(9 / 16) 少年はカブト虫を通して生命の尊さを知る (9)
雪は銀時の背を押したまま神楽のところへと戻ってきた。
帰ってきた2人を見て神楽は『何してるアル、このリア充めが!』、と唾を吐いた。
雪は『リア充ってなに!?どうしたらそう見えるの!?』と突っ込み、銀時はカップルに見られたことに機嫌よく笑っていた。
それから夕飯の支度を罰として銀時にさせ、夕飯はカレーとなった。
『昨日もカレーだったじゃん?なんで今日もカレー?』と零す銀時に雪は困ったような笑みで『神楽ちゃんがキャンプにはカレーだって言って聞かなくて…』と零し銀時は不機嫌な神楽をチラリと見る。
機嫌が悪い理由、それは自分と雪が仲睦まじく帰ってきた事から読み取れ、銀時は優越感からか2日目のカレーでも文句は言わなかった。


「なんやパッとしないカレーアルな。私芋とか野菜がドロドロにルーに溶けこんだ田舎カレーが好き言うたやろ」

「うぜーよこいつ!!なんで関西弁!?ドロドロが好きならご飯にスライムかけてすってろ!!」

「カレーはたまねぎが黄金色になるまで炒めるのが基本アル!半端な気持ちで作らんといて!」

「ああ!?お前を黄金色になるまで炒めてやろうかァ!?」

「あん!?電子レンジでチンして爆発させてやろかァ!?」

「あーもう…はいはいそこまで。」


たき火を中心に雪、神楽、銀時という順で三人は座り銀時の出来上がったばかりのカレーを食べようとしていた。
神楽はにやけ顔の銀時にやり返すつもりなのか食べながらも一々文句を言いだし、それに銀時も最初こそ流していたが流しきれるほどの小さなモノではなく、思わず声を上げてしまう。
睨みあう2人の間を雪が苦笑いを浮かべ取り持ち、その場はとりあえず収まった。
座り直した銀時と神楽はお互いそっぽを向き、喧嘩しながらもなんだかんだ仲のいいと知っている雪は咎めることはせず、早く早くと煩いため銀時よりも先にカレーを注いだ神楽の皿を渡した後銀時の器にご飯を盛る。


「ご飯くらい楽しく食べましょうよ」

「楽しく食べてるアル。」

「どこが!?さっきのやり取りのどこが楽しかったの!?喧嘩してただけだよね!?」

「ばっかおめェ…ありゃは喧嘩に見えるけどな、実は楽しんでんだって、俺ら。」

「あれで楽しんでだってどんな楽しみ方なの!?」


呆れたように雪が呟けば『楽しんでる、超楽しんでる』と2人から返された。
それも棒読みの無表情で。
それのどこが楽しんでいるのかは不明で、どう見ても楽しんでいるというよりは手足出る寸前5秒前だった。
突っ込みを終えた雪はため息をつきながらカレーを注ぐため、中央のたき火の上でぐつぐつとに立っているカレーの鍋へと手を伸ばしながら空気を変えようと話題を変える。


「それにしてもあの人達…本当にカブトムシ捕りに来たんですかね……それにしちゃ随分と物々しかったような…」

「ああ?だから言ったろ?ありゃただのバカンs―――ぐふへァっ!」

「えええ!!?ぎ、銀さんーーっ!!」


別の話題へとすぐに持っていけるとしたら、偶然に出会った真選組の話題しかなかった。
他にあるとしたらアイドルオタクとしての話題しかない。
お通親衛隊隊長を名乗る雪はお通ちゃんの話ならば一睡せずとも話せると言い切れる。
しかし雪の話題に銀時が『あ?』とそっぽを向いていた顔を戻し正面の雪に向き直し反応したその瞬間、隣にいた神楽から平手をくらい地面に倒れた。


