(3 / 11) その後 (3)
山崎は夜を待って志村家へ侵入した。
勿論、ユニフォームから夜に紛れることが出来る黒一色の服に着替えており、知り合いの屋敷に入る。
音なく歩き人の気配を辿る。


(大家の人によれば旦那は怪我を負って療養中らしいが…いよいよ怪しいな…その怪我とは例の一件で負ったものではないだろうか…)


志村家へは一度入った事がある。
あの女の敵でありながらも男のヒーローでもある下着泥棒の時だ。
あの時は色々大変だったなぁとしみじみと思う。
若干真選組の連中が雪と会うとあの『くまさんパンツ』やら『スケスケパンツ』やら『ノーブラ発言』やらのせいで色々と想像して大変だったのだ。
今もまだ尾を引いているが、山崎も時折銀時の乗る原付の後ろに乗って銀時の背にくっつく雪を見掛けるたびに『旦那だけ爆発して死なないかなぁ〜』とか思ってたりもするが、誰にも言えない。
だが恐らく山崎を含めた真選組のほとんどがそう思っているだろうというのは断言できる。
剣を鍛えようが心を鍛えようが、所詮男は男である。
あの鬼の副長が雪に片思いしているのだ…男という生物は抗えない何かを持っているのだ。


「何奴!?」

(!!――バレた!?)

「おやおや…お前さんですか…クックックッ、来ると思っていましたよ…」

(なんてことだ…流石旦那だ…全てお見通しってことか…!)



あの男装もどきの衣服の下には男の夢がつまっていると悶々と考えていると…神楽の声に山崎はハッと我に返る。
その言葉からして早速気配を察知しバレたのだと山崎は思った。
『ちくしょう!パンツに気を取られたから…!』と若干カッコ悪い事を思いながら感心し姿を現そうとしたのだが…


「ふっ!死んだ仲間の仇討ちというわけですか?―――マスカットよ」

(は?マスカット?)


腰を少し浮かせたその時、聞いたことのない名前が出てきて山崎は固まる。
そんな山崎を放って神楽は続けた。


「マリリンのことかアア!!ブリーザあああ!!」


声を上げる神楽に山崎は滑ってこける。
幸い神楽は朗読に夢中で気づいておらず、銀時も1ページから続く朗読に飽き飽きしておりげんなりとして山崎に気付いていない。
そう…神楽はジャンプの朗読をしていた。


「どかアアん!ビシバシビシ!『ぐふっ』どぉおん!!ガラガラプリプリ、テン、プリッ、ブリブリ、ブシャアアアア…ガラガラゴシゴシ―――あ、また血ついてる」

「おォい…もうなんか訳分かんねえよ…ちょ、貸せ!もう自分で読むから!」

「駄目アル!怪我人にジャンプは刺激的過ぎネ!私が読んであげるネ!」

「だったらもうちょっと状況が分かるように読んでくれや!!」


朗読されても面白いところが面白くなくなってしまう。
しかし先ほどから神楽は銀時にジャンプを渡そうとはしなかった。
山崎はバレていなかった事にホッとしながら軒下へ入って隠れる。
その間も朗読を続けようとしている神楽に、銀時は渡さないのならせめて変な朗読はやめろと伝えそれに頷いた神楽はページを数枚めくり続ける。
しかしそれが問題だった。


