銀時が腕を放したのは万事屋に帰り居間に戻ってからだった。
強く掴まれたため離されても多少の痛みはあるが、銀時が何も言わずソファに座りテレビをつけたので雪は聞きそびれてしまう。
帰ってまずしたのが定春のご飯だった。
お祭りには定春のような大きな犬は連れてこれず、眠っているのか拗ねているのか分からない定春に雪はご飯をやる。
「雪〜パジャマが見つからないアル」
「え…あ、ごめん、まだ畳んでなかったんだ…」
ソファに座ってテレビを見たまま動かないうえにこちらを見ようともしない銀時に雪は定春を撫でながら何か言いたげの目線を送っていた。
しかしお風呂に入ろうとした神楽の声で我に返り、新しいパジャマを出してやる。
銀時の部屋に放り込んでいた乾いた洗濯物の山から神楽のパジャマと下着、タオルを渡してやる。
「銀さん、お茶…いりますか?」
「…ああ、頼むわ」
雪に髪を解いてもらった後神楽は着替えとタオルを手に風呂場へと向かい、雪も神楽に続けて居間へと戻る。
風呂場の扉が閉められた音を聞きながら雪は銀時の向かいへと座り一緒にテレビを見る。
しかしやはり銀時の様子が気になりチラチラと見ていたが、沈黙が耐えられなくなったのかお茶を汲むのを口実に銀時に声を掛ける。
銀時からの返事は実は期待していない。
別行動をしていた間何が起こったかなど聞いても彼は答えてくれないのも雪は知っていた。
だから短く簡単だけど銀時から返事が返ってきたことにホッとした。
だからだろうか…『ちょっと待っててください』と席を立つ雪の背をジッと目で追っていた銀時に気づいていなかった。
「どうぞ、銀さん」
雪は冷蔵庫からお茶の入った容器とコップを三つお盆に乗せ居間へと戻り、お盆を机に置いた後1つの空のコップにお茶を入れてから銀時の前にコップを置いた。
しかしその瞬間銀時に手首を掴まれ雪は弾かれたように銀時へ顔を上げた。
顔を上げて見上げる銀時の表情は険しく、雪は息を呑む。
「ぎ、銀さん…?」
「お前今日は泊まっていけ」
「え…でも…姉上が…」
「いいから泊まれ。」
「……わ、分かりました…」
銀時の言葉に雪は目を見張った。
今日は泊まる予定はなかったため余計だろう。
しかし姉を1人にできず雪は断ろうとした。
いくら夜中に帰ってくるとしても人がいる家に帰ってくるのと、人がいない家に帰ってくるのとでは気持ちが違うのだ。
できれば姉に寂しい思いはさせたくない。
それを言えばみんなにシスコンと言われるのだが、それは仕方ないというものである。
なんたって雪には姉しか肉親がいないのだから。
しかし、銀時の有無を言わせない言葉に雪は戸惑いながらも頷いてしまう。
頷いた雪を見ると銀時は多少安堵した表情を見せ手を放し、雪は解放された手首を擦りながらチラリと銀時を見る。
すでに銀時はお茶を飲みながらテレビに目を向けており雪の視線に気づいているくせにチラリともこちらを見ない。
雪はそんな銀時に内心首を傾げていた。
とりあえずお茶をテーブルに二つの空のコップを置いた後姉の務めている『スマイル』に連絡を入れるため立ち上がる。
あれから雪はスマイルに連絡し姉に泊まる事を伝えた。
理由を聞かれ雪は『急な依頼が入って、明日早いので』と嘘をつく。
たまに本当に急に依頼が来て突然泊まる、ということもあるため、妙はその雪の嘘を疑うことなく信じた。
少し寂しそうな姉の声を聞き雪は罪悪感で良心がズキズキと痛むのを感じた。
そして神楽が出た後雪が入り、その間に神楽は暴れて疲れ眠ったのか定春と共に押入れの中へと消えていた。
「お風呂お先でした」
「おう。」
