(3 / 23) そういう時は黙って赤飯 (3)
あれから数か月、雪は1人で外出するのを禁止にされ、万事屋に出勤すらしなくなり……万事屋から太陽が消えた。





神楽は朝起きてまず確認するのは音。
毎日じゃないが、朝雪が出勤してきた時に聞くトントントンというまな板を叩く音がないかを確認していた。
しかし今日もその音はなく、音が消えて数か月…神楽は諦め悪く台所に向かった。
だがやはり台所に割烹着を来た16歳の少女はなかった。
その後銀時の部屋へと向かえばその部屋の主はいなかった。
それもまたいつもの事である。
銀時は毎日志村家に行って頭を下げている。
家に入れてもらえず門の前でずっと頭を下げる銀時は歌舞伎町で有名となり、その姿が哀れで同情した人が妙に『許してやりなよ』と言ったり銀時のフォローもしてくれたが、妙はそれでも決して首を縦に振る事もなく世間体を気にして銀時を中に入れるでもなく、徹底して銀時を無視し、銀時と雪の接触を拒み続けた。
妙は決して雪を一人にはさせない。
万事屋を始める際動きやすいからという理由で袴を穿くようになった雪の姿はもはやなく、今や女の子らしい女物の着物を着ている。
雪は今、スマイルで働いており正直給料的には今の方が志村家は安定している。
だけど懐は温かくても、雪の心は冷え切っていた。
スマイルに出ているときは元気さを見せているようだが、ひとたび仕事を離れると笑顔が消え落ち込んでいるように暗くなるらしい。
神楽は何度か遠目で雪を見たことがある。
あの時も妙が雪の傍にいた。
そしてあの憎きマヨラーとドSもいた。
それを見て『なんであいつらは雪と会えるのに私は会えないのか』といつも思った。
だけど銀時のせいとは思っていない。
銀時も…いや、神楽以上に銀時の方が辛いのだ。
やっと想い合った二人なのに…まだ交際すらしてないうちに離れ離れになり、こうして神楽と同じく遠目で自分たち以外が彼女の傍にいるのをただ見ているだけしかできない。
この虚しさやもどかしさは言葉や体で表現できるものではない。
神楽はいつも雪が誰かといるのを見ると来た道を戻り万事屋に帰って押し入れに閉じこもる。
それを銀時は何も言わずそっとしてくれる。
いや…罪悪感を感じているのかもしれない。
そう考えていると欲求に忠実なお腹がぐー、と鳴った。


「腹減ったアル」


神楽は自分の欲求に従い着替え髪を降ろしたままに後一階にあるお登勢の店に向かった。
雪が来なくなってからは、神楽はお登勢の店にごはんを食べに行くのが習慣となった。
その理由は一人で食べても何も美味しいと感じなくなり、何よりお互い料理や家事をする気力すらないのだ。
階段を降りていくと丁度お登勢の店から銀時が出て来た。
銀時は家に帰ろうとしていたらしいが、どこか焦った様子を見せていた。


「神楽!丁度良かった…今お前を呼ぼうとしてたんだ」

「?、何アルか…急な仕事アルか?」

「いや違うが…ちょっと来い」


雪が来なくなってから神楽も銀時も口数が減った。
周りも落ち込んでいるように見えるのか(まあ実際はそうなのだが)見守ったり何かと世話を焼いてくれたりと色々してくれてはいるが、やはりそこに雪がいないから二人の元気は中々戻らない。
しかし目の前にいる銀時の目を見て神楽は違和感を感じた。
神楽を呼びに来たらしい銀時の目は最近いつも以上に死んでいたはずなのに、今はとてもキラキラと輝いていた。
声の張りもいつもよりあり、神楽は怪訝とする。
銀時は首を傾げる神楽の手を取りお登勢の店に駆け込む。


「もう!一体なんネ!何をそんな急いで…」

「神楽ちゃん」

「―――っ!!」


扉を開けようとする銀時に神楽は声を上げかけた。
しかしその声を懐かしい声が遮るように神楽の耳に届く。
その声に神楽は銀時からお登勢の店内へと顔を向けた。
弾かれたように顔を向けた神楽の目はこれでもかと丸くする。


「神楽ちゃん…」

「雪……ッ―――雪!!」


お登勢の店にはもう何か月も遠目でしか見ていない…雪の姿があった。
神楽は雪の姿を見た瞬間雪へ飛びつき、その勢いに雪が尻もちを撃ちかけるもたまが支えてくれて何とかお尻を痛めることはなかった。
神楽は久々の雪をぎゅっと抱き着く。


(雪アル!雪!!雪がいる!!)


