(6 / 23) そういう時は黙って赤飯 (6)
近藤勲。
彼は今、ピンチだった。
それは片栗虎に手渡されたものから始まった。


「……これって…」

「見合い写真だ」


警察庁に呼ばれた時点で可笑しいとは思ったのだ。
むしろ電話で『お前1人で来い』と言われた時点で怪しいと思った。
そして更には『鷹臣とおさきには言うなよ』と言った時点で怪しいと思った。
怪しいと思いながらも上司のお誘いである。
仕事かもしれないと誤魔化しながらが来てみれば案の定である。
『これ見とけ』と言われて開けばそこには着物を着た…――――ゴリラがいた。


「ゴリラじゃねえか!!」

「ゴリラじゃねえ!!猩猩星の第三王女だ!!」

「でもゴリラじゃん!!」

「だからゴリラに見えてもゴリラじゃねえってつってんだろうが!!」


近藤はお見合い写真だというゴリラの写真を机に叩きつける。
声を上げる近藤に負けじと片栗虎も声を上げる。
ある程度ゴリラゴリラと連発すると片栗虎は気が済んだのか座り直し煙草を吸う。


「てめェもいい歳だ…世間体も考えそろそろここいらで結婚でもして落ち着かせるのも悪くはねェだろう」

「いや、でも…とっつぁん…俺にはお妙さんっていう運命の相手が…」

「その運命の相手にてめえは一切相手にされてねえだろ……近藤…お前いつまで若い娘の尻を追いかけまわすつもりだ?いつまで独身でいるつもりだ?迫っても靡かねえ女を選ぶよりも自分を愛してくれる女を選べ」

「いや、でも…とっつぁん…愛してくれるって言っても…これ、ゴリラなんだけど…」

「馬鹿野郎!女の見合い写真なんざ加工を施して良く映してるもんなんだよ!」

「加工してゴリラなの!?じゃあ本物はどんなんなの!?想像できねえよ!ゴリラから全然想像できない!!俺嫌なんだけど!!せめて人間にして!ホモサピエンスにして!!」


鷹臣やおさきに黙って来いというのはこういう事だった。
鷹臣はブラコンだから片栗虎の予想では仕事そっちのけで兄の見合いを阻止しにくるだろう。
そしておさきは真っ先に鷹臣にチクる。
だから片栗虎は二人に知られる前に見合いをさせあわよくば結婚させたがっている。
近藤が済めば土方だな、と計画しながら片栗虎は今日見合いの日のため時計を見た後喚き散らすゴリラ…もとい近藤をどう黙らそうかと悩み、銃を取った。





雪はその日、姉に連れられ、ある料亭にいた。


「姉上」

「なあに?」

「どうしてこんなところに連れて来たんですか?」


カコーン、と鹿威しの音が余計に高級感が上がる。
今、雪は高級料亭に姉とともにいる。
普段袴を着ているため多少の歩きにくく差を感じながらもすっかり着物も慣れて来た雪は姉の背に声をかける。
姉はあの脱走の事を深くは聞かなかった。
どこに行っていたのかなんて帰って来た時に隣にいた人間を見れば一目瞭然だろう。
姉も雪が居なくなって探したらしいが、銀時のところには行かなかった。
それは確実に雪がいるからだと分かっているから。
認めたくはなかったのだ…雪が銀時に取られるのを…そして雪が自分ではなく銀時を選んだのだということを。
銀時は妙や雪の意志など関係なく、簡単に雪を奪える。
雪は彼がどうしてもと言えば最後は妙ではなく銀時を選ぶだろう。
だが、それを銀時はせず彼氏のように雪を家に連れて帰った。
そんな銀時に妙はますます彼を嫌った。
妹の問いに妙は『いいからついてきなさい』と言って何も言わない。
言ったら逃げると分かっているからだ。
先ほどから詳しい話をしない姉に雪は何か言いたげな目線を向けながらも黙ってついて行く。
すると数ある部屋のうち、一つの部屋につき妙は障子を開ける。


