(8 / 13) その後 (8)
ちょっと無下にしすぎではないだろうか、と雪は先ほどの山崎とのやり取りを見て思う。
しかし万事屋に帰ってむすっとさせる銀時に雪は注意もできず、どうして機嫌が悪いのか分からなかった。
雪は万事屋に帰って買った物を冷蔵庫に仕舞った後、居間にいる銀時を覗き込む。
銀時は普段と同じくテレビを見てダラけており変化はないようにめるが、こちらに背を向けテレビを見る銀時の顔は見えないが恐らくぶすっとしてるのだろう。


(何を怒ってるんだろう…もしかして近藤さんが先に結婚しちゃうから?)


どうして機嫌が悪いのかと雪は考え、そして考えた結果、近藤に先を越された事が悔しくて拗ねてると思った。
そう思った雪は何だか気が軽くなった気がした。
そして同時に『何だかんだ言って仲いいんだなぁ』とも。
くすりと笑いながら雪は銀時のためにいちご牛乳をコップに入れて彼の前に運ぶ。
『はい、どうぞ』と言ってピンク色の液体が入ってるコップに銀時は目を瞬かせた後、自分のお茶を飲む雪を見た。


「なに…どうしたの…」


いちご牛乳は一日に三杯と決まっている。
そうしないと無限に飲み続けるからである。
それが進んで雪がいちご牛乳を持って来たのを見て銀時は驚いた。


「銀さん、近藤さんは先に結婚しちゃいますけど相手はゴリラですからあまり気を落とさないでくださいね」

「…は?…ちょ、ちょっと、待て…なんであいつが出てくんだ?」

「だって近藤さんが先に結婚しちゃうから拗ねてるんでしょ?」

「…………」


銀時は目の前に出されたいちご牛乳を見て嬉しそうにするも、雪の言葉に笑みを消した。
というよりいはポカーンとなった。
首を傾げる雪は可愛いが、拗ねてる理由を勘違いしているのを察した銀時は顔を手で覆い雪に向けて溜め息をつく。
そしてちょいちょいと雪に手招きし、その手招きに首を傾げながらお茶を机に置いて雪は銀時そばに歩みよう。
銀時は隣に座ろうとする雪の腕を引っ張って膝の上に乗せ、向かい合わせに座らせる。


「ぎ、銀さん?」

「俺がそんなどーーーでもいいことで拗ねてると思ってたのか、お前」


近藤の結婚をどうでもいいと言う銀時に突っ込みもせず雪は首を傾げた。
どうやら理由は違うらしく、しかし、だ。
で、あれば…その理由が全く浮かばない。
向かい合って座らされた雪は銀時の真っすぐ向けられる目を逸らす事が出来ずただ見つめ不思議そうにするだけ。
そんな雪に銀時はもう一度溜息を送る。


「あの地味ーな奴とえらく親しそうに話してたじゃねえか」

「山崎さんですか?まあ…そりゃあ、地味友達ですから」

「友達ねえ…本当にそうか?」


むすっとさせる銀時に雪は拗ねた理由が分かった。
目の前の男は嫉妬しているのだ。
それも土方や沖田ではなく、誰でもない、山崎に。
それに気付いた時、雪は吹き出して笑った。


「おいおい…人が胸糞悪い思いでいるっつーのに笑うか普通…」

「だ、だって…銀さん、山崎さんにも嫉妬してるから…ふふ、ごめんなさい…」

「謝りながら笑うなって」


吹き出した雪は肩を揺らしながら、銀時の肩に顔を埋めて笑いを堪えようとする。
銀時はそんな雪に怒りよりも呆れてしまう。
笑われて更にむっとさせる銀時に雪は謝りながら銀時の首に腕を回してぎゅっと抱きしめる。


「山崎さんはお友達ですよ?」

「お前がそうでも向こうは分かんねえだろ」

「絶対ないですってば」

「…………」


雪が自分を慕ってくれてるのは分かっているし、付き合って一日も立たずして浮気は流石にないと思っている。
だがそれでも男というものは、恋している人間というものはどんなに懐が広い者でも恋に落ちてしまえば懐も狭くなるというものである。
特に独占欲が強い人間は余計に。
雪は銀時が友達にも嫉妬し独占欲を見せてくれるのが嬉しく、そしてそんな男が愛おしく思う。
だが、本当に山崎は友達なのだ。
男女を超えた友情で自分たちは結ばれており、決して友情が愛情にはならないと断言できる。
きっとそれは山崎も同じだろう。
それに…


「そんな事言いだしたらキリないですよ?私と話す人はみんなその気があるんですか?」

「…少しは自分の魅力に気づけって言ってんだよ、俺は」

「何言ってるんです…こんな地味な女、物好きな銀さんしかもらってくれないじゃないですか」

「ゔ…ま、まあ…そうだが……だがなァ、現にスマイルでも常連がいるじゃねえか…物好きなんざ結構うじゃうじゃいるんだぞ?」

「常連さんはみんな銀さんより年上の方ばかりで、娘や孫同然に可愛がってくれてる人達ばかりですよ」

「じゃあストーカーゴリラは?あいつ俺よりちょっと下よ?あいつイケメンよ?メデューサの鷹よ?」

「もう、銀さんったら…」


ああ言えばこう言う状態の銀時に今度は雪が溜め息をつく。
雪は銀時と向かい、むすっとさせている銀時の鼻を摘まみ、『あにふんだ』と呟く銀時にぷくっと頬を膨らませて見せた。


