雪は神楽の登場に驚いている間に神楽に手を掴まれ引っ張られ走っていた。
「お雪さま!!お待ちください!!お雪さま!!」
後ろから奉公人の声が聞こえるが、神楽は自分たちと奉公人の間にある屋根を銃で撃ち崩す。
瓦礫が落ちてきて道を塞がれ慌てる奉公人たちをよそに神楽は雪の手を引っ張って逃げる。
「か、神楽ちゃん…!待って…!!」
神楽の背に雪は声を掛けるも神楽はうんともすんとも言わない。
「神楽ちゃん!!待ってってば!!」
「―――ッなんでアルか!!!」
「…!!」
暫くは追ってはこないだろうが、迂回した人達や騒ぎを聞きつけて来た人達でまた追われるだろう。
雪はそれでも走り出す神楽に声をかけるも神楽の声にかき消された。
怒鳴る様に声を上げる神楽は立ち止まり雪に振り返る。
その顔は泣きそうで、雪は息を呑んだ。
神楽は涙で揺らぐ視界の中、雪を睨むように見つめていた。
「なんで待たなきゃいけないネ!!!なんで助けに来たのに喜んでくれないネ!!なんで……なんであの時と同じで逃げようとしてくれないネ!!!雪だって銀ちゃんに会いたがってたのに…!!雪だって…銀ちゃんの事好きなくせに…!!なんで銀ちゃんのところに帰ってきてくれないアルか!!!」
神楽は待つよう言う雪に、助けに来たのに一切喜ぶ様子のない雪に、そして、妙からもこの家からも逃げようとしない雪を責めた。
それはずっと我慢していたものが雪と会って、雪の予想外の態度にブチリと我慢してギュッと縛ってあった紐が切れたのだろう。
涙をポロポロと零す神楽の言葉に雪は何も言えなかった。
銀時は決めるのは妙だと言っていたが、そんなもの今の神楽には分からないし、分かろうとも思わない。
ただ銀時と自分の隣に雪がいない事が嫌だった。
それを言えばきっと銀時は『おこちゃまめ』と揶揄われるだろうが、別に構わなかった。
そして神楽が言った『あの時』とは高杉の時の事だろう。
あの時も今も同じ状況で、あの時もこうして神楽が来てくれた。
目を擦って涙を止めようとする神楽を見て雪は『ああ、駄目だよ神楽ちゃん…』と思った。
しかしいつもなら注意して擦る手を取って代わりに抱きしめてあげるのに…今はそれが出来ない。
したいのに、雪の体は動いてくれないのだ。
それに歯がゆさを感じているとついに奉公人に追いつかれてしまった。
「見つけたーーっ!!」
「さあ!お雪さま!お戻りください!!」
雪の後ろから奉公人が走ってきて神楽は涙をそのままに雪を背に守る様に前に出る。
すると反対側の方にも奉公人が現れ挟み撃ちにされてしまった。
神楽は流石に傘の銃を一般人に向けれず、どうしようかと考えていると神楽達と奉公人たちの天井が突然崩壊した。
「―――!!」
「な…っ!?」
神楽はまた天井を壊したわけではなく、銃口はちゃんと下に向けられている。
では誰が…そう思い警戒していると砂埃の中から手が出て来た。
見覚えのある逞しい腕に驚いている隙にその腕は雪と神楽の腰に回され、雪と神楽は砂埃に紛れている人物の小脇に抱えられていた。
その人物は砂埃に紛れて咳き込む奉公人たちを素通りし、逃げた。
神楽と雪はその人物に小脇に抱えられながら顔を上げる。
その人物とは…
「ぎ、銀ちゃん!!」
「馬鹿やろう!神楽てめえ!人がせっかく静かに侵入してバレないようにしてたのに計画がおじゃんになったじゃねえか!!」
「何言ってるネ!!銀ちゃんが出てきたの天井だったアルよ!!静かにって屋根からの不法侵入ネ!!最低ネ!!変態ネ!!エロオヤジネ!!ロリコンネ!!」
「しょうがねえだろうが!!ここ男子禁制なんだからよオオ!!」
銀時だった。
銀時の登場に雪は目を丸くして言葉を失っていた。
目の前に銀時がいるのだ。
目の前に愛しい人がいて、脇に抱えられているとはいえ彼の温もりも感じている。
雪は息がつまりそうだった。
新たな侵入者に更にうるさくなる奉公人たちから逃げ、銀時は傍あった部屋に逃げ込んだ。