「『あはん、真中殿電気を消してくだされ』そんな西野の言葉も無視して真中はおもむろに西野にまたがり獣の如く―――」

「だアアアア!!!いい!もういいって!早い!お前にはまだ――――」

「何勝手に動いとんじゃアアアア!!!!」

「ギャアアアア!!!」


神楽は『銀ちゃん向けの漫画は…』と言って選んだのは思春期の男子が夢中になるちょっとエッチな漫画だった。
そんな漫画を神楽に読ませたと雪に知られればせっかくいい雰囲気が一直線に崩れ、雪から『実家に帰らせていただきます』という文字が書かれた紙を机に置かれ神楽と定春を連れて実家に帰ってしまう。
と言ってもまだ雪から『好きです』と言葉にしてもらった事もなければ、実際に今、銀時がいるこの場所が雪の実家であることは突っ込み不要である。
銀時も流石に神楽にそんな卑猥な漫画読み聞かせられたくはないと起き上がり手を伸ばしてジャンプを取り上げようとしたのだが…正面の部屋の襖が勢いよく開き、中からは鬼が現れた。
その鬼の名は姑…もとい、最終兵器・お妙。
妙は手に持っていた薙刀を戸惑うことなく一直線に銀時に向かって振り下ろした。
銀時はギリギリに避け股の間に妙の薙刀が食い込んでいた。
それを見て銀時(とその真下にいてギリギリ刺さらなかった山崎)はホッと安堵の息をつき、妙はチッと大きな舌打ちを打つ。
しかし妙はすぐに笑みを浮かべ、トン、と薙刀の石突を床に当てて立てる。


「もう、銀さんったら本当何度言ったら分かるの?そんな怪我で動いたら今度こそ…――――死にますよ(殺しますよ)」


妙の背景に鬼と化した妙の姿が銀時の目に映った。
妙の後ろにはちらっと雪の後ろ姿があり、雪はボリボリと家にあった煎餅を音を立てて食べ、雑誌を読んでいた。
もはや恋するあの人のピンチに目もくれない。
そんな雪に助けは頼めないと…むしろ雪に助けを求めたその瞬間に命がないと察した銀時は青い顔を妙に向け引きつった笑みを浮かべる。


「すいませんけど病院に入院させてもらえませんか!!幻聴が聞こえるんだけどォ!!なんかねェ、君の声がねェ、ダブって『殺す!』とか聞こえるんだけどォォ!!――ッいやいや!!君が悪いんじゃないんだよォ!?俺が悪いのさァ!!」

「駄目ですよ?入院なんてしたらどうせすぐ逃げ出すでしょう?ここならすぐ仕留められるもの」

「ほら!!今もまた聞こえた!!仕留めるなんてありえないものォ!言う訳ないものォォ!」

「銀さーん、幻聴じゃありませんよー」


妙が自分を憎み殺したがっているのは知っている。
が、確実に今はないと思いたいのだ。
いや…冷静に考えれば高杉から雪を奪還した自分は彼女にとってすでに用済みであり、そんな自分を看病をして暗殺(というよりかは堂々としていたが)しようと企んでいるのではないかと銀時は思った。
むしろそうならない方が可笑しい。
自分ならそうするからだ。
妙は自分の事を殺したいほど嫌っているが、それは何も妙だけではない。


「てんめェ!!看病を装って俺を殺すつもりかゴラァァ!!人がどんな死ぬ思いで帰ってきたと思ってんだ!!殿なんて久々過ぎて死ぬかと思ったんだぞゴラアア!!」

「そうですか、そのまま死ねばこんな手間を掛けずに済んだんですけどねェ?ねえ、銀さん…なんで生きて帰って来たんです?」

「テンメエエエ!!雪の姉だからって今まで手出しできない事をいいことに言いたい事言いやがって!!本気になりゃお前なんかひとひね―――」


銀時も堪忍袋という物がある。
仕事とはいえあんな天人を相手に戦ったのは攘夷戦争時代以来であった。
殿も久々で、平和に慣れ親しんだ体にはちょっぴり酷でもあった。
それは決して年齢が関係あるわけではない。
そう、年齢は、関係ないのだ。(大事な事なのでry)
だからこそ労わられることはあっても罵られ殺されかけるいわれはない。
今日こそガツンと言ってやろうとし襲い掛かろうとした銀時を一本の光の線が描かれた。
それは妙が薙刀を振り下ろした時に出来た刃の光であり、銀時はその光と殺気にその場から動かなくなる。


「私なんか…なんだ?あ?」

「……なんでもありません…」


敵ならばその殺気を感じた瞬間に飛び退けて反撃したり刀を跳ね返したりするだろうが、相手は妙。
敵は敵でも本気で危害を加えれば雪が泣くのは必須。
銀時が本気を出せば妙など相手にもならないが、雪に嫌われるのが怖くて凄む妙に青い顔をさせながら謝り素直に布団に横になった。
それを見て妙の顔は鬼からいつもの笑みへと戻って銀時の傍に座り、持って来たソレを銀時に差し出した。


