(3 / 4) ××遊びは20歳になってから (3)
店は『まっちゃんコール』で賑わい、他の客たちも片栗虎の豪快な遊び方に呆気に取られていた。


「姉上…どうするんですか?このままじゃ負けてしまいますよ…」

「そうよ!お妙!あのオヤジに勝てる戦力を持つ人ってそういないわよ!?」

「坂本さんはどうですか?」

「…やめて、お雪ちゃん…そいつの名前を出すのは本当、やめて。」

「ご、ごめんなさい…」

「そういうお雪ちゃんこそ鷹臣さまはどう…」

「やめてくださいおりょうさん…本当、やめてください…」

「…ごめん…」


きゃっきゃと騒がしい店内の中、ここだけが焦りを見せていた。
あの片栗虎を超える人物を連れてこない限りこの勝負は阿音の勝利となり妙はここを追い出され他の店に行く羽目となる。
恐らく店長は雪も辞めるとは考えていないようだが、雪は妙が辞めるのなら一緒に辞める気でいた。
警察庁長官より金を持っている人はごまんといるが、そうそう知り合いになれるわけでもない。
では、とおりょうに熱を上げている銀時の古い知り合いであり、今は商人となって宇宙を駆け回っている坂本はと雪は考えた。
あの人なら金はあるだろうし、おりょうがおねだりすればコロッとドンペリの10本や50本、100本くらい出してくれるだろうと思った。
だが、いいカモという名のお客様なのだがベッタベタに触ってくる坂本をおりょうは正直嫌っている節があるらしい。
まあ尻を触られたりすれば誰でも嫌になるだろう。
絞り出したような声に雪は思わず謝ってしまった。
坂本が駄目なら、と位は下だが鷹臣も一応警察庁の幹部である。
隣にいるし雪に骨抜きだしとおりょうが頼んでみたらと言いかけた時、雪の手がおりょうの口を塞いだ。
あまりにも必死に首を振るものだからおりょうは雪と同じく謝ってしまった。
チラリと雪が鷹臣を見れば、幸いにも雪に夢中になりすぎて話を聞いていなかったようである。
目と目があいニコリと笑う鷹臣に雪は引きつった笑みを浮かべながら座り直す。
手立てがなく雪もおりょうも諦めかけたその時…


「おいおい!君達!なんてしけた面してんだ?」

「「…!」」

「ドンペルーニョ、10本持ってこい!」

「近藤さん!?」


救世主が現れた。
その救世主とは、ゴリ…もとい近藤である。
ストーカーの片割れが現れ、そしてドンペリを10本も注文した近藤に雪は目を見張り、驚く一同をよそに近藤はそのまま極当たり前のように妙と雪の間に座る。


「店の女の子から事情は聞きました…お妙さん…水臭いじゃありませんか!俺の預金通帳は既に夫婦のものとしてお妙さんと共同名義になってるんですよ……もう安心してください…こう見えて、結構稼いでますから!」

「ゴリラさん…」

「ゴ、ゴリラはないよね…このシーンでゴリラは…」


近藤はどうやらこの騒ぎを周りの女性達に聞いたようで、妙の力になるべく通帳を手に颯爽と現れたのだ。
兄のその言葉を聞き、鷹臣は『じゃあ』と言って懐を探って出したのは…


「俺も義姉上のために奮発しようかな」

「…なんですかそれ…」

「何って…通帳だよ?」

「見て分かりますけど…名前のところに近藤雪って書いてあるんですけど…」

「ああ、これはね俺とお雪さんの結婚資金だよ…って言っても結婚式のお金の他にも婚約指輪のお金、新婚旅行のお金、マイホームのお金、将来生まれてくる子供のためのお金、年金生活になった時のお金などなど総合通帳だけどね」

「……………」


近藤兄の通帳には近藤の名前の上に妙の名前が書かれており、愛愛傘が書かれていた。
しかし近藤弟の通帳にはなぜか近藤雪と書かれており、何故か志村の苗字が近藤になっていた。
近藤弟に関したらもはや突っ込む気にもなれず雪は『ドンペリ10本お願いしまーす』と注文する鷹臣を見つめながら心の中で『もうコイツの有り金全部ドンペリにつぎ込んでやろうかな…』と思う。


