(14 / 23) そういう時は黙って赤飯 (14)
土方vs北大路の戦いは北大路が負け、土方が勝ち残った。
しかしその痛手は深かい。


「そうか…総悟がやられたか……いい気味だ」

「十四郎さん、それ煙草じゃないです」


近藤がトイレに行ってしまい、鷹臣と土方は近藤を待っていた。
土方は北大路に負わされた痛手で頭から血を大量に出血させており、頭が回らないのか煙草だと思って加えたそれは煙草ではなく…何故か花火だった。
火をつけるとその花火は火花を散らす。


「あっちもこっちを見くびってたようだな…どうやらこっちも考えがちと甘かったようだぜ」

「十四郎さん、燃えてます」

「ただの道場剣法だと思ってたが、とんでもねェ。三下でもあのレベルじゃ、先が思いやられるぜ」

「十四郎さん、綺麗です」


どこから拾ったかは分からないが、花火も煙草も区別が出来ないほど土方の頭の血が足りないようである。
それを指摘しても気づかない土方に鷹臣はとりあえず花火を褒めて見た。


「大体大将のあの野郎はどこほっつき歩いてんだ?」

「さあ?でも簡単にやられるタマじゃないからなぁ」

「あ?なんだ、鷹臣…あいつ知ってんのか?」

「ううん、何となくそう思っただけ」


銀時の腕前は幼い頃しか知らない。
攘夷戦争の時は交戦したことがないから分からないが、白夜叉と名前を付けられあの戦争を生き抜いてきたのだから手練れではあるのだろうと鷹臣は思う。
正直、鷹臣は相手の腕前がどうだとかは分からない。
ただ強いか、弱いか、かの認識しかない。
説明が面倒だから曖昧に誤魔化せば土方は『そうか』と流してくれた。
土方のこういう所はとても助かっている。


「兄上遅いなぁ〜…ウンコかな?」


心配になって見に行こうとする鷹臣だったが、土方に着物を引っ張られ座り直す。
突然引っ張られた鷹臣は土方へ目をやり『何ですか?』と問えば土方に声を抑えるよう言われ、彼が指さした方へ目をやる。
そこには愛しい天使(と書いてお雪さんと読む)を奪った罪深い人間、柳生九兵衛と、四天王の一人東城歩がいた。


「いよいよ本陣が動き出したようだ…」

「あれ、なんか真っすぐこっち来てない?」

「どういうことだ!?なんで俺達の居場所が…」

「とりあえず十四郎さんはまず鏡を見ればいいと思う」


『花火、咥えてますよ』と零せば土方はようやく花火を咥えていると気づき慌てて消す。
とりあえず居場所が気づかれているのでここを離れることにした。
それを兄の近藤に伝えようと鷹臣はトイレを覗き込む。


「兄上!!敵来たから逃げるよ……って…あれ?」

「どうした!」

「兄上から返事がない…先に逃げたのかな…」

「ったく仕方ねえ…行くぞ!!」


トイレには近藤の姿はない。
だが大かと思って声をかけても兄の返事はない。
首を傾げている鷹臣の腕を掴み土方はその場から逃げるのを優先した。
しかし、彼らは気づかない。



「ちょっ…!待って!!トシイイ!!鷹臣イイイ!!か、紙が…!紙が俺を見放したアアア!!」



近藤が個室にいることも…そして神もとい、紙に見放された事も。
土方も鷹臣もそれに気づかず去っていった。


(さ、最悪だァァ!!敵地でケツ丸出しで放置!?ど、どうすんだオイ!どうすればいいんだこれ…!!早くしないと敵が…!なにか拭く物ォォ!!、――――ッ、待て…!落ち着け!勲…!!ここは厠!俺のいる部屋以外にも個室は3つある…!これら3つの個室のトイレットペーパーが全て切れている確実など天文学的数値に等しい…!!必ず紙はどこかに…ある!)


