(8 / 16) 子作りは計画的に (8)
神楽と星海坊主の喧嘩勃発に雪は慌てふためいた。
割れたガラスから下を覗き込めば2人はガチンコバトルを繰り広げ、傘やら足やら手やらをお互い繰り出す。


「ぎ、銀さん!どうしよう!!」

「どうしようっつったってなぁ…夜兎の喧嘩に入り込めってかオイ」

「でも神楽ちゃんが…」

「…………」


殴り合い、叩き合い、蹴り合いを続けながら口は減らず喧嘩の被害は大きくなるばかり。
神楽はどうしても父親と帰りたくないと言い張り、星海坊主はどうしても神楽を連れて帰ると言い張る。
2人の言い合いに雪はもちろん銀時も口を挟めないでいた。
困った雪が銀時に助けを求めても銀時も困ったように頭を掻くだけで神楽を助け出そうとする気は皆無に見えた。


「なあ、雪」

「は、はい…」


喧嘩の場所はファミレス周辺からいくつも変わった。
時に公園、時に広場、時にビルが密集する場所。
彼女たちが去った場所は全て大きな被害が広がっており、コンクリートなど粉々になったり抉れていた。
本人達が手を下していなくても、衝撃や飛んできた物で怪我人も少なからず出ており、2人を止めれずも放っておくことも出来ず後を追いかける雪に続く銀時はその光景をただただ黙って無言のまま見つめていた。
既に日は傾きかけ、戦いの場はある駅に移っていた。
相変わらず雪達には聞こえないが何か言い合いをしながら殴り合い、周りは夜兎の戦いに悲鳴を上げながら逃げていた。
そんな逃げる人達を傍らに銀時は黙っていたが、ふと雪に声をかけた。
銀時の隣にいた雪は名前を呼ばれハッとさせた後銀時を見上げる。
銀時を見上げれば銀時は表情を険しくさせ神楽と星海坊主の戦いを見つめていた。


「銀さん…?」

「なあ、雪……あいつを帰すか」

「え…」


雪は銀時の言葉に一瞬理解ができずキョトンとさせた。
あまりにも普通に世間話をするかのように呟いた銀時の言葉に雪は理解できなかった。
『あいつ』、と差される人物はきっと神楽だろうと雪は唖然としながら考える。
そして『帰す』というのは言葉通りなのだろう。
その『帰す』という意味を成す場所も分かった。
雪は銀時の言葉に戸惑いを見せる。


「銀さん…それって……神楽ちゃんを帰すって事ですか…?神楽ちゃんのお父さんに連れて帰らせるって…」

「…………」


ショックすぎるのだろう…雪の声は震えていた。
雪は銀時に否定してほしかった。
『んなわけねえだろ、冗談だ、冗談。』と言って笑ってほしかった。
だが銀時から返ってきたのは無言。
きっと何も言わないのは肯定のつもりなのだろう。
それを察した雪は銀時の服を掴んだ。


「どうして…なんでですか…っだって!だって神楽ちゃん帰りたくないって言ってたじゃないですか!!帰っても一人だって!!それに神楽ちゃんのお父さんはエイリアンハンターだって言ったじゃないですか!!そんなの…危険すぎる!!」

「雪…お前、何を見てきた?」

「え…」

「こいつらの喧嘩した後、お前も見ただろうが。木を抉りコンクリートを簡単に粉々にし間接的に人を怪我させてんだろ……あいつらを見る人間の目、見たか?みんな怯えてただろうが…」

「…それは…」


銀時を責めるように雪は声を張り上げた。
銀時を責めても何も変わらないというのは雪にも分かっているのだが、あんなにも神楽が嫌がっているというのに父親である星海坊主に連れて帰すという銀時に我慢ができなかった。
確かに神楽との出会いから今日まで、月日は短い。
だけど放り出すほど短くはないはずなのだ。
それなのに銀時は神楽を突き放すという。
それが甘えてくれる神楽を妹として可愛がっていた雪には我慢できなかった。
しかし銀時の言葉に雪はハッとさせる。
銀時の言葉で雪は思い返す。
神楽と星海坊主を追っていくと必ずあるのが破壊。
そして、そんな暴れる彼女たちに向ける人の怯えた視線。
雪はそれらを銀時の言葉で我に返る。
口ごもる雪に銀時は神楽達から雪へと視線を落とす。


「あいつには、ここは狭すぎる……それにあいつはまだ14の子供だ…子供は親と一緒にいた方が幸せなんだよ…それは…雪、お前が十分わかってるだろ?」

「…………」


諭すように銀時は雪に呟いた。
自分の服を掴む雪の震えている手を自分の手で重ねてやる。
銀時の最後の言葉に雪はビクリと肩を揺らした。
親と死に別れ、雪は親の暖かさ、優しさ、温もりや必要さが十分理解していた。
それは雪だけではなく銀時もそうだ。
銀時は物心ついたことから親という存在はいなかった。
親の顔も見た事がなくその温もり、優しさを感じて成長することはなかった。
ただ親のような存在がいたおかげで、捻くれることはなかったが…神楽は違う。
片親とはいえ親がいる。
守ってくれる親が。
神楽がもう成人していたら話は別だが、神楽はまだ14歳なのだ。
親と離れて暮らす年齢ではない。
それが例え家に寄りつかなかった親だとしても…本来なら親とともに生きていかなければならない年齢である。
星海坊主は『家に帰りたくないのなら一緒に来い』と言っていたから、心から安心できる家がなくなったとしてもこれからは親といられる。
もう寂しい思いはしなくても済むのだ。
銀時はずっと考え、そして結論を出した。
その結論に雪は本当なら反論したい。
ずっと三人で万事屋をしていたかった。
でも、それは自分のわがままだと気づかされた。
そこまで気づかされてしまえばもう何も言い返せず、しかし自分達がその役割をしてあげれない事が悔しくて…雪の瞳から涙が溢れてしまう。


「…雪、帰してやろうや…あいつを…神楽をさ、親の元に。」


涙を見られたくなくて雪は俯いてしまった。
俯く雪が泣いているのは零れる声で分かり、そして雪の心情も痛いほど分かる銀時だが…こればかりは仕方のない事だと割り切るしかない。
銀時だって神楽と雪と三人の万事屋が楽しくて仕方ないのだ。
家というモノを知らず、家族というモノを知らない銀時にとって、赤の他人だが神楽と雪との三人の思い出は暖かく優しい物ばかり。
だけど所詮自分達三人は血の通わない他人同士。
偽りとは言わないが、家族ごっこもそう長くは続かないのはどこか心の隅で分かっていた事だった。
それを16歳の雪に分かれとは酷な事も、銀時は知っていた。
だから優しく諭すように雪に呟いた。


「……はい…」


銀時の言葉に、雪は弱弱しく頷くだけしかなかった。


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