(13 / 23) そういう時は黙って赤飯 (13)
鷹臣と近藤は唖然と目の前の光景を見つめていた。
2人の目の前には敵である西野が気を失って倒れており、その隣には―――同じく気を失っている沖田がいた。
鷹臣は沖田に駆け付けまず口に手を当てる。
この勝負は木刀を使っており生死の掛けた戦いではない。
だから死んだとは考えられないが、木刀でも場所によれば人は絶命する。
これはもう癖や職業病としか言いようがない。
沖田が呼吸しているのを見て鷹臣はホッと安堵し沖田の体を見る。
すると袴からチラリと見える足首に違和感を覚え袴を少し捲る。
そこには片足が完全に自然に向く方向とは逆の方へ向いているのが見え、唖然と立ち尽くしていた近藤はその足に無意識に眉間にしわを寄せる。


「完全に足が折られてる…あっちのハゲも気を失ってるし…相打ち?でも…足が折られてから倒したとは考えにくいな…」

「それじゃあその男を倒して疲労した後を狙われたってわけか?」

「そんなわけあるはずがないよ兄上……だって総君は物覚えもいいから真選組の中でも一二を争う腕の持ち主なんだよ?…だからきっといつもみたいに俺達を揶揄って遊んでるに決まってるさ…なあ、総君…もうバレバレだから起きてくれないか…総君…流石にこんな心臓の悪い悪戯はやりすぎだよ…」

「鷹臣…」


鷹臣は真選組の中で沖田を弟のように可愛がっていた。
幼い頃から兄はいたが弟がいなかった鷹臣にとって、年下の沖田とおさきが可愛くて仕方なかった。
沖田も強くて優しい兄のような鷹臣を慕っていたし、悪戯だって鷹臣にはしない。
自分に『俺も悪戯されてみたいな』と愚痴っていた鷹臣を思い出し、近藤は沖田を抱きしめる弟を直視できなかった。
すると近藤は顔を背けたその先に見えた物体に気付く。


(携帯?)


それは折り畳み式の携帯だった。
携帯電話を持っているのはここでは真選組のみ。
しかしお互いの携帯を見知っている近藤はその見たことのない色と機種の携帯は敵の物だと思い拾う。


(もしかしたら総悟を倒した奴が証拠を残して――――)


ピピピ、と携帯から情報を得ようとまずはカメラ画像を見た。
遊び半分で痛めつけているような連中だ…写真に収めているに違ないと近藤は思った。
そしてその犯人を探し出し沖田の恨みを晴らしてやるのだ…そう…思った。
だが…そこに映っていたのは…



西野の上に積まれた沖田を踏みつけ、ドヤ顔を浮かべる神楽が見えた。



どう見ても現場。
どう見ても惨劇。
どう見ても自撮り。
どう見ても犯人。
近藤はそっと携帯を床に戻す。


「兄上!!許せません!!総君の仇を取ってやりましょう!!!」


兄が衝撃的な物を見たとは気づいていない鷹臣はそう兄に顔を上げる。
その顔は復讐に燃えており、そんな弟の声を聞きながら近藤は思いっきり携帯を踏みつけ壊した。
そう、いわゆる証拠隠ぺいというものである。
あの写真を見せたら確実に神楽の命がないと判断したのだろう。
夜兎は最強を誇る種族ではあるが、恐らく本気となった鷹臣には勝てない。
土方達のような仲間ではないが、一応知り合いであるため近藤は見なかったことにした。


「ちくしょうオオオオ!!総悟をやったの誰だゴラアアア!!皆目見当つかねえよ!!見つけたらまじブッ殺してやんよオオオ!!」


近藤は居もしない犯人に向かって怒りの炎を燃やす。
いつも以上に燃え上がっている兄に鷹臣も釣られたように立ち上がりグッと拳を握る。


「そうだよ兄上!!絶対そいつを見つけて死ぬより辛い拷問にかけてじわじわと生きる希望を遠ざけてやろう!!!簡単に死なせやしない!!!」

「おッ!?お、お…おお!!そうだとも!!その通りだ鷹臣!!そうと決まれば犯人探しだ!!」


鷹臣は暗殺が得意だ。
だからいつもスパッとやっちまうZE!な仕事だが、可愛がっている沖田をこんな目に合わせた人間をそう簡単に死なせるつもりはなかった。
じわじわと殺すという恐ろしい事をいう可愛い(はずの)弟に近藤はドバっと汗を流しながら適当に頷く。
しかし、兄の言葉に鷹臣はコテンと小首をかしげ…


