(4 / 13) その後 (4)
朝、神楽は珍しくいつもより早く目覚めた。
時計を見れば朝の7時で、隣を見れば雪の布団は空っぽどころか綺麗に畳まれて押入れに入れられていた。
神楽も雪ほど綺麗には出来ないがお客様布団を畳んで部屋の隅に置いておく。
これも雪の教育の賜物だろう。
そして神楽は匂いを辿って志村家の台所に向かう。


「あ、おはよう、神楽ちゃん」

「…おはようネ、雪」


台所の暖簾をくぐって入ればそこにはちょこまかと動く雪がいた。
まだ女物の着物を着ており、神楽的には袴姿に見慣れていたが、台所に雪の姿があるというだけで神楽は体の力を抜く。
そして自分の体の力が無意識に入れられていたのに気づく。
恐らく数か月の間、毎朝万事屋の空っぽな台所を見てきたからだろう。
だが、昨日、やっと銀時は雪を取り返すことに成功したのだ。
その証拠が目の前にいる雪で、神楽が立っている場所なのだ。


「神楽ちゃん、銀さんと姉上起こしてきて」

「まだ起きてないアルか?」

「うん…まあ、銀さんはいつもの事だし、姉上は疲れてたんだと思う…特に姉上は精神的にも参ってたから…」


姉を心配する雪に神楽は言葉にせず『それはお前の方じゃねえアルか』と零したが、雪には言わないでおいた。
恐らく神楽がそれを言っても雪は困ったように笑うだけで終わらせるのだ。
なんで母親というものはこうも自分の感情を表に出さないのだろう…神楽は部屋の位置的に近い妙を起こしに向かい、自分の生みの親と雪を重ねながらそう思う。


「姉御ー、起きてるアルか?」


神楽は一応礼儀として部屋の前で声を掛ける。
そうしろと雪に教わったし、前声かけもなく妙の部屋を開けると笑顔で怒られたのだ。
妙にだけは逆らったら駄目だとインプットされている神楽はそれを忘れずちゃんと実行していた。
すると中から『ええ、起きてるわよ』という妙の声がし、『開けるヨ』と言えば許可の声が届いた。
許可され障子を開けてみればそこには着替え途中の妙の姿があった。


「雪が銀ちゃんと姉御を起こせって…」

「あら、そうなの…あのマダオ、まだ寝てるの」

「いつもの事ネ」


朝7時と言えば普通なら起きてる時間だ。
妙も本来なら仕事があった日以外は6時には目を覚ましているのだが、昨日の疲れで起きるのが遅かった。
神楽の密告に妙は『だからマダオなのよね、あの人』と零し、それを聞いても神楽は反論はしない。
恐いとかではなく、反論する言葉がないのだ。
長谷川と共に銀時もまたマダオなのだから。
毒舌を零す神楽に妙は着替えながらクスクスと笑っていた。
その姿はあんな事をしたとは思えないくらい以前と変わらない神楽の好きな妙だった。


「姉御」

「なあに?」

「銀ちゃんを許してくれたアルか?」


何となく、妙を見ていた神楽は問いかけ、その問いに答えた妙は手を止めた。
ゆっくりと振り返る妙の表情は驚いており、自分の質問はそれほど驚くような内容だったかと思う。
妙は驚いた表情から少し落ち着いたのか神楽から目を逸らし着替えを再開させる。


「…許さないわね、一生」


着替えながら答える妙に神楽はグッと拳を握った。
あれほど自分が、そして銀時が傷ついて必死に雪のもとに駆け付けたというのに、妙は全然分かってくれなかった。
神楽はそう思った。
しかし…


「私が必死に守って育ててきた可愛い妹を簡単に掻っ攫ってくれたんですもの…その一生をかけて雪ちゃんを守るぐらいしてくれないとその罪は償いえないわ」

「!、姉御…じゃあ!じゃあ!銀ちゃんと雪が付き合うの許してくれるアルか?」

「あら、神楽ちゃん、勘違いしちゃ駄目よ?私はあの人の事一生許すつもりはないのよ?ただあの人はあの人のやり方で守って、私は私のやり方で守るだけの事…雪ちゃんがあの人に懐いちゃったからどうしようもないだけよ」

