(2 / 4) ××遊びは20歳になってから (2)
雪は今日、万事屋には休みをもらっている。
姉が心配で休みを貰ったのだ。
雪は布団に入りたい一心だが、姉が心配で眠るにも眠れない。


「姉上、どうするんですか」


あの後、妙と阿音は店長に呼び出された。
手を出されたのは雪だが、手を出したのは妙であるため呼び出されてしまった。
が、阿音も阿音で問題があったためこの機に注意をしようという考えだったのだろう。
だが、雪が思っていたより事態深刻だったのか店長から『明日二人のうちどちらかの売り上げが低いほうをクビにする』と言われてしまったらしく、雪は頭を抱えかけた。
姉なら別の仕事場所を探せるだろうが、心配でたまらない雪は姉を見る。
不安そうな表情を浮かべる妹に妙はにこりと微笑む。


「心配いらないわ、雪ちゃん…ちゃんと考えてあるから」


そう言って微笑む姉に雪はホッと胸を撫で下ろしながらも…嫌な予感をよぎらせた。
なんというか…自分のサイフ、というよりかは死んだ魚の目をした銀髪とサングラス掛け器とゴリラのサイフの危機ではないかという具体的すぎる予感がしてならなかったのだ。





そして対決当日。
本来今日は出勤日ではないが心配でスマイルに出勤していた。
この戦いは妙と阿音の戦いではあるが、収入の面で言えば雪も無関係ではいられない。
このスマイルに時折キャバクラとして働いているのは姉もそこで働いているからだ。
じゃないと姉がお金のためとはいえ雪をキャバ嬢として働かせるわけがない。


「お雪ちゃーん!ヘルプ、お願いしまーす」

「はーい!」


控室で髪を整えたり化粧をしたりとしていると、男性店員からお呼びがかかった。
どうやらヘルプを頼まれたようで、雪は鏡に布を被せて化粧品を片してヘルプに向かった。


「ヘルプに入らせてもらいます、お雪です」


『よろしくお願いしまーす』、と続こうとしたとき…雪は固まる。
ヘルプは姉の席だった。
お客は二人らしく、妙とおりょうが入っており、そのヘルプを雪が任されたらしい。
姉と同じテーブルということで安堵はしたが、そのカモ…もとい客を見て雪は驚く。
その客とは…


「ぎ、銀さん!?長谷川さんも…なんでここにいるんですか!?」


上司と、上司の友人だった。
銀時は雪が副業としてたまにキャバ嬢をしているのを知っているためここにいることに驚きはなかったが、雪は驚いた。
銀時から今日来るなんて聞いていなかったからだ。


「あー、なんだ…おめえの姉ちゃんに頼まれてな…来てくれって。」

「あ、姉上!」

「あらいいじゃない雪ちゃん…雪ちゃんがお世話になっているんだもの、たまには銀さん達にお礼をしなきゃ…ね?」

「え、じゃあなに?タダで飲めんの?タダで飲ませてもらえる上に雪が相手しくれんの?やりー!」

「そんな訳ないでしょう?銀さん達のおサイフはなんのためにあるんですか?わた…雪ちゃんのためにあるんでしょう?」

「お前お礼するとか言ってなかったか!?あとお前さっき私のためにって言いかけたよな!?っていうか俺のサイフはお前のためでもねえから!嫁が雪っていう意味なら雪のもんになってもいいけどよォ」

「あらいやだ銀さんったら…なんであなたの嫁が雪ちゃんになるのかしら?あなたにそんな価値なんてないでしょう?あなたはお金を落とすだけしか価値がないんだから…そのために働いているんでしょう?」

「いや、ちげぇから…色々言いたい事あるけど全然違うから…俺の価値はお前の懐を潤すためにあるんじゃなくて、雪がかかあ天下になるためにあるから…雪なら俺尻に敷かれてもいいから。」

「よく言ったわ銀さん!雪ちゃん!今すぐローラー車持ってきて!」

「オイィィ!!そういう意味じゃねえから!!何物理的に轢こうとしてんだ!!っていうか敷くと轢くじゃ全然違うだろうが!!」

「まあ!銀さんにもそんな知恵があるんですね!驚きだわ!」

「ほんと、お前いい加減にしてくんない!?本当、マジでいい加減にしてくんない!?」


妙と銀時は犬猿の仲である。
それは周知の事実であり、喧嘩するほど仲がいいと茶化せばどんな目にあうかもみんな分かっている。
神楽と沖田同様銀時と妙は仲が悪い。
雪はよく二組の喧嘩やいがみ合いに巻き込まれて来た。
だからこそ戸惑いもなく、ヘルプの席に着く。


