(21 / 23) そういう時は黙って赤飯 (21)
スナック・スマイル。
今日も店は繁盛し、様々なお客が来ていた。


「きゃ〜〜っ!鷹臣様だわぁ〜〜!!」


その店にある一人の男性が来店した。
その男性とは絶世の美男、メデューサの鷹と名高い近藤鷹臣だった。
そのイケメンぶりは健在で相変わらず優しい笑みを浮かべながら群がる女性達を無視し男性店員へ振り返る。


「指名、お妙ちゃんで」


彼が1人で来店すること自体珍しく指名もしてきた。
それにも驚きだが、何より彼の格好もまた珍しかった。


「そうですか…みんなは来れないんだ…」


指名を貰い妙は席に着く。
そこには鷹臣一人だけだった。
それに少し肩を落としながらも鷹臣の横に座る。


「色々迷惑かけたからお詫びをと思ってたんですけど…あなたもすいませんでした……私のせいでそんな黒ずくめ男に…」


席に座っている鷹臣の服装は仕事着だった。
ここに来るまで仕事していたらしく、妙の言葉に首を振る。


「別にこれ義姉上のせいじゃないし、みんなあの事は全然気にしてないと思うよ」


そう言って鷹臣はお酒が飲めないためウーロン茶を飲む。
そんな鷹臣の言葉でも妙の表情が晴れることはない。


「…私…最低ですよね…」


妙の言葉に鷹臣はコップを傾けながら妙をチラリとみる。
客を目の前にしても妙の表情は落ち込んでおり、鷹臣は飲むのを止めて妙を見下ろす。


「結局勝手なことして…色んな人を傷つけてしまった…雪ちゃんにも、九ちゃんも、みんなにも迷惑かけて……最後まで押し通すこともできないのに半端な気持ちであんな事して……私がした事は結局誰のためにもならなかった…」


鷹臣はその言葉を聞いて持っていたコップを置き、『んー』と考えるそぶりを見せる。


「別にいいんじゃないかな?人間は釈迦じゃないし目の前のもの全て救えるとでも思うのはちょっと可笑しいと思うんだよね…いくら骨砕こうが救えるもんもあれば救えないものもあると思う…それでに救えないから何だっていうのかな?そんなもので折れる程義姉上の生き方は脆いものなのかな?」


その言葉に妙は膝に置かれているグッと拳を握る。
フォローでもあるが、鷹臣の言う通りなのだ。
雪を救ってあげようと、守ってあげようとして、結局一番雪を傷つけてきた。
守っているはずなのに、雪を傷つけ見て見ぬふりをしてきたのだ。
鷹臣のその言葉がグサッと来る。
そんな妙に鷹臣は振り返りにっこりと笑う。


「でも今、その義姉上の言う半端な優しさでも救えるものがあるとしたら……どうする?」


鷹臣の言葉に妙は目を見張り鷹臣を見た。
『ね』と小首を傾げる鷹臣に妙はすぐに答えを出す。





某所にあるホテル。
その中ではたった今、結婚披露宴が始まろうとしていた。


≪皆さまお待たせいたしました!新郎新婦入場です!≫


アナウンスに合わせ曲が掛かり扉が開かれる。
出てきたのは真選組局長である近藤勲と―――大きな体を持つゴリラだった。
そのゴリラは可愛らしいピンクの花嫁衣裳を着ており、どうやらメスのようである。


「…銀さん」

「なあに」

「…なんですか、あれ…」

「なにって…ゴリラだけど」

「…銀さん」

「はあい」

「……人間、一体どう転ぶとあんな事になるんですか…」


雪はやっと姉に条件付きだが交際を認められ16年の人生の中で二番目にハッピーだった。
勿論一番目は吉原から出て姉との再会し姉と共に暮らせる事である。
2人で買い物をしている途中に山崎から近藤が結婚すると聞き、雪は大いに喜んだ。
これで身近なストーカーが消えると思ったのだ。
それも大切な姉のストーカーである近藤が結婚すると聞いて素直に大喜びしていた。
銀時と自分の礼服である着物をレンタルし、神楽のチャイナもレンタルしてちゃんとご祝儀も三人合わせた額で出した。
自分が姉に軟禁されている間二人は仕事を真面目にやっていたおかげでご祝儀もちゃんと出せた事に雪は安堵し、来るまで『近藤さんの相手の女性ってどんな人ですか?』と銀時に聞いて何故かゴリラだらけの光景に圧倒されていた矢先に巨大なゴリラと近藤という名のゴリラが入場してきたのだ。
雪の唖然とした呟きに銀時は『あー…』とあの時を思い出そうとする。
しかし雪と九兵衛のキスのショックであまり覚えていないのでザックリとした単語を出した。


