(34 / 38) ツェッド (33)

腹部から激痛が走り、ツェッドは口が鉄臭く感じる。
痛みがある場所へと目をやればそこにはリィリンの白い腕があり、その腕は自分の腹に触れていた。
…否、正確に言えばツェッドの腹部にリィリンの手が刺さっていた。
リィリンの爪は鋭くなっており、ツェッドの腹部を傷つけたのだろう。


「リィリン…さ…ん…ッ」


ズキリ、と腹部に鈍い痛みが走る。
平気で自分を殺せるリィリンへの精神的な傷つけもあり、ツェッドは致命傷ではないというのに痛みが倍になって襲ってくる。
リィリンは手を引かせようとしたが、その手をツェッドに捕まれてしまう。


「………」

「リィリンさ、ん…どうか…ど、うか…話、を…」

「………」


身も心も傷つけられたツェッドだが、それでもリィリンを傷つけたくなくて、助けたくて決してツェッドからは手を出さなかった。
どんなに説得を試みてもリィリンは答えようとはしない。
しかしツェッドはそれが少し引っかかった。


(可笑しい…あまりにもリィリンさんが無反応すぎる…)


それはリィリンがずっと無反応だと言う事。
無表情なのがリィリンの本当の姿かもしれないが、ツェッドの記憶でのリィリンはいつも優しい微笑みを絶やさなかった。
なのに今は無反応な上に無表情。
元々がその性格といえど、ツェッドに対して何かしらの反応や会話があるはずなのだ。
それがないのもまた疑問に思う要素ではある。


「リィリンさん…旦那さん、は…元気、ですか…」

「……旦那…さん…?」


駄目元でツェッドは『旦那』…夫の事を聞いた。
自分を無視しているというのなら、違う話題を出せばいいと思ったのだ。
案の定旦那…夫という言葉にリィリンは反応した。
自分の事は無視したと言うのに夫の事になると反応するのには少々…否、大分嫉妬してしまう。
だが、それも様子が変だった。
リィリンは夫という言葉にピクリと反応させた。


「旦那さま…―――様…あの方の――令で―――家の――を殺―――れば……でも…――はいなか――わ…ベ―様は――ず殺せ―――……でも―――市場――いな――た…だか―――辺に―――か――て…沢――殺し――…でも――はい―――た……―――様は――せと……な――私――― ―――を殺――のか――ら…なぜ―イ―様――せと――った―――しら……――様は――が――だっ――?でも―――ぜ…私――ル――ゥを―――きゃいけない―――様から…な――に…――ぜ私―――こに…?」


ブツブツと呟くリィリンは目の前のツェッドは忘れたように見えていなかった。
声が小さすぎて所々聞こえないがその様子からリィリンは正気ではないのに気づく。
操られているというのなら、やはりリィリンは保護しなければ…そう思った瞬間…


「―――でもその前に…邪魔なライブラを消さなければ…」


またリィリンは呟く前のように感情のない瞳に戻りツェッドを見た。
血に染まった手はツェッドに捕まれているので片方の手でツェッドの首を掴んだ。
女の手とも思えないほど強く掴まれたツェッドは振り払おうとするが、リィリンの手を掴んでいた手を逆に掴まれてしまう。
振り払おうとも力は強く、更に首を絞めつける力を強められ呼吸が困難となる。


「ぁ、ぐ…はっ…リィリン、さ…っ」


血法を使うのは簡単だが、そうすればリィリンを傷つける事になる。
それはツェッドは嫌だった。
この状況で嫌も何もないだろうが、と兄弟子に怒られそうだが、それでもツェッドにとってリィリンはそれほど大切に思っていた。
首を絞められ息もできず意識が失いかけたその時―――


「―――ぁ、ぐ…ッ!」


リィリンの横腹に誰かの手が貫通した。
リィリンは痛みに力を抜いてしまい、ツェッドの首と手から掴んでいた手を放してしまう。
水中に浮きかけたツェッドを横から誰かが抱きかかえリィリンの前から消える。