神楽がいないだけで居間は静かなものだった。
雪はお泊り用に置いていた寝間着姿で居間にいる銀時に声を掛ける。
風呂が空いたためか銀時はソファから立ち上がりそのまま風呂場へと消えていく。
タオルで濡れた髪をふき取っていた雪は何も持たず風呂場へ向かった銀時に『銀さん、着替え…』と言おうとするも全部言い終わる前に銀時は脱衣所の扉を閉めてしまった。
雪は『仕方ない』とため息をつき銀時の部屋から着替えを用意してやり、銀時が風呂場へ入ったのを確認した後脱衣所へ入った。
「銀さん、着替えここに置いておきますね」
「おー」
持ってきた着替えを籠に入れてやり、雪は洗濯物を持っていこうとした。
しかし洗濯物に赤いシミがあるのを発見し雪は『また汚してる』とそれをお祭りの食べ物か何かだと思った。
しかし食べ物の汚れにしてはその赤はとても綺麗で広範囲に広がっているため、雪は違和感を覚えた。
洗濯物を入れる籠の前に立った時雪はぬるりとしたなにかを踏んだのに気付き下へ目をやり足を退ける。
「これって…血?」
それは血だった。
雪はハッとさせ曇りガラスの向こう側にいる銀時を見た。
銀時の影は髪を洗っておりシャワーの音で雪の声はかき消されたのか雪が血に気づいたことに銀時は気づいていない。
「…………」
雪はそんな銀時にため息をつき、持ってきた着替えの上だけを抜き取り血が付いた服を洗面台へと運ぶ。
洗面台へ向かい雪は着替えを濡れない場所へと置いた後洗面台に水を溜めまずどこに血がついているのかを見る。
着物を広げれば血は左側の袖にベットリついており雪はその血の付いた部分を水に浸ける。
透明の水はあっという間に真っ赤に染まり、雪は栓を抜きまた水を溜める。
そのを繰り返しをし、水に溶け込む赤色が薄まると袖の部分を水に浸け込んだ。
その間に他にも血がついている場所を見つけ染み抜きを行っていく。
「明日クリーニング屋さんに行かなきゃなぁ…」
これだけの血をすべて洗い流すことはできないため、雪は洗え切れなかった血のシミはプロに任せるのが無難だとギュッと服を絞る。
服を絞り持っていくため乾かそうと居間へ戻ると既に銀時は上がっており、上半身裸の姿で注いでいたお茶を飲んでいた。
雪はその姿を見ながら何も言わず銀時の服を外に干した後、銀時の部屋に向かった。
それを銀時が無言で見送っていると雪はある物を持って戻ってくる。
「なあ、俺の上の着替えなかったんだけど」
「そうでしょうね、持ってきたんですけど置くのやめました。」
「流石に夏でも銀さん風邪ひくんだけど…」
「怪我の治療し終えたら返しますよ」
「………」
着替えを置いておくと言った雪だったが、銀時が風呂から出ればあるのは下着と下のズボンのみ。
『雪ちゃんのエッチ』と言えば『はいはい』と軽く流され雪の言葉に銀時は口を閉ざし、雪はいつもの銀時に戻ったことに内心ほっとしながら持ってきたある物――救急箱を机に置く。
「手、出して下さい」
「ん。」
銀時は雪が気づいたことに驚きはない。
怪我を隠していたとはいえ怪我した傷口からは容赦なく血が流れており、袖はベットリ自分の血で汚れているのも知っていた。
脱いだ時見たし、その傷口から流れる血で床も汚れていたから銀時は雪もすぐに気づくだろうと知っていたのだ。
雪に言われるままに左手を差し出した銀時の手にはパックリ割れた傷があり、雪は思わず痛そうに顔をゆがめる。
「何をしたらこんな傷出来るですか?」
「あー…ちょっと一悶着あってな。」
「喧嘩ですか?」
「そんなもんだ。」
「……ほどほどにしてくださいよ、本当…」
