(5 / 10) ベルトコンベアには気をつけろ (5)
何とかその場は収まり、神楽と銀時は降ろしてもらえた。
長時間炎天下の中宙釣りにされていたためか2人はその場に倒れてしまう。


「2人とも大丈夫ですか?」

「おえー、もうダメ…雪ちゃん…そのお胸貸して」

「懲りてねえようだな!おい!本当にしょっ引くぞ!!」


雪が2人を心配して声をかければ懲りない男・銀時が雪にすり寄ろうとした。
しかし雪の胸に触れる寸前で土方に襟を引っ張られあえなく失敗に終わる。
『ちっ』、と舌打ちを打つ銀時に土方は目を更に吊り上げ『てめぇもう一遍吊るしたろうか!』と叫んだ。
元気な銀時は放っておいて大丈夫だろうと思った雪はピクリとも動かない神楽へと駆け寄る。


「神楽ちゃん、動ける?」

「無理アルゥ…雪〜…」


蹲る神楽の背中を擦ってやれば神楽が弱弱しい声で首を振る。
夜兎族の神楽は日の光に弱くいつも外に出るときは番傘を差して歩いていた。
それが長時間夏の強い日差しを浴びたうえに宙釣りにさせられていたのだから弱まるのも無理もない。
雪はだだを捏ねるように自分の名前を甘えた声で呼び手を伸ばす神楽に『おいで』と腕を広げて受け入れ、神楽は例のごとく雪の胸に顔を埋める形で抱き付いた。
その瞬間周りが凍ったように静まり返る。


「か・ぐ・らァァ!!てめええ!大概にしとけよーー!!」

「チャイナァァ!てめえもしょっ引いてやんぞゴラァァ!!」


しん…、となる周りに気づいた雪は後ろに振り返ると先ほどまで言い争いをしていた2人がわなわなと体を震わせた後叫ぶ。
これでもかと叫ぶ。
その後ろででは沖田が無言でバズーカを抱えてこちらに向けており、それを近藤が必至に止めているのが見えた。
雪は三人がどうして怒るのかが分からず首を傾げていたが抱き付いていた神楽がギュッと力を入れたのを感じ、神楽を守るように抱きしめ2人をキッと睨む。


「何ですか3人とも!大人げない!神楽ちゃんが怯えてます!!」

「だって雪!!」

「だってじゃありません!!」

「だがな雪!」

「だがなでもありません!!」

「どいてくだせェ、チャイナを殺せねェ」

「殺すなー!警察が簡単に殺すとか言うなーー!!」



何が三人の癪に障ったかは分からないが雪にとって神楽は可愛い妹なのだ。
平気で人やら岩やら車やらを持ち上げられる腕力を持ちバズーカを持つ沖田と傘一本で対抗できるじゃじゃ馬など可愛いもんではない神楽でも雪にとったら懐いてくれる可愛い妹なのだ。
そんな神楽を目の敵にして怒鳴る三人(1人はバズーカ)に雪は更に神楽を抱きしめる力を入れる。
しかし三人は見た…―――雪の胸に顔を埋めている神楽のニヤリとした勝ち誇った笑顔を。
それを見て更に怒りがヒートアップするが雪の『こらー!!』が効いたのか三人はぐっと我慢する。(1人は我慢できず近藤が必至すぎた様子で引き止めていた)
何とか事態が収集着いた頃、神楽も落ち着いたのか渋々雪の胸から離れ、土方はゴホンと咳払いして誤魔化す。


「本来ならてめえら叩き斬ってやるとこだが…生憎てめえらみてえのに構ってる程今俺達も暇じゃねえんだ…消えろや。」

「メガネを置いてな。」

「いや、メガネも連れていけ。」


煙草の煙を吐き出しながら土方は雪達に帰るように言った。
しかし続けられた沖田の言葉に即突っ込みを入れる。
メガネの取り合いなどには興味はないがまだ雪から報酬をもらっていない沖田は雪だけを残させ思う存分調教…ではなく報酬を貰おうと思っていたのだが、それを見越してかそれとも自分の理性の問題か…土方は雪も帰るよう突っ込む。
そんな土方を見て犬猿の仲の銀時はニヤリと笑う。


「ああ…幽霊恐くて何も手につかねえってか?」

「可哀想アルなぁトイレ一緒についてってあげようか?」


ニヤニヤと笑い馬鹿にしたように言う銀時に乗り、神楽もまたニヤニヤして便乗する。
それを雪は呆れたようにため息をつき『ほんと…絶対おっぱい好きは銀さんのせいだ』と銀時ばかりに似る神楽を見てそう思う。
そんな2人に今まで黙っていた近藤が声を荒げた。


「武士を愚弄するかアア!!―――トイレの前までお願いしますっ!!」

「お願いすんのかいイイイ!!」


武士を愚弄する銀時と神楽の言葉に近藤は怒り声を上げたと思っていた雪だったが、続けられた言葉にガクッと肩を落とした。
流石の近藤も怒って当たり前だと声を荒げた近藤を見てそう思っていた土方だったが、雪と同じく神楽に連れションを頼み込む近藤に突っ込みを入れる。