「お雪さまーっ!お待ちください!!」
「お雪さま!どこへ!?」
逃げ込んだのは人のいない部屋。
神楽と雪を下ろして銀時は開いていた襖を閉める。
暫く息をひそめていると奉公人たちの足音や声が遠ざかっていくのが分かった。
それに銀時と神楽はホッと息をつく。
「行ったアルか?」
「そうみたいだな…ったく…冷や冷やさせやがってお前は…天井撃った時俺丁度隣にいたんだぞ」
「んな事言ったってしょうがないアル…銀ちゃんが今までいなかったのが悪いネ…まさか銀ちゃんがサボって女の花園を覗きに行ってたとは思いもよらなかったアル」
「ちっげーよ!!お前今まで俺がどんな激戦繰り広げてたか知らねえからんなこと言えるんだよ!!!俺はなァ!あっちの大将と数日に渡る激戦をだな…」
「はいはい、そんな言い訳しなくても私だけは銀ちゃんの味方でいてやるネ…刑務所に面会に行ってやるネ」
「てめぇそれ俺が捕まる前提で言ってんのかゴラ!!銀さんはァ紳士なのでェ雪ちゃん以外にィ捕まるようなことはァしません〜!」
隠れているというのに言い合いをする二人に雪は懐かしさと、そして二人の掛け合いに思わず笑ってしまった。
雪の笑い声に二人の言い合いは止まり、雪を見た。
その二人の目線に気付いた雪は笑いながら謝る。
「ごめんなさい…2人の掛け合いが面白くて…」
そういう雪に二人は顔を見合わせ、なんだか気恥ずかしくなってお互い目を逸らして頬をかく。
その仕草が似ており親子に見えて雪は笑みを深め、二人に向き合う。
久々の二人は本当に懐かしく感じた。
数年経っていないのに、たった数か月会っていないだけで長い間会っていないように感じた。
「銀さん…」
「お、おう…」
「神楽ちゃん…」
「な、なんネ」
改めて名前を呼ばれ、真っすぐ見つめられた二人は緊張した。
雪から見た二人の顔色は悪くはなかった。
銀時も神楽も怪我を負っているが、逃げ出した時のような明らかに悪く見える顔色でもなければ、まだ全快とは言い難い。
だけど、何か吹っ切れたように以前の二人に戻っていた。
ただこの場で以前のままに戻れないのは自分だけだろう。
雪は2人の照れた顔を見つめながらゆっくりと頭を下げ、
「ごめんなさい」
そう呟いた。
雪が頭を下げた事や謝った事に銀時も神楽も目を見張った。
2人が息を呑むのを感じ、雪は目をギュッと瞑って続ける。
「こんなところまで来てくれてありがとうございます…でも、私は二人のところに戻れません」
「な…んでアルか…!?なんでそんな事言うアル!!だって…だって雪が来たくてこんなところにいたいわけじゃないのに…」
神楽は雪の言葉にショックを受けた。
頼まれて来たわけではないが、腕を折られても雪を迎えに来たのだ。
その雪から拒否されれば神楽も声を上げてしまう。
そんな神楽にじっと雪を見ていた銀時は『静かにしろ、神楽』と注意し、注意された神楽は銀時を振り返る。
「銀ちゃんはそれでいいアルか!?雪が帰らないって言ったらまたあの時みたいに姉御のところに帰すアルか!?」
「神楽、気づかれるから黙ってろ」
「黙ってられないアル…!私は嫌ネ!私は雪と一緒にいたいアル!!銀ちゃんが雪を姉御から奪わないなら私が――」
「神楽、いいからとりあえず落ち着け…あの女にバレてもいいのか?」
「…っ」
神楽は頭に血を上らせ銀時の宥める言葉など耳に入っていない。
だが妙の事を言われてしまえば黙るしかなく、悔し気に唇を噛みしめる神楽に銀時は責めることなく頭を撫でてやる。
表情も怒っておらず相変わらず優しく、それが余計に悔しくて神楽はそっぽを向く。
そっぽを向く神楽に銀時は苦笑いを浮かべた後まだ頭を下げる雪に向き直す。
「雪」
「…はい」
「俺は…俺と神楽は悪いがお前がそうやって頭を下げても諦めねえぞ」
「………」
銀時の言葉に神楽は目を見張った後嬉しそうに銀時を見た。
