(13 / 16) 少年はカブト虫を通して生命の尊さを知る (13)
一番知られたくない奴に聞かれてしまい、土方は顔を引きつらせていたが、観念したのか事情を説明しはじめた。
雪は土方の言葉に思わず『はぁ!?』と零してしまう。


「将軍のペット!?」

「そうだよ…」

「俺たちは幕府の命により将軍様の愛玩ペット瑠璃丸を捕獲しにきたんだ」


立ち止まっていても仕方ない、と神楽追いながら話すことにした。
近藤の説明に雪はこんな森に真選組がいることや今朝神楽が自慢気に話していた昨夜の真選組対万事屋の対決も、納得がいった。


「どうりで…おかしいと思いましたよ」

「おいおい。たかだか虫一匹のためにこんな所まで来たの?大変ですねェ、お役人様も。」


将軍のペット、と聞き雪は少し呆れてしまう。
確かにペットは可愛い。
虫だろうが犬だろうが猫だろうが魚だろうが…いなくなったら探すのが普通だ。
だが将軍のペットとは言え虫一匹に表には出てこない某忍者漫画を見て密かに『暗部部隊』と呼んでいる裏の顔である鷹臣達も総出で探していると聞き、銀時ではないが『お役人様も大変だなぁ』と思ってしまう。
ちなみに先ほどから大人しい鷹臣はずっと雪の隣におり、ずっと熱い眼差しで雪を見つめていた。
そんな鷹臣に雪はずっと無視を決めこんでいる。
ただ襲いはしないだろうが、また求婚されたら困るのでされたらされた時の生贄として銀時の傍をずっと離れない。
それが銀時が調子づく要因とも知らずに。
土方はもう鷹臣の事はないものと捉えているのか、突っ込みもせずニヤニヤと笑いながら嫌味を零す銀時にしかめっ面を浮かべ舌打ちを打つ。


「だから言いたくなかったんだ…」

「まあまあ、事ここまでに及んだんだ…こいつらにも協力してもらおう。」

「六割だ。」

「「……は?」」


一番気にくわない相手に捕まれ、その上説明しなくてはならない屈辱が土方を襲う。
2人が仲が悪いのは皆知っており銀時の相手=土方、というのはもう当たり前となっていた。
勿論逆も然りであり、対して沖田の相手は=神楽でもある。
深読みが得意な女子ならば沖田が神楽を好きで構ってると思われがちだが…それはないと断言できる。
土方と銀時含む彼らは本気で相手が気にくわないのだ。
常に死ねばいいのに、と思うほどに。
そう考えると雪はまだ平和そのもので…ストーカーさえなかったら雪は争いごとを2人に任せ自分は傍観を決めつければいいのだ。ストーカーさえなかったら。
銀時の言葉に土方だけではなくその場にいる全員(ストーカー以外)銀時に視線を向ける。
土方と近藤の怪訝そうな目に銀時はニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「今そのロリ丸は俺達一派の手の内にあるんだぜ?」

「瑠璃丸だ」

「こいつは取り引きだ。ポリ丸を返してほしいならそれ相応の頼み方ってのがあんだろ。」

「瑠璃丸だ…」

「ゴリ丸を捕まえた暁にはお前らも色々貰えんだろ?そのうち六割で手を打ってやるっつってんだろ。」

「瑠璃丸だ!」


六割、と言った銀時の言っている意味が分からず怪訝さを見せるも、続けられた言葉に土方の額に青筋が浮かぶ。
流石の近藤も銀時の提案にカチンと来ているのか何故か名前を間違える銀時に訂正するその声はどこか低い。


