(3 / 8) 原作3巻 (3)

スターフェイズ家に雇われて約3年。
家政婦として雇われたヴェデッドはリビングを掃除していた。


「おはよう、ヴェデッド」

「おはようございます、お嬢様」


掃除機をかけ終えると丁度少女が寝室から出てきた。
声をかけられ振り返ると雇い主であるスティーブンの娘、エマだった。
ヴェデッドは三年この家に仕えてきたが、実はエマとは顔を合わせて半年も経っていない。
それはずっと雇い主であるスティーブンとエマが離れて暮らしていたためである。
そして最近娘であるエマとHLで暮らすことに決めたらしい。
エマの事はある程度聞いていた。
事件に巻き込まれた事も、そこで再会しこうしてエマを呼んで一緒に暮らす事にした事も、エマの心は傷ついている事も知っている。


「今日はホームパーティーの日でしたわね」

「うん、私ホームパーティーなんて初めてで…だからとても楽しみ」


ヴェデッドの言葉にエマは笑みを浮かべ、頷く。
その笑みはヴェデッドもついつい頬が緩んでしまう。


「仕込みはどれくらいできてるの?」

「全て済んでおりますわよ…勿論、ローストビーフも」

「流石ヴェデッド!ヴェデッドのローストビーフがないと始まらないもの!」


自分の仕事を褒められるのは嬉しいと素直に思う。
それが自分とは違う相手…人間ならなおの事。
エマはヴェデッド特製のローストビーフがパーティーで食べられると思うと更にパーティーが楽しみなのか、機嫌よく洗面台へと姿を消す。


「おはよう、Mrs.ヴェデッド」


エマと擦れ違いに家主であるスティーブンが寝室から出てきた。
ヴェデッドは先ほどエマに続いて起きたスティーブンにも同じ返事を返す。


「今日はホームパーティーですわね…お嬢様がとても楽しみにしていらしておりました」

「僕も楽しみだよ…ところで仕込みはどんな按配だい?」


『あら』、とヴェデッドは内心そう零す。
さきほど同じ言葉をエマにも向けられたのだ。
だから同じ答えを飲み物を取り出そうと冷蔵庫に向かったスティーブンにも返した。


「全て済んでおりますわよ」

「素晴らしい!ヴェデッド特製ローストビーフがないと始まらないからな」


ヴェデッドは今度もまた、目を瞬かせた。
またまたエマと同じことをスティーブンは言ったのだ。
似てない似てないと周りからも言われてはいたが、もやはり親子なんだなとヴェデッドは微笑ましく思えつい笑みを浮かべてしまった。
それに冷蔵庫の扉を閉め振り返るスティーブンに見つかってしまい、キョトンと小首を傾げられた。


「どうしたんだい?何かおかしなこと言ったかな…」

「いえ…さきほどお嬢様も同じことをお聞きになり旦那様と同じように答えられたので…ふふ、やはり離れてお暮しになられても親子なんだなと思いまして…」


今度はスティーブンが目を瞬かせる番だった。
目をパチパチと瞬かせるスティーブンは呆けておりジッとヴェデッドを見つめていた。
ヴェデッドはそれを何か不味い事でも言ったのかと不安に駆られてしまい、窺うようにスティーブンを見る。
その視線に気づいたスティーブンは慌てて笑みを浮かべ否定の意味で手を振った。


「すまない……いや、ちょっと感じ入ってしまってね……僕はずっとエマを蔑ろにしていたから…ヴェデッドの言葉がとても嬉しかったんだ…ありがとう、ヴェデッド…」


スティーブンの言葉にヴェデッドは慌てて頭を下げた。


「ヴェデッド、今日はあの子のために協力してくれて感謝するよ…これからもあの子に色々教えてやってくれ」

「は、はい…私で教えられる事ならなんでも…ですが私なんかでよろしいのですか?家事なら教室など色々ありますが…」


改めて頼まれたヴェデッドは緊張した面持ちで頷く。
このホームパーティーはエマの友人発案ではあるが、準備などは率先して手伝っていた。
料理は昔エミリアの手伝い程度でしかやったことがないと言っており不安げだったが、料理下手というわけではなくただ経験がないだけで普通に料理は上手い。
エマは料理以外の家事も楽しそうにしており、ヴェデッドがいるため自分の部屋だけだが、きちんと自分で掃除している。
縫物も最近挑戦しており、お世辞にもうまいとは言えないものの着々とものにしている。
それら全てエマが望んで行っている事だった。
幼い頃から家政婦がいる中で育ったエマは何もできない。
それを自覚したのは事件に巻き込まれHLで独り暮らしをしていた時だったという。
あの時は家事なんてやる余裕はなくあそこは寝て起きる部屋にすぎなかったが、やろうと思っても家事一つできない自分にエマはショックを覚えたという。
だから今は少しずつ家事が出来る様に勉強中である。
スティーブンからしたら別に家事なんて覚えなくていいんじゃないか、という意見ではあったが、カウンセリングの医師からも『何か気が紛れる趣味を持つといい』と言われていたのもありスティーブンはエマの心の傷が少しでも治るのならと好きにさせている。
エミリアの事もあって、動物関係(特に犬)は無意識に避けているが、それ以外は順調に前を向いて歩んでいる。
ヴェデッドもエマが元気になるのなら協力はするが、やはり専門の教室などがあるのならそちらに通う方がきちんと学べるのでは?とつい思ってしまう。
スティーブンも一度はそう思ったが、やはり教室で通うよりは家でまったりゆったりと習う方がいいのではとヴェデッドに頼んだ。
何より教室に通うよりヴェデッドに教えてもらいたいとエマが望んだのだ。


「少しでもあの子の気が紛れるものがあればそれでいいんだ…あの子が教室に行きたいといえば探すけど…あの子が君に教えてほしいと望んだんだ…きっと君の料理が美味しいからだね」


そう言われると断りにくくなるし、思わず頬が緩んでしまいそうになる。
最初から断るつもりはないのだが、やはり高評価されると人間でも異界人でも嬉しいものだった。
照れた表情を浮かべるヴェデッドを微笑ましく見つめていると家の電話が鳴った。
ヴェデッドが出ようとしていたのを止め、スティーブンが出た。
相手は今日ホームパーティーに来る相手らしく、スティーブンは楽し気に話していた。
そのスティーブンを見つめながらヴェデッドは掃除を再開する。

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