「…………」


横腹を見下ろせば、押さえている手の隙間から血が零れ水に溶けていくのが見えた。
それでもリィリンはジクジクと痛むというのに表情一つかえなかった。



****************



ごぼごぼと気泡の音がツェッドの耳に届く。
意識が失いかけたが、完全に失う前に助け出されすぐに我に返る。
水の流れが身に響き、まだ朦朧としている意識の中でも早い速さで泳いでいるのが分かった。


「気が付いたか」

「…!」


この水の中ではツェッドとリィリンしかいないはずで、まだクラウス達が決めた時間には経っていないはず。
それに人間がこんなに早く泳げるはずがないというのもある。
機械を使うにしても機械音がない。
疑問に思っていると頭上から愛らしい声が聞こえ、ツェッドはハッとさせ顔を上げる。
そこにはツェッドの水槽で帰りを待っているはずのルゥルゥがいた。


「き、君は…なんでここに!?」


ツェッドはルゥルゥがいることに驚く。
ルゥルゥはザップとレオナルドに守られながら急いで現場に駆け付けた。
そして水の中に入れてもらい、急いで姉の元へと向かい、そこでツェッドと姉の姿を発見した。
よく見ればツェッドが首を絞められ姉に殺されかけているのを発見し、ルゥルゥはそのまま姉の背後に回って横腹に穴を開け、力を抜いた隙にツェッドを回収した…というわけである。


「姉様がいたから来た…そしたらお前が姉様に首を絞められているのを見たから助けた…これは私を助けてくれた礼だ」

「ねえさま…って…リィリンさんの事、ですか…!?」

「そうだ…姉様は私の姉様だ」


ルゥルゥの言葉にツェッドは目を丸くした。
ルゥルゥ=リィリンの妹という認識がなかったため当たり前だろう。
それにルゥルゥの髪は赤色、リィリンは青、誰も結びつかなかった。
しかしツェッドはルゥルゥを助けた時どことなくリィリンに似ていると思っていたためか、姉と言われて納得した。
ルゥルゥは姉から距離を取ったのと、姉が追いかけてきていないのを見て泳ぐのをやめる。
いくら人魚とはいえルゥルゥはまだ子供…成人している姉の速さには敵わない。
泳ぐのを止めてツェッドを見れば、腹の部分に傷を負っているのが分かった。


「お前それは姉様にやられたのか」

「え…あ、はい…」

「なぜ抵抗しなかった…お前は強い…私達人魚には負けないはずだ」


ルゥルゥも表情は乏しいが、同じ無表情でもルゥルゥの表情は感情というものが見えたし、不自然には見えなかった。
ルゥルゥの表情を見てやはりリィリンは正常ではないんだなと更なる確信が持てた。
そんなルゥルゥの問いにツェッドは困ったように頬をかく。


「僕にはリィリンさんを傷つけるなんて出来ない…それにどう見てもリィリンさんは正気ではなかったので…そんなリィリンさんを一方的に攻撃するなんて出来ません」

「なぜ?お前にとって姉様は何億にいる女の一人にすぎないはずだ…たかがそれだけでなぜ攻撃できない?なぜ怪我を負ってでも姉様を守ろうとする?姉様が人魚だからか?」


ルゥルゥは理解ができなかった。
たかが数日前に会ったばかりの姉を想い倒そうともしない事が理解できなかった。
ルゥルゥの質問は人魚にとって当たり前だし、人によっては同じ疑問を抱くだろう。
ツェッドは質問ばかりのルゥルゥに真剣な表情でルゥルゥを見つめる。


「僕はリィリンさんを愛しています…愛しい人を…傷つけられません」

「愛してる…?愛しい…?」


ルゥルゥは首を傾げ怪訝とした。
人魚には『愛』はない。
正確に言えばあるが、人魚の性格上『恋愛』対象となる相手との遭遇が皆無に近かった。
娘や母や姉、妹、叔母を思う親愛、家族愛なら人間と変わらないだろう。
だが多くの人魚は本当に心から愛する者と出会えず、ほとんどが夫に対しての愛情は持ち合わせていない。
だからルゥルゥは理解が出来なかった。
それにルゥルゥが見た『夫からの愛』はベイジルからリィリンへの愛情しか見たことがなかったから余計に理解不能だった。


