高杉に部屋に戻され雪は放り出されるように布団に投げ出された。
その衝撃で目を瞑っていた雪だったが、こちらを見下ろしているであろう高杉を睨む。
「まさかお前が逃げようとしてたとはなァ…それも色仕掛を使って……あの時から変わってねえとは思っていたが…お前も女になったってことだな…なァ?清花?」
「…ッ神楽ちゃんをどうするつもりですか!?」
部屋の扉を開ければ中には見張らせていた男が二人いた。
男達は雪を抱えた高杉に顔を青ざめたが、高杉は罰せず『見張ってろ』と言うだけで男達を部屋から追い出す。
慌てて部屋を出て見張りを再開させる男達をよそに高杉は扉を閉め鍵を閉め雪を乱暴に布団に降ろしたのだ。
高杉の中にある雪は色仕掛などするタマではないと思っていた。
だが、3年という月日はどうやら雪を変えるのに十分だったようだ。
こちらを睨みつけながら自分の身よりもあの子供を心配する雪に高杉は少しだけ機嫌を降下させる。
「あんなガキがどうなろうとてめェにゃ関係ねえだろ」
「神楽ちゃんは家族です!!関係ないはずが…」
「――じゃあ、そいつ殺すか」
「な…ッ!?」
雪の口から『家族』という言葉を聞いて高杉は眉一つ顔色一つ変えず、神楽を殺そうと言った。
遊女にいた時は冗談ととらえていただろうが、今の高杉は本気だと分かった。
だから雪は高杉に縋る。
「やめてください!!神楽ちゃんはまだ子供なんですよ!?」
「んなもんここで通じるとでも思ってんのか?あのカギは俺の船に侵入し好き勝手暴れ部下に怪我まで負わせた…ガキのした事だと言って俺らは許すわけがねェだろ……ましてやお前を連れて逃げようとしたガキだ…体で思い知らせなきゃならねェ…そうだろ?」
「…ッ」
高杉に縋っても高杉はすでに神楽を殺すつもりでいた。
それは嫉妬でしかないと高杉も分かっているが、そんな事高杉にはどうでもいいのだ。
嫉妬だ嫉妬だと喚こうが高杉は『だから何だ』と答えるだろう。
嫉妬しているのがバレて笑われたり馬鹿にされるのが嫌で雪を逃がすよりは、まだ嫉妬しているのを指摘され馬鹿にされ笑われる方がマシである。
3年―――3年、待った。
短い3年間だったが、高杉にとったら十分長い3年間だった。
やっと雪を迎えに来れるようになったのだ。
今更手放すなんて考えていない。
高杉の言葉に雪は涙を溜める。
自分に抱かれた時も流していた涙だが、それは自分に抱かれるからで、決して自分のためではない。
それなのに、今、目の前の雪は神楽のために涙する。
それが溜まらなく不快だった。
「なァ、清花…あのガキを逃がす事は出来ねェが殺さずおいてやろうか?」
「!――それは、本当ですか!?」
今、雪の頭には神楽で埋まっているのだろう。
酷い事をされているであろう神楽を思い、雪は心を痛めている。
それを見ながらやはりあの時迎えに行けばよかったと高杉は悔やんだ。
だがあの時は雪も千早を失ったばかりで不安定だったというのもあってしばらくは近づくこともしなかった。
しかし、それが仇となって雪は銀時と出会い、高杉の事なんか過去の人になっていた。
心なんて後からどうにでもなる…それは今も思っているが、今の雪の心は高杉ではなく銀時に染まっているのだ。
それを見て不快にならない男なんていないだろう。
だから、ある提案を雪にする。
提案というか駆け引きでもあり、雪を縛るものでもある。
神楽を殺さないでおいてやる、という高杉の言葉に雪は目を見張り、驚く。
そんな雪の頬を高杉は撫でる。
「ああ…お前が俺から逃げねェっていうんだったら、今回は不問にしてやる」
「…!」