雪は頭を下げているため感情は読み取れないが、恐らく複雑なのだろう。
何も言わない雪に銀時は続ける。
「正直今でもお前の気持ちを優先したい気持ちはあるさ…だけどな、お前の気持ちを優先させた結果が他所の男に取られるというなら話は別だ…俺はお前が好きだ…本当ならあの女なんかに頭を下げず掻っ攫って閉じこめてやりたいくらいお前の事を愛している…―――だから頼む…俺の手を取ってくれ…死んでもお前を守ると誓うから」
「……ッ」
そう言って銀時は雪に手を差し出した。
決めるのは妙だ。
それは今でも変わらない。
だが、その前に雪も決めなければならない。
妙を取るか、銀時を取るか、を。
雪は銀時の告白に顔を赤くした。
銀時から改めて好きだと、愛していると、言われ嬉しく思った。
こんな危険な目に合ってまで愛してくれるという男を雪は愛しくも思った。
だけど雪の頭に姉の顔がちらついて離れないのだ。
きっと感情のまま彼の手を取れば後悔する…それが分かっているから雪は頭を下げたっま、神楽の縋るような目線を感じながら、動く事が出来なかった。
しかし…
「――――誰が私の妹をあなたにあげるものですか」
聞き慣れた声が三人の耳に届いた瞬間、閉めた襖が真っ二つに割れた。
それに雪は顔を上げ、銀時と神楽は振り返る。
そこには雪の姉であり、この騒動の原因でもある妙が薙刀を持って立っていた。
妙の姿に銀時は舌打ちを打ち雪の腕を掴もうと手を伸ばす。
だがそれを読んでいた妙が銀時へ薙刀を向け動きを封じた。
「雪ちゃん、こっちに来なさい」
薙刀を構えながらチラリと雪を見た後、最も警戒している銀時へ目線を戻す。
どちらもお互いを睨みつけており、雪は戸惑った後妙の元へ戻っていった。
それに神楽が動こうとしたが、銀時に手で制止され立ち止まるしかできなかった。
「姉御…どうしてアルか!!なんで銀ちゃんと雪を離れ離れにさせるネ!!二人はちゃんと想い合ってるヨ!銀ちゃんは確かにぐうたらだしマダオだけど…けど!雪を思う気持ちは一番ネ!!」
「いくら愛し合っていようが想い合っていようが、この人との交際も関係を持つことも許しません」
「――そう、雪ちゃんは僕のお嫁さんだからね」
「「…!」」
神楽は妙がどうしてここまで銀時との交際を許さないのか分からなかった。
確かに妙も銀時もお互い好き好かれていない。
天敵以上で敵であるが味方ではない。
雪が間にいたから二人は今まで争う事はなかった。
それに何だかんだ言って銀時がどんな人か妙は見ていたから、神楽は余計に分からなかった。
泣きそうになりながら妙を説得しようとするも、肝心の妙は頑固だった。
更には後ろから聞きたくもない声がし、障子を開けるとそこにはやはり雪を妻に迎えようとする九兵衛がいた。
しかも…
「お前…!」
「!――土方さん…!?」
九兵衛の足元には土方がうつ伏せで倒れていた。
しかし気を失っていないのか雪の驚いた声に反応し顔を少し上げる。
雪はその土方の血だらけの顔を見て小さく悲鳴を上げ、駆け付けようとした。
そんな雪の腕を銀時を睨む姉に捕まれ阻止さえる。
銀時は妙からの殺気を感じながらも九兵衛へ振り返り睨みつけるように見る。
「これで君らは残り何人だ?…いや、何人残っていようと大将である君を倒せば全て終わりか……残念だったな…悪いが雪ちゃんは僕がもらい受ける」
「もらいうける、だ?」
九兵衛の勝気な言葉に虫の息だった土方が痛みに顔を歪めながら顔を上げて九兵衛を睨む。
九兵衛も土方の呟きに銀時から土方へ目を向けた。
「ふざけた事抜かしやがるじゃねえか…おい、どうやら俺達ァ…とんだ茶番につき合わされていたようだぜ…」
土方の言いたい事が分からず、銀時と神楽は怪訝とさせる。
そんな二人をよそに土方は戦っている時に気付いた九兵衛の秘密を零した。
「こいつ…――"女"だ」
土方の言葉に銀時と神楽は目を丸くさせ、雪は目を伏せた。
