(2 / 11) その後 (2)
山崎は趣味のバトミントンを終え、仕舞ってあるバトミントンを背負いながらトボトボと帰っていた。
空を何となく見上げれば夕暮れになっていた。
見上げていた空はオレンジ色に染まっておりとても綺麗だが、儚い。
その儚さが今の現状の自分を更に空しくさせる。


(しかし…"斬れ"とは…副長も無茶を言う…自分も旦那に負けた癖に俺が勝てるわけないだろ…何考えてんだ……まあ、何かやらないと怒られるから聞き込みしてきたけど……聞けば聞くほど分からん…あの旦那って普段何してるんだ?)


聞き込みは大分終わった。
仕事で親しくしている人から、プライベートで親しくしている人まで色々聞いて回ったが…印象的には駄目男まっしぐらである。
人間自意識をなくしたらこうなるんだろうな、という感じである。


(旦那の家兼事務所の大家さんから旦那の居場所を聞き出せたし…今夜そこに忍び込むか……しかし…いくら仕事とはいえ女性の家に侵入するのは…ちょっと…変質者みたいでいやだな…)


調べるほどよくわからなくなり、山崎は突撃しようと万事屋へと向かった。
しかし銀時だけではなく神楽や通っている雪さえおらず、その下の住民で大家でもあるお登勢に今の銀時の居場所を聞いたのだ。
だが、教えてもらった場所は…志村家。
そう…雪と妙の家である。
仕事とはいえ女性だけの家に侵入するのはどうも…あの、ゴリラ兄弟を思い出させて嫌だった。
しかしだからと言ってそのまま帰れば変わりに自分が副長に斬られるため、山崎は重い足を引きずって沈んでいく太陽と共に志村家へと足を運ぶ。





雪はその日、神楽と買い物に出かけていた。
いつも通っている商店街に、スーパーを回って色々と買い物を済ませ帰る途中だった。
雪は隣を歩く神楽を見て、己の手を見る。
その手には白い肌の手が…神楽の手が握られていた。
荷物は二人と定春で持っており、雪はそのぎゅっと握られている神楽の手にくすりと笑みを浮かべる。
笑みを浮かべる気配を感じたのか、神楽は雪を見た。
その口には買ってもらった酢昆布が覗かせており、それもあってか雪の笑みは深める。


「何笑ってるアル?」

「いや…可愛いなって」

「誰がアルか?まさか自分?この神楽様を差し置いてナルシストなんて百万年早いネ!」

「うん…神楽ちゃんが可愛いって思ったよ」

「…!!」


神楽なりにお茶らけたつもりなのだろうが、雪の言葉に神楽はビシリと固まった。
そしてにっこりと笑う雪の先ほど放たれたその言葉の意味を理解した神楽はボボボ、と顔を真っ赤にさせる。


「な、なに、いって…!!か、神楽様が可愛いのは当たり前だネ!!な、なに、を今更ら…!雪!私の機嫌を取ってどうするつもりアル!?そんな事をしても来週の雪の当番は変わらないからナ!!」


真正面に可愛いと言われるのが照れくさくて神楽は顔を真っ赤にさせてそっぽをむく。
そのちょっぴり見える頬や耳が真っ赤になっているのを見て雪は可愛いとまた呟き笑みを浮かべた。
そして同時に『まあ、でも来週は全部私の当番なんだけどね…』と万事屋にあるカレンダーを思い出しながらそう心の中で呟く。
じゃんけんで決めてはいるが、雪が家事全般をしているようなものなのだ。
最初こそじゃんけんの意味とは…と遠い目をしていたが、もはや慣れとは恐ろしいものである。


「神楽ちゃん」

「なんネ!」

「ありがとう」

「…!」


照れ隠しで大股で先に歩く神楽に雪は追いかけるように歩く。
先に歩く神楽だが、雪との手を決して放しておらず、そこも可愛いところではあった。
雪は小さくとも頼りがいのある背を見つめながらお礼を言う。
本当は色々言いたい事はあったが、色々ありすぎてどうやって感謝を伝えればいいのか分からなかった。
だから雪はあえて短く、ありったけの感謝を込めてお礼を言う。
そのお礼に神楽は目を丸くして振り返る。
驚いているため顔の赤みは収まったが、雪は驚く彼女に笑みを深めた。
その笑みが神楽にとって眩しく見え、眩しそうに目を瞑った後そっぽを向く。


「そ、そんなお礼を言われる事やってないヨ」

「そう?」

「そうネ!……私は…あの時…雪の気持ちを考えてなかったヨ…雪が私から…銀ちゃんから…定春から……万事屋から逃げようとしてたのを無理矢理留めてるだけネ…お礼なんて言われる筋合いはないネ…」


神楽は雪にお礼を入れることは何一つやっていないと思っている。
神楽は雪が嫌がっていたのに説得してここに留めさせた。
銀時に恋している雪の気持ちを利用したのだ。
この時お登勢の言った言葉が脳裏に浮かんでいた。
それは『雪には雪の人生がある』というのと『自分の勝手な都合で人様の人生を決めるな』という言葉だった。
あの時は勝手に言ってろクソババアと思っていたが、お登勢の言った言葉が今更になって返って神楽にぶっ刺さってきた。
雪は自分の意志で残ったように思っているが、あれはどう見ても誘導尋問だ。
雪には雪の人生がある――それはそうだ。
自分にも自分の人生があり、それを誰にも決めさせるつもりはない。
だけど、雪は神楽によって高杉という男ではなく銀時を選んだ。
それは雪の意志ではあるが、その裏には神楽がいた。
まさに『自分の勝手な都合で人様の人生を決めるな』である。
神楽の言葉を聞き、雪は笑うのをやめた。
背を向けている彼女があまりにも泣きそうな声をしていたのだ。
今度は雪から手をぎゅっと神楽を離さないように力を入れた。


「神楽ちゃん…確かに神楽ちゃんに言われて銀さんへの想いを自覚したけど…それを最後に選んだのは私だよ…」


雪の言葉に神楽は振り返る。
振り返った神楽が見た雪は神楽を責めたような目でも、悲し気な目でもなく…神楽を愛し気に見つめていた。


「神楽ちゃんはきっと今、晋さまのもとから離れた私に対して罪悪感があるんだと思うけど…そんな事ないよ…私はあの時晋さまや神楽ちゃんのせいにして銀さんから逃げてたの…銀さんへの気持ちを認めることが…恋をすることがね、怖かったんだ……だから決して私を無理矢理ここに留まらせたんじゃない…神楽ちゃんは私の背中を押してくれたんだよ…」


『だから神楽ちゃんのせいじゃないよ』と弱弱しく笑う雪に神楽はうるっ、と涙を溜める。
雪の言葉でなんだか気持ちが軽くなった気がしたのだ。
神楽は今は雪に泣いているところを見られたくなくて背を向けて裾で目を擦って涙を拭った。
雪は神楽の涙を見てみぬふりをしてやり、涙を拭い終えたのを見て『じゃあ行こうか』と隣に並んだ。


「今日は、なんネ」

「今日はカレーだよ」

「肉は?」

「勿論、姉上からお金貰ってるから入ってるよ」


『久々だね』と笑う雪に釣られて神楽も笑った。
雪はその笑みを見て『ああ、やっぱり神楽ちゃんは笑った方が可愛い』と思った。
夕日に照らされ伸びるその影は志村家へつくまでずっと繋がっていた。


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