「あのガキが逃げ出そうとするんなら一度だけ見逃してやってもいい…―――ただし、お前が自分の意志でここに残るっていうのが前提だ。」
「…………」
それはつまり、高杉の女であることを認めろ、という事である。
そして神楽や銀時が奪いに来たとしても拒絶しろという事でもある。
雪は高杉の言葉に目を丸くした。
高杉もすぐに答えられるわけではないと思ったのか黙り込んだ事に咎めるそぶりは見せなかった。
雪は目を瞑って俯いた。
高杉の手を取れば姉や銀時、神楽には会えない。
だけどその手を振り払えばみんなに会えるが、その代わり神楽がいなくなってしまう。
この人が本当に神楽の命を消すかは分からないが、その力はあるのだけは分かっている。
だから本気だろうが冗談だろうが、神楽の運命は雪に委ねられているのだ。
(神楽ちゃんの事は、家族だと思ってる…あの子は歳が近いけど妹みたいに思ってて……それに…神楽ちゃんのお父さんにも任されてるんだ…何を迷うことがあるんだ…)
神楽の父、海坊主。
彼には手紙で銀時と雪に向けて『娘を頼む』と言われている。
海坊主のせいにするわけではないが、頼まれた以上…いや、頼まれなくても神楽を守るのは当たり前なのだ。
雪は俯いていた顔を上げ、高杉を見上げる。
見上げる雪の瞳に強い意志を感じ、高杉は目を細める。
「分かりました…晋さまと共に行きます…だから神楽ちゃんには酷い事しないでください。」
雪の返答に高杉はクツクツと笑った。
手段は汚いし雪の本当の心を奪ったわけではないが、それでも雪からついて行くと決めさせた事には成功した。
「ああ、勿論だ…お前が俺の傍にいる限りあのガキには手出しはしねえよ」
そう言って高杉は雪に口づけを落とす。
その口づけを雪は目を瞑って受け入れ、すぐに離れた高杉に静かに目を開けて見上げる。
見上げた高杉の表情は嬉しそうに笑っており、しかしその笑みに昔のような面影は見えなかった。
それにズキリと胸を痛めながらも雪は『じゃあ大人しくしてろよ』という高杉を見送った。
「……ごめんね、神楽ちゃん…―――ごめんなさい、銀さん…姉上…」
雪は部屋の主がいなくなったその部屋でぽつりと小さくつぶやいた。
泣きはしない。
泣いてやるものかと思った。
ここで泣いたらきっと負けてしまうから雪は泣かないようグッと拳を握った。
また子はまだ窮屈感が否めない首を擦る。
「あー…いったぁ…くっそう…似蔵の奴め…調子に乗りやがって…」
あの後最近好き勝手暴れる岡田を武市と注意していたまた子だったが、意識を保ちながらもすでに体は乗っ取られている岡田に首を絞められたのだ。
まだ首にあのコードみたいなモノが絡みついているようで気持ち悪くて仕方なく眉間にしわを寄せていたが…
「離すネェェ!!私にこんな事してただで済むと思ってるアルかアアア!!お前らみんな銀ちゃんにボコボコにされてもしらないかんな!!」
聞き慣れた少女の声がした。
この船にいる自分とあの敬愛する高杉の女とかいう少女以外の女と言えば…やたら強いあの少女だけ。
覗いてみれば丁度蹴り飛ばされた部下達が転がってきた。
それに溜息をつきながらまた子はその部屋に入る。
「ガキ1人になんすか、この体たらくは…だからさっさと始末しましょうって言ったんすよ」
「なんの情報も掴んでないのに殺してどうするんですか…それにねェ…この年頃の娘はあと2、3年したら一番輝く。」
「ロリコンも大概にして下さいよ、先輩」
「ロリコンじゃないありません、フェミニストです―――見て下さい…一夜にしてあなたに撃たれた傷が塞がっているし…それにあの尋常ならざる強力…そしてあの白い肌…」
