リィリンはその日、車で帰る気にならず街をぶらぶらと歩いていた。
と、言ってもリィリンは車椅子なため実際歩いているのはメイドではあるが。
ベイジルに飼われているとはいえ、あの男はリィリンをペットと思っているからか少しの自由行動は許していた。
それは行き場のないリィリンが逃げ出そうとしても逃げ出せず、最終的には戻ってくるのを知っているからだろう。
あのパーティーはリィリンがお開きにさせたため時間もまだ早い。
リィリンは車椅子を押してもらいながら空を見ると相変わらずここの空は霧に覆われていた。
するとリィリンの前方から親子連れが歩いてきており、子供が機嫌よく笑いながら父の手を引かれていた。
「楽しかったね!パパ!!」
「ああ、そうだな」
「また来ようね!」
子供は何か楽しい事があったのだろう…大興奮し、そんな子供に父親は微笑ましそうにしながら頷いていた。
(…何かしら)
何となく、リィリンはその子供の興味を引く何かにリィリン自身も興味を引かれた。
親子はこの先の公園から出てきたため、メイドに言ってリィリンも公園へ入った。
周りを見渡せばなんの変哲もない公園だが、あるビヨンドの青年が箱に仕舞っているのを見えた。
その周りにはまだ人影があり、その青年に声をかけては離れていく。
青年もその声をかけてきてくれる人達に親し気にしながら何か忙しそうにしていた。
どうやらこの青年が子供を喜ばせる何かをしたのだとリィリンは推測する。
リィリンはその青年に興味が沸き車椅子を押してもらい近づく。
「こんばんは」
「あ、こんばん……―――っ!!」
近づけば青年の姿が更にはっきりとさせる。
その青年は細身の体だが服の上からでも分かるほど無駄なく筋肉がつけており、スマートな体に、青み掛かった肌を持っていた。
顔はどう見ても人間ではなく、触覚のようなものが生えていた。
その気配から何となく微かにリィリンと同族の匂いが感じられ、リィリンは彼の第一印象はとても好意的だった。
久々に会えた仲間以外の水の気配を持つその存在にリィリンは嬉しそうに微笑んだ。
しかし、その青年はリィリンへ顔を上げたっきり固まったまま動かなくなった。
リィリンはそんな青年の反応にコテンと小首を傾げ、こちらを凝視し固まった青年の顔の間でひらひらと手を振ってみる。
「あのー」
「ッ――――す…!すすす、すみません!!」
それが功を奏したのか、青年は我に返り顔を真っ赤にさせてあわあわと手を動かしリィリンから離れる。
リィリンはまさかそんな反応をされると思わなくて目を見張ってキョトンとさせる。
その間で何とか青年は落ち着いたのか、しかし落ち着きがなくそわそわとしている。
リィリンはそれに首を傾げながらもあえて触れることはしなかった。
「ここでなにをなさっていたんですか?」
「へっ!?あ、えー……えっと、紙を…」
「紙?」
「は、はい…紙を使ってショーをしてました…」
「まあ」
所詮リィリンは老人に飼われている魚。
この青年と深く関わったとしても海に帰れるわけでもない。
それを知っているからリィリンは普段人とは浅く関わっていた。
そのリィリンが青年に声をかけたのは、ただ何をしていたのか気になっただけの事である。
青年の言葉にリィリンは声を弾ませ、その声に青年はピクリと肩を揺らす。
「紙を使ってショー!見てみたい!でも終わってしまったんですよね…残念ですわ…」
「あの、じゃあ……少しだけ…見てみますか?」
「まあ、よろしいのですか?」
青年は見てみたいと言ったリィリンに少し見るかと聞く。
リィリンはそんなつもりで言ったわけではないが、嬉しいお誘いに笑みを深め嬉しそうに微笑んだ。
それを見て青年の肌はもっと赤くなり、しかしリィリンはふと考えつく。
「でも、やめておきます」
「えっ…」
「見るのなら、最初から見てみたいもの」
「…ッ!!」
リィリンは見るならば一部じゃなく最初から見てみたいと思った。
断られショックなのか青い顔をさらに青くさせる彼だったが、リィリンの続けられた言葉にまた真っ赤になる。
そんな青年の反応にリィリンは楽しそうにクスクスと笑い、その笑みに青年はぽーっと見つめていた。
「私はリィリンと申します…よろしければあなたのお名前をお聞かせください」
リィリンは、青年にニコリと笑みを向ける。
しかし、それは作ったものではなかった。
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