(3 / 16) 紅桜篇 (3)
涙を止めたエリザベスから事情を聞き、雪と神楽は万事屋から外にいた。
河川敷の橋に移動し、エリザベスはぬっと口から血まみれの桂の所持品を出した。


「ここでその血染めの所持品を見つけたんだね……おまけにここ数日桂さんの姿を見てないなんて…どうしてもっと早く言わなかったの!?エリザベス!」

『最近巷で辻斬りが横行している…もしかしたら・・・』


エリザベスは涙目で桂が行方不明だということを話てくれた。
所持品だという手にあるソレが血まみれである事からして何かに巻き込まれているのではという不安もあった。
なぜもっと早く言ってくれなかったのかと問えば、やはり最近噂で聞く辻斬りの事が引っかかっていたという。


「…エリザベス……あなたが一番分かってるでしょ?桂さんはその辺の辻斬りなんかに負ける人じゃないって…」

『…………』

「でもこれを見る限り何かあったことは明白…早く見つけ出さないと大変なことになるかも…」


下手な慰めかもれいないが、雪も銀時と共に攘夷戦争を勝ち残った桂が辻斬りなどにやられるタマではないと思っている。
神楽も同じなのだろうが、確かに神楽の言葉も一理ある。
しかしそんな神楽の言葉に俯き涙を浮かべるエリザベスは静かにプラカードを上げる。
そのプラカードには――


『もう手遅れかも…』


―――と書かれていた。
それを見て雪はそのプラカードを上げている手に触れる。


「エリザベス…あなたが信じないで誰が桂さんを信じるの?あなたが一番桂さんの傍にいたんでしょ?だったら彼を信じるべきだよ…私達も探すから…諦めないで…」


雪の言葉にエリザベスは上げていたプラカードを下げて頷く。
頷いたのを見て雪は安堵し、後ろにいた神楽に振り返る。


「じゃあ早速三人手分けして探そう!神楽ちゃんは定春と一緒に探して」

「雪は?」

「私もちゃんと探すよ…エリザベスももう探したと思うけど桂さんが行きそうな場所とか、潜伏してそうな場所を当たってみて…すれ違いっていう場合もあるからね」


雪の指示に二人は不満はないのか、2人は桂を探しに走る。
それを見送った後、雪も桂を探しに向かった。


「…………」


その雪の後姿を一人の男が見送っていたのも知らずに…





雪は桂とはそれほど深い仲ではなかったからか、探すにしても街中を走り回るしかなかった。
街と言っても桂はあれでも指名手配犯なため表にはそうそういないだろうと粗方見て回れば裏道へと入る。
裏道は表通りと違って人気が少ない。
その分怪しい人は多いが、その怪しい人を探しているので問題はないだろう。
絡まれても一応剣道を習っているし、そんなに軟ではないので何とかなるとしか雪は考えていなかった。
『桂さーん』と呼びたいが相手が相手なので呼べず、地道に見ては走り、見ては走りを繰り返すだけとなる。
それでも顔見知りなため、桂も自分を見れば出てきてくれるのではという期待もあった。
奥へと進むと、ふと見慣れた姿の男が目の端に捕らえ、雪は思わず立ち止まる。
ふと立ち止まりゆっくりと振り返ればそこには誰もいなかった。
しかし気になった雪は何となく家と家の間を覗き込む。
すると家の影でうっすらと見えるその人物に雪は目を見張った。


「へ、変質者さん!?」


影にいたのは変質者さんだった。
否、変質者と言っても裸にコート、盗撮魔、露出魔、ストーカー、覗き魔ではなく…昔ちょっとした恩がある男だった。


「お雪殿、お久しぶりでござるな」


その男は何故か忍者口調に、革ジャン、ヘッドホンを耳にかけ、サングラスをしている今時の格好をした男だった。
三味線を背負っており、昔の姿と何も変わらない姿の男に雪は懐かしさを感じた。
彼に対してそれほど警戒心を持っていないのか雪は懐かしい再会に嬉しそうに彼に駆け寄る。


「うわー!変質者さんお久しぶりです!!元気にしてました?」

「あ、うん…あの、そろそろ変質者さんって止めてもらえないでござるか…流石に拙者も傷つく…」

「でも変質者さんの名前知りませんし…」

「拙者は河上万斉っていうでござるよ」

「なるほど!分かりました!変質者さん!」

「……………」


分かったと言いながらも変質者と呼ぶ雪に変質者…もとい、万斉は遠い目をした。
それを見て雪は『冗談ですよ、へんし…河上さん!』と返したが、『いや、今変質者さんって言いかけたでござるよね?』と突っ込まれた。
変質者と呼ばれる事に万斉は不服としている。
それは本物の変質者が仲間にいるからなのと、自分は決して変質者と呼ばれる行動はしていないからだ。
雪が彼を変質者と呼ばれるようになったのは、名前を知らなかったというのもあるが…何よりも雪の姉、妙が自分を変質者と呼ぶからだ。
当時近所に住んでいた犬と雪が遊んでいる時に偶然…そう偶然!出会い、話ているところを妙が見つけ、妹に手を出す変質者だと勘違いしたのだ。
そう、偶然なのだ!偶然雪と出会っただけで、待ち伏せなんて全然してないのだ!そう、彼女との出会いは本当に偶然なのだ!!!(以上が河上万斉の言い訳である)
妙の勘違いは別れ際まで続き、地球の最終兵器TAMAGOYAKIをお土産にと渡され、死にかけた。
その際介抱してくれた雪が天使に見えたらしいが、その天使を守る大魔王のお陰で何度死にかけたか…万斉は思い出さないようにしていたあの大魔王の姿も思い出し再び遠い目をする。