なぜここに雪がいるかはなんて思わず、雪の存在を確かめるために神楽は雪を思いっきり抱きしめた。
その力に雪が『い、痛いよ神楽ちゃん』と零せば神楽はゆっくり力を抜き、雪が痛くない程度の力で抱きしめる。
雪の柔らかい胸に顔を埋めるように抱き着き、神楽の鼻に懐かしい雪の良い匂いがかすめる。
さっきから雪、雪としか言っていない神楽の頭を雪は笑みを浮かべ撫でてあげる。


「なんでここに雪がいるアルか!?もしかして銀ちゃんやっと姉御に許してもらったアルか!?」

「それは…」


雪は姉の妙に一人での外出は禁じられている。
それは雪が銀時のところに逃げると分かっているからだ。
それが雪がここにいるということは、やっと姉の妙に交際を認めてもらったという事になり、これでやっと万事屋に太陽が上がると神楽は銀時へ振り返る。
だが、銀時の顔は険しい表情を浮かべており、神楽はお登勢を見た。
お登勢も雪と神楽の再会を微笑ましく見ていたが、その表情を曇らせ、雪を見ればキュ、と唇を噛んで何かに耐えていた。
それを見て神楽は違うのだと察する。


「神楽、とりあえず座れ」


扉を閉めた銀時の言葉に神楽は従い、雪の手を取って指差された奥のソファに座る。
神楽と雪が座った後銀時も続き、『雪』と雪の名を呼びながら膝を軽く叩く。
それに頷いた雪が銀時の膝を枕にソファに寝転んだ。
雪の髪を撫でていると、雪は銀時の手に安心したのかゆっくりと瞼を閉じてすぐに眠りについた。
それを見た神楽は眠る雪から銀時へと目をやった。
その目は『全て話せ』と語っており、銀時は雪が眠っているため声を小さくしてこれまでに至った経緯を話す。


「妙が雪に俺たちに会わさんとしてるのはもう知ってるよな?スマイルにも連れていることも、妙が四六時中雪の傍にいることも」

「…うん」


神楽は銀時の言葉に頷く。
妙は異常なまでに銀時と神楽を雪を近づかせるのを嫌う。
神楽に敵対心はないだろうが、何しろ神楽は銀時側の人間。
妹との接触を許せば銀時に攫われると思っているのだろう。
あれから妙は銀時だけではなく神楽にすら見ようとはしない。
あの以前の妙との仲は良好と言えば良好なため寂しくはあるが、それでも雪が欲しいと思うのは銀時だけではないのだ。
神楽は今は辛いが銀時なら雪を取り戻してくれると思っている。
頷くと結っていない神楽の髪がさらりと揺れる。
それを銀時はチラリと見た。
別に神楽の髪をいつも雪が結っているわけではないが、あの時から神楽の髪は結われないか一つにまとめるかのどちらかになった。
あのトレードマークのような二つのお団子を最近見ていない。
それにいつも顔を合わすたびに喧嘩ばかりしていたドSとも最近は喧嘩をしていなかった。
顔を合わせばお互い目に入れずないものとして扱っている。
それは銀時もほぼ同じだった。
土方とも以前のような言い合いもなくなった気がした。
まあ、それほど雪を取り上げられた事は二人にとってショックだったということなのだろう。
銀時は神楽を見た後眠る雪を見下ろした。


