花火が上がった。
夏祭りのメインイベントの一つである花火が上がり、足を止めるもの多い。
時間になるまで暇をつぶしていた銀時も花火に足を止め周りと同じく夜空に浮かぶ花を見上げていた。
「やっぱり祭りは派手じゃねえとなぁ」
「―――!!」
花火に見惚れている中に銀時もいた。
周りほど見惚れてはいないだろうが、わざわざ空を見上げるほどではあった。
そんな銀時の耳に聞き慣れた声が届き、その人物に銀時は一瞬にして木刀へと手を伸ばすも背後に立つ相手の方が早く、銀時は腰に物打ちを突きつけられてしまう。
真剣の冷たく重い気配に銀時の体は緊張が走る。
周りはそんな銀時達に気づいていないのか花火に夢中になっていた。
「動くなよ?白夜叉ともあろうものが後ろを取られるとはなぁ…銀時、てめぇ弱くなったか」
「…なんでてめぇがこんな所にいんだ」
銀時の背後を取った男――高杉はクツクツと喉を鳴らす。
振り返らなくても見える高杉の姿に銀時は低く呟く。
「いいから黙って見とけよ…すこぶる楽しい見世物が始まるぜ…」
銀時の言葉に返さず高杉は笑みを深めそう呟いた。
その次の瞬間、どこからか白い煙が上がり悲鳴が響く。
煙が立ち込める場所から逃げ出したのか祭りを楽しんでいたはずの人達が一斉に前から逃げ出し、恐怖は伝染するもので事情も知らない銀時の周りの人達も悲鳴を上げながら逃げていく。
逃げ出そうとしない銀時と高杉など気にする者はどこにもいない。
逃げ惑う人々が己の横を通り過ぎようとも高杉は気にもせず続けた。
「覚えてるか?銀時…俺が昔鬼兵隊って義勇軍を率いていたのをよぉ…そこに三郎って男がいてな?剣はからっきしだったが機械には滅法強い男だった…『俺は戦しに来たんじゃねぇ、親子喧嘩しに来たんだ』っていっつも親父の話ばかりしてる奴だったよ…――だがそんな奴も親父の元へ帰ることなく死んじまった。」
高杉は語り始める。
戦友と言っても高杉とは別行動が多かったため、高杉が出した三郎という男の事は銀時も知らない。
しかし三郎という名前は知っていた。
銀時は高杉の言葉を聞き一瞬平賀を思い出し、平賀が言っていた息子の話しもまた同時に思い出す。
「酷い話だぜ…俺達は天人から国を護ろうと必死に戦ったってのに肝心の幕府はさっさと天人に迎合しちまった……鬼兵隊も例にもれず粛清の憂き目にあい壊滅…河原に晒された息子の首見て親父が何を思ったかは想像に難くねえよ…」
「……高杉…じいさんけしかけたのはお前か」
「けしかける?――馬鹿言うな。立派な牙が見えたんで研いでやっただけの話よ」
高杉の話しは平賀の話しとほぼ同じ、というよりは同一人物だろう。
そして先ほどの平賀の『仇をとろうとは思わんのか』という呟き。
ここまで聞かされ気づかない者はいないだろう。
銀時の言葉に高杉は口端を上げた。
「解るんだよ、俺にも…あのじいさんの苦しみが…俺の中でも未だ黒い獣がのた打ち回ってるもんでなぁ……仲間の敵を…奴らに同じ苦しみを…殺せ!殺せ!と…耳元で四六時中騒ぎやがる……銀時、てめぇには聞こえねえのか?…いや、聞こえる訳ねえよな…過去から目ぇ逸らしてのうのうと生きてやがるてめぇに…牙を失くした今のてめぇに……俺達の気持ちは分かるまいよ」
既に銀時と高杉の周りには人がおらず、遠くに聞こえる騒ぎの音だけが響いていた。
それでも高杉は銀時に刀を向け、殺気を向ける。
まるで仲間の仇、あの人の仇を取ろうともしない銀時を責めるかのように。
しかし、高杉の足元に赤い血が零れる。
「――!」
「高杉よお…見くびってもらっちゃ困るぜ…――獣くらい俺だって飼ってる。」
(動かねぇ…!)