血がついていた事に雪は多少の驚きはあるがそれほど驚きはなかった。
この仕事をしていて分かったが、銀時は厄介ごとを引き寄せる星のもとに生まれているのだ。
そのお蔭で流血沙汰は少なくなく、雪は何度も銀時の血で汚れた服を洗ったし、神楽のボロボロになった服も繕いできた。
自分も今日のような血の量はないにしろそれなりに血がついてしまう事もある。
怪我の治療も銀時と神楽のお蔭で手馴れてしまい、今も銀時の治療をひょいひょいと済ましていく。
片膝にタオルを乗せその上で雪は銀時の手の平の治療を行う。
水で傷口を洗うのは銀時がお風呂場でしたため最初は消毒を含ませたティッシュをポンポンと優しく傷口を拭ってやる。
「…ッ」
「我慢してください…自業自得ですから。」
「雪ちゃん、なんか冷たいのネ…」
「黙ってた罰です」
「あー…すんまそん。」
沁みるのか銀時が息を呑んだのを感じた。
しかし雪は冷たく切り離し、ガーゼを傷口にあてその上に包帯を巻く。
本当は何もしない方が完治しやすいが、手の平なため包帯を巻いた方が傷も開かないだろうと素人の雪は考え包帯を巻いた。
本来なら医者に診せなければいけないが、銀時が嫌がるのも目に見えているのだ。
「はい、出来ました」
「いだッ!ちょ、もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃね!?」
「怪我を隠すような人に優しさは必要ありませんでしょう?」
包帯を巻き終えた雪は怪我をした手の平をペチリと軽く叩く。
傷を叩かれ銀時は痛みに声を上げたが、笑顔の雪の言葉に返す言葉もなくバツが悪そうに目を逸らした。
雪は痛みで涙目の銀時に背を向け救急箱に出していた包帯や消毒液を仕舞い蓋をし立ち上がり元の場所に戻す。
戻ってくるついでに洗面台の近くに置いた銀時の着替えも持ってきて渡す。
しかし、
「俺、手ェ怪我してるから雪ちゃんが着させて〜」
銀時は渡された上の服を雪に押し返し、雪は銀時の言葉に『はあ?』と思わずそう零してしまった。
それでも銀時は『手が痛いし〜』と怪我をした手をひらひらと振り怪我人アピールを始める。
雪は何を言っても無駄だと思ったのか溜息をつき押し返された銀時の服を広げ袖を通してやる。
甚兵衛のため紐を二か所結んでやり、銀時に『終わりましたよ』と言えば銀時はニッコリと笑い『ありがと』と呟く。
すでに銀時への警戒もない雪は銀時に釣られるようにニコリと笑った後、銀時の向かいの指定席に座り自分用のコップにお茶を注ぎ口に含む。
それを銀時はジッと見つめ…
「――高杉」
雪に鎌をかけた。
もし雪と高杉が繋がっていたのなら、ここで雪はお茶を噴くなり器官にお茶が入るなり何らかの反応を見せるはずだと銀時は考えていた。
しかし雪からは…
「ん?」
コテン、と首を傾げられただけで銀時の思う反応は全く見せない。
雪は口に入っているお茶を飲み込み銀時を見つめる。
「誰ですか?それ。」
「………この手の傷をつけた奴。」
「それが高杉さんっていうんですか?」
雪の反応に銀時は目を細めた。
まだ雪が完全に高杉と繋がっていないとは限らないからだ。
雪を疑いたくはないが、この世には演技が上手い者いる。
銀時でも見抜けないほどに上手い者がいる。
だから銀時はまだ確信を持てなかった。
「銀さんに怪我を負わせるほどですから強かったんですね、その人。」
自分を疑いの目で見ているとは思ってもいないのか、雪はいつものように笑った。
今雪が笑えるのはこうして銀時が怪我をしても帰ってきたからで決して偽りの笑みではない。
