(2 / 14) 親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ (2)
「こらァァァ!!クソジジィィ!平賀!てめえ出て来いこの野郎ォォォ!!!」


歌舞伎町の空に一人の女の叫びが響く。
だが今日はそれを上回る音が空に響き女の叫びがかき消されてしまった。
女…お登勢はそれでも叫び続けた。


「てめェはどれだけ近所の皆さまに迷惑かけてんのか分かってんのか!?」

「昼夜問わずガチャコンッガチャコンッ!!ガチャコン戦士かてめぇは!!」


お登勢に続き、お登勢の後ろにいた町内の人達も騒音の中叫ぶ。
お登勢達は『原外庵』と書かれた看板が斜めにかけられしっかりとシャッターが閉まっている工場にいた。
その工場は機械系が得意なのかガラクタのような機材がお登勢たちの左右に山になっており、騒音はその工場から出されているものだった。
騒音で寝ることもままならないとついに町内の人達がキレ、乗り込んできたのだ。
どんなに叫んでも聞こえないのか止まない音にお登勢は溜息をつき煙草を咥える。


「江戸1番の発明家だかなんだか知らねえがガラクタばっか作りやがって…私ら歌舞伎町町内会一同も我慢の限界だ。―――おい野郎ども…やっちまいな。」


止まらない騒音にお登勢はもう我慢の限界だった。
煙草の煙を吐き出しながらお登勢は後ろへ振り返り、お登勢が振り返ったため町内の人達も後ろへ振り返る。
後ろから現れたのは万事屋の三人だった。
銀時を挟み神楽と雪は1つずつ大きなスピーカーを腕に抱え、銀時はラジカセとマイクを手にしていた。
町内の人達が開けたロードを歩き三人はシャッターの前でスピーカーやマイクなどをセッティングする。
そして…


「1番!歌舞伎町から来ました!志村雪です!!よろしくお願いします!」


銀時はお約束に『あー、テステス』と言いながら音量や不備がないかを確かめ雪にマイクを渡し、雪は渡されたマイクをぐっと握ってシャッターの前に立ち、銀時と神楽は無言で耳に指を突っ込む。
何をするのか…一同が首を傾げながら見守っていると…



「チョメチョメェェーー!!!」



騒音を上回る騒音が上書きされただけだった。
その騒音は雪の歌声である。
しかし音痴のためか聞いていて気持ちいいものでもなければ騒音に負けることもない。
騒音が騒音を呼び込んだだけだった。
音痴+騒音にお登勢達は顔を歪ませ耳を塞いだ。


「オイィィィ!!!私は騒音止めてくれって言ったんだよ!!なんだこれ!?増してるじゃねえかァ!!二つの騒音がハーモニー奏でてるじゃェかァァァ!!!」

「苛めっ子黙らすには同じように苛めんのが一番だ。殴られたことのねえ奴は人の痛みなんて分かりゃしねえんだよ。」

「分かってねえのはお前だァァ!!お前んとこの嫁のせいでこっちは鼓膜破れそうなんだよ!!」

「何言ってるのバアさん、一番痛いのは雪だ。公衆の面前で音痴晒してんだから。」

「なんか気持ちよさそうだけどォォ!!?」


雪が歌いだし騒音のダブルパンチとなり、お登勢はまさかこんな方法でくるとは思ってもみなかったのか止めるよう銀時に叫んだ。
依頼したのは騒音を止めろという内容で、どうやって止めるかは聞いてないし決めてもいない。
銀時はどうやら音痴の雪を使い炙り出すつもりだったらしい。
銀時の『雪が一番痛い』というがお登勢にはとても気持ちよさげに歌っているようにしか見えなかった。


「雪−、次私歌わせてヨ。北島五郎の新曲手に入れたネ!………ねぇ…ちょっと…オイ、聞いてんのか音痴!!」


お通の曲は全て暗記している雪は楽譜なくとも完璧に一文字も間違えず歌う。
そんな雪に神楽がCDを手に雪に声を掛け次の順番を強請るも、神楽に弱い雪は珍しくも熱唱しすぎて聞こえていなかった。
順番を回すどころかマイクを握って放さない雪に神楽はムッと頬を膨らませ無理矢理雪の手にあるマイクを掴み取ろうとする。


「あっ!やだ!神楽ちゃんやめてよ!今盛り上がるサビの部分だよ!?空気読もうよ!」

「空気読むのはお前アル!!お前音痴だって事絶対開き直ってるネ!!すっげー気持ちよさそうだったネ!!私にも歌わせろヨ!!」

「そりゃ気持ちいいよ!!熱唱してんだから!!!」


神楽にマイクを奪われそうになった雪は必死にマイクを死守しようとした。
火事場の馬鹿力の法則か、今の雪は夜兎の力と互角だった。
マイクを取り合う2人に銀時は呆れの声を零す。