「何言ってんの、兄上」

「へ?」

「犯人探しなんか悠長な事をしてると白髪や天人や十四郎さんに取られてしまうから…―――片っ端からやればいいんだよ」

「        」


近藤は文字通り言葉を失った。
気のせいだろうか…『やれ』が『殺れ』に聞こえてしまう。
にっこりと笑う弟はとても可愛い。
欲目がなくとも可愛い…だが…どうしてだろうか…本能が『こいつは危険こいつは危険』と警告していた。
だから近藤は…


「あ―――――当たり前じゃボケエエエエ!!!犯人探しなんて誰が言ったんじゃボケエエエエ!!!」

「兄上でしょ」

「そうだったわボケエエ!!お兄ちゃんだったわボケエエエエ!!ごめんねタッキー!!!」

「別にいいけど…っていうか…どうしたの、その汗…」

「ファ!?―――あ…あ……熱いんじゃゴラアアア!!もっとクーラーガンガンにきかせろやボケがアアアア!!!」


近藤は、考えるのを放棄した。
鷹臣はやる気満々の兄に満足気に頷きそれを見て近藤は自分の選択が間違っていないことに内心ホッとさせる。
しかしその間も汗が滝の様に流れており、それを指摘された近藤は意味の分からない事を言いだし鷹臣を残してズンズンと襖を開き奥へ入っていく。
それを見て『流石兄上…仲間の死を糧に強くなってるなんて…上司の鏡というより人間の鏡だね』と褒めたたえキラキラとした尊敬の眼差しを向けてくれるが、それが今の近藤の全身にグサリグサリと痛く刺さっていた。


「で、出てきやがれ!!どこいったアアア!!総悟の仇は俺達がうーーつ!!」


弟の称賛に泣きそうになりながらズンズンと進む近藤はまた襖に手をかけ、そして勢いよく開ける。
その時にはすでに鷹臣も並んで襖を開け進んでいた。
そして同時に近藤兄弟が襖を開けたその瞬間…兄弟の目に飛び込んできたのは――――敵と向かい合って食事をする土方の姿があった。


「あ、すみませんお食事中…間違いました」


もぐもぐと口に食べ物を頬張り食べる土方と目と目が合い、近藤だけがすっと襖を閉めたのだが…


「―――って何やってんだアアアア!!」


近藤は閉めた襖を開けて突っ込んだ。
因みに鷹臣は開けたままモグモグと食べる敵、北大路を睨みつけるように見ていた。


「腹が減っては戦もできぬ…どうだ?貴様らも」

「敵の作った料理なんて食えるかァ!!」

「ああ、いいですね…実は俺トリカブトふりかけに凝ってまして…使ってみますぅ?天国に行くほど美味ですよぉ〜」

「それ天国に行くほどっていうか天国行くじゃん!天国への片道切符じゃん!!ってかお前それどうやってこんな短時間で用意したの!?」


鷹臣は本気で敵全員を抹殺し沖田の仇を討とうとしているのか、北大路に毒のふりかけを勧める。
仇を討つ相手は敵の中にいない事を知っている近藤は勢いでここまで来たが、抹殺する気などないため、いつ用意したのか分からない毒物ふりかけを持って北大路に歩み寄ろうとする鷹臣の首根っこを掴んで止める。


「てかトシも!お前何のんびり寛いでんだ!!とっとと3人でそいつやるぞ!!じゃねえと鷹臣が殺人者になっちまう!!」


仕事での殺人は…まあ、目を瞑るしかない。
世の中綺麗な仕事だけではやっていけないのを近藤も分かっているし、そんな役回りを鷹臣や三番隊の終に押し付けているのに日々罪悪感もある。
だが、今は仕事ではない。
だからここで鷹臣に殺人をさせるなどできなかった。
だがフォロ方とも言われている気遣い男の土方は近藤の期待をよそにジロリと2人を睨みつける。


「おいてめえら…余計な手ェ出すなよ…」

「はあ!?何言ってんのトシ!!このままじゃ鷹臣が…」

「こいつは俺のチャーハンだ」

「チャーハンかいイイイ!!」


手を出されることを嫌った土方のその言葉に近藤は『何悠長な事言ってんの!?』と声を上げた。
だが、相手ではなくチャーハンの事らしく、しかしそれでも通じたのか鷹臣は『あ、十四郎さんの得物だった?じゃあ手出しできないや』とコロリと北大路を抹殺するのを諦める。