「先輩、いい加減にして下さい」
「だからおめェ違うって!フェミニストだってて言ってんじゃん!―――ただの子供好きの」
「だからそれただのロリコンじゃないっすかァ!!」
少女一人、しかも手錠で繋がっている子供一人大人数の大人が集まっているというのに手一つ出せないこの現状にまた子は溜息をつく。
特に少女を弱らせたのは自分だから余計に。
そして、相変わらず気持ち悪い趣味を持つ先輩にもまた子は溜息をつき、全く分かっていないまた子に武市もまた諦めたようにため息をつき、座っていた腰を上げて立つ。
「もういいですよ、あなたには理解できそうにないから―――馬鹿が」
「おめえが馬鹿」
「あれですよ…私が言っているのはこれは"夜兎"の特徴と一致しているということです―――死ね」
「お前が死ね」
コントなのか真面目なのか…分からない二人だが、また子は武市の言葉に目を見張って壁に繋がれている神楽を見た。
確かに言われてみれば少女だというのにあの強すぎる力に暗闇でも浮くほどの白い肌にあの回復力…そして銃が仕込まれている番傘。
それは夜兎の特徴と一致していた。
「夜兎ってあの傭兵部族"夜兎"っすか!?晋助様を狙って雇われたプロの殺し屋ってわけっすか!一体どこのまわしもんっすか!」
「それが何を聞いても『ヅラ』しかいわないヅラ」
武市は心の中で『あと晋助殿の情人』と付け足した。
また子は高杉に心酔している。
だからこそ余計に高杉が女として連れて来た雪を嫌っている。
しかし高杉を慕っているからこそ手が出せないという悪循環に日々苛立せストレスを溜めている。
こういう時の女は面倒臭いというのを分かっているためあえて言わなかった武市にまた子は気づかず『先輩、それ舐められてんすよ』と零す。
「フェミだかロリだか知んないけどキモイっすって、マジで…見てて下さいよ…こんな小娘ひと捻りで……やい、てめ――――」
また子は神楽にペッ、と痰を顔に掛けられた。
べちゃりとした何かが頬を伝って下へ落ちていく気持ち悪さに顔を引きずらせながらまた子は銃を取り出し神楽に向ける。
そんなまた子に武市が慌てて止めた。
「てんめエエエエ!!!自分の立場わかってんすか!?殺してやるウウウ!!」
「ちょっ!駄目だって!!後2、3年したらすんごい事になるって!この子!!」
「止めないで下さい!武市変態!!」
「先輩だから!変態じゃないから!あと殺すなって晋助殿から言われてるから!!」
「んなもん知るかアアア!!どうせ晋助さまの女っつー奴が『私を好きにしていいからァ〜あの子を殺さないでェ〜晋助さまァ〜っ』とか言って晋助さまに媚売ってんだろうがアアア!!あの女の息が掛かってる奴なんか全員殺してやんよオオオ!!」
「だーかーらー駄目だって言ってんじゃん!!」
「ぶわーーっか!!殺せるもんなら殺してみろネ!!私を殺して雪に泣きつかれたあいつに叱られて一生モブ女になってろヨ!おめェにはそれがお似合いネ!!やーい!シミ島また子改めモブ島また子ォ〜!」
「んだとゴルアアアア!!!」
「ちょ、やめなさいって!!君も挑発はやめなさいって!!この猪女と違って私は頭脳派タイプだから力じゃこの猪女に勝てな―――グハッ」
「誰が猪女っすか!!!死ね!お前ら二人とも死ねェェ!!」
数分前に高杉から神楽を殺すなと命じられている以上黙って殺させるわけにもいかず、そして将来を考えそんな勿体な事などさせるはずもなく…謀略では勝てるが体力ではまた子には勝てない武市は思わず本音をポロリと出しまた子に殴られた。
