(5 / 23) そういう時は黙って赤飯 (5)
「あら沖田さん」


沖田は今日もサボり、団子屋でおやつタイムに耽っていた。
もぐもぐと団子を口に入れてその美味しさを噛みしめていると声を掛けられた。
声の方へ目をやれば上司が恋してるお妙と、その妹である雪がいた。
お妙はいつもの笑みを張り付けて沖田に歩み寄る。


「今日もサボリですか?」

「まあ」

「そうですか、警察も暇なんですねぇ…ほぼ毎日ストーカーできて毎日サボれるんですから」


『私達の税金を無駄に使ってくださってありがとうございます』と嫌みを言われ『どういたしやして』と返してみた。
どうも沖田はお妙が苦手だった。
それは辛辣だからというのもあるが、『姉』というポディションだからかもしれない。
それに接触がありそうで意外と自分と妙の絡みは少ない。
どちらかといえばその隣にいる雪の方がまだ絡みがある。
沖田はそう思いチラリと雪を見た。
沖田と目と目があった雪は小さく頭を下げて挨拶をし、その顔色を見て沖田は目を細めた。
顔色は、悪い。
だが以前よりはいい。
どうやら銀時や神楽と会ったことで多少の心の余裕が出来たのだろう。


「一杯どうです?」


何となくここで別れるのは勿体ない気がして沖田は妙と雪を誘った。
普段なら妙と一緒の時は誘わない。
必ず妙が断るからだ。
今日もお断りされかけた沖田だったが、雪が妙の着物をつんと引っ張り『姉上、甘い物食べたいです』と小さく呟けば妙はコロリと落ちる。


「じゃあ、お団子二つお願いします」


妙は雪の願いを当然聞き入れて沖田の隣に座る。
可愛い妹にデレデレとしながらもちゃんと沖田の隣に雪を座らせないところはきっちりしている性格である。
看板娘にお団子を頼み、妙は『こういうのもたまにはいいものね』と零し、その言葉に断ろうとしたくせしてどの口が言うのだろうかと沖田は思いながら『そうですね』といいとも風に返した。
雪は妙の隣でお茶を飲んでいたが、ふとある場所を凝視する。
妙はまだ気づいておらず、気づいたのは沖田だった。
気になって目線の先を見ればそこには大きな白い犬と赤いチャイナ服を着た天敵がいた。
だが天敵を見ても最近は自主的に揶揄いや暴れにはいかない。
面白くないのだ。
腑抜けたヤツを相手にして面白いと思う方がどうにかしている。
天敵はすぐに引き返し人込みに消え、同時に沖田は興味を失くしたようにお茶を飲む。


「ところで…最近クソゴリラ兄弟を見ないんですけど…仕事か何かかしら?」

「相変わらずタッキーは忙しい身でしてね…今日も今日とて暗殺の日々でさァ…近藤さんは姐さんの知っての通りでさァ………もし気になるんなら呼びますが?」


携帯を出して見せれば妙からは無言の笑みと拳を見せられる。
グッと握られた拳とその笑みに含まれた意味を察しながら沖田は『冗談でさァ』と携帯を元に戻した。


「雪ちゃん、もう失礼しましょうか…」

「…でも…まだお団子が…」

「お持ち帰りさせてもらって家で食べましょう」

「……はい」


雪が黙々と食べていると妙は切り上げると言いだした。
ぼうっと団子を食べていた雪は意外そうに姉を見たが、姉は有無を言わさず店員に残った団子を包んでもらう。
しょんぼりとさせる雪の手を引いて立たせ妙は店員に自分達の団子代を渡そうとし、それを沖田が止めた。


「奢りやすぜ」

「それは困ります…あなた達に借りを作りたくないもの」

「だったら近藤さんがいつも迷惑かけてるんで、迷惑料っつーことで」


沖田も希望の見えない恋にそろそろ諦めりゃいいのにと思いつつあった。
だが近藤の春を応援したいという思いもある。
結局考えた末に本人達に任せると投げ捨てたが、それでも迷惑をかけているという自覚はちゃんとあった。
そう言えば小銭を握っているその妙の手は戻りサイフに小銭を戻した。
妙も妙でストーカー被害に悩まされているのだ。


「じゃあ、沖田さん…あまり私達の税金、無駄に使わないでくださいね」

「へーい」


暗に『サボらず働け』と言われ沖田は適当に返す。
それも慣れているのか妙はそれ以上何も言わず雪の手を取って速足に帰宅の途に就こうとしていた。


「なにをそう怖がるんだろうな」


沖田はその背を見送りながらポツリと呟く。
妙が突然切り上げようとしたのも、速足で帰ろうとしていたのも…全て神楽のせい。
雪が神楽を見ていた時、妙は気づいていないのではなく気づかないフリをしていたのだ。
それは沖田だけが気づき、妙が何に怖がっているのか全く理解できないと思いながら残った団子を口に放り込んだ後お金を椅子に置いて店を離れる。


