(2 / 16) 紅桜篇 (2)
その日、河川敷に一人の遺体が回収されていた。
それを聞きつけた野次馬が覗いており、その中に異物があった。
全身白い布?に覆われまん丸とした目に丸くなった嘴のような口…桂のペット、エリザベスだ。
エリザベスは編傘を被り素性を隠しているが、隠しきれてはいない。
しかしそんな不思議な物体など気にも留めず、野次馬達は滅多に見られない光景に恐々しながらも心躍っていた。


「おいおい、なんの騒ぎだ?」

「また死体が上がったらしいよ」

「なんでい、また辻斬りかい…もうこれで何人目だ?」

「狙われてるのは浪人ばかりだって話しだからねェ…これじゃァ恐ろしくて夜遊びもできねェや」

「ま、暫く家で嫁さん大事にしろってことかね」


ハハハ、と笑い話にして笑う男達を耳にしながらエリザベスはペタペタと走り出す。
エリザベスが向かった先…そこは―――





「お茶です!」


――万事屋だった。
エリザベスは一目散に桂の旧友である銀時が経営する何でも屋にやってきた。
突然エリザベスだけが来て困惑しつつも雪はエリザベスにお茶を出す。
ととと、とお茶を出した雪は素早く銀時と神楽が座るソファの後ろに隠れるように戻る。


「あのォ……今日は何の用で…」

『…………』


銀時がエリザベスに用件を聞こうと話しかける。
だがエリザベスの口から言葉が発せられず、更にはいつもの会話するためのプラカードも出されず沈黙するだけ。
そんな彼(?)に雪と神楽に小声で話す。


「なんなんだよ!何しに来たんだよ!この人!!恐ェよ!黙ったままなんだけど!!怒ってんの!?なんか怒ってんの!?なんか俺悪いことした!?」

「怒ってんですか…あれ…笑ってんじゃないですか?」

「雪、お前のお茶が気にくわなかったネ!お客様はお茶派ではなくコーヒー派だったアル!お茶くみだったらそのへん見極めろヨ!」

「んなもんぱっと見で分かるわけないでしょ!?」

「俺すぐピンときたぞ?見てみろ、お客様口がコーヒー豆みたいだろーが!観察力が足りねーんだお前は!」


散々な言われようだが、雪は何も言い返さずコーヒーを淹れて戻ってきた。
『コーヒーです!』と言わなくてもいいのにそう告げて若干距離を置いてコーヒーを置き、雪はまた元の位置に戻る。
しかしエリザベスは沈黙を守り続けていた。


「おい!なんだよ!全然変わんねえじゃねえか!!」


そんなエリザベスに銀時はイラッとしたのか神楽を殴る。
殴るというよりは叩くだが銀時は苛立ちをそのままに叩いたからか、力と丈夫だけが取り柄の夜兎が思わず『いだっ!』と言うほどの力で叩いてしまった。
そんな銀時に雪はジロリと見る。


「銀さんだってコーヒー豆とか言ってたでしょうが!!」

「言ってませ〜ん!どら焼横からの図と言ったんですぅ!―――ったく、もう本当いい加減にしてくんない!?なんで自分んちでこんな息苦しい思いをしなきゃならねえんだよ!!あの目見てたら吸い込まれそうなんだけど!!」


コーヒー豆と言ったのは銀時である。
それを棚に上げて神楽に八つ当たりをする銀時に雪は反論するも、その反論もいつまでたっても子供のままの銀時には通じなかった。
するとタイミングよく事務所兼居間の黒電話が鳴り響く。
それに銀時はニヤリと笑い電話を取った。
『万事屋ですけどー』と電話対応する銀時の後ろ姿をジト目で見つめていた雪は神楽に声を掛けられ銀時から神楽へと目をやる。


「雪、こうなったら最後の手段ネ!アレを出そう!」


神楽の言葉に雪は眉間にしわをよせる。
アレ、と当てはまる言葉を雪は知っていた。
更に言えばそれがどれだけ銀時の大切な物なのかも知っていた。
銀時がアレに命を懸けているのも知っているから、渋ってしまう。


「え…いや…でもアレ…銀さんのだし怒られちゃうよ?」

「いいんだヨ!アイツもそろそろ乳離れしなきゃいけないんだから!奴には親がいない…私達が、立派な大人に育てなきゃいけないネ!」

「うーん…でもなあ…」


以前アレが切れていた時買い忘れた事があって、怒られはしなかったが散々グチグチと文句を言われた。
それを思い出しあまり乗り気ではなかった雪だったが…


「おーう、俺ちょっくら出るわ」

「え!?ち、ちょっと!!どこ行くんですか!?」

「仕事〜お客さんの相手は頼んだぞ〜」

「嘘つけエエエ!!自分だけ逃げるつもりだろ!!」


銀時が電話を切ったと思えばそのまま雪の後ろを素通りし玄関へと向かっていくのが見えた。
それに雪は焦りを覚えるが、どう見てもこじつけにしか見えず雪は突っ込みを入れる。
そして…


「いちご牛乳にございます!!!」


文句をグチグチと言われる云々よりも、腹立たしさが勝ち、神楽と見合った後雪はドン、と怒りに任せてコップに入れたいちご牛乳を差し出した。
アレ、とは銀時が最も愛する『いちご牛乳』の事である。
勢いがありすぎてコップからいちご牛乳が零れ、エリザベスの顔に掛かる。
すると今まで不動のごとく真っすぐ顔を動かす事がなかったエリザベスの顔がグググと動きいちご牛乳を見下ろし…ポタリと透明の雫が机に零れた。
エリザベスが泣いたのだ。
それを見て雪と神楽はグッと拳を握りしめ高々に上げた。


「泣いたアア!!やったアアア!そんなに好きなの!?」

「グッジョブアル!雪!よくやったネ!!」

「……あれ?やったのか、これ…」


反応があった事に喜んでいたが、それを喜んでいいのか分からず雪は首を傾げる。


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