「ただし獣は白い奴でな……え?名前?――定春ってんだ!!」
その血は銀時の血だった。
銀時は突きつけられていた高杉の刀を掴み動きを止めたのだ。
真剣なため切れた皮膚から血が零れ、地面を血で汚していく。
引こうにも銀時に動きを止められた高杉は銀時に殴られてしまう。
顔面を容赦なく殴り飛ばされたが、踏みとどまり高杉はジクジクと痛む頬に手を伸ばす。
ぬるりとしたモノが高杉の手に付き、見れば赤い血が高杉の指についていた。
どうやら殴られた時に口が切れたようであるが、銀時の指に比べれば可愛い方だろう。
久々の痛みに高杉は目を見張っていたがクツクツと喉を鳴らし笑いだす。
「銀時、てめぇやっぱり牙を失くしたわけじゃねえみてえだな…」
「あ?だから言ったろ、俺は牙なんてねえって。牙があんのは定春だっつーの。お前あれだよ?定春舐めてると痛い目見んぞ。実際俺が痛い目見てるし」
「……てめぇが、牙を失くしたままだったら…てめえを殺して迎えに行くつもりだったが……――銀時、俺の"花"…もうしばらくてめぇに預けておく。」
「…"花"ってなんのことだ」
「せいぜい迎えにくるまで"あいつ"がてめぇのモンだと驕っていろ」
「っておい!高杉!!」
高杉は言いたいことを言い、もう用はないとそのまま銀時に背を向け姿を消す。
銀時は話しを聞かない高杉に苛立ったが、高杉の『花』が何を示しているのか分からず引き止めようとした。
しかし高杉の足は止まらず、銀時は追うのをやめ立ち止まる。
「花…?」
高杉は『花』と言った。
『あいつ』とも。
花、と聞けば綺麗に咲く植物を連想させるが、ただの花なら『あいつ』と人代名詞は使わない。
なら…銀時は一瞬1人の少女を脳裏に浮かべた。
「いや…ない、だろ……だって、あいつと高杉なんて…繋がりもしねえし……」
1人の少女、それは――雪だった。
高杉の言葉を銀時はもう一度脳内で再生する。
高杉は銀時に向かって『花』を『銀時』に『預ける』と言った。
『あいつ』が『銀時』の『モノ』だと『驕れ』と。
そうなれば考えられるのは2人しかなかった。
銀時の傍にいるあの2人しか……神楽と雪しかいなかった。
神楽は闇を知っている。
どんな闇を見てきたかは分からないが、世の暗い部分を多少は見てきているはずだ。
自分達の元に来る前にやくざと手を組んでいたのだから高杉とも繋がっても納得は出来る。
無理矢理な理由だが、神楽は雪よりは高杉に近い。
しかし、ずっと今まで一緒に寝泊りをしてきたが神楽にそんな闇も高杉の影も見当たらなかった。
もし本当に高杉と繋がりがある、又はあったのなら銀時が見逃すわけがない。
だから神楽は白と判断された。
そして、残ったのが――雪。
だが雪は神楽以上に高杉と繋がる要素が見つからない。
あんなにも根が真面目であんなにも明るく笑う少女が…全てに絶望した男との繋がりがあるはずもないのだ。
しかし…高杉は『花』と言った。
雪はまさしく『花』のような存在だった。
銀時にとっても、神楽にとっても、妙にとっても…雪は『花』のように自分達の心を潤し癒してくれる存在なのだ。
ただ…ただ、一つだけ引っかかることがあった。
それは雪の体の傷である。
あれは事故で負った傷でも、刃物で負った傷でもなかった。
あれは――刀傷…高杉が持っていた日本刀のような傷痕だった。
それを思い出し銀時は息を呑む。
「……雪…」
銀時は冷や汗がどっと流れる。
ドクン、と心臓が跳ねる。
ドクン、ドクン、と煩く鼓動が繰り返される。
グッと拳を握ると傷口が開き更に血が地面に零れていった。
今の銀時に痛みは感じていない。
今、銀時にあるのは恐れ。
――雪を失うかもしれないという恐れだけ。
