(9 / 23) そういう時は黙って赤飯 (9)
雪を攫った男の居場所は神楽が突き止めてくれていた。
『銀ちゃんがキノコ生やしてる間に調べておいたネ!』と腰に手をやってドヤ顔する神楽に銀時は『一週間酢昆布奢ってやろう』と思ったのと同時に、この全宇宙で神楽が一番男前じゃないのかと思った。
その男は妙の幼馴染で、『柳生家』の次期当主の柳生九兵衛。
数年の武者修行を経てつい最近江戸に帰ってきたようである。
柳生と言えば先祖代々将軍家に仕えてきた名家で、エリート中のエリート。
神楽は『銀ちゃんとは真逆ネ…こりゃ駄目だわ』と言われるほど今の銀時とは真逆の人生を生きているエリートである。
最後の言葉に銀時は『駄目とはなんだゴラ』と頭を叩いたためそこはもう清算されたが、あの妙が雪との付き合いをぶっ飛ばして結婚まで行きつかせようとした理由を理解した。
気の知れた幼馴染なら大事な妹を預けれるし、何より相手は柳生というブランド品。
相手が柳生家なら銀時の剣にも敵うだろうと考えたのだろう。


「馬鹿だよなァ、あいつら…大切なもんを奪い返そうと足掻く奴ほど強ェ奴はいねえっての、知らねえのかねぇ…ま、所詮はボンボンだよな。」

「うだうだと考えてさっさと嫁を迎えに行かなかったお前が言うアルか」

「……神楽ちゃん、ちょっとお口閉じようか…銀さん、そろそろ本泣きしそうだから…一応ね、銀さんね、傷心してる身だからね…思春期以上に繊細だからね…」


柳生の家など聞き込みするでもなくすぐに分かった。
名門だからすぐに突き止め、現在、銀時と神楽は柳生家の前に来ていた。
この先にあの男と妙…そして雪がいる。
そう思うと重そうな門が更に重く感じる。
まだうだうだと考えて数日無駄にした事を根に持っているのか神楽の辛辣な言葉にいつも以上にガラスのハートの銀時はちょっぴり涙した。
階段を上がり門の前に行くと門下生がいた。


「何だい、君たちは…入門希望者?」

「あの悪いんだけどここ柳生家だからさ結構由緒正しい家柄だからセレブじゃないとちょっと…」

「それとも何?道場破りとか言わないよね?まさか」

「止めといた方がいいよ?今うちさ、柳生四天王っていう猛者がいて…」

「―――いやいや」

「道場破りだなんてそんな物騒な…」


門下生の顔からしてモブだろう。
もはや雑魚兵でしかないモブが白夜叉と夜兎に勝てる要因が見当たらない。
そんなわけで銀時と神楽は門下生ごと派手に門を開けた。
すると音に駆け付けたのか大量の門下生が現れた。


「何奴!!ここを柳生家と知っての狼藉か!!」


1人が木刀を構えながら吠えるが、正直二人に対しての警告でもなければ、恐ろしさを感じさせるものはない。
彼等はただ奪われたものを返してもらいに来ているのだ。
奪われたものを返してもらおうと足掻く二人に雑魚であるモブ達はなんの脅威にもならない。
ましてや相手は白夜叉と夜兎…ただの門下生では話にならないだろう。
銀時は耳の穴に指を突っ込みほじる。


「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあうるせーんだよ…柳生だろうがなんだろうがそんなもんに興味はねェ…だがな―――――嫁は返してもらおうか!!」

「あたいのマミーを返すネエエエ!!!」


耳から指を抜けばついてきた耳垢を銀時は息を吹きかけて飛ばした。
そして銀時は腰にあった木刀を手に門下生を数人吹き飛ばし、それに神楽も続く。


「賊め!!!」

「やれェ!!たった二人だ!!囲んでやってしまえ!!」


数人、吹き飛ばされた門下生達は木刀を構え二人を囲む。
2人もそれを見て銀時は木刀を構え直し、神楽も傘を構える。
今にも飛びかかろうとする空気の中、後ろにいた門下生達が数人吹き飛ばされ、銀時と神楽の元へと飛んできた。
その方へ目をやればそこには…