「お雪さま!!お待ちください!!お雪さま!!」
後ろから奉公人の声が聞こえるが、神楽は自分たちと奉公人の間にある屋根を銃で撃ち崩す。
瓦礫が落ちてきて道を塞がれ慌てる奉公人たちをよそに神楽は雪の手を引っ張って逃げる。
「か、神楽ちゃん…!待って…!!」
神楽の背に雪は声を掛けるも神楽はうんともすんとも言わない。
「神楽ちゃん!!待ってってば!!」
「―――ッなんでアルか!!!」
「…!!」
暫くは追ってはこないだろうが、迂回した人達や騒ぎを聞きつけて来た人達でまた追われるだろう。
雪はそれでも走り出す神楽に声をかけるも神楽の声にかき消された。
怒鳴る様に声を上げる神楽は立ち止まり雪に振り返る。
その顔は泣きそうで、雪は息を呑んだ。
神楽は涙で揺らぐ視界の中、雪を睨むように見つめていた。
「なんで待たなきゃいけないネ!!!なんで助けに来たのに喜んでくれないネ!!なんで……なんであの時と同じで逃げようとしてくれないネ!!!雪だって銀ちゃんに会いたがってたのに…!!雪だって…銀ちゃんの事好きなくせに…!!なんで銀ちゃんのところに帰ってきてくれないアルか!!!」
神楽は待つよう言う雪に、助けに来たのに一切喜ぶ様子のない雪に、そして、妙からもこの家からも逃げようとしない雪を責めた。
それはずっと我慢していたものが雪と会って、雪の予想外の態度にブチリと我慢してギュッと縛ってあった紐が切れたのだろう。
涙をポロポロと零す神楽の言葉に雪は何も言えなかった。
銀時は決めるのは妙だと言っていたが、そんなもの今の神楽には分からないし、分かろうとも思わない。
ただ銀時と自分の隣に雪がいない事が嫌だった。
それを言えばきっと銀時は『おこちゃまめ』と揶揄われるだろうが、別に構わなかった。
そして神楽が言った『あの時』とは高杉の時の事だろう。
あの時も今も同じ状況で、あの時もこうして神楽が来てくれた。
目を擦って涙を止めようとする神楽を見て雪は『ああ、駄目だよ神楽ちゃん…』と思った。
しかしいつもなら注意して擦る手を取って代わりに抱きしめてあげるのに…今はそれが出来ない。
したいのに、雪の体は動いてくれないのだ。
それに歯がゆさを感じているとついに奉公人に追いつかれてしまった。
「見つけたーーっ!!」
「さあ!お雪さま!お戻りください!!」
雪の後ろから奉公人が走ってきて神楽は涙をそのままに雪を背に守る様に前に出る。
すると反対側の方にも奉公人が現れ挟み撃ちにされてしまった。
神楽は流石に傘の銃を一般人に向けれず、どうしようかと考えていると神楽達と奉公人たちの天井が突然崩壊した。
「―――!!」
「な…っ!?」
神楽はまた天井を壊したわけではなく、銃口はちゃんと下に向けられている。
では誰が…そう思い警戒していると砂埃の中から手が出て来た。
見覚えのある逞しい腕に驚いている隙にその腕は雪と神楽の腰に回され、雪と神楽は砂埃に紛れている人物の小脇に抱えられていた。
その人物は砂埃に紛れて咳き込む奉公人たちを素通りし、逃げた。
神楽と雪はその人物に小脇に抱えられながら顔を上げる。
その人物とは…
「ぎ、銀ちゃん!!」
「馬鹿やろう!神楽てめえ!人がせっかく静かに侵入してバレないようにしてたのに計画がおじゃんになったじゃねえか!!」
「何言ってるネ!!銀ちゃんが出てきたの天井だったアルよ!!静かにって屋根からの不法侵入ネ!!最低ネ!!変態ネ!!エロオヤジネ!!ロリコンネ!!」
「しょうがねえだろうが!!ここ男子禁制なんだからよオオ!!」
銀時だった。
銀時の登場に雪は目を丸くして言葉を失っていた。
目の前に銀時がいるのだ。
目の前に愛しい人がいて、脇に抱えられているとはいえ彼の温もりも感じている。
雪は息がつまりそうだった。
新たな侵入者に更にうるさくなる奉公人たちから逃げ、銀時は傍あった部屋に逃げ込んだ。
「お雪さまーっ!お待ちください!!」
「お雪さま!どこへ!?」