「ちょ、か、神楽ちゃん!?何してんのォ!?」

「蚊。」


結構本気の平手打ちだったためか銀時の鼻から三度目の血が流れる。
雪はカレー注ごうとした銀時の皿を地面に置き慌ててティッシュを取りにテントの中へと戻る。
戻ってくる間銀時は平手を食らった頬に手を当てながら倒れた体を起こす。
座り直した時、丁度雪が戻り銀時にポケットティッシュを渡し、銀時は本日三度目のティッシュを鼻に詰め込んだ。
その間神楽はしれっとカレーを食べていた。
『大丈夫ですか?』と雪が心配そうに俯きながら鼻にティッシュを詰め込む銀時の顔をのぞき込めば銀時は口元をピクピクと引きつらせながら笑みを浮かべ『だいじょーぶ』と返す。
それが逆に心配になるが、本人が大丈夫だというのならそうなのだろうと無理に納得し雪は席に戻る。
チラリと銀時が神楽を見れば銀時の皿を持ち直しカレーを入れようとしている雪に『雪、私カレーが多い方が好きネ。もっと入れるヨロシ』とご飯だけの皿を差し出す。
雪は『カレーが多い方がいいっていうか…カレーしか食べてないっていうか…』と零しながらも差し出された皿を受け取りカレーを神楽の皿に入れてやる。
神楽のそれに銀時は更に顔を引きつらせた。
自分の皿にカレーを注ごうとしたタイミグを神楽は狙ったのだ。
確信犯の神楽はチラリと銀時を見た後先ほどの銀時が土方と沖田にしたようにニヤリと銀時を嘲笑うのが見えた。
見下す神楽に銀時はぐぬぬ、と拳を握って少女に対し本気で悔しがる。


「話を戻しま―――」

「――ぶふォォ!!」

「えええ!!?か、神楽ちゃんーーっ!!」



神楽に皿を渡した後雪は銀時のお皿を手に今度こそカレーを注ごうとした。
そろそろ銀時の腹も、雪の腹も限界が来ており、雪は話しながらカレーの中に突っ込んでいるお玉の柄を掴む。
しかしその瞬間今度は神楽が銀時に平手打ちをくらい倒れ、雪は思わず叫んでしまった。


「ちょ、ぎ、銀さん!?あんたも何してんのォォ!!?」

「蚊。」

「いや、蚊って…蚊だから何!?確かに蚊が異常なほど飛んでるけど何!?さっきから刺されまくってて痒いけど何!?蚊ぐらいで人殴るなよてめぇら!!」


今度は神楽が鼻から血を流し、雪は再びテントに戻りティッシュを取りに行く。
雪の背を見送りながら銀時は『一体いくつティッシュを持ってきてんだよほんとお前母ちゃんだよな…俺の幼妻的な意味で。』と心の中で呟いていた。
神楽は戻ってきた雪にティッシュを受け取り女の子だが鼻にティッシュを突っ込み座り直す。
やはり雪が『大丈夫?』と心配そうに聞くも神楽からは『だいじょーぶある』と帰ってきた。
銀時のような引きつり笑いではなく無表情が余計に心配だが、またしても本人がいいというのだから雪が口を出すことが出来ず仕方なく席に戻っていく。
どっちもどっちな2人に雪はため息をつきながら何度も邪魔されている銀時の皿にカレーを注ごうと何度目になるか分からないが鍋へと手を伸ばす。


「もういい加減にしてくださいよ!何怒ってるのか知らないですけど蚊にかこつけて喧嘩ですか!?」

「「いや、だって…蚊がいたから…」」

「だから蚊が何!?蚊がいたら鼻血吹くほどの平手打ちしなきゃいけないの!?そんな法律あったっけ!?〜〜もう!!本当にお前らいい加減にしろよ!?こんなバラバラでカブトムシ捕まえられると思ってんですか!?」


自分に被害がないにしろ、2人の喧嘩を放置していけばいずれ巻き込まれるのは必須。
雪は何とか巻き込まれる前に鎮静化を試みたが、逆に突っ込みを激しくなるばかりだった。
怒鳴るように突っ込む雪に銀時は面倒くさそうに頭を掻く。