「悪いんだけど2人だけじゃないんだよねェ…おまわりさんが来ましたよ〜」

「お前ら…」


『やっほー』と零し手を振る鷹臣を先頭に真選組局長である近藤、副長の土方、一番隊隊長である沖田がいた。
意外な人物の登場に銀時と神楽は目を見張った。


「なんでお前らがここにいんだ…」

「いや〜俺が兄上の見合いで頭に血を上らせてた間にお雪さんがピンチだって聞いてね…彼女を見守る身として放っておけないだろ?だから来ちゃった☆」

「いや来ちゃったじゃねえよお前…雪を見守る身ってお前…それただストーカーしてるだけだろお前…」

「まあまあ、そう強がらなくてもいいんですぜ、旦那…困った時はお互いさまっていうだろィ」

「今の会話のどこをどう聞いたら強がってるように見えるんだてめェはよ…その耳故障してんのか?あぁ?その遠くなった耳をドライバーで刺してグリグリしたろうか!?」

「俺達ァここ数か月雪が旦那を想い落ち込んでいるのを見て横から手を出すなんざ空気の読めねえ事ァできなかったんでさァ…眩しいまでの雪の笑顔が消えるほど雪は旦那を慕っているのかって…失恋、しちまったんでさァ………ですがね、旦那…最近、気づいたんでさァ―――あれ、でも…寝取るのも悪くなくね?って」

「てんめえええ!!横から掻っ攫う気満々じゃねえかァァ!!空気読む気最初からねえじゃねえかァァ!!」

「いや、でも未亡人風の雪もクルものがあったんでさァ…――主に下半身に。」

「てめ…それただ雪に欲情してるだけだろ!!ってかズリィだろてめえら!!俺だって未亡人の空気を漂わせる雪を直に見てェよ!!!」

「あ、じゃあ死ねばいいんじゃない?白髪が死ねばお雪さん、本当の未亡人になるし」

「うるせェ!てめえは黙って木の影から一生雪を見守ってろ!!」


す、と真剣を抜く鷹臣に銀時が突っ込んだ。
この数か月…沖田は間近で雪を見てきて失恋した。
太陽の様に笑顔を振りまいていた雪の顔から笑顔が消えたのだ。
あるのはただ上から仮面を被ったような笑顔だけ。
そんな顔、沖田が好んだ顔ではなかった。
だからこそ雪がどれだけ銀時を慕っていたのかも分かり告白する前に振られたような気分を味わった。
だからチクチクと鷹臣とタッグを組んで銀時を弄っているのだろう。
そんな沖田に神楽が声を上げる。


「ゴラァ!サド野郎ォ!!てめえ何勝手な事抜かしてんだ!!雪の旦那はな銀ちゃんだって連載当初から決まってんだよ!てめェはただの当て馬でしかねェんだよ!!」

「因みに俺が雪の旦那になったら某チャイナ娘に毎日5個の酢昆布を支給しようかと考えてるんですがねェ」

「……………」

「おい神楽!なんでそこで黙るわけ!?揺らいでんのか!?お前まさか酢昆布5個で揺らいでんじゃねえだろうな!!」

「マ、マサカ〜ソンナ事アルワケナイヨ銀チャン」

「おい、完全に言葉が片言になってんぞ」


銀時を庇おうと神楽が立ち上がった――――が、ものの数秒でそのフォローは崩れ去る。
ギロリと睨む銀時に神楽は吹けていない口笛を吹き目を逸らしていた。
因みに一切喋っていない土方は沖田の言葉になんの反論もないのか、逆に『もっと言ってやれ』と後押ししており、近藤も止めはしない。
銀時は後ろにいる土方達を見た後沖田に近藤を指さす振り返る。