「雪は妙の隙をついて家から抜け出したらしい」


その時も銀時は妙達が帰ってくるのを見計らってその前に志村家の前で頭を下げていた。
そんな銀時を無視して妙は雪の手を引っ張って家に入った。
いつもはその後数時間そのままでいて仕事をするため万事屋に帰るのをずっと数か月繰り返していたが、その日も万事屋に帰ろうと歩いていた。
しかし万事屋と志村家の丁度半分くらいの距離に雪に引き留められたのだ。
後ろから走ってくる雪に驚いたが、何より雪は草履を履いていなかった。
女物の着物を着て走りにくかったであろう雪の足には足袋しか穿かれておらず、足袋のまま走ってきた雪に銀時は咄嗟に屈み雪のひざ裏に腕を回して抱き上げる。
どうしたと問えば雪は会いたくて来たという。
数か月、ずっと雪は我慢していた。
銀時に会いたくて、神楽に会いたくて、定春に会いたくて…でもこんな事になっても雪にとって姉は大切な人だからずっと我慢していた。
その我慢が限界に来たらしく、大人しいから油断していたらしい妙の隙をついて雪は家を飛び出して銀時を追いかけたのだという。
雪の言葉に銀時は体を震えるほど嬉しく思った。
姉を大切にしている雪がその姉の命令ともいえる言葉を無視してでも自分に会いたいと思ってくれたことが嬉しかった。
神楽はその言葉に銀時のように心を震わせるほど嬉しく思いながら、雪を見た。
雪の足を見れば草履がなく、真っ白な足袋の足の裏が汚れていた。
それは恐らく逃げることに必死に草履をはく暇がなかったからだろう。
確かに冷静になって雪の顔を見てみれば顔色が悪く見える。
目にも隈が酷く、銀時の膝の上で寝ている彼女の表情は和やかだった。


「雪…無理、してたアルか…」


神楽はそうポツリと呟く。
見ると辛いから見ないようにしていたが、雪は笑顔を浮かべていたがその笑みは神楽や銀時が好きな笑みではないことに今更ながら気づく。
『そうだな』と返ってくる銀時の言葉に神楽はグッと拳を握る。
正直に言うと、ここまで追い詰めたのは銀時ではなく妙だと神楽は思う。
だけど妙の気持ちも分からなくはなかった。
妙も銀時も神楽も…雪が大切なのだ。
だけど大切な人という共通はあってもその感情はバラバラだった。
妙は妹を取られたくないという独占欲があり、雪の気持ちを垣間見ない部分もある。
銀時は妙もだが他の人間に取られたくないという独占欲が強いが、多少は雪の気持ちを優先とさせる。
神楽は雪の気持ちを無視し、銀時しか恋人を許さないという独占欲があった。
神楽は雪を見ていた後銀時に目をやる。


「銀ちゃん、これからどうするアル」


神楽の問いに銀時は雪から神楽を見る。
しかしすぐに逸らされ銀時はまた雪を見下ろした。


「雪が望めば帰すつもりだ」

「なぜアルか!!雪がまた姉御のところに帰ればまた雪が苦しい思いをするネ!!銀ちゃんはそれでもいいアルか!?」


銀時の回答に神楽はカッとなり立ち上がって思わず声を上げた。
その声に雪が身じろぎをし、銀時が神楽に『静かに…雪が起きる』と言って口元に人差し指を持っていく。
それに神楽も我に返ったのか口で手で覆って座り直した。
2人の話を黙って聞いていたお登勢が煙草に火をつけながら入ってくる。


「…雪を帰すなり雪を匿うなりするのは勝手だけどね……その後はどうするんだい?」

「どうって…何がだ」

「惚けるんじゃないよ…雪を帰した後はまた頭下げ続けるのかい?雪を匿った後はどう生活していくんだい…どっちにしろいつまでもそのままじゃいられないだろ」

「………」


お登勢の言葉に銀時は黙りこくる。
正直、雪には自分たちを選んでほしいとは思ってはいる。
だけど銀時は雪は自分たちを大切にしてくれているのと同じく、妙も大切にしているのを知っている。
だから恐らく雪は一人になってしまう姉の元へ帰るのだと思っていた。
その後また自分は志村家に毎朝通って頭を下げ続けるのだろう。
あの妙がそんな事を続けさせるほど甘くはないと分かっている。
だけど銀時が出来るのはただ誠意を妙に見せるしかできないのだ。


「…決めるのは俺や雪じゃない…お妙だ」


銀時のその言葉にお登勢は口を閉ざした。
お登勢だけではなく、神楽やたま、キャサリンも銀時の決めた選択に何もいえなかった。
しかし、その彼の顔はとても優しく、すやすやと眠る雪の頬を撫で微笑んでいた。
それを見ていると不思議と何とか丸く収まりそうな気がしてお登勢はただ一言、『そうかい』とだけ呟いた。


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