「分かってるアル!!私もあのマダオから雪を守るネ!!私も雪を守るネ!!」

「ええ、勿論よ、神楽ちゃん」


言葉は否定的だが、どうやら妙は銀時と雪の交際を許してくれたらしい。
それを察し、神楽は目の前が明るくなり笑顔もパッと花が華やかに咲いたような笑顔に変わった。
それを見て妙は笑みを深め、目の前に歩み寄って誓う彼女の髪を優しく撫でてた。


「あ、そうだ…ね、神楽ちゃん、ちょっとお願いごとがあるんだけど…」

「?」


妙に頭を撫でてもらうのは何か月ぶりだろうか。
妙の手は雪に似て大好きだった。
そんな妙に神楽は『お願い事』をした。
その『お願い事』に神楽は更に笑みを深め、満面の笑みへと変わった。





小皿に味噌汁を少し注いで味見をしていた。
そんな雪に背後からある影が忍び寄る。


「はよ、雪」

「銀さん、おはようございます」


雪の後ろから抱き着いて来たのは銀時だった。
着替えてはいるがまだ寝ぼけているのか口調が少し幼げで、雪にすり寄って甘えていた。
それを可愛いと思いながら雪は首筋に埋もれている銀色の髪を撫でようと手を伸ばした。
しかしその時…


「おい、白髪頭…誰の許可を得て私の雪ちゃんにセクハラしてんだ?」


ガシリ、と後ろから銀時の銀色の頭を鷲掴みし、雪の首筋から顔を上げさせる者がいた。
銀時の『あだだだ!!禿げる禿げる!!』という声に慌てて振り返ればそこには妙が銀時の頭を鷲掴みしていた。
雪は銀時の痛がりように慌てて仲裁に入る。


「あ、姉上!!何してるんですか!!」

「雪ちゃん、おはよう…今日の朝ごはんはなあに?」

「あ、おはようございます、姉上…今日は―――って言ってる場合じゃないでしょ!?ちょ、姉上!?銀さんを離してください!なんか銀さんの頭から血がしたたり落ちてるんですけど!!」

「まあ、雪ちゃんったら朝から元気ねえ…待っててね、今この生ごみを焼却処分するから」


にっこりと笑う妙の顔は以前と変わらなかった。
そして銀時の扱いも。
唖然としていると銀時の頭を掴んだまま勝手口のドアへ向かって歩き出し、それと同時に銀時が妙の手を振り払う。


「てめ…!何してくれてんだ!!」

「まあ!この生ごみさん生きてるの!?てっきり死んだのかと…雪ちゃん!警察に電話して!うちに変な生き物が侵入してるって!火炎放射器を持ってきてくださいって!」

「お前全然反省してねえなオイ!!あんなに大人しかったっつーのに一夜明ければ忘れるってか!?てめえはニワトリか!!」

「ごめんなさい?私嫌な思い出はすぐに忘れる事にしてるから」

「嫌な思い出ってアレか!?俺との会話か!?」


ギロリと睨めば目の前が真っ赤に染まりドロリとした何かが頬を伝う。
雪がタオルを渡したので顔を拭えばタオルは真っ赤に染まっていた。
あれほど昨日の夜泣いて女らしい姿を見せていたというのに一夜明ければコレである。
ふり出しに戻ったというよりかは悪化してしまっていた。
強敵がパワーアップして帰ってきた状態の妙に銀時は噛みつくがあまり効果は得られない。
雪も変わらない姉に安心し、姉と銀時の相変わらずの口喧嘩に慣れているため出来上がった味噌汁を人数分のお椀に注いで、同じく二人の喧嘩に慣れている神楽に手伝ってもらって料理を運んだ。