「おい、ストーカー娘」

「誰がストーカーアル…ストーカーはお前んとこの上司ネ」


向かった先は裏路地に続く道。
そこには天敵がいた。
さっきからコソコソとこちらを…正確に言えば雪を盗み見てしょんぼりとさせてるのを見て久々に揶揄ってやろうかと思って沖田は歩み寄った。
だが、いつもの調子で返しては来るが、殺気も覇気のないその返しに揶揄おうとする気持ちも萎んでいく。


「今のてめェも立派なストーカーだろうが…万事屋やめてストーカーに転職か?」

「…うるさいネ…さっさと仕事しろよ公僕が」


沖田は苛々していた。
ぶすっとさせる神楽にも、奪える力がありながらも妙から雪を奪おうともしない銀時にも、そして代わりに寝取ってやろうと思えなくなった自分にも。
認めたくはないが、結局どう足掻こうと雪が本当に愛するのは銀時しかいないのだ。
覇気のない返しに舌打ちを打ちジメジメしてる奴を相手にしたらこっちがキノコが生えると思い離れようとした。
しかしそんな沖田に神楽はポツリと呟く。


「…雪、元気だったアルか」

「は?」

「…雪の事アル…雪の様子、どうだったアルか」

「…………」


神楽の言葉に沖田は溜息をつく。
面倒臭ェ、と思っているのだろう。


「そんなに気になるんならてめェで確かめりゃいいだろ」

「それが出来たらとっくにやってるネ…できないからお前に聞いてんだろ」


銀時と神楽を妙は警戒し、姿をチラリと見ただけですぐに離れた。
その様子を見て例えバッタリ会ったとしても妙は彼等の前から雪を引き離し碌に顔を見ることも話す事もできないのだろう。
『そりゃそうか』と沖田は呟き家の杉板の塀にもたれる。


「まあ、顔色は相変わらず悪かったが前よりはよくなったとは思う…食欲はあるみたいだが喉を通ってるかは分からない」

「……そうアルか」


団子をわざわざ姉に頼んで食べるくらいだから食欲はあるのだろう。
ただ、それは姉と二人っきりでいたくないからか、それとも神楽に気付いていたからかは分からないが。
ホッと安堵する神楽の声を聞きながら沖田は通り過ぎる人達へ目をやるフリをする。


「旦那はどうなんだ」

「銀ちゃん?」

「ああ…雪を家に帰したって聞いたが…おめえはなんで止めなかった?雪は旦那を好いてる…旦那が引き留めりゃ雪は帰らなかったはずだ」

「………」


沖田の言葉に神楽は口を閉じた。
沖田は雪に恋していた。
自分を気絶させる女はそういない。
だけど雪が選んだのは自分や土方ではなく…坂田銀時。
銀時が交際を断られても頭を下げに志村家に毎日通っているというのは噂で知った。
それを知って沖田は驚いた。
銀時なら妙の意志など気にもせず雪に手を出すと思ったからだ。
だけど実際銀時は今でも毎日志村家に通って外で頭を下げ続け、妙が許してくれるのを待っている。
雪が脱走した時だって保護はしたようだが、雪を志村家に…妙の腕に返した。
それを聞いて素直に彼は銀時に『馬鹿だろあいつ』と思った。
自分なら脱走してでも来てくれた彼女を二度と手放すことはしない。
それが雪の意志に反したとしても。


「銀ちゃんは…選ぶのは姉御だと言ってたネ」

「選ぶのは姐さん?なんだそりゃ…この問題は旦那と雪の問題でもあるだろ」

「…私も銀ちゃんが何を言いたいのか分からないネ…でも……銀ちゃんが雪を帰したんじゃない…雪が家に帰りたいって言ったから銀ちゃんは雪を姉御のところに帰したネ」

「……なんだよ、それ…」


神楽のぽつりと呟かれたその言葉に沖田は怪訝とさせた。
先も言ったように、沖田なら雪が姉から逃げてでも来てくれたその瞬間から決して彼女を逃がすようなことはしない。
妙や雪が何を言おうが周りが何を思おうがこの手に落ちて来た好いた女を手放すなど男ではない。
自分が、そして土方が、片想いして決して通じることのない想いだというのに銀時はそれでも雪を手放した。
それが沖田は腹が立った。
まだこれだったらバカップル並みに見せつけられた方が失恋を諦めきれるというのに…

沖田は苛立ちを抑えるようにポケットに入れた手を握りしめる。


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