「ちょっと、それ…ケチャップとってくれ」

「ん?これか?」


騒がしい近藤達をよそに土方の方に置かれている北大路は手が届かないケチャップを取ってくれるよう土方に頼む。
頼まれた土方はケチャップの容器を取って北大路に渡した。
ほのぼのとした食卓の空間に近藤だけが脱力感に襲われる。


「おいおい…なんだよこれ…緊張感もくそもあったもんじゃないんだけど…」

「凡人には分かるまいよ…既に勝負は始まっているということに…武士とは飯の食べ方1つ、箸の持ち方1つでも自分の流儀でいくものだ……日常全てが己の精神を鍛える修行だ…そうして武士の強靭な鉄の魂は培われる――土方十四郎よ…貴様にはあるか?己を縛る鎖というものが」


そうカッコつけて言う北大路だが、持っているのはケチャップ。
そしてそのケチャップを高々と持ち上げ思いっきりオムライスへと掛ける。
その量は半端なく、本来オムライスにケチャップを付ける量と言えば文字を書く程度の少量ですむ。
後は中の味付けされているごはんの味とケチャップが融合し美味に変化するのだ。
だが、北大路のかける量はそりゃもう半端なかった。
持っているケチャップ一本丸ごと空になるまでオムライスに掛け、それを見ていた見ていた近藤が吐き気を催すほど。
それを見れば北大路は病的までの『ケチャラー』だと思われるだろう。
だが…


「1つ言っておこう…俺は周囲からは生粋の"ケチャラー"と思われているが実はトマトの類が大の苦手で・・・見るだけで吐き気がする…嫌いなものを過度に食することにより折れない屈強な精神をつくりあげる……今では苦手だったトマトも大好きになりトマトにケチャップをかけて食すほど…」

(それもう修行になってねえよ!! ただの不摂生!)


本人は『ケチャラー』ではないと言い張る。
ただのトマト好きのケチャップ好きだと思っているらしい。
思わず近藤は突っ込んでしまうほど、彼の認識は異常にズレていた。
その間でも鷹臣は一切顔一つ表情全て変わっていない。
新しいケチャップを取り出し野菜にもかけ、もはやケチャップを食べているとしか思えない元オムライスを食べながら『貴様にこんな事が真似ができるか?』と北大路は勝ち誇った笑みで土方を見た。
だが、その瞬間、北大路は驚きの表情へと変わる。


「なっ…!なんだその白いのは!?」

「マヨネィ〜ズ」

(マ、マヨネーズ!?チャーハンにマヨネーズ!?そんなもの合うわけ…、!―――まさか…!こいつも…っ!!)


北大路の目の前には白い物がにゅるにゅると出ていた。
北大路と同じく高い位置から出す土方を見て冷静に見ていた鷹臣は『そこから出さなきゃいけないのかな…』と思った。


「ちなみに1つ言っておこう…俺は周囲から生粋の"マヨラー"と思われているが実はマヨの類が大嫌いであの赤いキャップを見るだけで吐き気がする」

(嘘ついてる…!!)

(負けたくないばっかりに平気で嘘ついたよ、このマヨラー)


同じ様な事を少し前に聞いたことがある気がする…近藤兄弟はそう思った。
マヨネーズを全てチャーハンに掛け終え、食べ出す土方を見て北大路はふと笑みを浮かべ、食事を再開する。
マヨラーとケチャラーの食事を見ることになった近藤は口を出て抑え襖の影に隠れる。
そうしないと胃液が逆流しそうなのだ。
ただ鷹臣だけは相変わらず表情一つ変わらず2人の食事を見守っていた。
するとケチャラーとマヨラーの悪趣味な食事は終わりを告げ、北大路は手と手を合わす。


「ふん…伊達に"鬼の副長"と呼ばれているわけではないようだな…中々に面白い食事だった」

「タバコ吸いてェな…灰皿あるか?」


しかし土方は反対に手を懐に入れ煙草に手を伸ばす。
それも真選組には見慣れた光景だった。
マヨネーズたっぷりの食事を終えるとまず御馳走さまよりもタバコ―――それが土方だった。
しかしその瞬間2人の木刀が交えた。
その衝撃に机は真っ二つに折れ、食器たちも飛び上がった。


「タバコの前に『ごちそうさま』はどうした?」

「くそマズイ飯、どちそーさんでした。」


棒読みの土方に北大路は踏んでいた皿を土方に投げた。
投げられたその皿を土方は取り、出来たその隙に北大路の木刀が再び土方に襲い掛かる。
だが土方は足でその木刀を受け止め、受け止めた土方に北大路はそのまま土方を外へ吹き飛ばした。
当然受け身を取ったが、この瞬間―――二人の戦いが開始させる。


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