(6 / 11) その後 (6)
雪は漫画も読み終えた時、銀時の悲鳴に飛び起きた。


「ひ、悲鳴!?…ってあれ?銀さん?神楽ちゃん?姉上?」


雪は漫画で夢中で周りの状況が分かっていなかったのか布団が蛻の殻だったのと三人がいないのに気づく。
とりあえず悲鳴があった場所へ行こうと部屋から出て庭から向かおうとしたのだが、屋根から槍の柵が上がっているのを見て『あれ、いつの間に要塞モードがオンになってる…』と思う。
その後『また近藤兄弟が来たのかな…』と深く考えず、歩けるようにするため要塞モードをオフに戻す。
これでようやく罠を踏んでも発動するのを防げる。


「あれ?山崎さん?」

「あ、お雪ちゃん…」


声のした方へ足を向ければ、そこには何故か合掌している山崎と鷹臣がいた。
鷹臣の姿はすでに無視をしているため雪は山崎しか目と目を合わそうとしない。
忍者のような黒装束を着ている山崎に雪は首を傾げ、山崎はもはや疲れ切っていて焦る余裕もない。
雪は『ゴリラ兄弟を引き取りに来たのかな』とやはり深く考えず追及もしなかった。


「この辺から誰かの声がしたと思ったんですけど…そういえば、銀さん達知りません?」

「……あそこ、見てごらん」

「?」


周りを見渡しても銀時達の姿はなく、山崎に問う。
山崎が知っているといいな程度に問えば、山崎が落とし穴の一つを指差した。
その穴を覗き込めば雪は目を丸くさせる。


「……なんなんすか、これ…」

「…まあ…話せば長くなるようで短いんだけど…」


山崎は銀時が逃げてからの事を雪に話す。
雪は既に山崎はゴリラ兄弟を迎えに来たとばかり思っておりその場所にいて一緒に追われていたことに疑問はなかった。
雪は山崎の言葉にため息をつき、山崎に深々と頭を下げる。


「本当、ご迷惑をかけまして申し訳ないです…」

「えっ、あ、いや…だ、大丈夫だよ!迷惑って思ってないからお雪ちゃんが頭を下げることないんだし!!それに頭を下げるならこっちっていうか……いつもゴリラ兄弟がごめんね…」

「いえ、こちらこそ迎えに来てくれた山崎さんを巻き込んでしまって…」

「いやいや、こっちが原因だから!」


『こちらこそ』『いやいやこっちも』、と二人して謝る。
雪はゴリラ兄弟の事は否定はしない。
あの二人のしつこいストーカーのせいでこの家は道場というよりは要塞になっているのだ。
恐らく姉は下着泥棒の時に罠を掛ける事を思いついたのだろう。
だが、だからと言って迎えに来た山崎に罪はない。
山崎も山崎でここに来た理由が理由だからか罪悪感がものすごかった。
謝る二人を鷹臣が見ているというシュールな光景だったが、2人は謝りあうお互いに顔を見合わせ笑った。
結局お約束に『お互い悪い事にしましょう』と綺麗に片付け、山崎に穴の中の回収の手伝いを頼む。
ギャク漫画だから怪我を負っただけで済んだが、現実ならば串刺しになり死んでいただろう。
そんな5人を回収し、雪は次に部屋まで運んでもらうことにした。
ここは今まで散々無視していた鷹臣にも運んでもらう事にした。
近藤と猿飛は真選組が引き取る事になり、山崎は妙を、雪は神楽を、鷹臣は銀時を部屋に運ぶことになった。
妙の部屋に男を入れるのはどうかと思ったが、山崎なら大丈夫かと思い雪は神楽を壁を背もたれに座らせ妙と神楽の分の布団を敷く。
因みに鷹臣は『1人で大丈夫だよ』と言って銀時が看病されていた部屋に一人で向かった。
心配があったが鷹臣なら寝首を掻かないだろうと思い放置することに。
心配があるとしたらあの布団を変えずそのまま寝かせそうで心配だった。


「ね、起きてるんでしょ?重いから自分で歩いてくれないかな」


心配そうな雪の視線を背に受けながら鷹臣は銀時を抱き上げ(しかも横抱き)廊下を歩いていた。
雪が妙の部屋に入りこちらを気にする気配が消えたのを見て鷹臣は銀時に声をかける。
その声に閉じられていた銀時の瞼はうっすらと開けられ鷹臣を見上げる。
その目は相変わらず冷たく刺すようだった。
その目に鷹臣は怯むことはなくにっこりといつもの優男の顔を浮かべており、それが銀時は気に入らないと言わんばかりに舌打ちを心の中で打った後鷹臣の腕から降りる。