「愛とはなんだ…?愛とは…一方的に向けるものであり一方的に縛り付け傷つけるものではないのか?」

「そんなものは愛とは言いません…」

「愛ではないのか?」

「少なくとも僕は違うと思います…僕なら相手の方を…リィリンさんを傷つける方法なんて選ばない…」


一方的に向ける、とはベイジルがリィリンに淫行を強制させるというもので、まだそれを知らないツェッドは一方的を片想いと勘違いする。
ルゥルゥはやはり首を傾げた。


「お前は姉様を愛しているのか?」

「はい」

「私達人魚は男への愛はない…男はただの"種"でしかなく、子供を宿すための道具でもある…きっと姉様もそう思っている……それでもお前は姉様を愛しているのか?」


ツェッドはここでルゥルゥがいつも自分を指していた『種』というのを理解した。
種とは名前の通り子種の意味だろう。
それには少々衝撃的ではあるが、それを知ってもリィリンへの愛は揺らがなかった。


「…正直に言えば悲しいです…でも僕の想いは変わらない……リィリンさんが許してくれるのなら…この想いを忘れずにいたい…」

「分からない…私にはお前達を理解できない………でも…お前はあいつみたいに姉様を傷つけないと分かったから嫌いじゃない…」

「ありがとうございます」

「それに美味そうだしな」

「あ、ありがとう…ございます…」


理解はできないが、ツェッドは不快ではなかった。
それはベイジルが姉を虐げていたのを知っていたからかもしれない。
ツェッドは理解はされなかったが、嫌いではないと言われお礼を言ったが、次に続けられた言葉に顔を引きつらせた。
『姉様は種を手に入れたようだし、お前の体は私が貰おうかな』とも呟かれツェッドは乾いた笑いしか零せなかった。
姉には子種を搾り取られ、妹には血肉という意味で食べられ(予定)…どうやらツェッドは人魚にとって魅力的な存在らしい。
ルゥルゥは乾いた笑いを浮かべるツェッドに目を細めた後すぐに表情を引き締める。


「ここに来る途中、姉様の眷属とは会わなかった…多分姉様は弱っていると思う」

「弱ってる…」

「姉様の眷属とは会わなかったか?」


眷属、と言われて首を傾げたが、その眷属というのがあの化け物達だと察しツェッドは頷いた。
会ったが弱かったと伝えればルゥルゥは眉間にしわをよせる。


「…やはり姉様は弱まっている」

「眷属とはなんですか?」

「眷属は私達人魚を守るために作られたモノだ…あれは海の者であるが異端であり、作り主である私達を守る事を特化した生き物…強さは恐らくお前達と同等ではないが、本来なら一撃で消されるものではない……それが一撃で消えたと言う事はその作り主の人魚が弱まっているという事になる」

「じゃあ…やはりリィリンさんは正気じゃないってことですか…」

「正気じゃない?どういう事だ?」


姉と再会できたのは一瞬だった。
流石にその一瞬で何もかも判断はできず、ルゥルゥはツェッドの呟きに首をかしげた。
ツェッドは首をかしげるルゥルゥに今までの事を教え、ルゥルゥは表情を険しくさせる。


「…それは…姉様じゃない…姉様はいつも優しかった…」

「はい、それは僕も同意見です」

「他に何か気づいたことはあるか」

「他に………あ、そういえば…胸元に傷がありました…」

「傷?」


無表情、ツェッドを無視などを聞きルゥルゥも可笑しいと感じた。
姉はとても優しくて敵であろうとその態度は変わらない。
そんな姉がツェッドの言葉を無視するのは考えられなかった。
他にも何かないかと問えばツェッドは思い出したことを口にしルゥルゥは怪訝とした。
そんなルゥルゥに頷きツェッドは自分の胸元…中央部分。
そこに手を当てるツェッドに今まで表情が乏しかったルゥルゥの表情が一変した。


