(2 / 16) 子作りは計画的に (2)
朝、雪は三人のうちの誰よりも早く目を覚ます。
起き上がり背筋を伸ばし固まった筋肉を伸ばせば欠伸がついでに出て雪の瞳は涙を溜める。
その涙をぬぐいながら雪は布団を畳んで銀時が起きるまで隅に置いておく。
雪が眠っているのは、事務所兼居間である。
最初、雪が初めて泊まる時、雪はソファで眠っていた。
しかしソファは座るためであって眠るためではないため、翌朝、雪の体は暫く痛みが走っていた。
それを何回か繰り返しているうちに泊まることが当たり前になり、銀時から布団で寝るよう仰せつかったのだ。
最初こそ断っていた。
いくらマダオで駄目上司だからと言って一応目上の人だから自分はソファで十分だと断っていた。
だが銀時はまだ16の少女をソファで眠らせ自分は布団、というのが少々罪悪感を感じていたらしく、雪が布団で寝ないなら自分もソファで寝ると言いだし、更にはそれを実行し雪は布団に追いやられた。
次の日、承諾した雪とソファで寝た為に体がガッチガチに痛んでいた銀時は布団を一組買いに行った。
それから雪は泊まるとき、布団で眠るようになったのだ。
問題の姉上様であるが、彼女は可愛い妹に押し切られる形で渋々認めてくれた。
ただし、事務所兼居間で寝るなら、という条件付きである。
銀時も片思いをしていると公言しているのもあり、そして住む家もなく居候の神楽ならまだしも流石に付き合ってもいない少女が一つ屋根の下どころか同じ部屋で肩を並べて寝るのもおかしいと思ったのか文句ひとつもよこさなかった。
…が、よこしたらよこしたで『変態』というレッテルが張られるに違いない。
今でこそ『このロリコンが!!』とお妙に言われるのだ…これ以上雪との壁は厚くしたくはなかった。


「さて…今日も頑張りますか!」


朝起きてまずやることは台所に向かいご飯を炊くことである。
泊まる日は朝炊くことにしており、いつもは帰る時予約していく。
坂田家にはよく食べる子がいるためご飯を炊くのも一苦労である。
しかし雪は食べ盛りという言葉がかすむほどの食欲旺盛な神楽の食べっぷりを見ても最初は驚いたがすぐに慣れた。
作り手として美味しく…は分からないが、気持ちのいいくらい勢いよく食べてくれるのは見ていて気分がいい。
それに雪は神楽のように多く食べる人を知っていたから免疫があっただけの話しである。


「雪−…」

「あ、神楽ちゃん、おはよう」


コトコトとんとん、と台所で奏でられる音と、そして香る匂いに目が覚めたのか、押入れを寝室にしていた神楽が眠気眼のまま台所に入ってきた。
喉が渇いていたのかゆっくりとした動作でコップを取り出しお茶を入れて飲む。
昨日からお茶ばかり飲んでいる神楽に雪は『おトイレ近くないのかな…』と心の中でそう呟き心配そうに言い飲みっぷりの神楽を見る。


「神楽ちゃん、顔洗ったら銀さん起こして来て」

「お前が起こせばいいだろー」

「朝ごはん遅れてもいいなら」

「……乙女に狼の巣の中に放り込むなんて、これだからダメガネは…」

「いや、銀さん狼じゃないから…どっちかって言うとお父さんだから…まだ加齢臭ないけどオヤジだから…」

「だから(お前が)危険なんだって言ってんだヨ…男はみんな狼アル。オヤジは総じてスケベな生き物アル。オヤジの思考回路は全部エロネタで埋まってるネ。一番の被害者のくせして私全く分かりませーんって顔しやがって…それで通じるのはな、他のサイトの夢主だけだかんな?お前自分が思ってるより綺麗な心持ってないからな?」

「ちょっと!?ちょっと神楽ちゃん!?その言い方やめてくれる!?段々銀さんに似てきたよね!?駄目だから!私認めないから!!神楽ちゃん女の子なんだよ!?」


お茶を飲んで少しは目も覚めたのか、銀時を起こすよう言われ神楽はものすっごく嫌そうな顔をした。
乙女とは誰なのか…雪はあえてそこには触れなかったが、銀時が狼という例えには突っ込んだ。
確かに銀時は目が死んでる割には狼である。
16歳の少女に対して本気でアプローチを掛ける狼である。
何歳差かは知らないが、一回りはあるだろう狼である。
だが神楽に対しての対応を見ると、狼と言うより娘を持つ父親である。
その証拠に銀時は何するでも雪を母親だと言っていた。
まだ16で母は正直キツイところがある…周りがすでに坂田家の嫁という認識しているのを少し焦りながら雪はそう思っていた。
結局神楽はメタ発言をしながらため息をつき雪の頼みを聞き入れ、銀時が寝ている部屋へと向かった。

その後ろ姿を見て雪はだんだんと銀時と似てくる神楽の言動と行動に不安を覚えたと言う。





神楽はまっすぐ銀時の部屋へと向かった。
面倒くさい事は先にしたほうが楽なのだ。


「オイ、起きろヨ。このマダオが」

「ぐ…っ!」


神楽は雪に頼まれごとをされるのは実は嫌いではない。
雪に頼られると嬉しいし、何だか家族のようで嫌ではなかった。
照れ隠しなのか、それとも本気で銀時を起こすのが面倒なのか…神楽は未だぐうぐうと夢の中のオッサンの体の上に乗った。
夜兎でも少女の神楽の体重はそう重くはない。
だが神楽は死なない程度に飛び乗り起こしたのだ。
そのおかげか、銀時は痛みと重みと共に目を覚ました。


「いってえな!ってか重てえな!何すんだ!神楽!!」

「マミーがパピーを起こしに行けって言ったアル。文句ならマミーに言えヨ」


布団を頭まで被っていた銀時は目を覚まし布団から顔を覗かせた。
まだ神楽が上に乗っていたため起き上がれないし、正直まだ眠っていたい。
坂田家の中で一番朝が早いのは雪。
その次に目を覚ますのはマチマチだった。
雪の次に銀時が早い事が多いが、たまに朝ごはんの匂いで神楽が銀時より目を覚ますことも稀にあった。
その稀の日が、今日である。
横向きから仰向けに変え、こちらを見下ろす神楽の言葉に銀時は『はあ?』と返した。
まだ起きたばかりで意味を完全に理解していないのだろう。
だがすぐに意味を理解した銀時は『あー…そうかい』と続けて返し、神楽を落とさない程度に起き上がる。
銀時が起き上がり神楽はその上から退いてやる。


「じゃ、母ちゃんのおはようのキスでもせがみにでも行きますか…」


そう言っていつものようにだらけながら銀時は布団から出て台所にいる雪の所へ向かった。
その後姿を見送りながら神楽は『絶対嫌がられて失敗するネ』と予想ではなく確信を持ってそう思う。
まだ家族未満な関係だが、神楽はそんな彼らとのやり取りに心地よさを感じていた。


2 / 16
| back |
しおりを挟む