「近藤ォォォ!鷹臣ィィィ!!てめェ!この歌舞伎町で俺より目立とうなんざ百年早ェんだよ!!」


ドンペリを10本も注文した近藤に若干酔っぱらってる片栗虎が因縁をつけて来た。
それを聞き近藤が立ち上がり上司なのに関わらず噛みつく。


「うるせエ!エロジジィィ!!今日から夜の帝王はこの俺だァァ!!」

「ふざけるなァァァ!俺の生き甲斐を奪う奴はたとえ将軍でも許さねェェ!!ドンペリ25本だ!!」

「や〜ん!パパかっこいい〜!!」

「お妙さん!!こっちもドンペ…」

「すみませーん!これとこれでドンペリお代わり!」

「――ってもう頼んでるしィィィ!!それ俺と鷹臣の財布だし!!『かっこいい〜!』とかそういうのないし!!」

「いやいやかっこいいよ!お前!俺らはちゃーんと分かってるって!」

「なかなかこんな貢げないよ!ゴリラがGORILAに見えるよ!」

「アルファベットに変わっただけじゃねェか!!ってか店の子でもないお前らがなんで飲んでんの!?」


近藤の投下で事態は一気に加速していった。
もはやここ一帯はアルコールの匂いが酷く、ここにいるだけで酔いそうである。
雪はお酒に強いためそうそう酔う事はないが、暴走しつつある妙達に頭を抱えた。


「っていうか…鷹臣さんも何普通にサイフ渡してるんですか…」

「え?でもこれ、どれだけ稼ぐかっていう勝負でしょ?」

「そうですけど…あんたよく自分の金を他人に使えますね…」

「お金なんて固形物の塊にすぎないし無くなったらまた稼げばいいよ…大切なのはお雪さんだからね」

「鷹臣さん…」


鷹臣が自分と抜いておいた兄のサイフを妙に横流ししているのを見た。
本来ならドンペリは高価なものであり、鷹臣は見ている限りキャバクラで遊ぶような人間ではない。
だからキャバクラで飲まない酒を注文をするのは溝に捨てるようなものでしかないのだ。
それなのになぜ妙に易々と兄だけではなく自分のお金を渡して平然といられるのかが分からなかった。
鷹臣にとって金銭というものはただの物でしかない。
以前は必要最低限の物を買うのに必要なだけの物で、サイフもカードすらなく入っているとすれば数百円程度しか入っていない状態だった。
しかし現在は(ありえないのに)雪との将来のために出来るだけ貯めているようだ。
だが、その雪(の姉)がピンチに陥っているのだ…ここで使わずしてどこで使うのだろうか、という考えらしい。
高給取りだけが許されている言葉だが、それでも他人のためにお金を…それも大金を使える人間などそういない。
鷹臣の言葉に感激している雪を放置し、周りはドンドンドンペリを飲み続け、ただの酔っ払い集団が生まれ、妙と阿音の成績表だけがグングンと上がっていく。


「もういい加減飲むのやめてくださいよ姉上!」

「なあんで止めるの〜雪ちゃんの意地悪っ!」

「意地悪!じゃないですよ!このままじゃアルコール中毒になっちゃいますよ!」

「アルコール中毒がなんぼのもんじゃーい!!上等じゃゴラァ!!すみませーん!!ドンペリもう10本追加で〜〜!!」

「も〜!姉上!!」


もはや出来上がり雪の言葉も届いていない妙に雪は思わず、むっとさせる。
雪もドンペリは滅多に飲めないので楽しんでおり妙達と同じ量を飲んでいるがやはり中々酔えずにいた。
正直酔っ払いだらけの中で酔えずにいるというものは意外と辛いところがある。
酔えない者と飲めない者の末路は潰れた酔っ払いたちの介抱と後片付けであるのだ。


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