「てめえ、なんでいんだ」

「何でって…決まってるだろ?お雪さんの平和な日々を守るのが俺の仕事だからね」

「仕事ォ?俺ァ、てっきりてめえの仕事は裏切りだと思ってたが?俺たちの次は今度は真選組か?お忙しいこって。」


前を歩く銀時の問いを鷹臣はニコニコと表情変わらず答え、銀時はその笑みに苛立ちを覚える。
いつもはスルーし赤の他人を装える鷹臣の存在だが、今日はどうもいつもの寛容な心が持てないようだった。
恐らく、旧友と会ったからだろう。
脳裏に高杉を思い浮かべ今度は隠さず舌打ちを打つ。
銀時の態度に鷹臣は平然とさせ『おや』と微かに目を見張って見せる。


「裏切りは銀ちゃんの方だと思ったけど?なんたって銀ちゃんは"あの人"の首を斬ったんだしねぇ…」

「…黙れ」

「しかし…銀ちゃんも案外したたかだよねぇ…友を前に"あの人"の首を斬ったんだから」

「黙れってつってんだろうが」

「まあ、でも…"あの人"は見る目ないよね…なんたって銀ちゃんはマダオになって、晋ちゃんは過激派攘夷浪士で、コーちゃんは穏健派だけど同じ攘夷浪士なんだもん…これだったらまだ坂本って奴の方がマシ―――」


鷹臣は銀時に胸倉を掴まれ言葉を切る。
それでも鷹臣の表情はピクリとも変わらず、銀時は殺さんばかりに鷹臣をその赤い目で睨みつける。
久々に見る殺気駄々漏れの赤い目に鷹臣は愉快そうに目を細めた。


「黙れって言ってんのが聞こえねえのか?てめえのその耳は飾りか」

「やだなぁ、聞こえてたに決まってるだろ?でも無視をしてたんだよ…え?なに?銀ちゃん、怒っちゃってる?こんな事で?銀ちゃんってばいつまでたっても短気なのは変わらないよね」

「だからその口を閉じろって言ってんだ…あと俺たちをその名で呼ぶな…てめえに言われると虫唾が走るんだよ」

「ふーん、そう…ね、そろそろ気がすんだでしょ?いい加減その手離してくれないかな?でないと…―――君の腸引きずり出していまいそうだからね」


銀時は鷹臣の言葉に腹部を見る。
そこにはいつの間に抜いたのか、鷹臣の刀の刃が当てられていた。
恐らく少し力を入れれば銀時の腹は裂かれる。
まだ首だけじゃないところ見ればあちらも少しは丸くなったのだろう。
銀時は素直に手を放し、鷹臣は刀を鞘に仕舞う。


「お前…真選組にも溶け込んでやがったが…確かあのゴリラの弟とか言ってたな…今回はその設定でいくのか」

「ん?いや、兄上は本当に兄上だよ?ちゃんと血が繋がってる兄弟」

「あ?お前あの時拾われたとか言ってなかったか?」

「ま、それも事実だよ…だって俺、誘拐されたんだからね」

「…………誰に」

「せ・ん・せ・い」


歩き出す銀時に鷹臣は続き、銀時は不意に鷹臣が近藤の弟だというのを思い出す。
あの時、鷹臣は捨てられていたと聞いた。
だから自分と同じ孤児だとばかり思っていたのだ。
鷹臣の言葉に銀時は立ち止まり振り返りながら問う。
しかしその返ってきた答えに銀時は思わず手を出しそうになった。
だがここは志村家であり、雪もいる。
これ以上怪我が増えて雪を心配させたくはなかった。
なんたって銀時は一度として鷹臣に勝てたことはなかったのだ。
先ほども頭に血を上らせたとはいえ鷹臣の刀に気付かなかった。
そのくやしさもあり銀時はギロリと睨む。
その睨みに鷹臣は『恐いなぁ』と笑う。


「ま、嘘半分真実半分かな?…誘拐されたのは本当。ほら、俺って美形だからね」


自分を指さしナルシスト発言をする鷹臣に銀時は『言っとけ』と相手にせず背を向ける。
だが、意識は鷹臣に向けられていた。
いつ斬られるか分かったものではない相手だからだ。
昔、4人で笑い合った記憶を思い出し、銀時は舌打ちを打ちたい気分になる。


「なんであいつらといる?」


その問いはなんとなくだった。
何となく、気になったから聞いた。
ただ、それだけでなんの意味もない。
だから誤魔化されようがはぐらかされようがどうでもよかった。
だが鷹臣はその問いに銀時をきょとんとした顔を見せた後考え出す。
黙りこくって立ち止まった気配を感じた銀時は足を止め振り返る。
顎に指をやり考える鷹臣を見て銀時は内心目を丸くさせて驚いた。
自分の知る鷹臣とは全く別物に見えたのだ。


「……なんでだろう……兄上達と一緒にいると落ち着くからかな?」


そう答えた鷹臣の言葉はどうしてか…本心だと思いえた。
銀時の脳裏に、鷹臣と手と手を繋げる"先生"が浮かんだ。


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