「あの、河上さん?どうしたんですか?」

「いや…なんでもないでござる…」

「そうですか?―――あ!そうだ!河上さん、家に寄って行かれません?姉上も河上さんが来てるって知ったらきっと喜ぶでしょうし!」

「すまないが、それは遠慮させてもらいたい」


問う雪に君の姉上に殺されかけた事を思い出していたんだよ、とは言えず、万斉はハッとさせ首を振るが、雪から大魔王との会談を申してきた。
万斉はまたあの大魔王と会うのだと思うと胃がキリキリしはじめ、キャラを迷子にさせ断る。
心の中で『いや、姉上殿はきっと拙者を見て『あら嫌だわ、追っ払った害虫が帰ってきてるわ…駄目じゃない雪ちゃん…害虫に慈悲なんて見せたらこうしてまた隙を見て沸いて出てくるものなのよ?害虫の正しい駆除の方法はね、見つけたら悪・即・斬!、よ』と言いながら拙者に薙刀で斬りつけるに決まってるでござるよ』と思ったが、雪が姉思いのため言うのをやめた。
きっぱりと断った万斉に雪は気にする様子はなく『そうですか?』とコテンと小首を傾げるだけだった。
それを見て万斉は『やっぱりお雪殿は癒しでござるなァ』と傷ついた心を癒す。
しかし、自分に与えられた時間は少ない。
この後すぐに船に乗って宇宙へ旅立たなければならないのだ。
『まったく自分で迎えに行けばいいものを…何を怖がっているでござろうか』と思いながらも立場が立場なので一人で行動しないだけマシかと思いなおす。


「お雪殿、ちょっと拙者と来てほしいのでござるが…大丈夫でござるか?」

「今…ですか」

「そう、今。」

「すみません…今仕事中で…」

「ちょっと話すだけでござる…拙者もすぐに江戸を離れなければならない故、久々の再会に少しだけ話がしたいのでござる」

「……じゃあ、ちょっとだけ…」


桂を探さなきゃいけないのだとはっきりとは言えないが、仕事だらかと断れば話だけでもと言って来た。
どうやら万斉も仕事ですぐに発たなくてはならず、せっかくだから話したいと雪に言い、雪はそう言われると邪険にできず頷いた。
探してくれているエリザベスと神楽には申し訳ないが再会できた恩人を無下には出来なかった。
しかし…雪的にはファミレスなどの茶屋に行くのとばかり思っていたが、案内された場所は意外な場所…料亭のような場所だった。
雪は困惑気味に万斉の背を見るが、先に進む万斉は何も言わない。
恐らく雪の目線に気付きながらも気づかないフリをしているのだろう。
万斉が上がってしまったためそこで棒立ちではいられず、雪は仕方なくついて行くしかなかった。
少しだけ話したいという万斉の言葉を疑いながら雪は二階に上がる。
廊下を歩いていると客の楽しそうな声や三味線の声が聞こえ、雪の頭に幼い頃の記憶がよぎる。
だがすぐに頭を振ってそんな嫌な記憶を追いやり雪は小走りに万斉に追いついた。


「ここでござる」

「…………」


万斉が奥の部屋の前に立つ。
だが入る気配がなく、雪は万斉を見上げ、首を傾げた。


「あの…河上さん…?」

「ここから先はお雪殿が…拙者は仕事へ行かなくてはいけないのでここでお別れでござる」

「え!?でも…河上さんが話しがって…」

「話なんてこれから先いくらでも出来るでござるからな…そう焦るものではござらんよ」

「…?」


話しがしたいと言ってここまで連れてきたのは万斉である。
しかしその万斉が部屋に入り話す前に退散すると聞き、雪はギョッとさせる。
だが、続けられた万斉の言葉に雪は首を傾げ、首を傾げて不思議そうにする雪に万斉はサングラスの奥にある目を細め、雪の頭を撫でてそのまま帰ってしまった。
雪はその万斉の背を不安そうに見送り、どうしようかと迷う。
正直中に誰がいるかなんて考えていなかった。
万斉と二人でどこかの茶屋で話すと思っていたので雪は万斉以外に誰かがいるなんて思ってもいない。
とりあえず中に入って誰も居なかったら帰って桂を探そうと思い雪は襖を開ける。
しかし、襖を開けた先にいたその人物に雪は万斉の時よりも驚愕し目を見張った。
室内にいたのは…
――――真選組が危険視している過激派攘夷浪士…高杉晋助だった。


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