その衝撃で目を瞑っていた雪だったが、こちらを見下ろしているであろう高杉を睨む。
「まさかお前が逃げようとしてたとはなァ…それも色仕掛を使って……あの時から変わってねえとは思っていたが…お前も女になったってことだな…なァ?清花?」
「…ッ神楽ちゃんをどうするつもりですか!?」
部屋の扉を開ければ中には見張らせていた男が二人いた。
男達は雪を抱えた高杉に顔を青ざめたが、高杉は罰せず『見張ってろ』と言うだけで男達を部屋から追い出す。
慌てて部屋を出て見張りを再開させる男達をよそに高杉は扉を閉め鍵を閉め雪を乱暴に布団に降ろしたのだ。
高杉の中にある雪は色仕掛などするタマではないと思っていた。
だが、3年という月日はどうやら雪を変えるのに十分だったようだ。
こちらを睨みつけながら自分の身よりもあの子供を心配する雪に高杉は少しだけ機嫌を降下させる。
「あんなガキがどうなろうとてめェにゃ関係ねえだろ」
「神楽ちゃんは家族です!!関係ないはずが…」
「――じゃあ、そいつ殺すか」
「な…ッ!?」
雪の口から『家族』という言葉を聞いて高杉は眉一つ顔色一つ変えず、神楽を殺そうと言った。
遊女にいた時は冗談ととらえていただろうが、今の高杉は本気だと分かった。
だから雪は高杉に縋る。
「やめてください!!神楽ちゃんはまだ子供なんですよ!?」
「んなもんここで通じるとでも思ってんのか?あのカギは俺の船に侵入し好き勝手暴れ部下に怪我まで負わせた…ガキのした事だと言って俺らは許すわけがねェだろ……ましてやお前を連れて逃げようとしたガキだ…体で思い知らせなきゃならねェ…そうだろ?」
「…ッ」
高杉に縋っても高杉はすでに神楽を殺すつもりでいた。
それは嫉妬でしかないと高杉も分かっているが、そんな事高杉にはどうでもいいのだ。
嫉妬だ嫉妬だと喚こうが高杉は『だから何だ』と答えるだろう。
嫉妬しているのがバレて笑われたり馬鹿にされるのが嫌で雪を逃がすよりは、まだ嫉妬しているのを指摘され馬鹿にされ笑われる方がマシである。
3年―――3年、待った。
短い3年間だったが、高杉にとったら十分長い3年間だった。
やっと雪を迎えに来れるようになったのだ。
今更手放すなんて考えていない。
高杉の言葉に雪は涙を溜める。
自分に抱かれた時も流していた涙だが、それは自分に抱かれるからで、決して自分のためではない。
それなのに、今、目の前の雪は神楽のために涙する。
それが溜まらなく不快だった。
「なァ、清花…あのガキを逃がす事は出来ねェが殺さずおいてやろうか?」
「!――それは、本当ですか!?」
今、雪の頭には神楽で埋まっているのだろう。
酷い事をされているであろう神楽を思い、雪は心を痛めている。
それを見ながらやはりあの時迎えに行けばよかったと高杉は悔やんだ。
だがあの時は雪も千早を失ったばかりで不安定だったというのもあってしばらくは近づくこともしなかった。
しかし、それが仇となって雪は銀時と出会い、高杉の事なんか過去の人になっていた。
心なんて後からどうにでもなる…それは今も思っているが、今の雪の心は高杉ではなく銀時に染まっているのだ。
それを見て不快にならない男なんていないだろう。
だから、ある提案を雪にする。
提案というか駆け引きでもあり、雪を縛るものでもある。
神楽を殺さないでおいてやる、という高杉の言葉に雪は目を見張り、驚く。
そんな雪の頬を高杉は撫でる。
「ああ…お前が俺から逃げねェっていうんだったら、今回は不問にしてやる」
「…!」
「あのガキが逃げ出そうとするんなら一度だけ見逃してやってもいい…―――ただし、お前が自分の意志でここに残るっていうのが前提だ。」
