(3 / 13) その後 (3)
妙はお風呂も入り、銀時が寝る部屋を雪から離れた場所にし、神楽を昆布で買収してボディガードとして一緒の部屋で寝かせた後、自分も明日のため自室に帰ったのだが、襖を開けると先客がいた。


「またあなたですか…千早さん」


自室の敷いていた布団の傍に遊女…千早が座って自分を待っていた。
千早は相変わらず何も言わず微笑んでいるだけ。
普段は苛立つ笑みなのに、不思議と今日はそれほど苛立ちはなかった。
部屋へ入り妙は襖を閉め鏡台へ向かって色々と寝る準備を整える。
チラリと鏡を見れば千早が写っており、乾かしたばかりの髪を櫛で梳き終えた妙はそっと櫛を置いた。


「……ざまあみやがれです、千早さん…あなたが望む通りには行きませんでしたね」


ポツリとそう呟いても彼女は何も言わず妙を見るだけ。
そう、それはいつも事なのだ。
彼女は霊体でもなければ実際にそこにいるわけでもなく、妙が雪を奪われる恐怖で出来たモノなのだから。
妙は彼女の声をしらないし、癖もしらない。
だから妙の前に現れる千早は動かないし笑みを浮かべているだけで何も喋らない。
それでも妙は続けた。


「あなたがあの子の初恋の人を推してましたけど、あの子がそれを拒みました…拒んであんな駄目な男を捕まえたんです……我が妹ながら見る目がありませんよね…だって、あの人まるで駄目なオッサン…略してマダオなんですよ?マダオなんてどこがいいんだか…聞けば平日だろうとダラダラしてるだけでちょっと仕事すればパチンコや飲みに消えていつもあの子や神楽ちゃんに苦労ばかりかけさせて死んだ魚のような目をしてるくせして周りに慕われて…自分が傷つこうが何しようが懐に入れた人達を守ろうとして……でも…対して私は守ろうとしていたあの子を傷つけて…それに気づかなくて……本当…ざまあみやがれ、ですね…」


止まっていた涙が溢れ出てきてしまった。
首に掛かっていたタオルで涙を拭うもすぐにまた涙が溢れる。
気丈に振る舞おうとした反動なのだろう。
雪のために女の身ひとつで雪も志村家も守ってきた。
そのために大切に思っていた雪を傷つけたというのに。
もう泣かないと決めたのに妙の瞳からは涙が溢れてしまい、そんな自分に妙は笑いが零れる。


「あの子はもう私だけの妹じゃなくなっちゃいましたよ…あの子はもうあなた達だけのあの子じゃなくなっちゃいました…お互いざまあみやがれですよね…」


だけど、妙はこうも思った。
――あの子が、雪が…笑ってくれるのならあの男を認めてやってもいいだろう…と。
あの男のせいで泣かされるのと比べれば、あの男が雪の笑顔を守ってくれるという誓いを信じて、憎らしく嫌っているあの男との交際を許してやろうと思った。
否、思えるようになった。
まだ結婚もしていないが、それでもきっと妙は雪があの男と結婚するという報告に同じ過ちは犯さないだろう。
ただ、簡単に結婚なんて許してあげようとも思っていない。
可愛い可愛い妹の一生をあげるのだ…それなりの代償は覚悟してもらわなければならない。
だが結婚なんてまだ先だろう。
もしかしたら銀時と雪が別れるかもしれない可能性だってあるのだ。
不思議とそんな気が起きないが、妙は1%でもその可能性があるのならシスコンとしてそう信じようと思った。
だから、まずは…


「ねえ、千早さん……私…明日からあの子の…雪ちゃんの知るお姉ちゃんに戻れるかしら…」


またいつもの日常に戻ることに専念しようと思った。
妙にそう問われた千早は笑みを深め、そして姿を消した。


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