「姉上、銀さん、そろそろ朝ごはんにしましょう?私も神楽ちゃんもお腹空いちゃいました」

「あら、ごめんなさい」

「イテテテ…少しは手加減っつーもんを覚えやがれ」


『これだからメスゴリラは』、と言おうと『こ』と言いかけた銀時の顔面に妙の拳がめり込んだ。


「…まだ何も言ってねえだろ」

「何を言うかなんてお見通しですからね………それに私の妹を奪ったんですもの、これくらい受けてもらわないと困るわ」


メキリ、と不穏な音を雪は聞いた。
そして、姉の小さな声でこぼれた言葉も。
銀時も雪も姉の言葉に目を瞬かせた。
そんな2人をよそに妙はタオルで銀時の血がついている手を拭う。


「あ、姉上…それって…」

「雪ちゃん、この偽侍に泣かされたら…笑顔が消える事があったら…私のところにきなさい…雪ちゃんを泣かせた罪をその命で償わせるから」


そう言って妙は笑みを浮かべ神楽が待つ居間へと消えた。
雪は姉のその言葉を頭で何度も再生し整理していた。
ゆっくりと銀時を見れば、銀時も笑みを浮かべていた。
その笑みは嬉しそうに見えた。
そんな銀時に雪はまだ呆けながら銀時へ手を伸ばす。


「ぎ、銀さん」

「ん?」

「さっきのって…姉上が私達の交際を認めてくれたってことで、いいんですよね?」


雪の伸ばす手を銀時は掴んでやる。
グイッと引っ張り込んで抱き込めば雪は素直に銀時に抱き着く。
小さい体に触れる事も久々で、銀時は雪の体の柔らかさや小ささに少し驚いていた。
やはり数か月も離れていると色々と忘れる事もあるらしい。
しかし逆にそれが雪が万事屋に帰ってきた事を実感し、銀時の頬は緩みっぱなしだった。
そんな銀時に気付かず雪は恐る恐る顔を上げて質問した。
あの姉の言葉はどう聞いても、どう解釈しても…銀時と雪の交際を認めたと言っているようだった。
でも気のせいだったらどうしようとか、自分の頭が都合よく解釈しているだけかもしれないと思い銀時に確認のために問いかけた。
その問いに銀時は何も言わないが、笑顔で頷く。
それを見て雪の瞳が揺れ、泣き始めた。


「おいおい…どうしたよ?やっと認めてもらったっていうのに早くも別れの危機か?」

「ち、ちがうんです!うれ、しくて…銀さんとやっと恋人同士になったってことがうれしくて…っ!」

「だからって泣くか?俺ァ雪に嫌がられたかと心臓止まりかけたぞ」

「だってぇ…あんなに姉上銀さんとの交際認めてくれなかったから…っ」


妙はとりあえず雪を追いつめていると気づき抵抗をやめたと思った。
だからこれから銀さんと二人で姉の説得しようと雪は意気込んでいたのだ。
しかし姉はとっくに自分たちの交際を認めてくれていた。
予想外のその姉の言葉に雪はキャパオーバーとなった。
嬉しいのに…否、嬉しいからこそ感情が表しきれず泣いてしまった雪を銀時は愛し気に見つめ、そっと雪の体に腕を回して抱きしめた。
銀時の胸元に顔を埋めて雪の鼻に銀時の匂いが香った。
雪もやっと彼のもとに帰れたのだと安心し、くすんと鼻を鳴らしながら彼にすり寄る。
雪の髪を撫でていると銀時は殺気にはっと我に返って顔を上げる。
そこには神楽がいた。
体半分出しこちらを殺さんばかりに見ており、そのお腹には手が当てられた。
神楽はこう言っているのだろう…『茶番はいいからさっさとメシ食わせろ』と。
暴食娘という二つ名を持つ彼女はよく食べ、食欲に対して忠実だ。
雪が教え込んだためみんなそろっての食事を待っていたが、中々来ない二人に痺れを切らして呼びに来たのだろう。
そしてこちとら腹をすかし餓死寸前だというのに二人は抱き合いハートを散らしていた…と、言う事である。
銀時は神楽の殺気立った目に顔を引きつり、雪を泣き止ませ食事に移る事にした。
食事の事で神楽を怒らせればどうなるか…銀時は経験済みだった。


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