「いや、さっきから我慢してたんだ…でも恐くてなぁ…」

「えええー…」

「ホラ行くヨ」

「はい!」

「オイイイ!!あんたそれでいいのか!?アンタの人生それでいいのか!?おい!!」


確かに近藤は怪談の時、邪魔した土方のマヨネーズで気を失うほど怪談話は苦手のようだが…トイレを我慢していたと知った土方はもう突っ込む気力すら湧かない。
項垂れながら土方はため息をつき、弱弱しく雪と銀時を振り返る。


「てめえら頼むからこの事は他言しねえでくれ…頭下げっから」

「なんか相当大変みたいですね……大丈夫なんですか?」


珍しい弱気の土方に雪は心配そうに声を掛けた。
雪の問いに土方は倒れている隊の人達がいる隊舎へと視線をやる。


「情けねえよ…まさか幽霊騒ぎ如きで隊がここまで乱れちまうたぁ…相手に実態があるなら刀で何とでもするが……なしときちゃこっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねぇ」

「え…?何、おたく幽霊なんて信じてるの?――いたたたた!痛い!痛いよー!お母さ〜ん!!ここに頭ケガした人がいるよ〜!!」

「お前いつか殺してやるからな!」


本当に幽霊を信じているような口ぶりの土方に懲りずに銀時がからかう。
片腕を庇うようなポーズをして馬鹿にする銀時に土方は今まで以上の腹立たしさを感じていた。


「まさか土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女」

「分からねえ…だが妙なモンの気配は感じた…ありゃ多分人間じゃねえ」

「「いたた!痛い痛いよ〜!お父さーん!!」」

「絆創膏持ってきて〜!!できるだけ大きな人一人包みこめるくらいの〜!」

「おめえら打ち合わせでもしたのか!?」


質問しといて答えれば銀時と一緒にからかう沖田に土方はまたしても今まで以上の腹立たしさを感じる。
しかも二人とも打ち合わせしたかのように息ぴったりがまた苛立ちを大きくさせた。
そんな三人のコントを目の前にした雪はふと『赤い着物の女かぁ』と呟き、その呟きにコントしていた三人は雪へと視線を向けた。
雪は何か考え込んでいる様子で昔聞いた話を思い出そうとする。


「確かそんな怪談ありましたね…私が通ってた寺子屋でね、一時そんな怪談が流行ったんですよ…えーと、なんだっけな……あ、そうだ…夕暮れ刻どきにね、授業おわった生徒が寺子屋で遊んでいるとね、もう誰もいないはずの校舎に赤い着物をきた女がいるんだって……それで、何してるの?って聞くとね…」

「ギィヤアアアアアア!!!」

「「「―――!!!」」」


騒ぐ男達の中に口を突っ込まないようにしていた雪は沖田の『赤い着物の女』が何か引っかかっていた。
思い出せばそれは幼いころ少しだけ通っていた寺小屋のころに聞いた怪談話だった。
太陽の光で眼鏡が反射しており、土方と銀時はそれがまた恐怖を仰ぎゴクリと喉を鳴らし話を聞いていた。
別に雪は怖がらせるために言っているわけではないが、2人にはそう聞こえてしまう。
しかし肝心なところで悲鳴が響き、雪達はお互いの顔を見合わせた後急いでその悲鳴の響いた場所へと急いだ。


「ゴリラー、どうしたか〜チャックに皮はさめたか〜?」


急いで向かえばそこは神楽と近藤が向かったトイレだった。
神楽はトントンと近藤のいるらしい個室の扉を叩いていたが、声掛けの内容が少しずれていた。


「神楽!どうした!」

「チャックに皮がはさまったアル」

「か、神楽ちゃん!女の子がそんな事言うんじゃありません!!」

「でも本当アル」


男子トイレに入るのは少し戸惑いを感じたが、緊急事態だからと雪は銀時に続いて入っていった。
2人はすぐに神楽の元へ駆け寄り、雪は女の子なのに下ネタを平然と口にする神楽を『めっ!』と叱るも神楽からは反省など返ってこなかった。
本気で叱ってはいないが女の子なのに、と思いが強いのか雪はあまりいい顔はしなかった。
あるで母のような事を注意する雪に神楽はジッと見上げたが、雪が神楽の視線に気づき『ん?』と小首を傾げれば『何でもないアル』とそう返しただけで視線を雪から外した。


「どけどけどけー!!」


神楽の様子が可笑しい事に気づいた雪は問いかけようとしたが、土方が声を張り上げながらこちらに勢いよく駆け寄ってきていたため雪は神楽の肩に手を置いて神楽と共に慌てて退く。
神楽はそれにまた雪を見上げるも今回は雪に気づかれる前にドアが蹴り開けられた音によって視線を雪から個室のトイレへと向けられた。
雪と神楽の前に広がっている光景…それは――

便器に頭を突っ込んでいる近藤の姿だった。


「何でそーなるの。」


まるでド○フのようなツッコミを銀時がした瞬間だった。


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