「あーあ…何やってんだあいつら…しょうがねえな……オイィィ!!次歌うのは俺だぞ!!――あと雪さんそのマイクでもう一度『気持ちいい』と言ってくださいっ!出来れば甘い声で!!出来れば『銀さん…っ』って!!」

「オイィィ!!何頭下げながら早速シモにいってんだ!!お前はセクハラしかできねえのか!!っていうかおめえら一体何しに来てんだァ!!もういい!てめえらの歌聞くくらいなら自分で歌う!!貸せ!」

「てめえの歌なんて聞きたくねえんだよ!腐れババアは黙ってろ!!」

「なんだと!?じゃあデュエットでどうだこの野郎ォォ!!!」


子供の喧嘩に銀時が間に入り雪に順番を譲るように咎める。
それが本来あるべき大人の姿である。
だが、銀時は注意したと思えば子供の喧嘩に参加し、あまつさえ際どいセリフを雪にもう一度お願いしていた。
それを見てお登勢の堪忍袋の緒が切れ結局お登勢もマイクの奪い合いに乱入する。
子供は大人に勝てるわけもなく(一名余裕で勝てるが)マイクは銀時に渡り、銀時のマイクを隙をついたお登勢が取った。
4人の言い合いをマイクが拾っていると、固く閉じられたシャッターがゆっくりと開いていく。
シャッターが開いていく音に4人は口論をやめ、シャッターの方へ誰もが目をやればそこには――ロボットがいた。


「え…え?これが平賀さん?」


現れたロボットに銀時は顔を引きつらせた。
このタイミングで出るのは普通なら生身の体を持った平賀本人である。
なのに出てきたのはロボットだった。
否、もしかしたらこのロボットが平賀本人で、ロボットに見えるが実は生身の人間なのかもしれない……、と銀時はロボットを前にそう考える。
だが、その答えは出ないまま何故かロボットは銀時の頭を大きな手で鷲掴みし、なんの躊躇もなく持ち上げる。


「アダダダ!!!頭取れる!!頭取れるって平賀さァァん!!!」


頭だけを掴み持ち上げれ銀時は痛みに顔を歪めた。
その上機械のように固い指が痛みを増させ悲鳴に似た声を上げる。
ロボットのような体を持つ平賀と犠牲になった銀時を見て町内の人達は悲鳴を上げて逃げていき、雪と神楽は宙ぶらりんになっている銀時あわあわと慌てるしかなかった。
すると…


「たわけ!平賀は俺だ!!ひとんちの前でギャーギャー騒ぎやがって…クソガキども!少しは近所の迷惑も考えんか!!!」


本物の平賀が現れた。
どうやらロボットのような平賀は、ロボットで、平賀ではないようだった。
平賀の言葉にお登勢は眉間にしわを寄せ平賀を睨む。


「そりゃてめえだクソジジイ!!てめえの奏でる騒音のおかげで近所の奴はみんなガシャコンノイローゼなんだよ!!」

「ガシャコンなんて騒音奏でた覚えはねえ!!『ガシャッウィーンガッシャン』だ!!」


騒音の事を苦情として述べれば平賀は開き直ったようにケロっとしていた。
まあ苦情一つで騒音を止める人間なら騒音なんて出さないだろう。
その間もロボットの手から脱出できない銀時を雪と神楽が引っ張って何とかしようとするも、どういうわけかロボットは銀時の頭を掴んだままぶんぶんと振り回しはじめてしまう。
雪と神楽もそれには流石に慌て、銀時の首と胴がちぎれる前に止めようとするのだが、ロボットの振り回す力が強く下手に止めに入れば逆にこちらが怪我をしそうなため手が出せなかった。
その間にも平賀とお登勢は睨み合う。


「…源外、あんたもいい年してんだからいい加減静かに生きなよ…カラクリに老後の面倒でも見てもらうつもりかい?」

「うっせえよババア!!何度来ようが俺ァ工場はたたまねぇ!!帰れ!おい!!三郎!!構うこたぁねえ!!力ずくで追い出せ!!」

≪御意≫

「えっ!?おい、ちょ、おい、ま…――ギャアア!!!」


睨みあっていたお登勢だったが、ふと眉を下げ呆れたように零した。
平賀はそれでも頑固として作業を止めないと言い張り、邪魔なお登勢たちを追い出そうと銀時の頭を掴んでいるロボットに命じた。
銀時との交戦をしていたロボット…三郎はその命令にしたがってお登勢たちを追い払おうとする。
だがなぜか銀時を持ち上げた後生みの親であるはずの平賀へと銀時を思いっきり投げつける。

平賀と銀時の悲鳴が同時に上がった瞬間だった。


2 / 14
| back |
しおりを挟む