「そろそろお腹が減ったでしょ?お料理作りましたよ…卵がゆを作ったんだけどどうぞ…でも動けないから食べさせてあげないとね」

「…これ…拷問ですか…」


差し出したソレは卵がゆだった。
だが例のごとく妙の手によってそれはダークマターへと変貌を遂げ、卵がゆだというその黒い物体は何故かジュワァァァ、と音を立て煙を吹き出していた。
妙の料理が不味いどころの話ではないと知っている銀時は青い顔を更に真っ青にさせる。


「姉御!私にやらして!」

「はいはい、神楽ちゃんはお母さんね、どうぞ」


看病というイベントを楽しんでいる神楽は食べさえるのをやりたがり、妙はなんでもやりたがる神楽に先ほどとは真逆の優し気な笑みへと変えダークマターの乗っている茶碗を渡そうとする。
しかしその際に手を滑らせダークマターは銀時の股の間…それも開いた穴の真下に落ちた。
ダークマターは丁度開いた穴を覗いていた山崎の片目に襲いかかり、山崎は声なく叫び声を上げ煙を上げ激痛が走る片目を押さえ込む。
声を出さないのがプロ中のプロである。
しかし山崎は深読みをし、銀時達が自分に気付いていると思い撤退をしようと軒下から出ようとした。
だが…


「向こうに残りがあるんで取ってきますね」


そう妙が残りのダークマターを取りに行こうと背を向けた時…銀時は動いた。
銀時は白夜叉と呼ばれ恐れ戦かれていた時よりも素早く妙と妙のダークマターから逃げ出そうと起き上がって逃げようとした。


「動くなっつってんだろうがアアア!!」

「ぎゃああああ!!」


当然その動きは天敵である妙に簡単にキャッチされてしまっていた。
銀時は振るわれる妙の薙刀をギリギリに交わし庭へ出たが、同時に山崎も軒下から出て銀時とは別方向へ妙達から逃げた。


「冗談じゃねエエ!!こんな生活身がもたねエエ!!」

「待てゴラ天パアアアア!!」


そう言って銀時は逃げ、それを神楽が追う。
雪の看病ならむしろ逃げることなく自分から受けたい。
怪我をしていなくても事故でも自傷でもして受けたい。
だが世の中そんなに甘くはない。
神楽は、まあ、いいだろう…あいつは雪が止めてさえしてくれれば被害はないし、純粋に看病というものをしたいだけである。
だが妙は駄目だ。
あいつは駄目だ。
何が駄目だというと生きるか死ぬかのデス看病だからだ。
あいつが何故常に薙刀を持っているかみんな知っているだろうか?
それはいつでもどこでも天敵である自分を殺せるようにである。
銀時はそう被害妄想(だが合ってると言えば合っている)を思いながら必死に走った。
それはもう戦争の時よりも必死に生き抜こうとしていた。
だがそんな銀時に妙は舌打ちを打ちまったりとしている可愛い愛すべき妹へ振り返る。


「雪ちゃん!要塞モードオンよ!!」

「は〜い」


今日はいつもよりやる気のない雪の返事と共にぽちっとスイッチを押す。
すると屋敷の屋根の冠部から槍状の柵が出現し、門にも丸太の柵が降ろされた。
出入り口も屋根も塞がれた銀時は立ち止まり隙間を探るため周りを見渡す。
だが、周りには多数のトラップがセットされており銀時はよくこの家に来ているが初めて見たとギョッとさせる。
そんな銀時をあざ笑うように志村家に妙の笑い声が響き渡る。


「フハハハ!!!逃げられると思うてか!!!この屋敷はなァ!幾多のストーカー被害を受け!賊の侵入を阻むためコツコツ武装を重ね!もはや要塞と呼べる代物になっているんだよ!!!ネズミ1匹逃げられやしない鋼の要塞にね!!」


妙の言葉に銀時はゴリラ兄弟を思い浮かべる。
高々に笑う妙に雪はポツリと―――


「道場の復興は?」


と煎餅を食べながら呟いた。


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