(8 / 16) 少年はカブト虫を通して生命の尊さを知る (8)
雪は薄暗い森の中を歩いていた。
真選組と合流した場所も行った。
最初に来た道も行った。
しかし銀時はもとより真選組の2人の姿もなく、雪は困り果てていた。


「銀さん、どこにいるんだろう…」


キョロキョロと暗いが目を凝らし周りを見渡し白い影を探す。
やはり人間の目では暗闇の中では見えず、あんなにも白く目立つ影も欠片すら見当たらなかった。
雪は『もしかしたらすれ違いかも…』、と思い神楽のいる拠点へと戻ろうとした。
しかし…


「てめぇら真面目にやれよ!!」

(!――銀さんの声っ!)


引き返そうとしたその瞬間、探していた銀時の声が雪の耳に届き、雪は急いでその声のする方へと向かった。
カサカサと音を立て草を分けて向かった先には銀時だけではなく土方、沖田がいた。
思わず木影に隠れ様子を見ているとどうやら言い争っているようである。
言い争っている姿を見て雪は『懲りてねえなあいつら…』と呆れながら思う。


「何でマヨネーズなんだよ!!どうして着ぐるみなんだよ!!ここは生クリームだろ!!!」

「はあ!?生クリームだぁ!?んなくそ甘ェもんカブトムシが好んで寄ってくっかよ!!だから言っただろ!!マヨネーズ決死行でいこうと!!」

「いやいやいや、そんな犬以下のエサ、カブトムシどころか人間ですら寄ってこないでさァ…ここはやっぱりなりきりウォーズエピソードVでいきましょうや」

「だぁかぁらぁー!生クリーム大捜査線でいこうって言ってんだろうがァ!!」

「どれも駄目に決まってんだろうがァァ!!!」

「「「あ。」」」

「あ。」


言い争っていた理由は、カブトムシの取り方だったしい。
土方と銀時は好物を、沖田はまだ着ぐるみで捕まえるつもりだったらしく、自信満々の彼らに雪は突っ込み族の血が騒いだのか木影から姿を現し三人に突っ込んだ。
それが仇となり三人が雪に振り返り、雪も三人と目と目があい固まった。
てんてんてん、と無言が続く。


「あっ!えっと!その!こ、これはあれだよ!あれ!!ほら…ねえ!あれだよね!土方くぅ〜ん!」

「え!?あー…え!?あーっと…そ、そう!あれだ!あれだよ!あれ!!えーっと………な!総悟くぅ〜ん!!」

「ええ!?え?えー…え!?えっと…あー…そ、そうそう、あれでさァ…あれ…あの…あれなんだよ…あれ……えっと…」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」


ジッと見つめているようにも見える雪に銀時が何か言おうと焦る。
しかしまさか雪が来るとはおもってもみなかったためか碌な言い訳も思いつかず、思わず匙を隣にいた土方に投げつけてしまった。
土方も土方で普段の戦いにおいて冷静であるにも関わらず雪の突然の突っ込みに銀時同様言い訳すら浮かばない状態だった。
そのためか流れのように土方も隣にいた沖田にバトンタッチをする。
しかしそれは何もいい年した大人の男だけではない。
いつもは無表情極まりない沖田も雪の姿に焦りの表情を浮かべ銀時と土方同様言い訳を考えるもいい言い訳が思い浮かばず言葉を詰まらせる。
またもやてんてんてん、と無言が続いた。
そして、ジッと見つめてくる雪の瞳に逃れるようにそっと同じ方向へと目を逸らし…



「「「カブトムシ取れませんでした、ごめんなさい。」」」



深々と頭を下げた。
雪が血に頭を登らせたただの言葉でも…雪に許してもらおうと三人はあれから目的も忘れ必至にカブトムシを捕ろうとした。
しかし青春はすべて剣に注いでいた男三人が虫一匹捕れるはずもなく…収穫はゼロ。
そもそもやり方自体が間違ってるという突っ込みは、三人とも誰もしなかった上に気づいていなかった。
もしその場に雪がいたら即していただろうが、生憎にも雪は怒りのごとく米を研いで野菜を洗っていたのだ。
あんなにもプライドが高い男達が深々と頭を下げている光景はとてつもなく異様だった。
特に土方と沖田が頭を下げると思っていなかったから余計に。
無言が続き、三人はまだ雪が怒っているのかと恐る恐る顔を上げる。
しかしその瞬間、雪はなぜか吹き出してしまった。


「―――プッ!あはははっ!!」


自分達のどこが可笑しかったかは分からないが、雪はなぜか笑いだす。
よっぽど可笑しかったのかお腹を抱えて笑い、座り込んでしまう。
座り込んで笑う雪に三人はお互いの顔を見合い、代表として銀時が戸惑いながら声を掛けた。


「えっと…雪ちゃん?」

「ご、ごめんなさいっ!…だって、銀、さん、ッ達が、可愛くって…!!はは!!」

「か、可愛い…」

「可愛いとか言いながら笑うたァ、Sの素質ありまさァ」

「そのネタはもういいっつーの。」


雪は今の今までその場で出た言葉を守ってカブトムシを取ろうとしていた事や、必死に言い訳をしようとあわあわとさせている姿や、普段は仲が悪いのにこういう時だけ揃って頭を下げる男達が可愛く見えたらしい。
笑ったのは確かに普段の彼らが決してしない行動から可笑しかったのもあるが、それは悪い意味ではないのだろう。
涙をぬぐいながら雪は唖然とする銀時達に謝り笑いすぎて苦しかった息を整え一つ息を零した。


