レオナルドとザップはツェッドの部屋で、備え付けられているテレビでニュースを見ていた。
やはりニュースでは全てを見るのは無理で、レオナルドは現場にいるであろう仲間を心配していた。
「おい…私をあそこに連れていけ」
ルゥルゥもジッとテレビに映る現場を凝視していた。
同じ人魚の仕業だと気づいているようだったが、ルゥルゥはレオナルドとザップに声を掛ける。
その言葉にレオナルドもザップもルゥルゥに振り返り、レオナルドは驚いた表情を浮かべていた。
「んな事出来る訳ねえだろ…お前俺達に保護されてんだぞ?また誘拐されて売り飛ばされてえのか?」
「お前達が守ってくれるのだろう?ならば平気だ」
「お前なぁ…俺達はお前を"保護"したって言ってんだろ!お守は仕事の内に入らねえんだよ!大体守るって言ってんのは魚類だけで俺もお前を守る云われは――――うおおおおっ!?」
ザップは人魚を物珍しいとは思っても興味があるというわけではない。
小さい頃人魚姫の本を読んでもらったくらいしか人魚への知識がなく、物語通り美人で更に言えばボンキュボンの世界三大美人もビックリなとびっきりな美女ならばいざ知らず、ザップ的に少女は対象外である。
それに不味そうと言われた恨みもあった。
ケッ、と鼻を鳴らして悪態をつくザップが突然叫び出し、悶え始めた。
それにルゥルゥが首をかしげているとザップは地面に倒れながらレオナルドを睨む。
「てめえ…!レオ!てめえ!また俺の目を支配しやがったな…!」
「あんたが意地悪な事ばっかり言うからでしょうが!ルゥルゥちゃんはまだ小さいんだからもっと優しくしてあげてくださいよ!!」
「小さいってお前…こいつお前らも食材として見てるんだぞ?よくそんな事言えんな…」
「まあ、ザップさんはその食材にもなれないクズですけどね!」
「てんめえ…」
目をぐるんぐるん回されるのは慣れたものだが、だからと言って平然とはしていられない。
気持ち悪いし立っていられないしで弱まるザップは鼻で笑うレオナルドに睨みつけるしかできなかった。
しかも睨む力も弱く、レオナルドは慣れている+睨まれても怖くない。
目はもう支配していないが、余韻がまだ残っているのか静かになったザップを他所にコントを見ていたルゥルゥへ近寄る。
レオナルドが近寄れば、無害という事でレオナルドに懐いているルゥルゥもレオナルドの目線まで泳いで近づいてきてくれた。
「でもどうして急に現場に行きたいって言い出したのかな?聞いてもいい?」
「…あそこには私の姉様がいるのだ」
「え…え!?お姉さんがいるって…」
「あの水は姉様が出したものだ」
レオナルドも人魚であるルゥルを外に出すのは反対だった。
今まで情報漏れがなかったほど厳重に警備されながらも多くの人魚が売られた。
多くの人が人魚=人魚姫というイコールが出来るほど憧れだし、食べれば不老不死になるという言い伝えを信じている人が多い。
実際はレオナルドには分からないが、人魚は保護する対象であるのは変わらない。
できれば諦めてほしいと思っていたが、ルゥルゥの言葉にレオナルドは目を丸くしてテレビを見上げ、またルゥルゥを見た。
「あそこに何があるのか見えるの?」
「見えない…だけどあの水は人魚が出したのだけは分かる…人魚をあんなことに使うのはあの男だけ…多くの人間は人魚を知られたくないから隠してる者が多い…だけどあの男は姉様に男の相手をさせるなど愚かな事ばかりする…だからきっとあれは姉様だ…私が逃げたからあの男は姉様を使って殺そうとしているのだ…私は姉様を助けたい…だから私をあそこに連れていけ」
流石に人魚でもテレビ越しで気配を感じるのは無理だ。
しかしあんな大量の水を出現させれるのは人魚のみ。
もしかしたら他にもいるかもしれないが、ルゥルゥは知らない。
そしてその人魚が姉だというのは確かではないが、人魚を所有している人間は人魚の売買が違法だと知っているので警察やライブラに嗅ぎつけられるのを恐れ表ざたにすることはない。
だから、姉に男を相手にさせたり、姉と自分にターゲット諸共多くの人間を殺害させたりするなど目立った事件を起こさせるのはあの男――ベイジル・ロッドしかいない。
レオナルドはルゥルゥの『姉』という言葉に思う所があった。
それは自分が『兄』だからだ。
妹を持つ『兄』としてルゥルゥの『姉を助けたい』という言葉に弱かった。
だけど、レオナルドが独自に動けるほど彼の立場は強くはない。
「…ごめんな…君を連れ出すことはできない……だけどそれは僕が勝手に判断してって意味だ……クラウスさんに連絡して聞いてみるけど…駄目って言われたら諦めてくれるかな?」
ルゥルゥが姉を助けたいと願うのは『妹』として当たり前の事で、同じ姉妹を持っている『兄』として出来るだけ叶えてやりたい。