「そんな事言ったら銀さんだってそうじゃないですか」

「はあ?何で俺…」

「さっちゃんさんに惚れられてるくせして惚けないでください」

「おま…あいつストーカーじゃねえか!あいつは論外だ!論外!」

「でもそれ抜きに考えるとさっちゃんさんって結構銀さんの好みに当てはまってますよね…美人だし、ドMだし、巨乳だし、スタイルいいし」

「それでもあいつだけは勘弁してくれ!俺はあいつだけは死んでもお断りだね!!」


ぷくっと膨れる雪は可愛いが、出て来た言葉は可愛くなかった。
銀時に惚れている猿飛に対して雪は正直それほど危機感を感じていない。
嫉妬するかしないかと言えば、嫉妬はする。
やはり危機感がないと言いながらも猿飛は銀時に惚れているし、胸だけが取り柄の自分と比べれば仕事は綺麗とは言い難いが元御庭番という勝ち組の実力者だし、性格も難はあるが悪くはなく、顔よし、スタイルよしの完璧な女性である。(Mで変態でストーカーを除けば)
だから平気とは言い難いが、肝心の銀時がその気がないのが分かっているから安心していられるのだ。
断言する銀時に安堵しつつも苦笑いをする。


「でも、銀さんは気づいていないけど…銀さんでもいいって言う人沢山いるんですよ?」

「でもってなんだよ、でもって…」


雪は自分の魅力を気づいていないと銀時が思うのと同じく、雪も自分の魅力に気づいていない銀時に雪だって苛立ってもいたのだ。
その時はこの感情に蓋をしていたからモヤモヤしただけだが、蓋をしなくてもいいとなったらその感情を理解した。
憎まれ口を叩く雪にむすっとさせる銀時だったが、ふとニヤニヤと顔をニヤつかせ雪へ目をやる。
雪は先ほどまでぶすっと不貞腐れていた銀時の顔がニヤつきはじめ、怪訝とさせる。


「そんなに雪ちゃんが嫉妬してたなんて銀さん知らなかったなぁ〜」

「んなっ!?し、嫉妬…って…!!」


ニヤニヤとさせる銀時が怪しすぎて嫌な予感がした。
こういう時の銀時は碌な事を考えていないのだ。
その勘は当たっており、出て来た銀時の言葉に雪は顔を真っ赤にさせ驚愕させる。


「何言ってるんですか!!銀さん!!」

「え〜?違うのォ〜?」

「〜〜〜ッ」


ニヤニヤと自分の顔を覗き込む銀時に雪は口をパクパクとさせる。
その反応に銀時は自分の顔がニヤつくのをやめれなかった。
嬉しかったのだ。
雪が嫉妬してくれるという事が。
自分を好きだという証拠だから、銀時は思わずニヤついてしまう。
雪は可哀想なほど顔を赤くし先ほどから『あの』やら『その』とか言えていなかった。
そんな雪をよそに銀時はニヤけ面から嬉しそうな笑みを浮かべ、コツンと雪の額と自分の額をくっつける。
コツンと額と額をくっつける銀時にドキリとさせながらも雪は戸惑った表情を浮かべる。


「雪、なあ…嫉妬してくれたんだろ?」

「…っ」


間近に銀時の顔が迫っているのも、そして嫉妬しているのを知られたというのもあって、雪は恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいだった。
雪は遊女だったし、初恋の人だっていた。
遊女だったからセックスだって経験済みだし、セックスに至っては同世代よりもテクだけは自信があるほど磨いた…というよりかは磨くしかなかった。
だがこうして初恋の人以外の誰かを好きになって、こうして付き合う事になったのは初めてだった。
お手々を繋ぐのも、腕を組むのも、見つめ合うのも、好きだと言い合うのも、初めてだった。
性体験は両手どころか両足の指をもっても足りないくらいしてきたというのに、こういう純粋な気持ちのお付き合いが初めてで改めて言われると恥ずかしくてたまらなかった。
だから雪は言葉に出来ない代わりに頷いて見せる。
本当は言葉にしてほしかったが、顔を真っ赤にさせる雪が可愛いから銀時はまた今度にすることにする。


「ぎ、銀さん…放してください…」

「なんで?」

「ご、ごはん…作らなきゃ…」

「んー…まあ、お腹減ったしねぇ」


普段はマダオだマダオだと思っていても、やはり相手は好きな人。
至近距離でずっといると心臓が持たなかった。
心臓の速いその鼓動の音を聞かれたくなくて雪は銀時の赤い目を見られず逸らしながら腰に回されがっちりとホールドされている銀時の腕から離れようとした。
断られるかと思った雪だったが、案外銀時は納得してくれた。
―――が。


「じゃあ雪からキスしてくれたら、放してあげる」

「―――ッ!?」


流石にタダでは放してくれなかった。


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