「そこは心臓の部分だ……そうか…姉様は心臓を…だから弱まってしまったのか…」


ルゥルゥはあからさまに怒りの表情を浮かべた。
突然怒りだし、怒りの感情を含ませたような低い声にツェッドは驚きながらも言っている意味が分からず首を傾げた。


「どういう事ですか?」


心臓の部分、と言われてもツェッドはピンと来ない。
ルゥルゥはツェッドの問いに自身の胸元…心臓のある部分に触れる。


「恐らく姉様は心臓を取られた…だから姉様は弱かったのだろう」

「心臓って…じゃあリィリンさんは死んでるってことですか!?」


心臓を取られた…という言葉にツェッドはぎょっとする。
心臓とは生き物にとって最も大切な部分であり、心臓を潰されれば100%の生き物は死ぬ。
そんな大切な器官を取られたと言われると誰もがその人物は死んでいると考える。
だがルゥルゥは首を振る。


「いや、私達人魚は心臓を取られてもとりあえずは死なない…だが他の部分が失われても修復されるが心臓だけは修復されない…私達人魚も心臓は要であり、あれがなければ力を失っていき弱体化する…だから眷属達も強くはなく数も限られていたのだろう」

「そんな…誰がリィリンさんにそんな酷い事を…」

「今はそんな事気にしても仕方ない…ここにその人間がいるわけでもない……今は姉様をどうにかしなければ…姉様は命令に失敗した…戻ったらきっと殺される…」

「そんなこと絶対にさせません!!その為に僕が来たんです…!」


ブツブツと呟いた時誰かを探して殺すように言われたと聞いてルゥルゥの脳裏に少女の姿が浮かぶ。
ベイジルは自分に対立している人間を多く殺して来た。
ルゥルゥもその殺しの命令を受け、そして失敗し、それを咎められた。
生死に関わるほど酷い折檻に普段命令以外で勝手に動かない眷属達が独断でルゥルゥを逃がし、そしてツェッドに助けられた。
自分でさえ死にかけたのだ。
姉がどうなるかは分からないが決して許される事ではないだろうことは姉がここにいる事から読み取れる。
ツェッドも殺されると聞かされ更にリィリンを助けなければという気持ちが強くなる。


「なら…お前は…」


ルゥルゥもツェッドも心は同じ…リィリンを救う事。
ならばやるべきことは決まっている。
ルゥルゥはツェッドに何かを問いかけようとしたその時…ルゥルゥの尾が誰かに捕まれガクンと下に引っ張られる。
この水の中で動けるのはツェッド、ルゥルゥ、そして…――リィリンだけ。
ルゥルゥが下を見れば思った通りリィリンがいた。
リィリンは腹部を修復したため追いかけて来たらしく、ルゥルゥは姉に追いつかれツェッドと話し過ぎたと悔し気に唇を噛む。
リィリンは妹も分からないのか、無表情のまま掴んでいるルゥルゥの尾をそのまま引っ張り空いている手で心臓を狙う。


「ルゥルゥさん…!」


ツェッドもリィリンがルゥルゥの心臓を狙っているのだと気づき咄嗟にルゥルゥに手を伸ばし、リィリンの手がルゥルゥの心臓を潰すのを回避する。


「リィリンさん!やめてください!!ルゥルゥさんはあなたの妹じゃないですか!!」

「無駄だ…あの様子だと心臓を取られた挙句に意識が乗っ取られている…そんな姉様に何を言っても無駄だ」


ツェッドの話を聞いて姉を見てみればルゥルゥは『なるほど』と思った。
確かに姉の様子は可笑しい。
今まで心臓を取られた妹を盾に言う事を聞いていた姉だったのなら、この場に妹がおりツェッド側についていると言うのを理解したのなら攻撃を止め保護されていただろう。
だが今は妹も区別がつかないようで、その表情からあからさまに正気ではないのはルゥルゥも分かった。
本来なら意識を乗っ取られるなどありえないがHLだからという言葉がつけば納得いく。
裏を生きるあの男ならば意識を乗っ取れるような人物探せるだろう。
淡々としているルゥルゥの言葉にツェッドは『そんな…』と絶句する。
そうしている合間にもリィリンは妹の尾を再び引っ張る。
ツェッドはリィリンを傷つけたくない…と、言う事は反撃もしないということ。
ルゥルゥは眷属を出し自分の尾を掴んでいるリィリンの腕を切断した。