雪の笑みに銀時はその笑みに強張っていた体を解す。
(やっぱ違う、よな…)
高杉の言った『花』が何を示し、誰を指しているのか…今は分からない。
まだ本当に雪が高杉の言った『花』ではない確信はとれていない。
だが、雪は高杉の名を聞いても反応を見せなかった。
と、いうことは雪は高杉を知らないという事である。
それに銀時は心底安堵した。
もし雪が高杉と繋がっていたのなら、きっと自分を…自分と神楽を簡単に捨てるかもしれないと恐怖していたのだ。
あの高杉が『花』と愛でるほどの人間だ…高杉がそう簡単に『花』を他の人間に渡しておくわけがない。
それが雪でなかったと銀時は安堵した。
「なあ雪」
「何ですか?」
「お前さ…どこにもいかねえよな?」
「は?」
しかしまだ銀時の中にある不安は拭えきれていない。
まだ雪が消えるかもしれない不安が。
神楽と自分が感じた恐怖を。
銀時は柄にもなく緊張したように手が震えていた。
声が震えないよう気を付けながら銀時は聞いた。
「俺たちを置いてどこにもいかねえよな?」
銀時の言葉に雪は目を見張る。
何がどうしてそんな話しに至ったのか、雪には分からないがいつもの冗談でもなければ口説くための言葉でも演技でもない。
雪にはそう少なくとも本当に銀時が不安そうに見えた。
「私はどこにも行きませんよ」
まるで自分が離れるのが怖がっているような銀時の珍しい様子に雪ははっきりとそう言い切った。
出来るだけ優しく、強く、はっきりと…雪は答える。
「大体出てくにしても…神楽ちゃんと銀さんだけだったら誰が家事やるんですか?」
茶化すようにそういえば銀時は安堵の笑みを浮かべ『そりゃそうだ』と笑う。
雪は銀時が笑ってくれたのが嬉しくて笑みを深めた。
その笑みに銀時は眩しそうに目を細める。
強く掴まれたため離されても多少の痛みはあるが、銀時が何も言わずソファに座りテレビをつけたので雪は聞きそびれてしまう。
帰ってまずしたのが定春のご飯だった。
お祭りには定春のような大きな犬は連れてこれず、眠っているのか拗ねているのか分からない定春に雪はご飯をやる。
「雪〜パジャマが見つからないアル」
「え…あ、ごめん、まだ畳んでなかったんだ…」
ソファに座ってテレビを見たまま動かないうえにこちらを見ようともしない銀時に雪は定春を撫でながら何か言いたげの目線を送っていた。
しかしお風呂に入ろうとした神楽の声で我に返り、新しいパジャマを出してやる。
銀時の部屋に放り込んでいた乾いた洗濯物の山から神楽のパジャマと下着、タオルを渡してやる。
「銀さん、お茶…いりますか?」
「…ああ、頼むわ」
雪に髪を解いてもらった後神楽は着替えとタオルを手に風呂場へと向かい、雪も神楽に続けて居間へと戻る。
風呂場の扉が閉められた音を聞きながら雪は銀時の向かいへと座り一緒にテレビを見る。
しかしやはり銀時の様子が気になりチラチラと見ていたが、沈黙が耐えられなくなったのかお茶を汲むのを口実に銀時に声を掛ける。
銀時からの返事は実は期待していない。
別行動をしていた間何が起こったかなど聞いても彼は答えてくれないのも雪は知っていた。
だから短く簡単だけど銀時から返事が返ってきたことにホッとした。
だからだろうか…『ちょっと待っててください』と席を立つ雪の背をジッと目で追っていた銀時に気づいていなかった。
「どうぞ、銀さん」
雪は冷蔵庫からお茶の入った容器とコップを三つお盆に乗せ居間へと戻り、お盆を机に置いた後1つの空のコップにお茶を入れてから銀時の前にコップを置いた。
しかしその瞬間銀時に手首を掴まれ雪は弾かれたように銀時へ顔を上げた。