「…だから言いたくなかったんだ」

「俺もそう思う。」


土方のその呟きに近藤は賛同し、頷く。
否、とも言わない2人に銀時は無言は肯定の意味だとし、更ににやけた顔を深め雪へと振り返る。


「よし決まりだ…雪、こいつぁしばらく家賃の心配しなくてよさそうだぜ」

「えっ!本当ですか!?」

「ああ!もしかしたら神楽の食費も心配しなくてもよさそうだ!」

「神楽ちゃんの食費も!?」


雪はまた銀時の悪い癖が始まったと傍観を決めつけ赤の他人を装うと思ったが、銀時の言葉に反応を示した。
家賃の心配がいらない&神楽の食費代が浮く…これは雪にとって魔法の言葉そのものだった。
家主が仕事を碌に探さないため給料がもう何か月も滞納しており家賃も払えない状態であり、それに加え育ち盛りすぎる大食い神楽の食費も浮くというのは雪にとっても銀時にとってもおいしい話である。
虫一匹を捕まえる手伝いさえすれば貰えると思うとこの話は乗らなきゃ損であろう。
土方は文句の一つや二つ言いかけたが、家賃と神楽の食費の心配がいらないと知った雪のキラキラとした目を見てしまい、開きかけた口を閉ざした。
きらきらと目を輝かせる雪に今まで黙って雪を凝視していた鷹臣がそっと雪の手を握る。


「可哀想なお雪さん…そんなにお金に困っていたんですね…」

「え、いや、まぁ、そうですけど…なんで一々手を握るですかあんたは。」


手を握られ雪は銀時から鷹臣へと視線を向ける。
出来るだけないモノとして扱っていたがあちらから接触してきたため必然的に相手をするしかなく、雪はとりあえず毎回手を握ってから喋る鷹臣に突っ込んだ。
そんな雪などよそに鷹臣は優しく微笑む。


「そうだ…だったらお雪さん、真選組で働きませんか?」

「は、はあ!?」


先ほどは雪がキラキラと目を輝かせていたが、今度は鷹臣が目ではないがキラキラと背景を輝かせていた。
雪は鷹臣の言葉に思わず声を上げてしまったが、鷹臣は気にもせず『ね?』と小首を傾げ頼む。
鷹臣のおねだりは世のお嬢様方のハートを掴んで離さないだろうが、残念ながら妙を姉に持つ雪は全く聞かない仕草だった。
返ってきたのはハートになった目ではなく、怪訝な視線だった。


「な、何また変な事を言ってるんですか!」

「そうだぞ鷹臣!万事屋を屯所に招き入れるなんて冗談抜かすな!!そもそも雪は女だ!真選組は女人禁制だぞ!!それに真剣なんて持たせて男だらけに放り出してみろ!!女に飢えてるあいつらが雪を取って食う前にあの女に俺らが取って食われるはめになるんだぞ!!」

「えー…別に冗談じゃないんだけど……っていうか俺別に隊に入れって言ってませんよ。俺はお雪さんが給仕として真選組に来てくれたらいいな〜って常日頃から思ってるだけで、誰が俺の将来の奥さんになるお雪さんに真剣なんて持たせて女に飢えた野獣の群れなんかに渡すと思いますか?十四郎さん一度殺してあげましょうか?」

「「チクショウ!突っ込みが追いつかねえ!!」」


鷹臣の言葉に反応したのは雪だけではなく、土方や銀時も同じく驚いた表情を浮かべていた。
土方は上司として、真選組の副長として割って入り慌てて鷹臣の提案を却下したのだが、不可を貰っても鷹臣はめげなかった。
もう突っ込みたくてもツッコミが追いつかず、ツッコミ属性の雪と土方は同時に叫んだ。
鷹臣の殺すという言葉に鷹臣の部下達が姿を見せず『隊長!ぜひ俺も参加させてください!』『隊長!俺も!!』『俺も!隊長とお雪さんの仲を裂く奴等なんか全員俺らがぶった斬ってやりますぜ!!』と煩く叫ぶ。
しかも姿が見えず、部下達の声は木の上やら茂みの中やらで聞こえ場所が特定できない。
殴り飛ばしたいが、正直スピードでは鷹臣達の方が上なため土方は好き勝手抜かす鷹臣の部下達にぐぬぬ、と拳を握るしかできなかった。
そんな土方を放置し、鷹臣はにこにこレディーキラーの笑みを浮かべながら楽しそうに続ける。