だけどルゥルゥは保護対象であり、希少な人魚である。
レオナルドが勝手に動いていい案件でもなく、一先ず上の了承を得ないとレオナルドは動けない。
怒られたりクビになるならまだしも、最悪ルゥルゥを誘拐され人間に売られた挙句に食べられたのなら後悔してもしきれない。
ルゥルゥはレオナルドの言葉に『構わない』と頷き、それを見てレオナルドは支給されている携帯からクラウスの番号にかける。
≪レオ?どうした?≫
戦っている最中かと思いきや周りは静かだった。
電話もすぐに出て、レオナルドは驚きながらもルゥルゥが外に出たがっていることを知らせる。
ルゥルゥの姉の事も伝えると、クラウスが若干驚いた声色に変わった。
スティーブン達にもその事を伝えたのか、クラウスの電話がスティーブンの声を拾った。
≪なんだって…!?彼女の姉があの人魚だと!?本当なのか、少年!≫
スピーカーにしたのか、今度はスティーブンの声がはっきりと聞こえレオナルドは『みたいっす』と答えた。
≪そうか…姉だったのか…≫
「俺的には連れていきたいんすけど…駄目ですかね?」
≪人魚だからなぁ…それも今まで架空だと思われていた存在だ…あまり人気の多いところには出したくはないんだが…≫
≪あと少し待っててくれないだろうか…今ツェッドが1人で彼女を説得しているところなのだ…≫
「えっ!?ツェッドさん一人なんですか!?なんで…」
世の中狭いな、と呟くスティーブンにレオナルドは同意する。
元々少ない数だから狭いと言っていいのかは分からないが、まさか姉とは思わなかった。
しかしそれ以上にツェッドが1人で人魚を相手にしているのには驚いた。
同じ魚が交じっている者同士とはいえ一人では荷が重すぎないだろうかとレオナルドは心配する。
だが、クラウスからの情報によれば戦っているのではなく、どうやら説得しているようだった。
なぜ戦闘ではなく説得なのだろうかと首をかしげると更に驚く言葉を聞く。
≪彼女がツェッドの初恋の君だったらしい≫
「………え?」
≪だから、今暴れてる人魚が、ツェッドの初恋相手であり、ツェッドを振った女性らしい≫
「ええええ!?」
スティーブンの言葉にレオナルドは聞き返した。
聞こえなかったわけではないが、思わず聞き返してしまった。
スティーブンもスティーブンで更に付け足し、レオナルドは驚きの声を上げてしまった。
「は、初恋って…振ったって…!も、もしかしてあの時の…!?」
≪そうだ…ランデブーした噂の人らしい≫
「…スティーブンさん…ランデブーって…」
≪
ん〜?なにかなぁ?しょぉねん?≫
「あ、いえ…何も…」
また古いですね…、と呟きかけた時、電話越しでも分かるほどの殺意に一瞬にしてレオナルドは凍った。
引き攣った笑みを浮かべているとルゥルゥが『早くしてくれ』という催促されてしまう。
「えっと…それで駄目でしょうか?」
≪そうだね…駄目だね≫
返ってきた答えはやはり『NO』だった。
希少さを考えればレオナルドの『神々の義眼』の方が上だが、レオナルドの場合足があるし最悪神々の義眼で逃げればいい。
だが人魚には足はなく、神々の義眼はない。
それどころか人魚が陸上で戦えるのかも分からない。
それを考えれば人魚の外出は極力避けたかった。
「駄目でも構わない…2人を食べれば力も戻るだろう…眷属を呼び出せば移動などどうにでもなる」
「―――と言ってるんですが…」
≪……………≫
駄目と言われてレオナルドは『ですよねー』と思ったが、そんなレオナルドの心の呟きに被さる様にルゥルゥが脅しをかけた。
別にルゥルゥは脅しをかけたつもりはないだろうが、レオナルド達からしたら脅しをかけられたようにしか見えない。
レオナルドはそれを聞いて言うかどうか迷ったがルゥルゥからの『伝えろ』オーラに屈してしまった。
スティーブンもクラウスもそれを聞いて黙ってしまう。
そして…暫くして溜息が聞こえた。
≪…仕方ない…ザップと少年は彼女の護衛を…命を賭してでも彼女を守れ…いいな?≫
「はいっ!」
「…まじかよ…」
ルゥルゥの脅しはスティーブン達に危機感を覚えさせるものではなかった。
目以外が一般人のレオナルドならいざ知らずザップが人魚に負けるなどは思っていないが、火と水は相性が悪い。
火が使えなくてもザップならどうにか対処するだろうと言う信頼はあるが、これで断ってもまた駄々をこねるんだろうなとスティーブンとクラウスが折れたのだ。
レオナルドは嬉しそうに返事をするが、復活したザップは子守りが決定しガクリと肩を落とした。
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