銀時の脳裏に神楽の言葉が響いた。
夏祭りのメインイベントの一つである花火が上がり、足を止めるもの多い。
時間になるまで暇をつぶしていた銀時も花火に足を止め周りと同じく夜空に浮かぶ花を見上げていた。
「やっぱり祭りは派手じゃねえとなぁ」
「―――!!」
花火に見惚れている中に銀時もいた。
周りほど見惚れてはいないだろうが、わざわざ空を見上げるほどではあった。
そんな銀時の耳に聞き慣れた声が届き、その人物に銀時は一瞬にして木刀へと手を伸ばすも背後に立つ相手の方が早く、銀時は腰に物打ちを突きつけられてしまう。
真剣の冷たく重い気配に銀時の体は緊張が走る。
周りはそんな銀時達に気づいていないのか花火に夢中になっていた。
「動くなよ?白夜叉ともあろうものが後ろを取られるとはなぁ…銀時、てめぇ弱くなったか」
「…なんでてめぇがこんな所にいんだ」
銀時の背後を取った男――高杉はクツクツと喉を鳴らす。
振り返らなくても見える高杉の姿に銀時は低く呟く。
「いいから黙って見とけよ…すこぶる楽しい見世物が始まるぜ…」
銀時の言葉に返さず高杉は笑みを深めそう呟いた。
その次の瞬間、どこからか白い煙が上がり悲鳴が響く。
煙が立ち込める場所から逃げ出したのか祭りを楽しんでいたはずの人達が一斉に前から逃げ出し、恐怖は伝染するもので事情も知らない銀時の周りの人達も悲鳴を上げながら逃げていく。
逃げ出そうとしない銀時と高杉など気にする者はどこにもいない。
逃げ惑う人々が己の横を通り過ぎようとも高杉は気にもせず続けた。
「覚えてるか?銀時…俺が昔鬼兵隊って義勇軍を率いていたのをよぉ…そこに三郎って男がいてな?剣はからっきしだったが機械には滅法強い男だった…『俺は戦しに来たんじゃねぇ、親子喧嘩しに来たんだ』っていっつも親父の話ばかりしてる奴だったよ…――だがそんな奴も親父の元へ帰ることなく死んじまった。」
高杉は語り始める。
戦友と言っても高杉とは別行動が多かったため、高杉が出した三郎という男の事は銀時も知らない。
しかし三郎という名前は知っていた。
銀時は高杉の言葉を聞き一瞬平賀を思い出し、平賀が言っていた息子の話しもまた同時に思い出す。
「酷い話だぜ…俺達は天人から国を護ろうと必死に戦ったってのに肝心の幕府はさっさと天人に迎合しちまった……鬼兵隊も例にもれず粛清の憂き目にあい壊滅…河原に晒された息子の首見て親父が何を思ったかは想像に難くねえよ…」
「……高杉…じいさんけしかけたのはお前か」
「けしかける?――馬鹿言うな。立派な牙が見えたんで研いでやっただけの話よ」
高杉の話しは平賀の話しとほぼ同じ、というよりは同一人物だろう。
そして先ほどの平賀の『仇をとろうとは思わんのか』という呟き。
ここまで聞かされ気づかない者はいないだろう。
銀時の言葉に高杉は口端を上げた。
「解るんだよ、俺にも…あのじいさんの苦しみが…俺の中でも未だ黒い獣がのた打ち回ってるもんでなぁ……仲間の敵を…奴らに同じ苦しみを…殺せ!殺せ!と…耳元で四六時中騒ぎやがる……銀時、てめぇには聞こえねえのか?…いや、聞こえる訳ねえよな…過去から目ぇ逸らしてのうのうと生きてやがるてめぇに…牙を失くした今のてめぇに……俺達の気持ちは分かるまいよ」
既に銀時と高杉の周りには人がおらず、遠くに聞こえる騒ぎの音だけが響いていた。
それでも高杉は銀時に刀を向け、殺気を向ける。
まるで仲間の仇、あの人の仇を取ろうともしない銀時を責めるかのように。
しかし、高杉の足元に赤い血が零れる。
「――!」
「高杉よお…見くびってもらっちゃ困るぜ…――獣くらい俺だって飼ってる。」
(動かねぇ…!)
