ある日、某ホテルに一組の女と男が一室に入り、薄暗い部屋の中影が重なった。
「リィリン様…っ」
男は女をベッドに押し倒しその白く細い首筋に唇を寄せた。
チリっとした痛みに女は男の首に腕を回しながらキスマークを付けられたことに気付く。
しかし女はそれを咎めることなく男の好きにさせていた。
興奮しているのか男はハアハアと息を荒くさせ女の服を肩からずらして脱がしていく。
女は自分の胸に手を伸ばす男を無感情に見つめていた。
そして『つまらない』と思いながら女は男が流れ作業のように下半身へ手を伸ばすのを見送る。
「―――っ!!?」
男は女の下半身に違和感を感じ、目線を下へと向ける。
そして目を丸くさせた。
女の下半身は本来あるべき形をしていなかった。
女の下半身は―――…
「に、人魚!?」
魚の形をしていた。
男は声を上げ女から体を起こす。
スカートを捲られ魚の尾を露わにしながら女は肘をつき起き上がる。
その表情は先ほどの無表情とは違い、ニタリと笑って見せた。
ニタリと笑うその笑みもまた美しく、女は男を見上げた。
男の視界には女が魅力的に見えた。
荒れた衣服から覗く女のふっくらとした胸、そしてチラリと見える突起。
その色は穢れのないピンク色をしており、思わず人魚だというのを忘れ男はゴクリと喉を鳴らした。
男は驚きを欲望へと変える。
また男は女の上へ覆うように手を伸ばそうとした。
しかし…―――男は後ろからガシリと鋭く力強い大きな手に頭を掴まれ、恐怖するより喉仏を切られる。
女はゴキ、と何かが折れ、何かが食べられているその音を聞きながらベッドへ倒れるように横になり『ふぁ…』と眠たそうにあくびをする。
涙が溜まった目で外の景色が見える大きな窓を見ると、まだ暗くはなく夕焼けの赤色に染まっていた。
―――霧に包まれながらも聳え立つビルを見つめていると何故かツェッドの姿が脳裏に浮かんだ。
****************
ショーも終わり、ツェッドは周りを見渡した。
リィリンとは毎週会えているわけではない。
あちらは富裕層だからか、いつも日曜日が開いているというわけではないようだ。
リィリンと会えないと分かるのはショーの時。
ショーにリィリンの姿がないと今日は会えないというのが暗黙の決まりでもあった。
(キスを拒んでしまったから…来てくれないのだろうか…)
今日はリィリンの姿がなかった。
それにションボリさせつつも来てくれたお客を楽しませていた。
お客の楽しそうな顔、驚いた顔を見るともっと頑張ろうと思う。
だけどやっぱり恋をしている一人の男として好いた女性がいないのは寂しい。
来たら来たで緊張してしまうが。
しかし、ツェッドは彼女が来ない原因が分かっていた。
それは何週間も前の事。
リィリンからのキスを拒絶してしまったのだ。
拒絶と言ってもツェッドは恥ずかしすぎてできなかったというだけだが、彼女に取ったら拒絶も当然の避け方をしてしまった。
だからリィリンはもう来ないかもしれない…そう思った。
だが…
「あら、もう終わりましたの?」
「…!!」
ショーも終わりツェッドはお金を回収しカバンに入れて公園を離れようとした。
その時、聞き慣れた…そう、最も聞きたいと思っていたリィリンの声がしたのだ。
ハッとさせ振り返ればメイドに車椅子を押されているリィリンがいた。
リィリンの姿に沈んだ気持ちも一気に明るくなる。
何週間ぶりに見たリィリンはとても輝いて見えた。
それは来ないかもしれないと沈んでいたからかも知れないが、彼女のその何気ない笑みだけであとの一週間辛い事も頑張れる気がした。
会えない期間もあってかもうツェッドはリィリンにすっかりベタ惚れである。
ツェッドはメイドに押されてこちらに来るリィリンに駆け足で向かう。
「お疲れさまです、ツェッドさん」
「は、はい…っ」
労いの言葉でさえ今のツェッドには元気の源だった。
頬を染めて頷くツェッドを見上げ、リィリンは目を細め笑みを深める。
リィリンはツェッドの反応を楽しみ、そして狩る気持ちを上昇させる。
もはやツェッドはリィリンにとって子を成すための種にしか見ていなかった。
そんなツェッドとリィリンを見て、メイド…眷属の一人は純粋にリィリンに好意を持つ彼に同情と憐れみの目線を送った。
そんな眷属をよそにリィリンはベンチに指さし笑った。
「終わったのなら丁度いいです…少しお時間ありますか?」
リィリンのお誘いにツェッドは勿論二つ返事で返す。
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