「はい、メニューです…とっとと飲んでとっととお帰りください」

「え…なに…ちょっと雪ちゃん?なんか今日冷たいんじゃない?もっとこう…銀さんのお膝の上に乗るとかして姑のイビリで傷ついた心を癒してくれないの?」

「何言ってるんですか…神楽ちゃん置いてキャバクラに行ってる馬鹿上司なんて知りません。」

「神楽なら大丈夫だって…だってあいつ夜兎よ?宇宙最強の夜兎だぞ?あと定春もいるしな…そもそもあいつに敵う奴なんていねえだろ、この地球には。」

「確かに神楽ちゃんは夜兎族ですけど、神楽ちゃんは女の子なんですよ?別に飲みに行くなとか朝帰りするなとかは言いませんけど頻度を考えてくださいって言ってるんです…この間も朝帰りだったでしょう?そのせいで隠し子を押し付けられてたし…」

「だーかーらー!あの赤ん坊は俺の子じゃねえって何度言えば分かるんだ!!―――っていうかお前もあの時あの場所にいただろうが!」

「はいはい、どうでもいいんでさっさと飲んでさっさと帰ってください!」


銀時がここにいる理由…それは姉のカモになるためである。
それを理解した雪は本格的なカモになって万事屋の家計を更に赤字にして燃やし尽くす前に適当な安い酒を飲ませて帰らそうとメニューを渡した。


「本当、どうしたよ、雪…なんか冷たくなっちゃって…遅い反抗期ですかこの野郎……えーっと…何があるんだ?――――『ドンペリ』、『ドンペリのドンペリ割り』、『ビールじゃなくてドンペリ』、『首領ペリ』、『ドンペリしかねーだろ』、『やっぱドンペリだろ』、『ドンペリって言っちゃえよ』、『アレ?ドンペリって何だっけなんか訳分からなくなってきた』、『ドンペリ ドンペリ』…ドンペ……」

(((ドンペリしかねエエエエ!!!)))


銀時がメニューを読み上げているのを聞き、銀時、長谷川、そして雪の三人の心が一つとなって叫んだ。
銀時と長谷川はメニューで顔を隠し小声で銀時が『ぼったくりだ…間違いねェ…ぼったくりバーだよ、ここ』と零し、そんな銀時に長谷川は『馬鹿な…お妙ちゃんに限ってそんな…』と軽く否定にはいり、否定している長谷川にメニューを見ながら『だってドンペリのドンペリ割りってなんだよ!割り切れねえよ!ドンペリも俺の気持ちも割り切れねえよ!』と小さく叫んでいた。
雪はそんな銀時達と同じような反応を見せつつ口を開けて妙を見る。


「あ、あねう…」

「―――銀さん」


『銀さんと長谷川さんをカモにするのやめてください!家計が火の車なんですよ!!長谷川さんだって今無職なのに…!』と言ってせめて銀時だけは逃がそうとした。
だがその出ようとした言葉を遮り、妙は頬をポッと染めて銀時を熱っぽく見る。
銀時はそんな妙の目線にギクリとさせ顔を赤くするどころか青く変化させ後ずさる様に長谷川の方へと体を引かせる。


「私…久しぶりにドンペリが飲みたいドン」

「ドンって太鼓ゲーム!?何!?久しぶりって飲ましたことねえよ!そんなもん!」

「長谷川さんのグラサンとかグラサンとかグラサンとか…ドンペリと合うと思うんだけどな〜ペリ」

「ペリ!?おかしい!おかしいよ!ってか褒めるところグラサンしかねえのか!?」

「お願いドン」

「飲みたいペリ」

「いいドン?」

「ねえペリ?」

(す、すごい…2人合わせてドンペリになってる…っていうか精神攻撃されとる…!)


何をするのかと見てみればあの犬猿の仲である銀時を相手に妙はおねだりをした。
しかも事前に打ち合わせしていたのかおりょうも語尾をドンペリのペリを付け足し長谷川と銀時の二人を洗脳しようとした。
もはや呆れを通り越し関心してしまう姉とおりょうのやり方に雪は何も言う気はなかった。
とりあえず隙を見て銀時だけでも帰したい一心である。
そうしないと明日は米粒一つも食えなくなるのが目に見えていた。


(どうしよう…このままじゃ神楽ちゃんと定春が飢え死にしちゃう…)


道場も大切だが、同僚とマスコットが飢え死にしてしまうのも問題である。
一応銀時は雇い主だから放っておけないし、ギリギリでも生活できるのは何だかんだ言いつつも銀時が働いてくれているお陰である。
パチンコや飲みで使うし働いてないように見えても結構地道に働いているのだ。
それを見てきているから雪はあまりにも可哀想で見ていられなかった。
どうしようかと思いながらも雪も雪で新たなカモを用意しようとお金を持っていそうな人の顔を思い出していく。
知り合いで言えば土方、沖田あたりだろうか。
だが知り合いとは言え流石にこれは人として駄目だろうと却下した。
すると迷惑を掛けられている近藤兄弟か…と思ったがこれも却下である。
金銭関係は慎重にしないと後々自分の首を絞めることになるのだ。
お願いして払わして後々それをネタにされてはたまったものではない。
さて、どうしようかと思っていると…入り口から黄色い声が聞こえ、雪は姉たちから入り口の方へ目をやる。
そこには…