逃げ込んだのは人のいない部屋。
神楽と雪を下ろして銀時は開いていた襖を閉める。
暫く息をひそめていると奉公人たちの足音や声が遠ざかっていくのが分かった。
それに銀時と神楽はホッと息をつく。
「行ったアルか?」
「そうみたいだな…ったく…冷や冷やさせやがってお前は…天井撃った時俺丁度隣にいたんだぞ」
「んな事言ったってしょうがないアル…銀ちゃんが今までいなかったのが悪いネ…まさか銀ちゃんがサボって女の花園を覗きに行ってたとは思いもよらなかったアル」
「ちっげーよ!!お前今まで俺がどんな激戦繰り広げてたか知らねえからんなこと言えるんだよ!!!俺はなァ!あっちの大将と数日に渡る激戦をだな…」
「はいはい、そんな言い訳しなくても私だけは銀ちゃんの味方でいてやるネ…刑務所に面会に行ってやるネ」
「てめぇそれ俺が捕まる前提で言ってんのかゴラ!!銀さんはァ紳士なのでェ雪ちゃん以外にィ捕まるようなことはァしません〜!」
隠れているというのに言い合いをする二人に雪は懐かしさと、そして二人の掛け合いに思わず笑ってしまった。
雪の笑い声に二人の言い合いは止まり、雪を見た。
その二人の目線に気付いた雪は笑いながら謝る。
「ごめんなさい…2人の掛け合いが面白くて…」
そういう雪に二人は顔を見合わせ、なんだか気恥ずかしくなってお互い目を逸らして頬をかく。
その仕草が似ており親子に見えて雪は笑みを深め、二人に向き合う。
久々の二人は本当に懐かしく感じた。
数年経っていないのに、たった数か月会っていないだけで長い間会っていないように感じた。
「銀さん…」
「お、おう…」
「神楽ちゃん…」
「な、なんネ」
改めて名前を呼ばれ、真っすぐ見つめられた二人は緊張した。
雪から見た二人の顔色は悪くはなかった。
銀時も神楽も怪我を負っているが、逃げ出した時のような明らかに悪く見える顔色でもなければ、まだ全快とは言い難い。
だけど、何か吹っ切れたように以前の二人に戻っていた。
ただこの場で以前のままに戻れないのは自分だけだろう。
雪は2人の照れた顔を見つめながらゆっくりと頭を下げ、
「ごめんなさい」
そう呟いた。
雪が頭を下げた事や謝った事に銀時も神楽も目を見張った。
2人が息を呑むのを感じ、雪は目をギュッと瞑って続ける。
「こんなところまで来てくれてありがとうございます…でも、私は二人のところに戻れません」
「な…んでアルか…!?なんでそんな事言うアル!!だって…だって雪が来たくてこんなところにいたいわけじゃないのに…」
神楽は雪の言葉にショックを受けた。
頼まれて来たわけではないが、腕を折られても雪を迎えに来たのだ。
その雪から拒否されれば神楽も声を上げてしまう。
そんな神楽にじっと雪を見ていた銀時は『静かにしろ、神楽』と注意し、注意された神楽は銀時を振り返る。
「銀ちゃんはそれでいいアルか!?雪が帰らないって言ったらまたあの時みたいに姉御のところに帰すアルか!?」
「神楽、気づかれるから黙ってろ」
「黙ってられないアル…!私は嫌ネ!私は雪と一緒にいたいアル!!銀ちゃんが雪を姉御から奪わないなら私が――」
「神楽、いいからとりあえず落ち着け…あの女にバレてもいいのか?」
「…っ」
神楽は頭に血を上らせ銀時の宥める言葉など耳に入っていない。
だが妙の事を言われてしまえば黙るしかなく、悔し気に唇を噛みしめる神楽に銀時は責めることなく頭を撫でてやる。
表情も怒っておらず相変わらず優しく、それが余計に悔しくて神楽はそっぽを向く。
そっぽを向く神楽に銀時は苦笑いを浮かべた後まだ頭を下げる雪に向き直す。
「雪」
「…はい」
「俺は…俺と神楽は悪いがお前がそうやって頭を下げても諦めねえぞ」
「………」
銀時の言葉に神楽は目を見張った後嬉しそうに銀時を見た。
雪は頭を下げているため感情は読み取れないが、恐らく複雑なのだろう。
何も言わない雪に銀時は続ける。