「仕事でクタクタになって帰ってきた俺達にお雪さんが『あっ!鷹臣さんお帰りなさい!お疲れでしょう?ご飯にします?お風呂にします?それともわた――」

「待てェェェェ!!!やめろォォォ!!やめろ!今すぐその妄想をやめろォォ!!ほっんといい加減にしてくれませんか!?いい加減こっちも出るとこ出てもいいんですよ!?著作権で訴えますよ!?夢小説書いてる時点でこっちが訴えられたら負けるけど本当に訴えるよ!?」

「はは、ごめんね。いつもの癖でついうっかり」

「いつもの!?いつもの癖でついうっかり!?いつもそんな破廉恥な妄想してるんですか!?あんたの中の私どんだけ破廉恥なの!?」

「そうだねぇ…裸体にリボン巻いて寝てる俺の布団の中に忍び込むくらいかな?」

「古ーー!表現が古い!何年前の表現!?っていうかバカップル以外現実にそんなことする人達いねえよ!!あんたはもうちょっと現実を見るべきだよ!人を殺してばっかだからそんな妄想癖になったのか!?」

「え…でも前に俺が『裸にリボンつけて『私を食べて!!』って言ってくれたら交際を考えてあげる』って言ったら全員してくれたよ?」

「それはあんたのストーカーだからだよ!!」

「しかも路上。人が歩いてるのにその場で脱いでその場でリボンをつけて。」

「だからそれはあんたのストーカーだからだってつってんだろ!!あんたの見た目に騙されてる馬鹿な女どもだから驚きもねぇわ!!」

「ああ!やっぱり君は俺のことすごく理解してくれてるんだね!!!よし!将軍のカタツムリを捕まえたら役所に行って俺の奥さんになろう!!」

「どこに食いついてんじゃーー!!あとカタツムリじゃねェェ!!カブトムシじゃボケエエ!!もー!土方さん!土方さんの部下ならちゃんと躾しといて…」

「…給仕お雪、か…いいな、それ…」

「ええええ!!?まさかの食いつきィィ!?れ、冷静になろうよ!土方さんあんたクールなんだろ!?レッツパーリィなんだろ!?もう私も何言ってんだかわかりゃしねえよ!!」

「なあ近藤さん、確かおさきが給仕のおばさん1人辞めたから求人を出してほしいとか言ってたよな?雪はどうだ?」

「ちょ、なに推薦してんの!?やらないよ!?私やらないからね!?いくら趣味だって言っても家と万事屋と真選組なんて掛け持ちできませんからね!!死にますよ私!過労死する事間違いなしだよ!?」


給仕、と聞き土方は何故か考え込んでしまった。
何だかんだ言ってツッコミだと思われがちの土方だが、どちらかと言えばボケ属性も兼ね備えているため今回はボケ側へと変えたらしい。
と、いうか本人はいたって真面目で雪の給仕計画を練っていた。
土方に問われた近藤は『ああ、そうだな…確か先月おばちゃんが1人辞めたな…だがいくらお雪ちゃんでも大丈夫か?』と心配そうに雪を見つめ、それに釣られるように土方も近藤から雪へ視線を向け『大丈夫だろ…あんな上司を持ってるし、こう見えて根性があるからな…雪ならおさきの御眼鏡に適うと思うぞ。それにこいつならおさきみたいに鷹臣贔屓しねえから公平だろうしな』と煙草をふかしながらそう零し、そんな土方に鷹臣が『えー…俺としては俺専用の給仕になってほしいんですけどぉー』とぶーたれるも土方に『ふざけんな殺すぞ』と一秒もない速さで突っ込まれ本気で睨まれてしまう。
毎日がブラッドデーな鷹臣は土方の殺気を平然と受け流し更にぶーたれた。
勝手に真選組で話が進んでいくのを突っ込みたいのに軽く流されてしまう雪はどうしたらいいのか半べそかいていた。
正直給料がちゃんと支払われるはずの真選組なら美味しいどころではないだろう。
給料もそれなりにいいだろうし、何より安定している。
だが雪は万事屋がいいのだ。
給料を支払われなくても、駄目な人間がオーナーでも、大食いが家計を圧迫していても…雪は万事屋がいいのだ。
それを言いたいのに聞く耳を持たない男三人に雪はそろそろ本気で切れそうだった。


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