好きなの?青森アポォ」

「アップルじゃねえよ。なんで、そこだけ英語なんだよ。」

「なんなんだよ…アポとかコボちゃんとかよぉ…こっちは社長に会いてェだけだっつーのにな」

「あぽ」

「最近の日本はな何をするにも色々手続きが面倒でフットワークが悪い時代なんだよ……あーあ!!一体日本はどこへ行こうとしてるのかね〜〜!!」

「ばぶー!」

「すいません…あんまり騒がないでいただけます?」


雪は銀時の後ろでちょっぴり呆れながらも止めには入らなかった。
イラッと来ているのが見て取れる受付嬢の一人が不意に銀時が背負っている赤ん坊を見て『あっ!この子もしかして…』と零した時…何か破壊されるような音がビル内に響き、誰もが思わず顔を上げて天井を見た。
受付嬢もまたその一人であり、銀時はその隙を狙いエレベーターへと向かい、雪もそれに続いた。
すでに受付嬢が気づいてもすでにボタンは押してしまい、驚く受付嬢2人に銀時は…


「あぽぉ」


と英語なんだか分からない発音を送った。
赤ん坊も銀時の真似をし、まるで親子のような2人に雪は思わず笑みがこぼれる。


「さて…しゃちょーさんはどこにいるのかねえ…」

「社長室とかでしょうか…」

「あー…まあ、そこが無難だな…じゃ、まずはそこに行ってみっか」


そう言って銀時は広いビル内の中、社長室があるであろ最上階に行くため別のエレベーターへと乗り込んだ。


「神楽ちゃん、心配してるかな…」

「大丈夫だって…あいつ14って言ったってお守りが必要なガキじゃねェんだぞ?一日くらい放っておいても平気だろ」

「でも…やっぱり心配じゃないですか……主に食料。」

「………まあ、ババアが何とかすんだろ」

(こいつ…全部お登勢さんに丸投げしやがった…)


そうこうしている合間に、エレベーターは最上階に着いた事を雪と銀時に知らせる音を鳴らす。
そこで本来ならば長い通路やら部屋やらが見えるのだが…2人の前に現れたのは、何故かメイド服を着ている神楽と清掃員の服を着ている長谷川と見知らぬ二つ結びをしている女性が映り、三人は雪達に気づいていない様子のまま屈んで頭を守る。
そして同時に三人を狙ってなのか刀を抜いた浪人達がこちらに向かってきているのが見えた。
その瞬間銀時は雪を一歩下がらせた後素早くこちらに向かってくる浪人達に木刀を抜いた。
銀時が神楽達の前に出て木刀を振り上げれば刀を手にしているはずの浪人達は一気に吹き飛ばされてしまう。


「おーう、社長室はここかィ?」

「なっ…なにィ!?」

「これで面会してくれるよな?」


突然の事に男は…おそらく赤子の祖父であろう賀兵衛という人物なのだろう、と雪はエレベーターから出ながら心の中でそう冷静に判断する。
銀時と一緒にいるから慌てずにいられるのだろう。
銀時が賀兵衛と話している間、傍にいた神楽へ雪は駆け寄る。


「神楽ちゃん!大丈夫!?」

「大丈夫ヨ…それよりなんで銀ちゃんと雪がここにいるネ」

「それはこっちのセリフだよ…なんでお登勢さん達と一緒にいたはずの神楽ちゃんがここにいるの?」


神楽に怪我がないかと見れば、神楽に怪我はなかった。
それにほっとしながら傍で唖然としている二つ結びの女性と長谷川を見て両者共に怪我がない事にもほっと胸を撫で下ろす。
神楽がメイド服を来ている事も含め、雪はお互いなぜここにいるかなどを話す。
そこで雪は二つ結びの女性が今銀時の背中にいる赤ん坊の母親だと知り、そして事情を知り赤ん坊を捨てたわけではないと知って心から安堵した。
女性は突然の出来事について行けず呆けていたが、銀時の背中に自分の赤子がいると気づき慌てた様子で立ち上がる。


「勘七郎!」


女性が赤子の名前を叫べば銀時はチラリと赤子の母であろう女性を見ただけで何の反応もない。
雪は神楽から事情は説明されていたが、まだ銀時には説明していないのだ。
これまで愛人疑惑やら隠し子疑惑やらで迷惑を掛けられ更には赤子を引き取るかという考えまで至っていたのだから正直な気持ちとして女性にすぐ赤ん坊を預けるほどの信頼はないのだろう。
銀時は女性から雪の隣にいる何故かメイド服を着ている神楽へと視線を移す。


「なんだかめんどくせえ事になってるみてえだな…神楽ァ、30字以内で簡潔に述べろ」

「無理ネ。銀ちゃんこそどうしてここにいるネ。30字以内で簡潔に述べるヨロシ」

「無理だ」


中々戻ってこない銀時と雪を神楽はジト目で見る。
いや、事情は雪から聞いていたためジト目で見るのはちょっぴりおかしい。
しかし仲間外れになっていたと思うと腹が立って仕方ないのだろう。
強気に見えて地球の父ちゃんと母ちゃんには甘えたな少女ならなおさら。
雪の傍を離れないと言わんばかりに雪の袖を摘まんでいる神楽に銀時は内心苦笑いを浮かべつつ、神楽の言葉に同じように答えながら肩を竦めて答える。
のんびりとした家族の会話に土足で踏み入れる者がいた。
それは最近家族どころか職さえも失った長谷川である。


「おめえ馬鹿か!!わざわざ敵陣に赤ん坊連れてくる奴がいるかァァ!!」

「なんだてめえ…人がせっかく助けてやったのに…っていうかなんでこんな所にいんだ?30字以内で簡潔に述べろ」

「うるせェェ!!あのじじいはその子を狙ってるんだよ!!自分の息子が孕ませたこの娘を足蹴にしておきながら!息子が死んだそのガキを奪って跡取りにしようとしてんだよ!!」


長谷川は賀兵衛を指さしながら銀時に説明をする。
銀時はその長谷川の説明に何となくな感覚で事情を自分なりに捉えていたのがはっきりとし、改めて賀兵衛をその死んだ目で見た。


「おいおい…せっかくガキ返しに足運んだってのに…無駄足だったみてえだな」

「無駄足ではない…それは私の孫だ…橋田屋の大事な跡とりだ…こちらへ渡せ」

「俺ァこいつから開放されるならじじいだろうが母ちゃんだろうがどっちでもいいけどな!―――おい、おめえはどうなんだ?」

「あう」

「おう、そうかいそうかい」

「!」


賀兵衛は返しに来たという銀時に笑みを浮かべこちらに渡すよう言った。
だが、銀時は賀兵衛や母親に聞くでもなく…赤子本人に聞いた。
赤子としては返事を返しているつもりだろうが、生憎と赤子語は銀時には理解はできない。
だが、なんとなく言っている事は理解できた。
銀時はおんぶ紐を解いて少し手荒に母親である女性の腕に赤ん坊を返す。


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