「あーあ、はいはい、悪かったよ…俺も大人げなかった。神楽、すまんかったな…今度は田舎カレーに挑戦してみるよ」

「ううん、別にいいヨ…私本当は田舎派よりシティー派なんだ。ゴメンネ、銀ちゃん」

「そうか、じゃ次はシティーカレーだな。」


適当だが、謝る2人を見て雪はほっと安堵する。
これで平和にご飯が食べれる…そう思った矢先―――2人はお互いに向かって足と手が出ていた。
その際注ごうとして手を伸ばした先のカレーが鍋ごと地面に転がり、散っていく。
それを雪は目で追うしかなかった。


「てんめェェ!!神楽!!いい子ちゃんのふりして狙ってやがったな!!」

「甘いんだヨ!!銀ちゃんと何年付き合ってると思ってるアルか!!――ってあ゙ーー!!カレーが!!私のシティーカレーがアアア!!てめェ銀ちゃん何してくれるアルかァァァ!!!まだおかわりしてないのにィィ!!」

「俺なんか一口も食ってねえっていうかてめェが俺の分を注ごうとしてる時ばっかり狙いやるから米粒どころか皿すら触ってねえんだぞ!!どうしてくれんだコレェ!!」


和解したと見せかけてお互い蹴りと拳が飛ぶ。
お互い殴り合った瞬間、またしてもゴングが鳴った。
今度はもう雪も仲裁には入らず、銀時の皿の米を飯ごうに戻し砂煙が入らないように蓋をし、飯ごうを持って立ち上がって2人から離れた場所に座る。
そして何事もなかったように取っ組み合いの喧嘩勃発の2人を見ながら1人静かに飯ごうを抱えながら米粒だけを食していた。





ぎゃあぎゃあ、と騒ぐ2人をある人物達が見ていた。


「…よし、山崎もういい。効果はあった。」

「はい。」


茂みの中から見ていたのは土方と山崎で、2人は完全防具を身に着けライトで蚊を集め山崎が団扇で蚊を万事屋の陣内へと誘導していた。
雪が言っていた異常なほど多い蚊はこの2人の仕業である。
2人は邪魔でしかならない万事屋を追い払うために蚊を使ったある意味陰険なイジメのような仕掛けをしているのだが…正直仕方ないとはいえ雪も巻き添えにしてしまうのは土方も山崎も申し訳なく思う。
局中法度にある『万事屋憎むべし、しかし雪ちゃんにだけは優しくすべし』があるとしても、万事屋の2人は頼まれなくても憎く思うも2人と比べて無害な雪に蚊地獄を食らわすのは良心が痛い。
しかも雪の背後には無敵無双な鬼がいるのだ。
変な事になってそれがバレて殺されるのは勘弁願いたい。


「しかし、つくづく単純な奴らですね…蚊ぐらいで仲間割れとは……あれだけ喧嘩してりゃすぐにでも森から出ていくでしょ」

「いや、やつらの事だ念には念を入れた方がいい。」

「はあ…しかし、お雪ちゃん、あんなに派手に喧嘩してる2人を目の前にしてるっていうのによく無視して食べれますね……流石姐さんの妹っていうか何というか…」

「……………」


黙々と飯ごうのご飯だけを食べる雪を見ながら山崎は感心したように呟く。
地味仲間だからか、2人は仲がいいようで山崎もこの作戦を聞いたとき『お雪ちゃんには虫よけスプレーを掛けた方がいいんじゃないですか?』と眉を下げて土方に意見していた。
しかしそうなればまず雪を呼ばなくてはならない。
ならば確実に銀時と神楽も釣れる事は間違いなく、作戦がバレる以前にまた喧嘩になってしまうためその提案は却下されてしまった。
土方は雪の死んだような目で喧嘩をする2人を見つめるその姿を見て同情めいた目線を送るしかできなかったという。


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