紙が切れるのはよくある事。
だが、今、このタイミングでなくてもいいのではないか、と近藤は思う。
皆戦っている中自分はウンチしてて戦ってませんでしたサーセン、などと言って見ろ…妙の好感度どころか自分を純粋に慕ってくれている弟にさえ見放され今後一生冷たい目で見られるに決まっている。
妙の場合は好感度などマイナスどころか地面にめり込み過ぎて地球の核まで届いているのでこれ以上下がることはないが、弟は真逆で好感度は天をも貫き宇宙にも届くほど高い。
そんな可愛い弟が…あれだけ『兄上〜』と言って笑顔さえも見せてくれる可愛くて仕方ない弟が……『きめえ…近寄んな糞ゴリラ』と言うようになったのなら…おそらく…近藤は生きていけない。
涙がちょちょきれはじめた時、近くの個室から音が聞こえ暗闇だった視界が一気に晴れた気がした。


(居る!誰か居る!俺以外にウンコしてる奴が居る!…勝機!)


物音が立ったということは誰かがいるということ。
もはや敵味方関係なく近藤は助けを求めた。


「助けてくださァァい!!紙が…!紙が切れてしまって身動きがとれないんです!!お願いです!!少しでいいから紙を…!紙を恵んでもらえませんかーーッ!?」


誰でもいい。
妙や弟に見放されるより、敵に情けを見せる方が断然マシだと思った。
だが…それでも紙…否、神は近藤を見放した。
近藤の助けに返ってきた言葉は…


「……紙も仏もねえよ…」


あちらの神も見放したらしい言葉だった。
それを聞いて近藤はギョッとさせる。


「え!?え!?今何て言いました!?嘘でしょ!?嘘だよね!?ちょっと!」

「うるせえゴリラ…黙ってろ…ウンコ投げるぞ」

「あれ…?おい…その声………お前万事屋か!?おい!お前何でこんなとこにいるんだよ!?」

「こんな所にいるんだ…目的はみんなひとつだろ?」

「はあ!?お前何!?今までどこ行ってたかと思ったら何!?2Pに渡ってウンコ!?どんだけ長げェの!お前みんなが今までどんだけ苦しんで戦ってたと思ってんだ!」

「お前俺が今までどれだけ苦しんで戦ってたと思ってんだ…朝食った豆パンがよぉ腐ってたらしくてよぉ…神楽は卵かけごはんしか作れねえし料理つくんのダルいしで安売りしてたのを大量に買い溜めしてたのが悪かったんだなぁ、あれ…やっぱり雪がいねえと駄目だわ家庭崩壊するわ…ってか腹が崩壊するわ………それでようやく体内の毒素をぜーんぶ排出したと思ったらこの様だよ……もうね、デトックスっつうかガクットスっつうか…」

「冗談じゃねえぞ!このままじゃ出れねェぞ!!絶対どっかの個室にあるはずだ!」


誰か、とは大将である銀時だった。
銀時はあれからずっとトイレに籠っていたようで、近藤は見当たらなかった自分たちの大将がずっとトイレに籠っていたのを知り頭を抱える。
銀時は雪がいない間なんのやる気も起きずずっと安売りの弁当やらパンやらを買って食べていた。
最近では激安!、と書かれた商品を買いだめし食べ続けていたら知らないうちに腐っていたようで腹を下したのだという。
お登勢がゴミ屋敷と化している家を見て見兼ねてたまに掃除を頼み今はゴミはないが、畳んでいない洗濯物と、汚れた洗濯物がごっちゃになりもはや何が何だか分からなくなっている。
今着ている服も洗った物なのか放置された物なのか分からないが、とりあえず匂いを確かめれば臭くはないから大丈夫だろうという認識で着ている。
そんな銀時に近藤は隣の個室にトイレットペーパーを貰おうとよじ登ったのだが――――そこには妖怪がいた。
近藤は額に皿をくっつけた妖怪を見て悲鳴を上げる。


「ギャアアアアアアアア!!!」

「どうした」

「よ、よ、妖怪…!!妖怪がいた!なんかちっこいヨーダみたいだ!」


妖怪は執拗に『紙を…紙をくれェェェ』と零しており、薄暗いのもあって怖さはグンッとアップしている。
驚き、声を上げる近藤に銀時は『ああ』と思い出したように声を零す。