「見合いで脱糞してワントラップいれるとああなるんだよ」

「…なんで脱糞してワントラップ入れただけでああなるんですか…もはや奇跡じゃないですか…」


あの時雪もいたが、九兵衛がすぐに連れ出したのでゴリラがいた事に気付いていなかった。
というよりかはキスを銀時に見られたショックで雪もあまり覚えていない。


「雪ー、次食べたいネ早く剥いてヨ」

「あ、ご、ごめん…神楽ちゃん…」


顔を引きつらせ前を歩くメスゴリラとオスゴリラを見送っていると隣から催促の声が聞こえ雪は我に返る。
雪の左右の隣には銀時と神楽が座っており、片腕を某沖田に折られた神楽はそれを理由にここ最近雪にベタベタに甘えていた。
今も片腕じゃ剥けないアル、とか言って雪にバナナを剥いてもらっていた。
しかし銀時は知っている…折れてはいるが神楽は普通に腕を使っているという事を。
だが今回は神楽も我慢してくれていたということもあって見なかったことにしてあげているのだ。
最初は『はいあーん』とどこぞのカップルのように食べさせていたが、神楽が面倒になったのか剥いてもらったバナナをそのまま自分で食べるようになった。
皮を剥いてやったあと自分も皮を剥いてバナナを食べる雪を見守っていた銀時のもとに、某神楽に足を折られたせいで松葉杖をつく某沖田が近づいてくる。


「旦那ァ、笑い事じゃないですぜ」

「いや、笑ってねえよ?つーか笑えねえよ…他人の結婚式で泣きそうになったのは初めてだ」


笑い事、と沖田は言うが銀時も雪も神楽も全く笑っていない。
むしろ泣きそうである。
そんな銀時達を無視し沖田は困ったように呟いた。


「なんとかなりませんかねえ…この披露宴はただの顔見せみたいなもんでね、この後王女の星で正式な婚礼を挙げれば近藤さんも晴れてゴリラの仲間入り…もう帰ってきません……旦那ブチ壊すのは今夜しかねえんです」

「ブチ壊すって、沖田君…最初からこの披露宴壊れてるだろ、ゴリラだらけだもの…最初から壊れてるもんを壊すなんて流石の俺にもできねえよ、ゴリラだらけだもの」

「そりゃねえぜ、旦那…なんやかんやで俺たち雪を救うのに一役かったんですぜ?これで貸し借りなしにしやしょうや」

「一役買ったっつってもお前あれだろ、雪を寝取る気満々だろうが…そんな奴に貸し借りなんざ言われたかねえよ」

「…いいんですかィ?」

「あ?」

「旦那、今回タッキーに色々貸しがあるそうじゃないですか」

「………てめえ…なんでそれを知ってやがる…あいつか、ゴリラ弟か」

「タッキーがそんなみみっちいことするわけねェでさァ…もう一人…あの場所に真選組の人間がいたの忘れてやせんか?」

「あいつかアア!!マヨラーかアアア!!あんの野郎オオオオ!!」


鷹臣に色々貸しがあると言われ銀時はドキリとさせる。
確かに鷹臣には色々と貸しがある。
だが、あの時沖田はいなかった。
それを知っているのを怪しんでいると沖田が指さした席には土方がいた。
その隣には少女がおり、少女は泣いていた。
ハンカチで涙を拭っても拭っても少女は、おさきは泣いており、そのおさきを隣に座っていた終が頭を撫でて慰めていた。
バナナを無心に食べる土方をギロリと睨めば、その睨みに気づいた土方がこちらを見る。
恐らく沖田が指さしたのにも気付きどういう会話をしたのかも察しているのだろう…土方は銀時に鼻で笑って返す。
土方も雪に恋している男であり、その雪が銀時を選んだため、その腹いせなのだろう。
それに銀時が立ち上がり喧嘩を売りに行こうとしたのを雪が服を掴んでやめさせた。