「正直今でもお前の気持ちを優先したい気持ちはあるさ…だけどな、お前の気持ちを優先させた結果が他所の男に取られるというなら話は別だ…俺はお前が好きだ…本当ならあの女なんかに頭を下げず掻っ攫って閉じこめてやりたいくらいお前の事を愛している…―――だから頼む…俺の手を取ってくれ…死んでもお前を守ると誓うから」
「……ッ」
そう言って銀時は雪に手を差し出した。
決めるのは妙だ。
それは今でも変わらない。
だが、その前に雪も決めなければならない。
妙を取るか、銀時を取るか、を。
雪は銀時の告白に顔を赤くした。
銀時から改めて好きだと、愛していると、言われ嬉しく思った。
こんな危険な目に合ってまで愛してくれるという男を雪は愛しくも思った。
だけど雪の頭に姉の顔がちらついて離れないのだ。
きっと感情のまま彼の手を取れば後悔する…それが分かっているから雪は頭を下げたっま、神楽の縋るような目線を感じながら、動く事が出来なかった。
しかし…
「――――誰が私の妹をあなたにあげるものですか」
聞き慣れた声が三人の耳に届いた瞬間、閉めた襖が真っ二つに割れた。
それに雪は顔を上げ、銀時と神楽は振り返る。
そこには雪の姉であり、この騒動の原因でもある妙が薙刀を持って立っていた。
妙の姿に銀時は舌打ちを打ち雪の腕を掴もうと手を伸ばす。
だがそれを読んでいた妙が銀時へ薙刀を向け動きを封じた。
「雪ちゃん、こっちに来なさい」
薙刀を構えながらチラリと雪を見た後、最も警戒している銀時へ目線を戻す。
どちらもお互いを睨みつけており、雪は戸惑った後妙の元へ戻っていった。
それに神楽が動こうとしたが、銀時に手で制止され立ち止まるしかできなかった。
「姉御…どうしてアルか!!なんで銀ちゃんと雪を離れ離れにさせるネ!!二人はちゃんと想い合ってるヨ!銀ちゃんは確かにぐうたらだしマダオだけど…けど!雪を思う気持ちは一番ネ!!」
「いくら愛し合っていようが想い合っていようが、この人との交際も関係を持つことも許しません」
「――そう、雪ちゃんは僕のお嫁さんだからね」
「「…!」」
神楽は妙がどうしてここまで銀時との交際を許さないのか分からなかった。
確かに妙も銀時もお互い好き好かれていない。
天敵以上で敵であるが味方ではない。
雪が間にいたから二人は今まで争う事はなかった。
それに何だかんだ言って銀時がどんな人か妙は見ていたから、神楽は余計に分からなかった。
泣きそうになりながら妙を説得しようとするも、肝心の妙は頑固だった。
更には後ろから聞きたくもない声がし、障子を開けるとそこにはやはり雪を妻に迎えようとする九兵衛がいた。
しかも…
「お前…!」
「!――土方さん…!?」
九兵衛の足元には土方がうつ伏せで倒れていた。
しかし気を失っていないのか雪の驚いた声に反応し顔を少し上げる。
雪はその土方の血だらけの顔を見て小さく悲鳴を上げ、駆け付けようとした。
そんな雪の腕を銀時を睨む姉に捕まれ阻止さえる。
銀時は妙からの殺気を感じながらも九兵衛へ振り返り睨みつけるように見る。
「これで君らは残り何人だ?…いや、何人残っていようと大将である君を倒せば全て終わりか……残念だったな…悪いが雪ちゃんは僕がもらい受ける」
「もらいうける、だ?」
九兵衛の勝気な言葉に虫の息だった土方が痛みに顔を歪めながら顔を上げて九兵衛を睨む。
九兵衛も土方の呟きに銀時から土方へ目を向けた。
「ふざけた事抜かしやがるじゃねえか…おい、どうやら俺達ァ…とんだ茶番につき合わされていたようだぜ…」
土方の言いたい事が分からず、銀時と神楽は怪訝とさせる。
そんな二人をよそに土方は戦っている時に気付いた九兵衛の秘密を零した。
「こいつ…――"女"だ」
土方の言葉に銀時と神楽は目を丸くさせ、雪は目を伏せた。
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