「今まで探してくれてたんですか?」

「だって雪ちゃん怒ってたしよー…」

「それは銀さん達が悪いんですよ?」

「確かにあん時は俺らが悪かったが…」

「そうですよ、いっつも私をダシに喧嘩してるですから!ほんと、いい加減にしてほしいです。」

「何言ってやがんでィ、土方の野郎や旦那はそうかも知れねェが俺ァ違いまさァ…本気で雪に惚れてんでィ……俺ァ忘れやしませんぜ?あの蔵での衝撃…Sは打たれ弱いと知っててしたのならあんたこそ正真正銘のSでさァ…俺はあんたならMにでもなれますぜ」


雪は銀時は別として2人もの人間に告白される人間ではないと自分で思っているからか、2人のアプローチ(土方の場合アプローチと言っていいのかは不明だが)をからかいや喧嘩をするためのダシだと思っていた。
自分をダシにしてまで喧嘩をしたい犬猿の仲の三人に雪は苦笑いを浮かべたが、そんな鈍すぎる雪に銀時と土方は『えっ』とキョトンとしてしまう。
流石に目の前であんなにも好意を示しているというのに気づかない雪に驚いてしまうのは当たり前だろう。
だが、沖田はそっと雪の手を握りいつものように真っ直ぐ雪の瞳を射抜きながら愛のある言葉を並べていく。
それでも雪は『は、はあ…』と小首を傾げるだけで本気にとらえていない。
それはとてつもなく2人にとって『ザマァwwm9(^Д^) プギャー』だが、手を握るのは頂けない。
と、いう事で雪と沖田の繋がってる手を土方が手刀で切ろうとし、それに気づいた沖田が放す。
土方もそれを見越しての手刀だったため外れたことは何とも思わないが油断も隙もない沖田を睨んだ。


「てめェ…総悟!何1人だけ抜け駆けしてやがる!!」

「そうだ!てめェ雪と年が近いからっていい気になんなよ!銀さんだってな!大人の色気で雪をコロッと落とせるんだからな!」

「てめェもだ!大体何が大人の色気だ!てめェが出てんのは糖分と加齢臭だろうが!!」

「ああ!?んだとてめェ!」


雪がもう怒っていないと知るといつもの調子に戻り、銀時達はいつものごとく口論を始めた。
それが本気ではないと雪は見ているため、心配になることはないが…雪は知らない。
本気で恋敵を蹴り落そうとしているのに。
雪は頭を下げた彼らとは違いいつもの様子にクスクスと笑みを零してしまう。


「また喧嘩ですか?仲いいんですね、実は」

「「「どこが(だよ!)(だ!)(でぃ)」」」


笑みを浮かびながらの雪の言葉にまた三人声を合わせ反論する。
それがまた可笑しくて雪は笑、三人はくすくすと笑う雪にバツが悪そうに頬を書く。


「そこが、ですよ…でももう遅いですから解散しましょう。銀さん、1人にさせてる神楽ちゃんが心配ですし早く戻りましょう」

「ああ?あいつなら平気だろ。」

「駄目ですよ。神楽ちゃん女の子ですよ?」

「女の子っつってもなー…熊もあいつ相手にゃ手も足も出ず逆に手懐けるんじゃね?」


いつも思うが雪が見る神楽はどのように映っているのだろうか、と銀時は思う。
24時間常に一緒にいないからそんな事言えるのだろうか、とも思う。
雪は幼いながらも夜兎族である神楽を常に普通の女の子扱いしており、二言目には『女の子なんだから』と言っている。
姉の妙でさえ女の子扱いしているが夜兎族というのもあり雪ほど心配はしていないというのに。
だから神楽は雪に懐いているのかもしれない、と銀時はいつもそう結論づけていた。
面倒臭そうな銀時に雪は『もう!』と小さく頬を膨らませ銀時の背に周り細い腕で銀時の大きな背を押して無理に歩かせていく。


「おいおい、雪ちゃーん。そんなに押したら銀さん倒れちゃうぞー」

「そんなに私力強くありませんから大丈夫ですぅー!あ、土方さん!沖田さん!!あの…怒鳴ってしまってすみませんでした!!無茶ぶり言ってごめんなさい!おやすみなさい!!」

「お、おう…」


ぐいぐい押されながら憎まれ口を零す銀時だがその顔はにやにやしていた。
構われて嬉しいのが丸分かりである。
黙って見送っていた土方と沖田だったが、そんな土方と沖田に銀時は2人に頭を下げた後再び自分の背を押し始めた雪に銀時はバレないようにチラリと2人へと振り返り、そして勝ち誇った笑みを送った。


「「……!!」」


ニヤリ、とさせる銀時の笑みの意味をすべて察した2人の顔つきが一瞬にして険しくなる。
そんな2人を見て銀時の笑みは更に深まった。
今、この瞬間に殴り飛ばしたくもあり蹴り飛ばしたくもあり斬り殺したくもある銀時だったが…今またここで暴れればまた雪の不評を買うと思い拳を握ることで思いとどめたという。


「…おい総悟」

「……分かってまさァ…今から山崎に蚊を取りにいかせます。」


懐から煙草を取り出しこの苛立ちを収めようとする土方だったが、どうにも先ほどの銀時と雪のやり取りが脳裏に浮かび忘れたくても忘れきれずにいた。
イライラを積もらせながら土方は一応部下である沖田に声を掛ければ、沖田は土方の考えるていることを読んでいたのか何も言わなくても土方が考えている嫌がらせという万事屋追い出し大作戦(でも雪は別だよ!)を言い当て、そして必要となる材料をすぐに集めようとした。
しかし集めるのは自分ではない。
今更山崎の扱いがうんぬんというつもりはないし、自分も同じ扱いをしている土方は『そうか』と呟き白い煙を薄暗い空へと流す。
その上へと流れ夜空に溶け込む煙を見送りながら土方は銀時に『あいつ早く死なねえかなぁ…』と真面目に思っていたとか思ってないとか…


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