「そりゃあ妖怪"便所わらし"だな…」

「べ、便所わらし!?」

「トイレットペーパーが切れて便所から出られなくなった者の憐れな末路さ」


銀時の解説=自分たちの末路である。
それに気づき近藤は慌てる。


「マジでか!!おい!このままじゃ俺達妖怪"便所わらし"になっちまうぞ!?」

「そうだよ?だから早くどっか行って紙貰って来い」

「ケツ丸出しで行けってーのかよ!!」

「全部脱いだ方がいいな…『ビックフットですが何か?』的な感じで自然な感じで行って来い」

「つーかお前が行けばいいだろ!どうせ今までデトックスしかしてなかったんだ!少しは役に立て!」

「どうせお前アレだろ?他人のバトルを横で解説する飲茶みてえな事しかやってねえんだろ?」

「失礼な事言うな!天津飯くらいまでは役に立ってました!!」

「天さんも飲茶も似たようなもんだ」

「なにィィィィ!?」

「―――いやいや、ご迷惑をおかけしてスミマセンねェ」

「「!?」」


銀時の言葉はまああってると言えばあってはいる。
北大路と土方の戦いでは解説しかしていないのだ。
しかしそれを言えば黙って見ていた鷹臣はただモブである。
反論するが、それが反論になりきれていないことに気付かない近藤と、そして銀時の耳に聞いたことのある男の声が届く。
その瞬間、一瞬にしてトイレの空気が変わった。





柳生家は広く、林のような庭を走る。
落ちる紅葉を鑑賞する暇なく、2人は迫ってくる九兵衛から逃げていた。


「十四郎さん、大丈夫?」

「くそッ…煙草やめようかな」


頭から血を流す土方を気遣いながら走るも手負いである土方は頭がクラクラしはじめる。
傷口が塞がっていないから血が流れ放題である。
チラリと後ろを見れば九兵衛との距離は少しずつ埋まっているようにも見えた。
それに土方は舌打ちを打つ。


「えらく足の速ェ野郎だ」


足を見れば下駄をはいているようにも見える。
下駄でここまで走れるのも驚きだが、その速さも驚きだった。
土方はそう零した後、考えた末にその場に立ち止まる。


「十四郎さん?」

「行け」

「え…?」

「あいつは俺が食い止める…お前は向こうの大将を見つけてあの銀髪よりも早く皿を割ってこい…あいつがどこにいるか分からない以上お前が動け…お前なら楽勝だろ?」

「……」


銀時がどこにいて何をしているかは分からない。
だが、あいつを気遣ってやる義理はない。
こちとら失恋の悲しみを通りぬき寝取るきでいるのだ。


「あいつを出し抜いて雪を寝取ってやろうぜ」


土方はニタリと笑った。
その笑みに鷹臣も口角を上げ、そして土方の背に何も声をかけず走る。
それは肯定になり、鷹臣の足音が消えたのを感じながら土方はくつりと笑う。


「随分と薄情な仲間だな…傷ついた仲間を置いて逃げるとは…」


そうこうしているうちに九兵衛が追いつき、鷹臣を追いかけるでもなく、立ち塞がり煙草に火をつける土方の前に止まる。
チラリと九兵衛は遠くなる鷹臣の背を見送り土方に視線を戻す。


「言っておくがうちの大将は君達には倒せん…おじい様は僕の剣の師…柳生家歴代の当主の中でも最強とうたわれる剣豪…悪いがこの勝負は最初から結果の決まった勝負だったのさ…今頃残りの仲間も東城にやられていよう……あれは四天王一の腕をもつ男…君をそこまで痛めつけた他3人とは比べ物にならん程のな…」


九兵衛の言葉に土方は鼻で笑う。
鼻で笑う土方に九兵衛は表情変えずただ土方を見ていた。


「俺たちはな…いつ何時が今生の別れになるかもしれねえ生活送ってる…仲間がくたばろうが知ったこっちゃねェ…その分多く俺が敵斬るだけだ…奴らに憂いの言葉なんていらねェ……俺にできるのはただ奴らと同じ場所でくたばるまで戦うことだけだ……あいつらと同じ極限のな」


そう言って土方は煙草を捨てる。


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