「あ、姉上!!姉上やばいです!!」

「なあに?雪ちゃん」

「ま、松平さんが来ました!」

「…!!」


警察庁長官である片栗虎の姿があった。
しかも後ろにはその護衛なのか鷹臣の姿もあるではないか。
片栗虎の登場に女性陣達はきゃあきゃあと言っていたが、雪は顔を青ざめ慌てた様子で妙を呼んだ。
銀時と長谷川を洗脳しようとしていた妙は首を傾げていたが雪の言葉に表情を険しくする。
すると雪達の前を巫女姿の女性が通り過ぎる。


「パパ〜!嬉しいわ!来てくれたのね〜!!ごめんねぇ、仕事中だったんでしょ〜?」

「いいんだよ、あんな会議…江戸が滅亡するわけでもあるめェし…でもオジさんはここに来ないと滅亡するかんねェ」

「や〜!嬉しい〜!!」


片栗虎を呼んだのは巫女姿の女性…そう、姉の妙と勝負している阿音である。
阿音の客の中には片栗虎のような上物が多くおり、その中で一番カモになりそうな片栗虎が呼ばれたということである。
会話からして仕事…しかも大事な会議中だったらしい。
後ろに控える部下の鷹臣は相変わらず優男風の笑みを浮かべ、頬を染めるキャバ嬢たちに囲まれていた。
焦りも怒りもないその様子にこんな事がいつものように行われているのだと察し、雪は『江戸を守るトップがこのオッサンでいいのかな…』と思ったという。


「お妙!あのオッサンの遊び方とんでもなく派手で有名なのよ!!」


雪はたまにしかスマイルに来ないが、出勤日の時は偶然にも片栗虎は来ていないためどういう遊びをするのか分からないが、おりょう曰く半端なくお金を落としてくれるらしい。
その間愛想のいい鷹臣はキャバ嬢の相手はするらしいがお酒を飲むことはないらしい。
その間にも片栗虎の腕に絡む阿音は妙達の隣の席につき、その際阿音は妙を勝ち誇った表情で見下ろしていた。
それを見て雪は『あ、やばい』と思った。
それは負けるかもという事ではなく…妙のスイッチが入ってしまったという恐怖であり、同時に銀時のサイフが空になる事を知らせることでもあった。


「やあ、お雪さんじゃないですか、偶然ですね」

「こ、こんにちは鷹臣さん…あの…なんでこっちに座るんですか…あっち行ってくださいよ…仕事中でしょ?」

「え?だって俺の場所はここ(雪の隣)しかないでしょう?それに会議を放ってキャバ嬢に誘われるままにサボるオッサンを護衛して何が楽しいんです?人間はね、死ぬときはどう足掻いても死ぬんですよ、お雪さん」

「……………」


片栗虎が隣の席に座るのを見送っていると自然な動きで鷹臣が雪の隣に座ってきた。
小首を傾げる鷹臣は可愛く見えるが、常にストーカーされている雪からしたら美形だろうがメデューサだろうが魅力のミ文字も感じない。
とりあえず触れてこないのは知っているため放置で行こうと雪は決めた。


「パパ〜私久々にドンペリ飲みた〜い!」

「あんなのジュースじゃねえか!おじさんもっとキツいの飲みたいんだけどなァ…まあいいか〜」

「ドンペリ5本入りまーす!」


そうこうしている合間に早速ドンペリが5本、相手側に入ってしまった。
運ばれたドンペリを片栗虎達は積み上げたグラスに全て注ぎホストクラブ並みに楽しむ。
更には無くなればまた5本追加し、一気にラッパ飲みまで始めた。


「一気に5本…こんなの勝ち目が…」

「え?何?アレに勝ちたいの?心配しなくても俺達水と焼酎8:2の水割りであれよりハイになれるぞ」

「そんな戦いじゃないから…そんな悲しい勝利いらないから…」


ドンペリは市販で買うとそんな高価な物ではないが、何故かキャバクラなどで頼むとべらぼうに高い。
何故高いのかは分からないが、ものすごく高い。
だから妙も阿音もドンペリ押しだったのだ。
水のようにドンペリを頼み飲んでいく片栗虎達を見ておりょうは顔を引きつらせた。
話は見えないが銀時も何となく察したようで、ドンペリは無理だが飲み比べなら自信があると言うが長谷川に突っ込まれた。
雪もこの仕事をしている中で、あんな豪快にドンペリを飲む客は初めて見たためか唖然としていた。
するとドンペリを飲んでいた阿音がチラリとこちらを…妙を見て勝ち誇ったようにニヤリと笑った。


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