「…………」
それはつまり、高杉の女であることを認めろ、という事である。
そして神楽や銀時が奪いに来たとしても拒絶しろという事でもある。
雪は高杉の言葉に目を丸くした。
高杉もすぐに答えられるわけではないと思ったのか黙り込んだ事に咎めるそぶりは見せなかった。
雪は目を瞑って俯いた。
高杉の手を取れば姉や銀時、神楽には会えない。
だけどその手を振り払えばみんなに会えるが、その代わり神楽がいなくなってしまう。
この人が本当に神楽の命を消すかは分からないが、その力はあるのだけは分かっている。
だから本気だろうが冗談だろうが、神楽の運命は雪に委ねられているのだ。
(神楽ちゃんの事は、家族だと思ってる…あの子は歳が近いけど妹みたいに思ってて……それに…神楽ちゃんのお父さんにも任されてるんだ…何を迷うことがあるんだ…)
神楽の父、海坊主。
彼には手紙で銀時と雪に向けて『娘を頼む』と言われている。
海坊主のせいにするわけではないが、頼まれた以上…いや、頼まれなくても神楽を守るのは当たり前なのだ。
雪は俯いていた顔を上げ、高杉を見上げる。
見上げる雪の瞳に強い意志を感じ、高杉は目を細める。
「分かりました…晋さまと共に行きます…だから神楽ちゃんには酷い事しないでください。」
雪の返答に高杉はクツクツと笑った。
手段は汚いし雪の本当の心を奪ったわけではないが、それでも雪からついて行くと決めさせた事には成功した。
「ああ、勿論だ…お前が俺の傍にいる限りあのガキには手出しはしねえよ」
そう言って高杉は雪に口づけを落とす。
その口づけを雪は目を瞑って受け入れ、すぐに離れた高杉に静かに目を開けて見上げる。
見上げた高杉の表情は嬉しそうに笑っており、しかしその笑みに昔のような面影は見えなかった。
それにズキリと胸を痛めながらも雪は『じゃあ大人しくしてろよ』という高杉を見送った。
「……ごめんね、神楽ちゃん…―――ごめんなさい、銀さん…姉上…」
雪は部屋の主がいなくなったその部屋でぽつりと小さくつぶやいた。
泣きはしない。
泣いてやるものかと思った。
ここで泣いたらきっと負けてしまうから雪は泣かないようグッと拳を握った。
また子はまだ窮屈感が否めない首を擦る。
「あー…いったぁ…くっそう…似蔵の奴め…調子に乗りやがって…」
あの後最近好き勝手暴れる岡田を武市と注意していたまた子だったが、意識を保ちながらもすでに体は乗っ取られている岡田に首を絞められたのだ。
まだ首にあのコードみたいなモノが絡みついているようで気持ち悪くて仕方なく眉間にしわを寄せていたが…
「離すネェェ!!私にこんな事してただで済むと思ってるアルかアアア!!お前らみんな銀ちゃんにボコボコにされてもしらないかんな!!」
聞き慣れた少女の声がした。
この船にいる自分とあの敬愛する高杉の女とかいう少女以外の女と言えば…やたら強いあの少女だけ。
覗いてみれば丁度蹴り飛ばされた部下達が転がってきた。
それに溜息をつきながらまた子はその部屋に入る。
「ガキ1人になんすか、この体たらくは…だからさっさと始末しましょうって言ったんすよ」
「なんの情報も掴んでないのに殺してどうするんですか…それにねェ…この年頃の娘はあと2、3年したら一番輝く。」
「ロリコンも大概にして下さいよ、先輩」
「ロリコンじゃないありません、フェミニストです―――見て下さい…一夜にしてあなたに撃たれた傷が塞がっているし…それにあの尋常ならざる強力…そしてあの白い肌…」
「先輩、いい加減にして下さい」