「遅くなってごめんなさい」

「いや、大丈夫だ…僕もさっきついたばかりだから」


予定より遅くなった事を妙は中にいる人に詫びる。
その部屋の中から雪は聞いたことのある声に固まった。
妙が部屋に入っても雪は入り口で立ち尽くしていた。


「きゅ、九兵衛、さん…?」


妙が部屋の中に入れば部屋にいる人物を雪の目で見ることが出来た。
その部屋には大きな机が置かれており、座布団が四枚置かれていた。
そのうちの一つをその人物―――九兵衛が座っており、その斜め向かいに姉が座った。
雪はその人物を見て目を丸くし、九兵衛は雪の呟きに雪へ振り向き、微笑んだ。


「久々だね、雪ちゃん」

「………」


コテンと小首をかしげて見せれば九兵衛の高く結われた髪がサラリと流れる。
眼帯をつけ一つしかない目が雪を捕らえ優しく細められるのを見ながら雪は何も返せなかった。
立ち尽くす雪に姉の妙が『こら、雪ちゃん、九ちゃんにご挨拶は?』と叱る。
そんな姉に雪はハッと我に返り九兵衛に慌てて謝った。


「ご、ごめんなさい…あの、お久しぶり…ですね、九兵衛さん…」


姉のお叱りに雪はその場で頭を下げたが、九兵衛は2人のやり取りを懐かしそうに見つめ『気にしてないからそんな謝らなくてもいいよ』と言ってくれた。
怒っていない事に安堵しながらも雪は部屋に入ろうとはしなかった。
入ったら何か変わりそうで怖かったのだ。


「雪ちゃん、早く入りなさい」

「…………」

「雪ちゃん」

「…はい」


部屋に入ろうとしない雪にまた妙が叱る。
しかし今度は無言を貫いた雪だったが、妙がきつく名を呼べば諦めたのか頷き部屋に入った。
雪は妙の横に…九兵衛の真正面に座る。
なぜ姉の友達である九兵衛の斜め向かいに妙が座るのかが分からないが、場所がないためそこに座る事にした。
それに妙がここに座りなさい、と九兵衛の真正面の座布団を叩いたため選択肢は元々なかった。
暫く姉と姉の友達の会話が広がり雪以外が和気あいあいとしていたが、妙が『ちょっとお手洗いに行ってくるわね』と言って席を外してしまった。
雪はそんな姉に『え゙』と思った。
口に出さないだけ褒めてほしいが、九兵衛と二人っきりという空間がとてつもなく重く感じる。


「本当、久しぶりだね、雪ちゃん」

「えッ!?あ、はい…ひ、久しぶりですね…確か武者修行の旅に出かけたとか…帰ってきてたんですね…」

「僕が帰ってきたことは昨日妙ちゃんに言ったばかりだからね…妙ちゃんも雪ちゃんを驚かせたくて黙ってたのだろう…それに…君の驚いた顔が見たかったしね」

「…そ、そうですか…」


九兵衛と妙は幼馴染である。
同時に雪とも顔見知りであり、幼い頃よく遊んでくれたり稽古をつけてくれたりとしてくれた覚えがある。
あの頃は三人で楽しく遊んでいた記憶ばかり思い出すのだが、なんだか成長して気まずい空気がながれ、雪は顔を引きつらせながら必死に笑う。
ぎこちない笑みを浮かべる雪に九兵衛は目を細め席を立って雪の前に膝をつく。


「あ、あの…」


九兵衛が妙が座っていた場所に座り雪の手を取る。
その行動に雪は首を傾げながら頭の中で警戒音が鳴り響く。


「会いたかった……修行をしている時、常に君の事ばかり考えていた…」

「ちょ、ちょっと…九兵衛さん…手を放してください…」


雪は『マズイ』と思った。
そういう雰囲気になりつつあると雪は九兵衛を警戒するが、もはや捕まっていては無駄な足掻きになっている。
手を引かそうとしても握られているその手の力は強くなり放すことができなかった。
戸惑う雪を無視し九兵衛は続ける。


「君はあの時交わした約束を覚えてるだろうか…僕は約束通り強くなって帰ってきた…」

「…ッ」

「今度は雪ちゃんが約束を果たす番だ」


『約束』――その言葉に雪は体を強張らせた。
それは覚えているという意味であり、九兵衛はその反応に目を細め雪に近づき…―――雪に口づけをする。
雪は九兵衛とのキスに目を丸くさせた。


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