(7 / 23) そういう時は黙って赤飯 (7)
万事屋である銀時はその日、仕事をしに料亭にいた。
屋根の修理も終え、その分の代金を貰い神楽のもとに戻ろうとしていた。
歩きながらも考えることは雪の事ばかり。
もう何か月も立っているというのに妙からはなんの返事もなければ、何をすることもなく日常化になりつつある。
この仕事は結構貰えたが、それを一番喜ぶ雪がいないことに虚しさを感じる。
『これで今月分の家賃は安泰ですね!』と喜ぶ顔が見たいと思っていると…


「やっ…ちょ、っと…っ!」


雪の声がした。
その声は近くの部屋から聞こえ、銀時は通り道というのもあってその部屋を覗く。
その部屋を覗けば雪がいた。
そう…―――見知らぬ男とキスをしている雪の姿が。
銀時はそれを見て頭が真っ白となり、腰に差していた木刀で斬りかかろうとした。
だが…


「なんだ、君は…いきなり入ってきて斬りかかるなどと…不躾にもほどがあるぞ」


男は銀時の殺気に気付き咄嗟に雪を抱きかかえ後ろに下がって避けた。
銀時は男を睨みつけながら舌打ちを打ち、男の後ろに守られている雪は銀時の姿に目を丸くする。


「ぎ、銀さん…!!」


雪が銀時の名を言えば、男は『なるほど』と何かを納得し、雪から銀時へ目をやる。


「なるほど…君があの雪ちゃんに付きまとっているという男か…」

「あ?雪に付きまとってる?俺がか?」

「なんだ、違うのか?確か妙ちゃんは銀髪の男が雪ちゃんに付きまとっていて困っていると言っていたが…」

「…てめェ…あの女の知り合いか…」


妙という名前に銀時は顔を引きつらせた。
下手に出てはいるが、根本は変わらずお互い嫌い合っている。
そもそも銀時はストーカー紛いなことはしたことはない。
確かに好き合う前はアタックはしていたが、それだってちょーっとセクハラしただけの話だ。
いや、そこがいけなかったかもしれないが雪も銀時も思いが通じ合った今もはや関係ない。
雪にキスをした挙句に人をゴリラ兄弟のように言う男に銀時は木刀を握る力を強める。
ギリ、と木刀が悲鳴を上げる音を聞きながら男はにやりと笑った。


「丁度いい…別れの挨拶ぐらいは許してやろう」

「別れの挨拶?なんのことだ一体…」


『別れの挨拶』という言葉に銀時は怪訝とさせた。
それはまるで銀時と雪がもはや無関係になると言わんばかりの言葉で雪を見れば雪も戸惑っているように見えた。
雪が納得していないのなら銀時だって納得はできない。
木刀を男へ向けようと彼の首筋に背後からスッと刃が当てられた。
そして…


「―――雪ちゃんは九ちゃんのお嫁さんになるっていう意味です」


聞き慣れた声に銀時は息を呑む。
男に守られている雪が銀時の後ろにいる人物を見て『姉上…!?』と言っていたので、銀時の予想通り妙が薙刀を首筋に当てているのだろう。
銀時は妙の登場とその言葉に動けないものの横目で妙を睨んだ。


「雪が嫁ってどういう意味だ」

「あら、言った通りの意味ですけど…案外頭が軽いんですね」


にっこりと笑う妙は相変わらずで銀時は舌打ちを打ちかけた。
だがまずは聞き捨てならないその言葉を撤回させる方が先である。
まず九ちゃんという人物が誰なのかを考える。
目の前の男の言動や先ほどのキスを見て九ちゃんという人物はこの男らしいと察する。


「雪がこいつと結婚?雪は承知の上か?」

「ええ、勿論…雪ちゃんと九ちゃんは幼い頃将来を誓い合った仲ですもの」

「幼い頃だァ?んなもん時効だろうが」

「あら、そうかしら…先ほども見ての通り雪ちゃんと九ちゃんはキスをするほど仲がいいのよ?それに幼い頃に交わした約束を守って結婚するなんて珍しくないでしょう?」


銀時はずっと下手に出ていた。
言葉ではいつものように憎まれ口をたたくが、それでも毎日誠意を見せていた。
そこは妙も認めはする。
だが、この男に可愛い妹をやるつもりはない。
高杉達に取られるよりマシだと思ってあの時は許しはしたが、やはり我慢が出来なかった。
何度も何度も妙は『なんであの男なの』と雪に心の中で問う。
なんで数えきれないほどいる男の中で、なんでこの男を選んだのだ、と叫びたかった。
銀時は妙の勝手な言葉に『ふざけんな!!』と声を張り上げようとした。
しかしその時―――なぜか着物を着たゴリラとその上に乗ってマウントポジションをする鷹臣と、ゴリラを殴る鷹臣を背後から羽交い絞めにして止めようとする神楽(報酬:酢昆布十個)が庭から部屋へと突き破って乱入してきた。
庭を背後に立っていた銀時と妙はその乱入者に気付き二人は避けたため無事ではあるが、部屋が破壊されてしまった。


「何だこいつ!?ってかなんでゴリラ!?」

「万事屋ァ!!丁度良かった!!鷹臣を止めてくれエエ!!」


『兄上を口説こうなんて百万年はええんだよオオ!腐れゴリラがアアア!!一変死んで美女に生まれ変わってから出直してこいやアアア』とマジギレしてゴリラをボッコボコにしてる鷹臣の声を聞きながら突然ゴリラが現れ銀時は目を見張った。
後ろから近藤が現れ縋る様にゴリラを殴り続ける鷹臣を止めるよう懇願した。


「止めてくれって…ありゃどう見ても無理だろ!?夜兎でも歯が立ってねえじゃんか!」


ここにゴリラがいる事に疑問はあるが、縋られた銀時は鷹臣を見た。
いつもニコニコと笑っている鷹臣が今では鬼のような形相でゴリラを殴っており、一瞬動物愛護の言葉が浮かぶ。
しかも鷹臣をとめようとすでに神楽が行っているが、少女とはいえ宇宙最強を誇る夜兎が羽交い絞めしているというのに殴るのをやめようともしない鷹臣を誰が止めれるだろうか…
そう思っていると銀時の耳に雪の声が届く。


「ぎっ…銀さん…!!銀さん!!」

「!―――雪…!!」


雪の叫び声は喧噪の中でもはっきりと聞こえた。
振り返れば九ちゃんなる男が雪を横抱きに抱き上げこの騒動に便乗して連れ去ろうとしていた。
それを銀時は近藤を剥がして追おうとしたのだが…目の前に妙が立ちはだかり薙刀を向けられ銀時は立ち止まった。


「これ以上雪ちゃんの幸せを邪魔しないでくださらないかしら」

「てめぇ…!いい加減にしやがれ!雪の幸せを邪魔してんのはてめえだろうが!!」


ヒュッと薙刀を向けられ立ち止まった銀時の視界に雪がいたが、妙に足止めをされてしまっている間に消えてしまった。
銀時はギロッと妙を睨みつけるが、妙も負けじと邪魔をする銀時を睨みつけた。


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