顔を上げて見上げる銀時の表情は険しく、雪は息を呑む。
「ぎ、銀さん…?」
「お前今日は泊まっていけ」
「え…でも…姉上が…」
「いいから泊まれ。」
「……わ、分かりました…」
銀時の言葉に雪は目を見張った。
今日は泊まる予定はなかったため余計だろう。
しかし姉を1人にできず雪は断ろうとした。
いくら夜中に帰ってくるとしても人がいる家に帰ってくるのと、人がいない家に帰ってくるのとでは気持ちが違うのだ。
できれば姉に寂しい思いはさせたくない。
それを言えばみんなにシスコンと言われるのだが、それは仕方ないというものである。
なんたって雪には姉しか肉親がいないのだから。
しかし、銀時の有無を言わせない言葉に雪は戸惑いながらも頷いてしまう。
頷いた雪を見ると銀時は多少安堵した表情を見せ手を放し、雪は解放された手首を擦りながらチラリと銀時を見る。
すでに銀時はお茶を飲みながらテレビに目を向けており雪の視線に気づいているくせにチラリともこちらを見ない。
雪はそんな銀時に内心首を傾げていた。
とりあえずお茶をテーブルに二つの空のコップを置いた後姉の務めている『スマイル』に連絡を入れるため立ち上がる。
あれから雪はスマイルに連絡し姉に泊まる事を伝えた。
理由を聞かれ雪は『急な依頼が入って、明日早いので』と嘘をつく。
たまに本当に急に依頼が来て突然泊まる、ということもあるため、妙はその雪の嘘を疑うことなく信じた。
少し寂しそうな姉の声を聞き雪は罪悪感で良心がズキズキと痛むのを感じた。
そして神楽が出た後雪が入り、その間に神楽は暴れて疲れ眠ったのか定春と共に押入れの中へと消えていた。
「お風呂お先でした」
「おう。」
神楽がいないだけで居間は静かなものだった。
雪はお泊り用に置いていた寝間着姿で居間にいる銀時に声を掛ける。
風呂が空いたためか銀時はソファから立ち上がりそのまま風呂場へと消えていく。
タオルで濡れた髪をふき取っていた雪は何も持たず風呂場へ向かった銀時に『銀さん、着替え…』と言おうとするも全部言い終わる前に銀時は脱衣所の扉を閉めてしまった。
雪は『仕方ない』とため息をつき銀時の部屋から着替えを用意してやり、銀時が風呂場へ入ったのを確認した後脱衣所へ入った。
「銀さん、着替えここに置いておきますね」
「おー」
持ってきた着替えを籠に入れてやり、雪は洗濯物を持っていこうとした。
しかし洗濯物に赤いシミがあるのを発見し雪は『また汚してる』とそれをお祭りの食べ物か何かだと思った。
しかし食べ物の汚れにしてはその赤はとても綺麗で広範囲に広がっているため、雪は違和感を覚えた。
洗濯物を入れる籠の前に立った時雪はぬるりとしたなにかを踏んだのに気付き下へ目をやり足を退ける。
「これって…血?」
それは血だった。
雪はハッとさせ曇りガラスの向こう側にいる銀時を見た。
銀時の影は髪を洗っておりシャワーの音で雪の声はかき消されたのか雪が血に気づいたことに銀時は気づいていない。
「…………」
雪はそんな銀時にため息をつき、持ってきた着替えの上だけを抜き取り血が付いた服を洗面台へと運ぶ。
洗面台へ向かい雪は着替えを濡れない場所へと置いた後洗面台に水を溜めまずどこに血がついているのかを見る。
着物を広げれば血は左側の袖にベットリついており雪はその血の付いた部分を水に浸ける。
透明の水はあっという間に真っ赤に染まり、雪は栓を抜きまた水を溜める。
そのを繰り返しをし、水に溶け込む赤色が薄まると袖の部分を水に浸け込んだ。
その間に他にも血がついている場所を見つけ染み抜きを行っていく。