「ただし獣は白い奴でな……え?名前?――定春ってんだ!!」
その血は銀時の血だった。
銀時は突きつけられていた高杉の刀を掴み動きを止めたのだ。
真剣なため切れた皮膚から血が零れ、地面を血で汚していく。
引こうにも銀時に動きを止められた高杉は銀時に殴られてしまう。
顔面を容赦なく殴り飛ばされたが、踏みとどまり高杉はジクジクと痛む頬に手を伸ばす。
ぬるりとしたモノが高杉の手に付き、見れば赤い血が高杉の指についていた。
どうやら殴られた時に口が切れたようであるが、銀時の指に比べれば可愛い方だろう。
久々の痛みに高杉は目を見張っていたがクツクツと喉を鳴らし笑いだす。
「銀時、てめぇやっぱり牙を失くしたわけじゃねえみてえだな…」
「あ?だから言ったろ、俺は牙なんてねえって。牙があんのは定春だっつーの。お前あれだよ?定春舐めてると痛い目見んぞ。実際俺が痛い目見てるし」
「……てめぇが、牙を失くしたままだったら…てめえを殺して迎えに行くつもりだったが……――銀時、俺の"花"…もうしばらくてめぇに預けておく。」
「…"花"ってなんのことだ」
「せいぜい迎えにくるまで"あいつ"がてめぇのモンだと驕っていろ」
「っておい!高杉!!」
高杉は言いたいことを言い、もう用はないとそのまま銀時に背を向け姿を消す。
銀時は話しを聞かない高杉に苛立ったが、高杉の『花』が何を示しているのか分からず引き止めようとした。
しかし高杉の足は止まらず、銀時は追うのをやめ立ち止まる。
「花…?」
高杉は『花』と言った。
『あいつ』とも。
花、と聞けば綺麗に咲く植物を連想させるが、ただの花なら『あいつ』と人代名詞は使わない。
なら…銀時は一瞬1人の少女を脳裏に浮かべた。
「いや…ない、だろ……だって、あいつと高杉なんて…繋がりもしねえし……」
1人の少女、それは――雪だった。
高杉の言葉を銀時はもう一度脳内で再生する。
高杉は銀時に向かって『花』を『銀時』に『預ける』と言った。
『あいつ』が『銀時』の『モノ』だと『驕れ』と。
そうなれば考えられるのは2人しかなかった。
銀時の傍にいるあの2人しか……神楽と雪しかいなかった。
神楽は闇を知っている。
どんな闇を見てきたかは分からないが、世の暗い部分を多少は見てきているはずだ。
自分達の元に来る前にやくざと手を組んでいたのだから高杉とも繋がっても納得は出来る。
無理矢理な理由だが、神楽は雪よりは高杉に近い。
しかし、ずっと今まで一緒に寝泊りをしてきたが神楽にそんな闇も高杉の影も見当たらなかった。
もし本当に高杉と繋がりがある、又はあったのなら銀時が見逃すわけがない。
だから神楽は白と判断された。
そして、残ったのが――雪。
だが雪は神楽以上に高杉と繋がる要素が見つからない。
あんなにも根が真面目であんなにも明るく笑う少女が…全てに絶望した男との繋がりがあるはずもないのだ。
しかし…高杉は『花』と言った。
雪はまさしく『花』のような存在だった。
銀時にとっても、神楽にとっても、妙にとっても…雪は『花』のように自分達の心を潤し癒してくれる存在なのだ。
ただ…ただ、一つだけ引っかかることがあった。
それは雪の体の傷である。
あれは事故で負った傷でも、刃物で負った傷でもなかった。
あれは――刀傷…高杉が持っていた日本刀のような傷痕だった。
それを思い出し銀時は息を呑む。
「……雪…」
銀時は冷や汗がどっと流れる。
ドクン、と心臓が跳ねる。
ドクン、ドクン、と煩く鼓動が繰り返される。
グッと拳を握ると傷口が開き更に血が地面に零れていった。
今の銀時に痛みは感じていない。
今、銀時にあるのは恐れ。
――雪を失うかもしれないという恐れだけ。
銀時の脳裏に神楽の言葉が響いた。
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