「ちょっと銀さん!やめてくださいよ!こんな日にまで喧嘩するのは!!近藤さんに失礼でしょう?沖田さんも暇だからって面白おかしくしようとしないでください!」

「いや、面白おかしくっつーか作戦っつーか…着物姿の雪も素敵だが邪魔しないでほしいっていうか…」


雪に注意されてしまい喧嘩を売る気満々だった銀時は座り直す。
それを見て沖田は肩を落とした。
雪はどうやら近藤が結婚するのは反対ではないようである。
まあ当たり前と言えば当たり前である。
今回銀時と神楽に手を貸してくれたとは言え、相手は姉のストーカーなのだ。
所帯を持ってくれれば万々歳であるという感じなのだろう。
沖田も惚れた弱みで雪には強く出れず溜息をついていると持っていたトランシーバーが鳴る。


≪こちら近藤!応答願います!どうぞ!≫


相手はその近藤だった。
事前にトランシーバーを渡してあり、それで密かに会話をする手筈となっている。


≪お前ら何やってんだ!早く披露宴ブチ壊してくれ!!どうぞ!≫


新郎新婦の席に座るも中々行動を起こさないのをじれったく感じて連絡してきたのだろう。
隣のバブルス王女がチラチラとこちらを見ており、その頬が赤くなっているのもついでに見て近藤は危機感を覚えていた。


≪お前らこんなん得意だろうが!御馳走食わせるために呼んだんじゃねえんだぞ!!どうぞ!≫

「御馳走って…お前これバナナしかねえじゃねえか…あんま俺達舐めんじゃねえぞゴラ、どうぞ」


万事屋と真選組は社長と戦闘担当が副長と一番隊隊長と天敵であるため仲はよろしくない。
ただ雪となると真選組との仲は中和される怪奇現象が起こるが、今日、その仲のよろしくない真選組の局長である近藤の結婚式に呼ばれたのは何も雪と仲がいいからではない。
この結婚式を壊してほしいのだ。


≪今回俺達真選組は派手に動けん!この結婚は松平のとっつぁんが動いてる!!あれに逆らえば真選組は消される!!外野のお前らに頼むしかねえんだ!どうぞ!≫


チラリと包帯を巻いてミイラ男と化している松平を見れば他の幹部達と同じテーブルでくっちゃくっちゃとまるで893のようにバナナを頬張っていた。
その傍には本来いるはずの頼りになる弟の姿はなく、銀時の『弟はどうした』という問いに近藤は『あいつがいたら確実に式を壊されるからとっつぁんが事前に仕事を入れて遠ざけてんだよ!!あいつ暫く仕事でいねえんだよオオ!!!』と返す。
そんな泣きながら答える近藤に神楽が沖田から奪い取ったトランシーバーで近藤に問いかける。


「どこ産だ、どうぞ」

≪はあ?≫

「このバナナはどこ産だと聞いているアル!どうぞ!」

≪バナナの事はどうでもいいんだっつーの!!ちょっと気に入ってるじゃねえかバナナ!!どうぞ!≫

「果物の王様はやっぱりバナナアル!どうぞ!」

≪どうぞじゃねえよ!!んな事一々報告してんじゃねェ!!どうぞ!!≫


神楽からの連絡はただのバナナ情報だった。
聞いてくるが近藤もゴリラゴリラと言われながらも所詮は人間である。
どこ産なのかまでは分からない。
終いには銀時がトイレを探し出し、それを沖田が案内するというトランシーバーでしなくてもいいのではないかと言わんばかりの会話をし始めた。
全く近藤に向けた会話ではなく、近藤は目の前が真っ暗になる。


≪それでは新郎新婦、どうぞ前へ…皆さま、大変長らくお待たせしました―――では!これより!夫婦初めての共同作業に移らせてもらいます!≫


進行が進み、ついにケーキ入刀が始まる。
それを聞いて雪は彼氏も出来て乙女として興味あり、前に出た近藤とゴリラを見た。
神楽も興味ないがとりあえず見といてやるか的にバナナを食べながら雪と同じ方を向いており、銀時と沖田は先ほどトイレに行っていない。
しかし…運ばれたのはケーキではなく……――――大きなベッドだった。
それを見て近藤も雪も…そしてその場にいた人間達も凍り付いた。


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