「明日クリーニング屋さんに行かなきゃなぁ…」
これだけの血をすべて洗い流すことはできないため、雪は洗え切れなかった血のシミはプロに任せるのが無難だとギュッと服を絞る。
服を絞り持っていくため乾かそうと居間へ戻ると既に銀時は上がっており、上半身裸の姿で注いでいたお茶を飲んでいた。
雪はその姿を見ながら何も言わず銀時の服を外に干した後、銀時の部屋に向かった。
それを銀時が無言で見送っていると雪はある物を持って戻ってくる。
「なあ、俺の上の着替えなかったんだけど」
「そうでしょうね、持ってきたんですけど置くのやめました。」
「流石に夏でも銀さん風邪ひくんだけど…」
「怪我の治療し終えたら返しますよ」
「………」
着替えを置いておくと言った雪だったが、銀時が風呂から出ればあるのは下着と下のズボンのみ。
『雪ちゃんのエッチ』と言えば『はいはい』と軽く流され雪の言葉に銀時は口を閉ざし、雪はいつもの銀時に戻ったことに内心ほっとしながら持ってきたある物――救急箱を机に置く。
「手、出して下さい」
「ん。」
銀時は雪が気づいたことに驚きはない。
怪我を隠していたとはいえ怪我した傷口からは容赦なく血が流れており、袖はベットリ自分の血で汚れているのも知っていた。
脱いだ時見たし、その傷口から流れる血で床も汚れていたから銀時は雪もすぐに気づくだろうと知っていたのだ。
雪に言われるままに左手を差し出した銀時の手にはパックリ割れた傷があり、雪は思わず痛そうに顔をゆがめる。
「何をしたらこんな傷出来るですか?」
「あー…ちょっと一悶着あってな。」
「喧嘩ですか?」
「そんなもんだ。」
「……ほどほどにしてくださいよ、本当…」
血がついていた事に雪は多少の驚きはあるがそれほど驚きはなかった。
この仕事をしていて分かったが、銀時は厄介ごとを引き寄せる星のもとに生まれているのだ。
そのお蔭で流血沙汰は少なくなく、雪は何度も銀時の血で汚れた服を洗ったし、神楽のボロボロになった服も繕いできた。
自分も今日のような血の量はないにしろそれなりに血がついてしまう事もある。
怪我の治療も銀時と神楽のお蔭で手馴れてしまい、今も銀時の治療をひょいひょいと済ましていく。
片膝にタオルを乗せその上で雪は銀時の手の平の治療を行う。
水で傷口を洗うのは銀時がお風呂場でしたため最初は消毒を含ませたティッシュをポンポンと優しく傷口を拭ってやる。
「…ッ」
「我慢してください…自業自得ですから。」
「雪ちゃん、なんか冷たいのネ…」
「黙ってた罰です」
「あー…すんまそん。」
沁みるのか銀時が息を呑んだのを感じた。
しかし雪は冷たく切り離し、ガーゼを傷口にあてその上に包帯を巻く。
本当は何もしない方が完治しやすいが、手の平なため包帯を巻いた方が傷も開かないだろうと素人の雪は考え包帯を巻いた。
本来なら医者に診せなければいけないが、銀時が嫌がるのも目に見えているのだ。
「はい、出来ました」
「いだッ!ちょ、もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃね!?」
「怪我を隠すような人に優しさは必要ありませんでしょう?」
包帯を巻き終えた雪は怪我をした手の平をペチリと軽く叩く。
傷を叩かれ銀時は痛みに声を上げたが、笑顔の雪の言葉に返す言葉もなくバツが悪そうに目を逸らした。
雪は痛みで涙目の銀時に背を向け救急箱に出していた包帯や消毒液を仕舞い蓋をし立ち上がり元の場所に戻す。
戻ってくるついでに洗面台の近くに置いた銀時の着替えも持ってきて渡す。
しかし、