「だからおめェ違うって!フェミニストだってて言ってんじゃん!―――ただの子供好きの」
「だからそれただのロリコンじゃないっすかァ!!」
少女一人、しかも手錠で繋がっている子供一人大人数の大人が集まっているというのに手一つ出せないこの現状にまた子は溜息をつく。
特に少女を弱らせたのは自分だから余計に。
そして、相変わらず気持ち悪い趣味を持つ先輩にもまた子は溜息をつき、全く分かっていないまた子に武市もまた諦めたようにため息をつき、座っていた腰を上げて立つ。
「もういいですよ、あなたには理解できそうにないから―――馬鹿が」
「おめえが馬鹿」
「あれですよ…私が言っているのはこれは"夜兎"の特徴と一致しているということです―――死ね」
「お前が死ね」
コントなのか真面目なのか…分からない二人だが、また子は武市の言葉に目を見張って壁に繋がれている神楽を見た。
確かに言われてみれば少女だというのにあの強すぎる力に暗闇でも浮くほどの白い肌にあの回復力…そして銃が仕込まれている番傘。
それは夜兎の特徴と一致していた。
「夜兎ってあの傭兵部族"夜兎"っすか!?晋助様を狙って雇われたプロの殺し屋ってわけっすか!一体どこのまわしもんっすか!」
「それが何を聞いても『ヅラ』しかいわないヅラ」
武市は心の中で『あと晋助殿の情人』と付け足した。
また子は高杉に心酔している。
だからこそ余計に高杉が女として連れて来た雪を嫌っている。
しかし高杉を慕っているからこそ手が出せないという悪循環に日々苛立せストレスを溜めている。
こういう時の女は面倒臭いというのを分かっているためあえて言わなかった武市にまた子は気づかず『先輩、それ舐められてんすよ』と零す。
「フェミだかロリだか知んないけどキモイっすって、マジで…見てて下さいよ…こんな小娘ひと捻りで……やい、てめ――――」
また子は神楽にペッ、と痰を顔に掛けられた。
べちゃりとした何かが頬を伝って下へ落ちていく気持ち悪さに顔を引きずらせながらまた子は銃を取り出し神楽に向ける。
そんなまた子に武市が慌てて止めた。
「てんめエエエエ!!!自分の立場わかってんすか!?殺してやるウウウ!!」
「ちょっ!駄目だって!!後2、3年したらすんごい事になるって!この子!!」
「止めないで下さい!武市変態!!」
「先輩だから!変態じゃないから!あと殺すなって晋助殿から言われてるから!!」
「んなもん知るかアアア!!どうせ晋助さまの女っつー奴が『私を好きにしていいからァ〜あの子を殺さないでェ〜晋助さまァ〜っ』とか言って晋助さまに媚売ってんだろうがアアア!!あの女の息が掛かってる奴なんか全員殺してやんよオオオ!!」
「だーかーらー駄目だって言ってんじゃん!!」
「ぶわーーっか!!殺せるもんなら殺してみろネ!!私を殺して雪に泣きつかれたあいつに叱られて一生モブ女になってろヨ!おめェにはそれがお似合いネ!!やーい!シミ島また子改めモブ島また子ォ〜!」
「んだとゴルアアアア!!!」
「ちょ、やめなさいって!!君も挑発はやめなさいって!!この猪女と違って私は頭脳派タイプだから力じゃこの猪女に勝てな―――グハッ」
「誰が猪女っすか!!!死ね!お前ら二人とも死ねェェ!!」
数分前に高杉から神楽を殺すなと命じられている以上黙って殺させるわけにもいかず、そして将来を考えそんな勿体な事などさせるはずもなく…謀略では勝てるが体力ではまた子には勝てない武市は思わず本音をポロリと出しまた子に殴られた。
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