リィリンに春が来た。
そう、春が。
ボコボコと泡が上がっていく中を泳ぐリィリンを見ながら眷属達は目を丸くさせた。
「それは本当か?」
「ああ、どうやらあの半魚人を気に入り父親にするつもりらしい…半魚人はリィリンを好いてるようだし…あいつ、半魚人を襲うのも時間の問題だろうな…」
「やっぱ人魚こえぇぇ…!俺、あいつの眷属でよかったわ…」
「…ああ…俺もだ…」
ふんふん、と鼻歌を歌うが如くサメなどの狂暴な魚を従い泳ぐ主人を見て眷属達は恐ろしいものを見るかのような目で主人を見る。
いつも毎晩のお相手を終えるといつも不機嫌だったリィリンが今や上機嫌に泳いでいる。
それを不思議に思い昨日メイドとしてついていた仲間に聞けば、その内容に眷属達はぞっとさせた。
「見ろよ…あの顔…めっちゃ楽しそうだぞオイ…」
「俺さ…正直さ…仲間以外どうでもいいって思ってたけどさ……リィリンに種を狙われてる見ず知らずの半魚人に憐れみを感じるんだけど…これって普通の事だよな…」
「ああ…その感情はいたって普通だ…俺らはリィリンに作られた存在だからその対象には当てはまらないが、もしもあの半魚人が俺だと思うと……やべぇ…震えがとまらねえ…」
「大体さ、誰だよ…人魚が淡く切ない存在だって言ったの…あいつらめっちゃ肉食系じゃんか…あいつらの種族、種が手に入ればその相手なんかポイだろ…誰だよ…王子に恋して泡となって消えたとか抜かした奴…」
「人間」
「だよなぁ〜そうだよなぁ〜…なあ、なんで人間ってそう人魚を美化すんの?だってあいつら野獣よ?海を支配してんの人魚だったんだよ?人間が人食いって恐れてるサメがわざわざ遠回りしてまで避けるシャチ先輩だって人魚に敬意払ってたんだぞ?」
「仕方ねえよ、だって人間だもの」
「ああ、人間だしな」
「人間だからなぁ」
「人間だからかぁ〜」
「あら、何を話しているの?」
「「「―――!!」」」
やっぱ人間って下等だわ、と誰かが呟きその他が深々と頷く。
するとリィリンが固まって話している眷属達に気付き近づき声を掛けてきた。
そんなリィリンに眷属達はビクリと体を揺らしリィリンへ振り向く。
リィリンは小魚やサメを従いこちらを不思議そうな表情で見つめていた。
その姿はとても愛らしく美しく、まさに人間が思う人魚姫そのもの。
だがその正体は海にいる肉食系の頂点である。
あの海のギャングと呼ばれているシャチ先輩でさえ人魚の前では大人しい。
狙った獲物は逃さず食らい種を貰えばポイ。
再利用もなんのその。
人肉だって大好物である。
そんな人魚を主人に持つ眷属達は慌てて誤魔化そうとした。
しかし…
「い、いや、コイツがリィリンの運命の人を見つけたとか言ってたからそれで盛り上がってたんだ!!」
「あっ!てめ…!馬鹿!何話盛ってんだ!俺はそんな事言ってねえぞ!!」
誤魔化しが苦手だったようで、昨日メイドだった眷属は慌てる。
別に慌てることもないがこちらに矛先を向けられるのは勘弁だ。
リィリンをチラリと見れば、リィリンはキョトンとした目でこちらを見ていた。
「私の運命の人?誰が?」
「え…あの半魚人なんだけど…ちげえの?」
名前を聞いてはいたが興味がないため、眷属達の間ではツェッドを『半魚人』と呼んでいる。
それでもリィリンにも通じているので直す気はない。
リィリンは眷属の言葉に目を瞬かせ、ぷっ、と腹を抱えて笑い出した。
「あっははは!!なにそれ!私の運命の人があの人!?ちょっと、笑わせないでよ!!」
「はあ?違うのか?」
「なんで私があの人を好きにならなきゃいけないわけ?そもそも私達種族に夫なんて必要あるわけがないじゃない!お母さまもおばさまもおばあさまもしたくなればその辺の男を捕まえてたし…ふふ、あなた達長い間海にいないから人間側になった?」
「だってお前あいつに……あ、いや、なんでもねえわ…」
「そう?」
メイドとしてついていた眷属は会ったばかりのあの半魚人に手を出そうとしていた事を言おうと思ったが、そもそも人魚は気に入った男がいればその場で逆レイプでもなんでもして食らうものだと思い出し途中で言うのを辞めた。
何か言いかけやめた眷属をよそにリィリンは『も〜久々に大笑いしたわ〜』、とまだ若干笑いながら魚達を従えて眷属達の前に消える。
泳ぐ姿はまさに海の宝石とも言われており、美しい。
そんな主人を見送りながら眷属達は…
「やっぱ人魚こえぇぇぇ」
仲間の零したその言葉に全員頷いた。
10 / 38
← | back | →
しおりを挟む