「俺、手ェ怪我してるから雪ちゃんが着させて〜」
銀時は渡された上の服を雪に押し返し、雪は銀時の言葉に『はあ?』と思わずそう零してしまった。
それでも銀時は『手が痛いし〜』と怪我をした手をひらひらと振り怪我人アピールを始める。
雪は何を言っても無駄だと思ったのか溜息をつき押し返された銀時の服を広げ袖を通してやる。
甚兵衛のため紐を二か所結んでやり、銀時に『終わりましたよ』と言えば銀時はニッコリと笑い『ありがと』と呟く。
すでに銀時への警戒もない雪は銀時に釣られるようにニコリと笑った後、銀時の向かいの指定席に座り自分用のコップにお茶を注ぎ口に含む。
それを銀時はジッと見つめ…
「――高杉」
雪に鎌をかけた。
もし雪と高杉が繋がっていたのなら、ここで雪はお茶を噴くなり器官にお茶が入るなり何らかの反応を見せるはずだと銀時は考えていた。
しかし雪からは…
「ん?」
コテン、と首を傾げられただけで銀時の思う反応は全く見せない。
雪は口に入っているお茶を飲み込み銀時を見つめる。
「誰ですか?それ。」
「………この手の傷をつけた奴。」
「それが高杉さんっていうんですか?」
雪の反応に銀時は目を細めた。
まだ雪が完全に高杉と繋がっていないとは限らないからだ。
雪を疑いたくはないが、この世には演技が上手い者いる。
銀時でも見抜けないほどに上手い者がいる。
だから銀時はまだ確信を持てなかった。
「銀さんに怪我を負わせるほどですから強かったんですね、その人。」
自分を疑いの目で見ているとは思ってもいないのか、雪はいつものように笑った。
今雪が笑えるのはこうして銀時が怪我をしても帰ってきたからで決して偽りの笑みではない。
雪の笑みに銀時はその笑みに強張っていた体を解す。
(やっぱ違う、よな…)
高杉の言った『花』が何を示し、誰を指しているのか…今は分からない。
まだ本当に雪が高杉の言った『花』ではない確信はとれていない。
だが、雪は高杉の名を聞いても反応を見せなかった。
と、いうことは雪は高杉を知らないという事である。
それに銀時は心底安堵した。
もし雪が高杉と繋がっていたのなら、きっと自分を…自分と神楽を簡単に捨てるかもしれないと恐怖していたのだ。
あの高杉が『花』と愛でるほどの人間だ…高杉がそう簡単に『花』を他の人間に渡しておくわけがない。
それが雪でなかったと銀時は安堵した。
「なあ雪」
「何ですか?」
「お前さ…どこにもいかねえよな?」
「は?」
しかしまだ銀時の中にある不安は拭えきれていない。
まだ雪が消えるかもしれない不安が。
神楽と自分が感じた恐怖を。
銀時は柄にもなく緊張したように手が震えていた。
声が震えないよう気を付けながら銀時は聞いた。
「俺たちを置いてどこにもいかねえよな?」
銀時の言葉に雪は目を見張る。
何がどうしてそんな話しに至ったのか、雪には分からないがいつもの冗談でもなければ口説くための言葉でも演技でもない。
雪にはそう少なくとも本当に銀時が不安そうに見えた。
「私はどこにも行きませんよ」
まるで自分が離れるのが怖がっているような銀時の珍しい様子に雪ははっきりとそう言い切った。
出来るだけ優しく、強く、はっきりと…雪は答える。
「大体出てくにしても…神楽ちゃんと銀さんだけだったら誰が家事やるんですか?」
茶化すようにそういえば銀時は安堵の笑みを浮かべ『そりゃそうだ』と笑う。
雪は銀時が笑ってくれたのが嬉しくて笑みを深めた。
その笑みに銀時は眩しそうに目を細める。
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