「ッ―――ルゥルゥさん!?」

「首と胴が切断されなければ心臓がなくとも死にはしない!姉様を大切に思う事と姉様を傷つけないのとは違う!!姉様を救いたくないならそこで黙って見ていろ!!」


リィリンの血が辺りをあっという間に真っ赤に染め、ツェッドは姉の手を切断するルゥルゥに驚きが隠せなかった。
リィリンもリィリンで痛みを感じない表情を浮かべており、腹部は修復できるが心臓がない場合切断されたものの修復は不可能。
それを狙っての切断であるが、今のルゥルゥもリィリンと同じく全快ではないため姉を相手に圧勝できると言う訳ではない。
正直戸惑っている今のツェッドは邪魔にしかならないとルゥルゥは判断し、ツェッドを無視し姉妹で戦う事を選んだ。
眷属を出すのも体力がいるので多くは出せないが三匹ほどの眷属を出し囲んだ。
しかし姉もそれを見て眷属を出し、眷属同士戦う。
心臓を取られたリィリンの眷属は弱い。
だが、弱体化していてもルゥルゥの眷属と張り合うくらいの強さは残っているようだった。
眷属で押さえつけるのは失敗に終わり、姉との距離を広げ体勢を整えようとしたのだが、それを察したリィリンがルゥルゥの懐に入り込み、残った手でルゥルゥの心臓を貫こうとした。
人魚同士で争う事はそうそうないが、人魚と戦う際心臓を停止させた方が早く終わるとリィリンも本能的に察しているのだろう。
ルゥルゥはそれに気付いていたが、リィリンの動きの方が早く、ルゥルゥは自分の心臓を潰そうとする姉の手を認識していたが避ける余裕はなかった。


「―――ッぅ、ぐ…!」


リィリンの手はルゥルゥの胸元を貫いた。
ルゥルゥの口から血が零れ痛みが体中に走る。
だが心臓の場所からは少しズレたようでルゥルゥが息絶える事はなかった。
それはリィリンも分かったのか、もう一度妹の心臓を潰そうとした。
だが…


リィリンの腕が切断され吹き飛んだ。


ルゥルゥは目の前で姉の腕が吹き飛び、水中に浮かんでいるのを目を丸くして見つめた。
そしてリィリンの後ろを見ればそこには――ツェッドがいた。


「…すみません…リィリンさん…」


リィリンは自分を攻撃できるルゥルゥの方を先に殺す気だったのか、ツェッドは気にしてもいなかった。
それが仇となったのかツェッドが背後にいるのに気づかなかった。
リィリンはツェッドへ振り返り、攻撃してきたツェッドへ標的を変えた。
しかし、


「斗流血法――嚇綰縛かくわんばく


ツェッドの呟きと同時に、リィリンの体中が一瞬にして傷だらけとなり、ルゥルゥが怯んだ隙にリィリンの首元を斬りつけた。
リィリンの体から出される血によって辺りはあっという間に真っ赤に染まり、リィリンは大量の出血によって気を失ったのか浮く力を失いゆっくりと沈んでいく。


「リィリンさん…っ!」


沈むリィリンにツェッドは慌てて抱き留める。
ルゥルゥもツェッドの腕にいるリィリンに近づき、姉の意識がないのを確認する。


「…大丈夫、気を失っているだけだ」

「そう、ですか…」

「戻ろう…姉様の体は修復され始めている…もたもたしていると目が覚めまた襲い掛かってくる」

「…はい」


自身の腕の中にいるリィリンは体中に傷からも血が出ているが、三人の周りを赤く染めているのはルゥルゥが切った首元からだった。
首元は切断されてはいないがぱっくりと傷が開いており、水中というのもあって血が止めどなく溢れる。
血界の眷属と同じく傷を付けられたその時から修復は始まっており、小さい傷はすでに綺麗に治っていた。
ルゥルゥの言葉に頷きツェッドはクラウス達の元へ戻る。
戦いは終わった。
だが、彼の心には大きな穴が広がっていた。

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