「大体なんでゴリラまでいんだ?ゴリラはあの女のストーカーだろうが味方だろうが敵だろうがスパイだろうが」

「スパイというものは始末するのが習わしアル」

「ち、ちょっと!タンマタンマ!!ストーーップ!!その物騒なもの仕舞ってくれない!?」


ゴリラこと近藤は妙に好意を持っている。
だからどちらかと言えば近藤は敵になりえる存在である。
それを見越し裏切られる前にやる(殺すと書く)と言わんばかりに木刀と傘を向ける銀時と神楽に近藤は慌てふためく。


「お、俺は今回お前らの味方だ!!」

「本当にィ〜?」

「ほ、本当!本当だから!!」

「とか言って姉御に頼まれてスパイとかしてんじゃないアルか〜?銀ちゃん、このゴリラの慌てっぷり怪しいアル。絶対スパイネ」

「そうだな…怪しいゴリラは殺処分にしねえといつ人間様を襲うかわかったもんじゃねえからな…」

「ぎゃああ!!だから怪しくねえって!!」


神楽が近藤の額に傘の先をくっつける。
それに近藤は手を挙げて無抵抗を示した。
銀時と神楽は数か月間の間雪のいない寂しさに擦れているらしく首を振るゴリラに『ああん?』と凄んで武器を下ろそうとはしなかった。
そんな2人に近藤は涙目に首を振る。


「俺も無理矢理結婚させられそうになったからお雪ちゃんの気持ちも十分に理解してる!!例えお妙さんとはいえお雪ちゃんの気持ちを無視して結婚させるのは少しやりすぎだって俺も思ったんだ!!だから俺はお前らの味方なんだよ!!!」

「信じられるかァ!てめェらゴリラ兄弟がさんざんあの女と雪をストーカーしたお陰で雪の家は要塞になってんだよ!!夜這いも出来ねえんだよ!!」

「それただの八つ当たりじゃねえか!!」


土方は冷静を保ちながら『志村家が要塞になって正解だな』と一人煙草を吸っていた。
声を上げて言い合いをする銀時に鷹臣が声をかける。


「大丈夫だよ…もし兄上が義姉上に寝返ったら――――俺が切り殺すって約束したから」


すっ、と鷹臣は再び真剣を抜き、近藤の首にあて、『ね、兄上?』と可愛らしく小首を傾げる。
だがその顔には笑みが浮かんでいたが、その笑みは笑っていない。
近藤も脅されて涙目になりながら『う、うん…そうだね』と返すしかなかった。
鷹臣の笑みに銀時も流石にぞっとさせ、掴んでいた近藤の胸倉をぱっと離し顔を引きつらせた。


「おい…あまり鷹臣を刺激すんな…あいつに黙って近藤さんが見合いしてたことにキレてんだから」


こそりと今まで黙っていた土方が銀時に耳打ちをする。
本当は気に入らない奴に耳打ちをするのも教えてやるのも嫌だが、教えず鷹臣のどこにあるか分からない地雷を踏まれ近藤の首と胴がおさらばされても真選組的に困るため仕方なく教えることにした。
どうやら今回の近藤の見合いの事で鷹臣はガチギレしているようで、その怒りは見合いをセッティングした片栗虎や、見合いを知っていた土方・沖田などの真選組の面々、そして更には尊敬している近藤にも向けられている。
土方は怒っている鷹臣を見るのもそうだが、兄にも怒りをぶつける鷹臣に本気で怒っているのだ察し、出来るだけ刺激しないように扱っていた。
そんな土方達をよそに鷹臣は笑顔をそのままに『ほら、これが証拠』と血で書かれた文字と血の朱印の契約書を銀時に見せる。
その血が誰の血なのか……近藤の手に包帯が巻かれているのが見えたが気のせいだそうだ気のせいに決まってると思いながら考えるのを放棄した。


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